株主提案権が行使できる株主なのかどうかを確認する方法
コーポレート・M&A当社は上場会社です。当社の株主を名乗る方から当社に対して株主提案書が送付されてきたのですが、当該株主が株主提案をすることができる株主なのかどうか、どのように確認したらよいでしょうか。
株主提案をすることのできる株主かどうかを確認するためには、当該株主の本人確認に加えて、当該株主による株式の保有状況を確認する必要があります。
振替口座で管理されている上場会社の株式の正確な保有状況を確認するためには、株主名簿を確認することでは足りず、当該株主の申出により個別株主通知を受けるか、または自ら振替機関に情報提供請求を行って振替口座簿記録事項を取得することが必要になります。
解説
株主提案をすることのできる株主資格
株主提案は、株主であれば誰でも行うことができるわけではなく、それができるのは、原則として、総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主(ただし、定款でこれらを下回る要件を定めることもできます)に限られています(会社法303条2項・305条1項ただし書)。
上場会社においては、総株主の議決権の100分の1というとかなりの時価総額になることが多いので、この要件を満たす株主は非常に限られます。しかし他方で、最近では投資単位の小さい上場会社も少なくないため、規模の大きい上場会社であっても、300議決権以上を有する株主はかなりの数に上ることが多く、株主提案権を行使することが可能な株主は、個人投資家であっても相当数いるものと思われます。
株主資格の確認方法
株主の本人確認
株主提案権の行使方法は、会社法上、特に定めがなく、口頭でも行使することが可能ですが、会社において株式取扱規則等により行使方法を定めている場合には、それに従った行使を株主に要求することができます。
そこで、株主提案等が想定される上場会社では、株主の本人確認や行使要件の確認を円滑に行うことができるように、株式取扱規則等において、株主提案権を含む少数株主権の行使については本人が署名または記名押印した書面により行うものとする旨が定められていることが一般的です。
この場合、会社としては、それと同時に本人確認の証明資料の提出を受けて、間違いなく株主本人であることの確認を行うことになります。本人確認の証明資料としては、個人株主の場合は運転免許証や個人番号カード等、法人株主の場合は登記事項証明書等が考えられます。
株式の保有要件に関する確認
次に、株式の保有要件(上記1の要件)を満たすかどうかを確認するため、当該株主による株式の保有状況を確認する必要があります。その方法として、以下の2つが考えられます。
(1)個別株主通知により確認する方法
この点、通常は、株主権の行使要件を確認するためには株主名簿を確認すれば足りますが、社債、株式等の振替に関する法律(以下「振替法」といいます)に基づき、振替口座で管理されている上場会社の株式の場合は、株主名簿の記載・記録が常に最新の情報を反映しているとは限りません。
そこで、上場会社において、株主提案権を含む少数株主権の行使がなされた場合には、その時点での正確な株式の保有状況を確認するため、当該株主の申出により個別株主通知を受けることが想定されています(振替法154条)。
個別株主通知により、株主の氏名または名称、住所、個別株主通知の申出受付日、対象期間(申出受付日の前日から6か月と28日前の日に遡った期間)における保有する株式数と増減等の情報が、振替機関から会社に対して通知されます。これらの情報により、会社は、当該株主の株式保有に関する要件を確認することができるのです。
(2)情報提供請求により確認する方法
上記(1)の方法によるほか、会社が自ら振替機関に情報提供請求を行い、自己の振替口座簿記録事項を取得することにより、株主の状況を確認することもできます(振替法277条)。
もっとも、実務上は、株式取扱規程等により、少数株主権の行使の要件として個別株主通知の受付票の添付を要求している会社が多いと思われます。
個別株主通知後に保有株式数の変動があった場合
提案株主による株主提案権の行使は、個別株主通知がなされてから4週間以内になされる必要があります(振替法154条2項、振替法施行令40条)。
では、この個別株主通知の時点においては保有株式数の要件を満たしていたものの、その後の株主提案権の行使の時点までに当該提案株主が保有株式を売却する等して保有株式数の要件を満たさなくなったような場合には、どうすればよいでしょうか。
この場合、会社としては、改めて振替機関に対して情報提供請求を行い、株主提案権行使時点での提案株主の株式保有状況を確認し、適法な株主提案として扱わないこととするという対応が考えられます。もっとも、会社としてはそこまで厳密に確認する義務まではなく、敢えてそのような確認を改めてすることなく、当該提案株主による株主提案を適法と取り扱うこともできます。
対応方法のまとめ
- 株主提案を行うことができるのは、総株主の議決権の100分の1以上または300個以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主
- 株式取扱規則等において、株主提案権を含む少数株主権の行使については本人が署名または記名押印した書面により行うものとする旨が定められていることが一般的
- 本人確認書類により本人確認を行う
- 株式保有要件の確認
- 非上場会社の場合=株主名簿により行う
- 上場会社の場合
- 個別株主通知による確認
- 情報提供請求による確認
- 個別株主通知後に保有株式の変動があった場合はあらためて情報提供請求を行うことも考えられる

桃尾・松尾・難波法律事務所
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