マイナンバーの提供を促す社内規程の作成例
IT・情報セキュリティマイナンバーの提供を行うにあたって社内規程等をどのように整備すればよいか教えてください。
まずはマイナンバーの提供を受けることと、応じない場合の対応を定めた取扱規程を定めましょう。この他、就業規則には採用時の提出書類への追加や、利用目的の追加、変更後の個人番号の届出、服務規律、懲戒事由などへの追加を行うとよいでしょう。
解説
取扱規程
取扱規程には次のような規定を置くことが考えられます。
就業規則対応
就業規則には、従業員に個人番号を提供することを求める規定を置くことです。次のような規定を置くことが考えられます。
採用時の提出書類への追加
第●条 従業員等として採用された者は、採用された日から【 】週間以内に次の書類を提出しなければならない。
- 履歴書
- 住民票記載事項証明書(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(以下「番号利用法」という。)に定める個人番号が記載されていないものに限る。)
- 自動車運転免許証の写し(ただし、自動車運転免許証を有する場合に限る。)
- 資格証明書の写し(ただし、何らかの資格証明書を有する場合に限る。)
- 番号利用法に定める個人番号カード、通知カード又は個人番号が記載された住民票の写し若しくは住民票記載事項証明書(個人番号カード又は通知カードについては提示の場合は原本の提示、送付の場合は写しの送付による。)
- 前号の通知カード又は個人番号が記載された住民票の写し若しくは住民票記載事項証明書に記載された事項がその者に係るものであることを証するものとして番号利用法に定める書類(但し、対面で本人確認を行う場合は原本を提示するものとする。)
- その他会社が指定するもの
採用時の提出書類として、マイナンバー法上の本人確認(番号確認)のために必要となる個人番号カード、通知カードまたは個人番号が記載された住民票の写しもしくは住民票記載事項証明書の提示または送付を受けることを記載することが考えられます。
通常は、「提出書類」とされていますが、本人確認においては、「提示」や「オンライン」の方法もありますが、解釈上認められると考えられるので規定上は追加していません。
なお、「採用時の提出書類」としては、通常、「住民票記載事項証明書」が提出書類とされていますが、労働者の年齢や現住所を確認するために求めるものであり、これに個人番号が記載されていると目的外利用となるおそれがあるので、「住民票記載事項証明書(個人番号が記載されていないものに限る。)」という修正を行いました。
利用目的に関する規定の追加
次に、利用目的について以下の規定を追加することが考えられます。
第●条 当社は、従業員等から提供を受けた、番号利用法に基づく「個人番号」を以下の目的で利用する。
- 源泉徴収関連事務等
- 扶養控除等(異動)申告書、保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書作成事務等
- 給与支払報告書作成事務等
- 給与支払報告特別徴収に係る給与所得者異動届出書作成事務等
- 特別徴収への切替申請書作成事務等
- 退職手当金等受給者別支払調書作成事務等
- 退職所得に関する申告書作成事務等
- 財産形成住宅貯蓄・財産形成年金貯蓄に関する申告書、届出書及び申込書作成事務等
- 健康保険、厚生年金、企業年金届出事務等
- 国民年金第三号届出事務等
- 健康保険、厚生年金、企業年金申請・請求事務等
- 雇用保険届出事務等
- 雇用保険申請・請求事務等
- 持株会に係る金融商品取引に関する法定書類の作成・提供事務
変更後の個人番号の届出
個人番号の変更などがあった場合には、会社への届け出をしてもらう事が必要です。そのために以下の規定を加えるとよいでしょう。
第●条 従業員等は、個人番号が漏えいした等の事情により、自ら又は扶養家族の個人番号が変更された場合は、変更後の個人番号を遅滞なく当社に届け出なければならない。
服務規律への追加
第●条 パート社員は、番号法に基づき、会社の個人番号の提供の求め及び本人確認に協力しなければならない。
事業者による個人番号の提供の求め及び本人確認に協力しない場合については、懲戒事由に定めることを考えている社会保険労務士の先生もいらっしゃるようです。
懲戒事由の内容については、労働基準法上の制限はありませんが、労働契約法15条において、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と定められており、懲戒事由に合理性がない場合、当該事由に基づいた懲戒処分は懲戒権の濫用に該当すると判断される可能性があります。
マイナンバー法に基づき、事業者は法定調書等に個人番号を記載することは義務であるものの、その場合に従業員がマイナンバー法違反になるわけではないことや、個人番号の提供がプライバシーに関する事項であることに鑑みると、たとえ、「けん責」のような軽微な懲戒処分であったとしてもやや行き過ぎの感があります。それが、従業員本人の個人番号ではなく、扶養家族の個人番号である場合はなおさらです。
そこで、服務規律に上記のような規定を置くことが考えられます。「服務規律」とは、労働者が企業組織の構成員として守るべきルール(行為規範)です。服務規律に反することは企業の秩序を乱すこと(企業秩序違反)であり、懲戒処分の対象となり得ますが、懲戒事由と違って必ず懲戒処分の対象となるわけではありませんので、社会的な納得感もあると思われます。
懲戒事由への追加
第●条 パート社員が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
(略)
2 パート社員が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第●条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。
①~⑬(略)
⑭正当な理由なく会社の業務上重要な秘密(番号法上の特定個人情報ファイルを含む。)を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき。
⑮その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき。
番号法67条において、個人番号関係事務実施の従事者が、正当な理由がないのに、その業務に関して取り扱った個人の秘密に属する事項が記録された特定個人情報ファイルを提供したときは、4年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科することとされています。
非常に重い刑事罰が適用されますので、このような場合は、会社の業務上重要な秘密を漏えいする場合と同様に懲戒解雇事由とすることが考えられます。
入社時の誓約書
マイナンバーに関する事項を従業員により認識させるために、以下のような誓約書を徴求することも考えられます。
私は、貴社に入社をするに当たり、以下の事由について誓約いたします。
- 貴社からの私および私の家族の個人番号の提供の求め及び本人確認に協力いたします。
- 貴社の顧客並びに貴社の役員及び従業員の個人番号については、在職中のみならず退職後も、法令で認められた場合を除き、使用、複製又は第三者に開示若しくは漏洩しません。
- 私が結婚した場合や子供が生まれた場合のように、新たな扶養家族ができた場合は、その者の個人番号を遅滞なくお知らせします。
- 私又は私の家族の個人番号が変更した場合は遅滞なく、会社に新しい個人番号をお知らせします。

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