辞任後も登記簿上名前が残っている取締役は責任を負うのか
コーポレート・M&A先日、ある会社の取締役を辞任したのですが、会社が役員の変更登記をせずに放置しているようです。取締役を辞任した私に何らかのリスクはありますか。
退任により、取締役の員数が欠けた場合には、任期の満了または辞任により退任した取締役は、新たに選任された取締役が就任するまで、なお取締役としての権利義務を有するので(会社法346条1項)、退任登記がなされないのは当然であり、引き続き、取締役としての職務を全うする必要があります。
そうでない場合には、不実の登記を残存させることについて明示的に承諾を与えたなどの特段の事情がない限り、退任取締役は損害賠償責任などを負いません。
解説
取締役の員数が欠ける場合
退任により取締役が欠けた場合(取締役が1人もいなくなる場合)または会社法・定款で定めた取締役の員数が欠けた場合には、任期の満了または辞任により退任した取締役は、新たに選任された取締役(一時取締役も含まれます)が就任するまで、なお取締役としての権利義務を有します(会社法346条1項)。
この場合、取締役の退任登記は、新たに選任された後任者が就職するまで認められず、退任者がなお取締役の権利義務を有することを登記公示されることになります(最高裁昭和43年12月24日判決)。
取締役の員数が欠けるわけではない場合
原則論
もはや退任した元取締役は、「役員等」ではなくなるので、第三者に対する損害賠償責任などを負わないのが原則です。
退任登記しない状態を放置しているだけでは責任を負わない
では、退任登記が未了であることから、退任取締役は、その退任を善意の第三者に対抗することができず(会社法908条1項)、その結果、監視監督義務違反などを理由として、第三者に対する損害賠償責任(会社法429条1項)を負うことにはならないでしょうか。
この点については、取締役を退任した者が、職務行為と認めるべき行為を行わないのは当然かつ正当なことであるから、何らの行為を行わなかったことをもって任務懈怠ということはできず、取締役としての責任を負うことはありません(最高裁昭和37年8月28日判決)。
退任取締役による積極的な行為がある場合は責任を負う
もっとも、取締役が退任したにかかわらず、その退任の登記・公告前、なお積極的に取締役としての対外的または内部的な行動をあえてした場合においては、その行為により損害を被った善意の第三者は、登記・公告がないためその退任を自己に対抗し得ないことを理由に、その行為を取締役の職務の執行とみなし、その損害の賠償を求めることができます(上記最高裁昭和37年8月28日判決、最高裁昭和62年4月16日判決)。
また、取締役を退任した者が、登記申請権者である会社の代表者に対し、辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情が存在する場合には、取締役を退任した者は、会社法908条1項の類推適用により、善意の第三者に対して会社の取締役でないことをもって対抗することができない結果、取締役として損害賠償責任(会社法429条1項)を免れることはできなくなります(上記最高裁昭和62年4月16日判決、最高裁昭和63年1月26日判決参照)。

プラム綜合法律事務所
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