中小企業における相続について

コーポレート・M&A

 父が取締役社長、母が監査役、私が唯一の従業員として、有限会社を経営していたのですが、父が亡くなりました。私が跡を継ごうと考えているのですが、どのような手続が必要になるのでしょうか。

 まず、取締役社長であった父の財産について、相続人全員で遺産分割協議をすることになりますが、そこで、父が所有していた有限会社の持分(会社法施行に伴い、有限会社は特例有限会社となっているので、正確には「株式」)を跡継ぎとなる者が相続するようにしてください。

 また、事業に当たって必要な財産のうち、社長の個人名義であった物についても、跡継ぎとなる者が相続すべきでしょう。

 次に、取締役を選任する必要があるので、株主総会を開催して、跡継ぎとなる者が取締役になることの承認を得てください。

 以上のとおり、①まず遺産分割協議により株主を確定させ、②株主総会における取締役選任決議により、跡継ぎとなる者が取締役社長として跡を継ぐことができます。取締役社長の地位そのものを相続することはできないので、注意が必要です。

解説

目次

  1. 特例有限会社と小規模閉鎖会社
  2. 取締役社長の相続
    1. 取締役社長の株式の相続
    2. 取締役社長の個人財産
    3. 取締役社長の(連帯)保証債務
  3. 取締役の選任
    1. 取締役の選任手続
    2. 一時取締役選任の申立て
  4. 相続による事業承継の問題を事前に回避する方法
  5. 【参考】相続税の計算方法(概要)

特例有限会社と小規模閉鎖会社

 会社法の施行に伴い、有限会社法が廃止され(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」といいます)1条3号)、それまでの有限会社は、株式会社として存続しますが(整備法2条1項)、「特例有限会社」と呼ばれています(整備法3条2項)。

 旧有限会社の持分については、会社法下では、譲渡制限株式として取り扱われます(整備法9条1項)。 特例有限会社は取締役会を設置できないので(整備法17条1項)、譲渡承認機関は株主総会になります(会社法139条1項)。

 したがって、以下で説明する手続は、特例有限会社のほか、取締役会を設置していない小規模閉鎖会社(非公開会社)においても当てはまります。

取締役社長の相続

取締役社長の株式の相続

遺産分割

 同族会社の場合、取締役社長が発行済株式の全部または大部分を保有しているのが一般的です。

 取締役社長の死亡により、これを相続することになりますが、株式が分散して株主が多数になると、株主総会開催に当たり機動性が失われてしまいますし、経営者の意図とは異なる決議がなされてしまう可能性が出てきます。とりわけ取締役会を設置しない会社においては、株主総会の決定権限が大きいので(会社法295条1項参照)、株主総会を簡単に開催できず、また、経営者の意図どおりの決議ができないとなると、迅速かつ自由な経営ができなくなってしまいます。

 そのため、法定相続人が複数人いる場合であっても、会社の跡継ぎとなる相続人が株式の全部を相続するよう、遺産分割する必要があります。

 他の相続人がこれを不服とする場合、 跡継ぎとなる相続人は、他の相続人に対し、自己の法定相続分以上に取得した株式の価値に見合った金銭を支払わなければならないこと (この遺産分割の方法を「代償分割」といいます)もありますが、やむを得ないと考えられます。

 なお、相続により、相続税がかかります。相続税の簡単な説明については、本稿末尾を参照してください。

株式譲渡承認・株主名簿の名義書換

 相続は「一般承継」であって、「譲渡」ではないので、 譲渡制限株式の相続による取得に当たっては、会社の譲渡承認を得る必要はありません 1

 相続の場合、株主となった相続人は、名義書換をしなくても株式の移転を会社に対抗できますが(会社法130条1項参照)、権利行使のためには、自分が名義株主であることの相続人であることを証明しなければなりません2。そのため、株主名簿の名義書換を速やかにしておくべきです。そして、株主名簿の名義書換に当たっては、相続人が単独で請求できます(会社法134条4号、133条2項・会社法施行規則22条1項4号)。

 なお、特例有限会社の場合、従前の社員名簿が株主名簿となります(整備法8条)。

取締役社長の個人財産

 小規模な会社の場合、法人の財産と個人の財産とが明確に区別されていない場合が往々にしてあります。事実上区別されていなくても、会社の大株主と財産の所有者とが同一である場合には、事業自体を継続することは可能と言えますが、法律上、両財産は全くもって別に取り扱われます。事業に必要な財産、例えば、会社建物が建っている土地が取締役社長の個人名義だったような場合において、その土地が他の相続人が相続したときには、建物を収去し、土地を明け渡さざるを得ないことにもなりかねません。

 そのため、事業継続に必要な個人財産についても、株式と同様に、跡継ぎが相続する必要があるでしょう。

取締役社長の(連帯)保証債務

 金融機関や取引先から、会社の債務を担保するために、代表者個人が(連帯)保証を求められ、代表者としてはこれに応じざるを得ないことも多いと思います3。この(連帯)保証債務も相続の対象となり、基本的には、法定相続分に応じて、法定相続人がそれぞれ(連帯)保証債務を負うことになります。

 もっとも、上記のように、会社株式や事業継続に必要な財産を跡継ぎが相続することから、この会社債務についての(連帯)保証債務も一人で負うよう他の相続人に求められ、跡継ぎとしてはこれに応じざるを得ないでしょう。

 他にも相続人がいるのに(連帯)保証債務を単独で負うことになった場合(法律用語では「免責的債務引受け」といいます)には、債権者(金融機関や取引先)の承諾が必要となります。なお、金融機関や信用保証協会が、跡継ぎとなる者のみが連帯保証人となることについて拒絶することは少ないでしょう(むしろ、跡継ぎが連帯保証人になるよう求められると思います)。

 仮に、相続する株式の価値や財産よりも、(連帯)保証債務のほうが大きい場合には、会社の存続を諦め、相続放棄(民法938条以下)という手段を選択せざるを得ないかもしれません。

取締役の選任

取締役の選任手続

 取締役社長が所有していた株式を相続したことで、跡継ぎが当然に取締役社長となるわけではありません。株主総会において、取締役として選任される必要があります(会社法329条1項、341条)。

 もっとも、株主が一人または少数であれば、その全員の同意をもって株主総会決議を省略すること(会社法319条1項)も容易だと思います。

 株主総会決議を省略することについては、「株主総会手続を簡略化したい場合にどうすればよいか」もあわせてご覧ください。

 株主全員の同意により、取締役選任についての株主総会決議が行われたとみなされた場合、その株主総会決議が行われたとみなされた日から2週間以内に役員の変更登記をすることで(会社法915条1項・911条3項13号)、相続による会社の承継手続はひとまず完了です。

 他方、株主総会を省略することについて株主全員の同意が得られない場合、原則通り、株主総会を開催しなければなりません。この点、株主総会を招集するのは取締役であるところ(会社法299条1項)、その唯一の取締役が亡くなってしまっている場合は、招集する人がいません。

 そこで、この場合には、取締役を選任する株主総会を招集するために、一時取締役の選任(会社法346条2項)を申し立て、 裁判所に選任された一時取締役が株主総会を招集した上で、取締役選任決議を行う必要があります

一時取締役選任の申立て

 遺産分割の内容について相続人間でもめ、なかなか遺産分割が完了しない場合、取締役不在の期間が長期にわたってしまい、会社経営に深刻なダメージが生じてしまう可能性があります。

 そこで、裁判所に、一時取締役の選任を申し立てることも考えられます4 (会社法346条2項)。

 ただし、申立人が希望する者が一時取締役に選任されるわけではなく、中立性確保の観点から、基本的には弁護士が選任されます。

相続による事業承継の問題を事前に回避する方法

 小規模閉鎖会社において経営者が亡くなると、遺産分割協議・調停・審判などが必要となり、遺産分割が完了するまで、会社経営が滞り、事業の円滑な承継に影響が出てくることがあります。

 また、相続税の納付により、跡継ぎによる会社経営に支障が生じる場合もあります。

 そこで、いざという時に備えて、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づく事業承継の円滑化を図ることをお勧めします。

 以下の記事もあわせてご覧ください。

【参考】相続税の計算方法(概要)

 相続税の計算方法を簡単に説明します。実際に相続税を計算する際は、特例の適用などを含めて、税理士に確認するようにしてください。

 まず、相続税のかからない範囲を「基礎控除額」といいますが、これは、『3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)』で計算されます。

 例えば、オーナー社長Aに、配偶者B、2人の子ども(C・D)がいて、オーナー社長Aが亡くなったときの相続財産が株式(6,000万円相当)のみだったとしましょう。

 この場合、基礎控除額は (3,000万円+600万円×3=)4,800万円となります。

 次に、相続財産の価格から基礎控除額を引いた金額を法定の相続分(配偶者が半分、残りの半分を子供たちで案分など。民法900条)で案分した金額に、以下の表に従った税率を掛けた上、さらに控除額を引きます。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 税額控除
1,000万円以下 10% -
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

 相続財産の価格(6,000万円)から基礎控除額(4,800万円)を引いた金額が1,200万円なので、配偶者Bの法定相続分に応ずる取得金額は600万円、子どもたちC・Dは、それぞれ300万円となります。

 表に従うと、配偶者Bの税額は60万円(600万円の10%)、子どもたちC・Dの税額は、それぞれ30万円(300万円の10%)となります。


 これにより算出された額の法定相続人ごとの合計金額が相続税の総額となります5

  配偶者B、子どもたちC・Dの税額の合計額である120万円が、オーナー社長が亡くなったときの相続税の総額になる ということです。

 さらに、各人の相続税額は、その取得した財産の価格に応じて計算されますが、この点については国税庁「No.4152 相続税の計算を参照してください。


  1. 山下友信『会社法コンメンタール3 –株式(1)-』379頁参照〔山本爲三郎〕(商事法務、平成25年) ↩︎

  2. 相澤哲ほか『論点解説 新・会社法』139頁(商事法務、平成18年) ↩︎

  3. この問題に関して、「経営者に関するガイドライン」があります。 ↩︎

  4. 参考:裁判所ホームページ ↩︎

  5. 国税庁「No.4155 相続税の税率」 ↩︎

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