取締役が負う従業員に対する監視・監督義務について

コーポレート・M&A

従業員が不正な取引をして、会社に大きな損害が発生しました。取締役の私も責任を負うことはあるのでしょうか。

可能性はあります。取締役は、取締役会を通じて、従業員らの業務執行を監督すべき義務も負っていると考えられており、様々な事情を考慮して、この監督義務に違反したと評価される場合があります。

解説

目次

  1. 取締役の従業員に対する監視監督義務
    1. 最高裁昭和37年8月28日判決
    2. 東京地裁平成11年3月4日判決
  2. 代表取締役・業務執行取締役・取締役非設置会社の取締役の従業員に対する監視監督義務
    1. 代表取締役の従業員に対する監視監督義務
    2. 業務執行取締役の従業員に対する監視監督義務
    3. 取締役会非設置会社の取締役の従業員に対する監視監督義務

目次

  1. 取締役の従業員に対する監視監督義務
    1. 最高裁昭和37年8月28日判決
    2. 東京地裁平成11年3月4日判決
  2. 代表取締役・業務執行取締役・取締役非設置会社の取締役の従業員に対する監視監督義務
    1. 代表取締役の従業員に対する監視監督義務
    2. 業務執行取締役の従業員に対する監視監督義務
    3. 取締役会非設置会社の取締役の従業員に対する監視監督義務

取締役の従業員に対する監視監督義務

 会社法上、取締役会設置会社においては、代表取締役、業務執行取締役の職務の執行を監督することが、取締役の役割とされています(会社法362条2項2号)。
 また、取締役会非設置会社においても、取締役は、業務執行の一環として、他の取締役の業務執行を監視監督する義務を負っていると考えられています1

 この点、他の取締役に対する監視監督義務については、「取締役が負う代表取締役等の監視・監督義務について」をご覧ください。

 それでは、取締役以外の者に対する監視監督は義務ではないのでしょうか。この点については、以下の判例が参考になります。

最高裁昭和37年8月28日判決

 最高裁昭和37年8月28日判決は、以下のとおり判示して、取締役の、取締役以外の者(この判決では、支配人)に対する監視監督義務を認めています。

取締役は、すべて、委任に関する規定に従い善良な管理者の注意をもって事務を処理すべき責任を有し、かつ、会社のため忠実にその職務を遂行する義務を負うばかりでなく、原則として、取締役会を招集する権限を有し、また会社の業務を執行すべき代表取締役及び支配人の選任及び解任は取締役会の決するところによるものとされていることなどにかんがみれば、個々の取締役は、取締役会の審議ないし決議を通じて代表取締役、支配人らの業務の執行を監視すべき権利義務を有するものと解するのが相当である。 最高裁昭和37年8月28日判決

 なお、「支配人」とは、本店または支店における責任者で、会社を代理して事業を行う権限を持っている者をいいます(旧商法37条以下、会社法10条以下)。

東京地裁平成11年3月4日判決

 さらに、従業員に対する監視監督義務に関して、東京地裁平成11年3月4日判決は、以下のとおり判示しています。

取締役が会社に対して負うこれらの善管注意義務又は忠実義務として、従業員の違法・不当な行為を発見し、あるいはこれを未然に防止することなど従業員に対する指導監督についての注意義務も含まれると解すべきである。

ところで、取締役が従業員の業務執行について負う指導監督義務の懈怠の有無については、当該会社の業務の形態、内容及び規模、従業員の数、従業員の職務執行に対する指導監督体制などの諸事情を総合して判断するのが相当であり、もとより権限委譲の有無や会社規模のみにより一義的に決しうるものでない。 東京地裁平成11年3月4日判決

 下級審判決ではありますが、取締役に、従業員に対する監視監督義務があると認めたものであり、一般論としても受け入れられている判決だと思います。

 この判決は、監督義務違反の判断の具体的要素として、当該会社の業務の形態、内容および規模、従業員の数、従業員の職務執行に対する指導監督体制などを挙げていることも着目すべき点でしょう。

 取締役が全ての従業員を監督するのは不可能といえるので、様々な事情を踏まえて、事案ごとに、監視監督義務違反の有無が判断されることになります。

代表取締役・業務執行取締役・取締役非設置会社の取締役の従業員に対する監視監督義務

代表取締役の従業員に対する監視監督義務

 代表取締役は、業務執行権限を有し、会社従業員を指揮して業務執行を行うことから、平取締役よりも高度の注意義務があると考えられています。

 東京高裁昭和41年11月15日判決は、以下のとおり判示しています。

代表取締役が他の取締役、使用人その他下部職員の補助をえて業務の執行にあたっている場合には一般の取締役より一層高度の注意義務を尽して忠実にこれら補助者の所為に職務違反がないかどうかを監視することは勿論、不当な職務の執行はこれを制止し、あるいは未然にこれを防止する策を講ずる等会社の利益を図るべき職責を有する 東京高裁昭和41年11月15日判決

業務執行取締役の従業員に対する監視監督義務

 業務執行取締役は、自らが担当している業務部門・部署の従業員に対しては、代表取締役と同様に、高度の監督義務を負っていると考えられます。他方、担当していない業務部門・部署の従業員に対しては、他の平取締役と同程度の監督義務ということになるでしょう2

取締役会非設置会社の取締役の従業員に対する監視監督義務

 取締役会非設置会社の取締役も、原則として各自が業務を執行するので(会社法348条1項)、その一環として、従業員に対する監督義務を負うものと考えられていますが3 、その程度は、取締役会設置会社の代表取締役と同程度なのではないかと思います。


  1. 江頭憲治郎『株式会社法〔第6版〕』401頁(有斐閣、平成27年) ↩︎

  2. 東京地方裁判所商事研究会『類型別会社訴訟Ⅰ〔第3版〕』257頁(判例タイムズ社、平成23年) ↩︎

  3. 東京地方裁判所商事研究会『類型別会社訴訟Ⅰ〔第3版〕』257、258頁(判例タイムズ社、平成23年) ↩︎

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