知的財産権・契約による保護を受けるデータ利活用のクリアランスの確保

IT・情報セキュリティ

 当社は、AI開発の学習用データセットとして、取引先から開示されたデータや、書籍やウェブサイト等の公開情報を利用したいと考えています。この場合、同意の取得に関してはどのように考えるべきでしょうか。また他に、その利用に関するクリアランス確保の観点から気をつけるべき事項はあるでしょうか。

 データの利活用を検討する際には、取扱うデータの法的性質の検討が必要不可欠です。その性質によっては、権利者を含む利害関係者からの同意取得等が不要になる場合があるためです。実務上は、著作物データ、契約上保護の対象になるデータ、そしてプライバシーデータの取扱いが問題になることが少なくありません。ですが、いずれについても、その利用に際して、常に利害関係者からの同意を得ておく必要があるわけではありません。そのため、事案に応じた分析および取扱いが重要でしょう。ここでは特に著作物データ、契約上保護の対象になるデータについての考え方を解説します。

解説

目次

  1. データ利用に関するクリアランス確保の手順
  2. 知的財産権の保護の対象になるデータの場合
    1. 著作権による保護を受けるデータ
    2. 著作権法により制限を受ける利用態様
    3. 権利制限規定の適用
    4. オーバーライド問題
  3. 契約による制限を受けるデータの場合
    1. 契約の成否の検討
    2. 契約条項の適用の検討
  4. おわりに

データ利用に関するクリアランス確保の手順

 あるデータの利用についてクリアランスが確保できているか、すなわち、データを特定の事業目的に利用することに法的な問題がないかを検討する際には、まず、自らが取り扱うデータの法的な性質の検討が重要です。その性質次第では、そもそも、権利者その他の利害関係者からの同意取得等が不要な場合があるからです。

 たとえば、知的財産法との関係で検討する際には、そもそも、データが知的財産権による保護の対象にならない場合には、同意を問題とするまでもなく自由に利用可能です(ただし、データの利活用に関して契約が成立している場合等には、さらなる検討が必要であることは別論です)。また、データが知的財産権による保護を受ける場合には、これを利用するためには、原則として、その権利者からライセンスを受ける必要がありますが、対象となる権利や利用態様によっては、適用法上、権利制限規定が設けられている場合があり、同意が不要となるケースもあるでしょう。

 このように、データの法的な性質によっては、権利者からの同意が不要な場合があります。その検討が不十分な場合には、本来であれば不要であるにもかかわらず、権利者からの同意取得を試みてしまい、必要以上の費用負担や手間が生じることもありますので、注意が必要です。特に、権利者から使用または利用を拒絶されてしまうと、確認前よりも身動きが取りにくくなることもあるため、同意を依頼するかは慎重に検討することが望ましいでしょう。

 本稿では、実務上問題になることが多い以下の3つの場合のうち、①②についてさらに検討します(③については「プライバシー情報を取り扱う際の同意の要否および留意点」を参照ください)。

  1. データが知的財産権の保護を受ける場合
  2. データが契約による対象となる場合
  3. データが個人情報を含むプライバシー情報に該当する場合

知的財産権の保護の対象になるデータの場合

 知的財産権にはさまざまな種類がありますが、実務上、特に取り扱われることが多い権利として、特許権、著作権、商標権等があります。もっとも、特許法は、創作的なアイデアである「発明」(特許法2条1項)を保護対象とすることから、データが保護の対象となる場面は限定的であり、また、商標権も業務上の信用(顧客吸引力)を表示する「商標」(商標法2条1項)が保護の主たる対象であることから、データ利活用の場面、特に機械学習に用いる場面で問題になることは多くありません。そのため、以下、著作権を念頭に説明します。

著作権による保護を受けるデータ

 著作権法は「著作物」、すなわち、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)を保護の対象とします。機械学習に用いるデータが、画像、音声、映像または文章である場合には、一般的には、著作物に該当する可能性が高いのに対して、たとえば、センサデータである場合には、創作的な表現に該当しないため、著作物にあたらない場合は少なくないでしょう。

 なお、著作権法上、データベースの著作物(著作権法12条の2)が保護されていることから、実務上、データベースの著作物に関する著作権侵害の有無が議論となることがあります。しかし、データベースの著作物は、データの集合体の構成それ自体を表現として保護するものであって、個別のデータそのものを保護しません。比喩的に言えば、データベースの枠組み(その構成や収集するデータの選択)を保護するものであり、中身を保護するものではありません。したがって、データベースを全体としてコピーするような場合を除いて、あるデータベースからのデータのコピーは、データの著作権を侵害することはあっても、データベースの著作物に関する著作権を侵害しないため、やはり注意が必要です。

著作権法により制限を受ける利用態様

 著作権法上、著作権者は、著作権法21条から28条までの支分権を有します(著作権法17条)。そのため、その著作物の種類に応じて、複製、上演、演奏、上映、公衆送信、口述、展示、頒布、譲渡、貸与、翻訳・翻案等が禁止されます。なお、著作物を単に使用する行為は、上記各行為に該当せず、著作権者の同意は不要です。

権利制限規定の適用

 仮に、データが著作権法による保護の対象になる場合、その利用には、著作権者や著作者の同意を得ることが原則として必要になります。データの開示者が限定されている場合には、個別交渉による利用・使用許諾(ライセンス)を取得することも考えられますが、データが大量にあり個別交渉それ自体のコストが許容できない、ライセンス料の支払原資がない、あるいは、そもそも、権利者が誰であるかわからない等の場合もあるでしょう(なお、権利者が不明の場合には、あまり利用件数は多くないものの、著作権法67条以下に定められている裁定手続を利用できる場合もあるでしょう)。
 このような場面では、データの利用者としては、権利者から同意取得を試みる前に、著作権法30条以下の権利制限規定の適用可能性を検討することが一般的です。特に機械学習に用いる場合には、著作権法30条の4第2号の「情報解析」に該当し、原則として、著作権者の許諾なく、著作物データを利用することが可能です。この「利用」の態様には限定は付されていませんので、データの収集はもちろん、学習用データセットの他者への提供も、これが機械学習の目的であれば含まれます。
 なお、著作権法30条の4の適用は「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には受けられません。これには、たとえば、「情報解析を行う者の用に供するために作成されたデータベースの著作物」の情報解析目的での複製が含まれると考えられています 1

第30条の4
著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

  1. 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
  2. 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第47条の5第1項第2号において同じ。)の用に供する場合
  3. 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合

オーバーライド問題

 実務上、著作権法が定める権利制限規定、特に、著作権法30条の4の柔軟な権利制限規定を契約でオーバーライドすることが可能であるか、すなわち、著作権法上は自由に利用可能な著作物について、その利用を制限する契約が有効であるか、との問題提起がされることがあります(このような問題を「オーバーライド問題」ということがあります)。もっとも、現在の実務上は、著作権法30条の4により自由に利用可能な著作物であっても、その利用を制限する契約は有効との見解が有力と思われます。

 なお、オーバーライド問題を検討する際には、そもそも、何を議論しているのかを整理することは重要でしょう。この問題は、一般には、契約により権利制限規定をオーバーライドできるのか、との形で議論がされますが、著作権法の適用の問題なのか、それとも契約条項の有効性の問題なのであるかは、分けて考えるべきです。
 理論上は、2-3で解説したような権利制限規定の適用により、著作物としての利用には制限がかけられていない以上、そもそも、著作権法の問題は生じず、あくまでも、契約条項の有効性の問題が生じるにすぎません。そのため、むしろ、一般的な捉え方とは逆に、権利制限規定が存在するとの事実により、当事者の合意がオーバーライドされ、公序良俗(民法90条)に反して無効になることがあるか、が問題の本質であって、仮に、オーバーライド条項が無効と判断されても、著作物の利用が著作権法上違法になるわけではないことに留意が必要です。

 また、オーバーライド問題は、権利制限規定の強行法規性の観点からも検討されることがありますが、権利制限規定の適用により、著作権法の適用の問題が解決済みであるとの立場に立てば、権利制限規定それ自体の強行法規性の問題とは直ちには言い難く、むしろ、一般的な公序良俗(民法90条)違反の成否の考慮要素の中に権利制限規定が設けられた趣旨をどこまで反映するのか、の問題と考えることがより実態に即していると思われます。

契約による制限を受けるデータの場合

契約の成否の検討

 契約による制約を受けるデータについては、まず、そもそも、明示的または黙示的に契約が成立しているか否かが問題になります。契約が有効に成立していなければ、原則としてデータの利用に制限はないためです(1の①③にかかる制限がある場合や慣習等による制限を受ける場合はあります)。
 日本法上は、覚書や契約書等の書面がなくとも、当事者の合意があれば、契約は有効に成立します。ただし、何らかの客観的証拠がない限りは、契約の成立を前提にした権利行使に困難が伴うことは少なくありません。そのため、このような場合には、データ受領者としては、契約の不成立を主張することもあり得るでしょう。逆に、覚書や契約書等が存在するのであれば、その有効性を疑わせる事情がない限りは、有効な契約が成立していることを前提に検討することになるでしょう。

 また、実務上は、ウェブサイト上、自由に入手可能なデータ(たとえば、クローリングにより取得する場合)の利用について、契約が成立しているのかが問題になることがあります。データを取得する際に、たとえば、規約に同意する等の積極的な行為が必要な場合には、一般的には契約の成立が認められる可能性が高くなります。他方で、このような行為の必要なく、データが取得可能な場合には、契約が成立していない場合も少なくないでしょう。

 なお、仮に、データが自由に入手可能な場合で公開されていたとしても、利用規約が定型約款に該当する場合には、やはり、ウェブサイトからのデータ取得については、契約が成立し、利用規約が適用されるのではないか、その結果、データ利用が制限されるのではないかとの疑念が生じることもあります。もっとも、定型約款関連規定(民法548条の2以下)により、みなし合意が成立するのは、定型取引を行う旨の合意がある場合ですので(民法548条の2第1項)、何ら積極的行為が伴わない場合には、定型約款関連規定によっても、契約が成立していない場合は少なくないでしょう。

契約条項の適用の検討

 仮に契約が有効な場合には、契約解釈により、取得したデータの利用が可能であるかを検討することになります。たとえば、問題とされているのが、守秘条項中の目的外利用禁止義務である場合には、以下などが検討対象になり得ます。

守秘条項中の目的外利用禁止義務の解釈を検討する際の対象例
  1. 秘密情報の定義に該当するのか
  2. 秘密情報の除外事由に該当しないのか
    (たとえば、公表された情報が秘密情報の定義から除外されていないか)
  3. 守秘義務の対象なのか
    (たとえば、「提供された」秘密情報が対象の場合、その解釈を争えないか)

 そのうえで、契約解釈上はデータの提供者の同意がなければ自由に利用できない可能性が一定程度ある場合には、以下などのような対応を取ることが少なくありません。

  1. 黙示の合意等の成立可能性を模索する
    (ただし、その主張が困難な場合も少なくないでしょう)
  2. 契約上自由に利用できるとの主張にも一定の合理性があることを前提に、同意なく利用開始する
  3. データ提供者から同意を取得する
    (ただし、同意が得られない場合の対応はあらかじめ検討をしたうえで、同意の依頼をするべきでしょう)

 

おわりに

 以上を踏まえると、次のとおりです。

  • データの利活用を検討する際には、取扱うデータの法的性質の検討が必要不可欠である。その性質によっては、権利者を含む利害関係者からの同意取得等が不要になる場合がある。
  • 実務上は、著作物データ、契約上保護の対象になるデータ、そして、プライバシーデータの取扱いが問題になることが少なくない。もっとも、その利用に際して、常に利害関係者からの同意を得ておく必要があるわけではないため、事案に応じた分析および取扱いが肝要である。
  • 著作物として保護されるデータを取り扱う際には権利制限規定の適用の有無の検討が重要である。特に機械学習については、著作権法30条の4により適法となる場合が少なくない。
  • 契約上保護の対象になり得るデータについては、契約の成否の分析が出発点である。そのうえで、データ利活用を可能とする合理的な契約解釈がどの程度可能かを検討し、同意取得の要否および適否を検討することが重要である。

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