債権が消滅しないように時効を更新させるにはどうしたらよいか

取引・契約・債権回収 公開 更新
西中 宇紘弁護士 弁護士法人中央総合法律事務所

 当社(X社)は、2020年4月15日に取引先であるY社との間で売買契約を締結し、同日Y社に対してある当社商品を販売して引き渡したのですが、Y社は資金繰りが苦しいといって支払期日から10か月経過した現在(2021年2月15日)でも一向に代金を支払ってくれません。
 以前、どこかで支払期日から2年経過すると売掛金の請求ができなくなると聞いたのですが、どうすればよいでしょうか。

 会社間の商品売買によって生じた売掛代金債権も、一般の債権と同様に原則として債権者が権利を行使することができることを知った時から5年で消滅時効が完成します(改正民法166条1項1号)。そのため、支払期日から5年間が経過した後にY社から消滅時効の援用をされると、当該売掛金債権は消滅し、以降はY社に対して請求できなくなってしまいます。
 このような事態を回避するためには、時効の更新をする必要があり、時効更新事由として民法上、①裁判上の請求等(改正民法147条1項各号、同条2項)、②強制執行等(改正民法148条1項各号、同条2項)、③承認(改正民法152条1項)の3種類が規定されています。設問においては、Y社の状況や支払意思などの具体的な事実関係に応じていずれかの時効更新事由に該当する措置を執ることになります。

解説

目次

  1. 時効の更新とは
  2. 裁判上の請求等とは何か(改正民法147条1項各号)
    1. 裁判上の請求とは(改正民法147条1項1号)
    2. 支払督促とは(改正民法147条1項2号)
    3. 和解および調停の申立てとは(改正民法147条1項3号)
    4. 破産手続参加等とは(改正民法147条1項4号)
  3. 強制執行等とは何か(改正民法148条1項各号)
  4. 承認とは(改正民法152条1項)
  5. 設例の場合、時効更新措置は何を選択するべきか

 2020年(令和2年)4月1日から「民法の一部を改正する法律」(以下、「改正民法」といいます)が施行されました。改正民法では、消滅時効に関する規定も改正されており、債権の消滅時効期間は原則として債権者が権利を行使することができることを知った時から5年と定められました。

 改正前民法では、設問の事例にあるような商品の売掛代金債権については短期消滅時効の対象となっており、2年で消滅時効が完成するとされていましたが(改正前民法173条1号)、改正民法においてはこれらの短期消滅時効を定める規定を削除したため、改正民法の適用を受ける場合は、商品の売掛代金債権についても、消滅時効期間は2年ではなく、原則5年ということになります。

 なお、施行日(2020年4月1日)より前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例(改正前民法)によるとの経過措置が設けられていますが(改正民法附則10条4項)、上記設例では、2020年4月15日に債権が発生しているので、改正民法が適用されることになります。
 以下では、改正民法の消滅時効の規定が適用されることを前提に解説を行います。

時効の更新とは

 時効の更新とは、時効期間進行中に時効の基礎となる事実状態の継続が破られたことを理由に、それまで進行してきた時効期間を時効完成にとって全く無意味なものにするものです。
 時効の更新事由として、改正民法は、①裁判上の請求等(改正民法147条1項1号、同条2項)を行い確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したとき、②強制執行等(改正民法148条1項1号、同条2項)が終了したとき、③承認(改正民法152条1項)が定められています。
 更新した時効は、その更新の事由が終了した時から、新たにその進行を始めることになります。

裁判上の請求等とは何か(改正民法147条1項各号)

 改正民法147条1項が定める更新事由たる「裁判上の請求等」に該当する具体的事由は、改正民法147条1項各号に挙げられている以下の4つのものです。
 なお、厳密には、以下の①~④の措置を行うとまず時効完成猶予の効果が生じ、その後に確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときに時効更新の効果が生じることになります(改正民法147条2項)。

請求の具体的事由 根拠
① 裁判上の請求 改正民法147条1項1号
② 支払督促 改正民法147条1項2号
③ 和解および調停の申立て 改正民法147条1項3号
④ 破産手続参加等 改正民法147条1項4号

裁判上の請求とは(改正民法147条1項1号)

 裁判上の請求とは、民事訴訟における訴えの提起のことです。給付の訴え(ex.金銭の支払いを求める訴え等)の提起が典型例です。この他、確認の訴えの提起反訴の提起債務者からの債務不存在確認訴訟に対する債権者の訴え棄却を求める応訴も、裁判上の請求に該当すると解されています。
 訴状を裁判所に提出した時点で時効の完成猶予の効果が生じ(改正民法147条1項1号)、確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときに時効の更新の効果が生じます(改正民法147条2項)。
 したがって、裁判が確定した時から、新たに消滅時効の進行が始まります。

支払督促とは(改正民法147条1項2号)

 支払督促とは、金銭その他の代替物または有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について、簡易裁判所の裁判所書記官に申し立て、裁判所書記官によって発せられるものです(民事訴訟法382条以下)。ただし、債権者が仮執行の宣言の申立ができる時から30日以内に申立をしないときは、支払督促の効力は無くなります(民事訴訟法392条)。その場合、時効更新の効果も生じません(改正民法147条1項柱書)。

和解および調停の申立てとは(改正民法147条1項3号)

 和解の申立てとは、民事訴訟法275条に規定される訴え提起前の和解の申立てのことです。調停の申立てとは、民事調停の申立てまたは家事調停の申立てのことです。ただし、和解および調停の申立ては、相手方が裁判所に出頭しない場合や和解または調停が整わない場合には、6か月以内に訴えを提起しなければ、時効更新の効果は生じません(改正民法147条1項柱書)。

破産手続参加等とは(改正民法147条1項4号)

 破産手続参加等とは、破産手続参加・再生手続参加・更正手続参加のことであり、債務者の破産手続・再生手続・更正手続において、債権者がそれぞれ破産債権の届出・再生債権の届出・更正債権の届出を行うことを指します。ただし、債権者が届出を取り下げたり、届出が却下されたりした場合には、時効更新の効果は生じません(改正民法147条1項柱書)。

強制執行等とは何か(改正民法148条1項各号)

 改正民法148条1項が定める更新事由たる「強制執行等」に該当する具体的事由は、改正民法148条1項各号にあげられている以下の4つのものです。
 なお、厳密には、以下の①~④の措置を行うとまず時効完成猶予の効果が生じ、その後各事由が終了したときに時効更新の効果が生じることになります(改正民法148条2項)。

請求の具体的事由 根拠
① 強制執行 改正民法148条1項1号
② 担保権の実行 改正民法148条1項2号
③ 担保権の実行としての競売 改正民法148条1項3号
④ 財産開示手続または第三者からの情報取得手続 改正民法148条1項4号

承認とは(改正民法152条1項)

 承認とは、時効の利益を受けるべき者(ex.債務者等)が、時効によって権利を失うべき者(ex.債権者等)に対して、その権利の存在を認識している旨を表示することです。方式は特に決まっておらず、権利が存在することの認識を示す行為は全て承認となります。例えば、利息の支払は元本の承認となりますし、債務の一部弁済は残債務についての承認となります。

設例の場合、時効更新措置は何を選択するべきか

 以上のとおり、時効の更新事由およびそれに対応する時効更新措置には様々なものがあります。そこで、実際に時効更新措置を行う場合には、事実関係に即してこれらの中から選択して行うことになります。

 設例においても、仮にX社が支払意思はあるが資金繰りが苦しく支払が難しいという場合であれば、債務承認書を差し入れてもらったり、一部弁済を受けたりするなどして、「承認」による時効更新を第一に考えることになるでしょう。というのも、 「承認」は債務者の協力を得られる場合、他の時効更新事由に比べて最も簡易で、費用もかからないためです。
 もっとも、Y社の協力を得られない場合や、Y社の代表者が行方不明である場合など、Y社の「承認」を得ることができない場合には、「裁判上の請求等」による時効中断を考えることになります。

時効の完成猶予の効果を求めて催告を行う場合の留意点

 改正民法では、時効の完成猶予事由の1つとして「催告」を定めています。催告とは、権利者が義務者に対して義務の履行を求める意思の通知をいいます。債権者が債務者に対して債務の履行の請求を行うことが典型例です。方式は特に決まっておらず、口頭で行ったとしても催告になります。
 もっとも、後々争いになった場合に催告を行ったことを容易に立証できるようにしておくため、債務の履行を求める書面を配達証明付きの内容証明郵便で送付する形で行うことが一般的です。催告の効果は、意思の通知が相手方に到達した時点で生じます。

 催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しません(時効の完成猶予の効果。改正民法150条1項)。時効更新の効果を生じさせるためには、催告をした後、6か月以内に裁判上の請求等、強制執行等、承認といった時効更新事由に該当する措置を行う必要があります
 この意味で、催告は、時効完成日を6か月だけ先送りにして時間的猶予を与えるという暫定的な効果しか有していないことになります。なお、催告による時効完成日の先送りという効果はあくまで1回限りです(改正民法150条2項)。
 時効完成猶予の効果を求めて催告を行う場合には注意が必要です。上述のとおり、催告は履行を求める書面を配達証明付きの内容証明郵便で送付する形で行うことが一般的です。
 もっとも、催告を行ったといえるためには、送付した書面が相手方に到達することが必要です。
 すなわち、送付した催告書が不在による保管期間満了によって返戻された場合は、原則として催告の効果が生じず、結局、他の時効更新措置を執る必要が生じます。
 特に、時効期間満了のギリギリになった場合に、一旦、時効の完成を猶予させようと考えて催告を選択すると、相手方に催告書が到達しなかった場合に、他の時効更新措置を執る前に時効が完成してしまうという事態が起こり得ます。
 したがって、時効期間満了が迫っている場合は、催告をするのではなく、端的に時効更新措置(訴訟提起など)を行うことが原則になります。

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