データ利活用の契約時におけるデータの保証条項の定め方

IT・情報セキュリティ

 当社では、自社事業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるべく、データの利活用を検討しています。データを保有する企業からデータの提供(開示)を受ける場合に、契約においてデータの保証に関する条項を作成するうえで、特に注意するべき点はあるでしょうか。

 データの保証条項の法的性質には議論がありますが、少なくとも、保証条項を設ける際には、データの種類、品質または数量については、契約不適合責任との関係を意識しておくことが重要です。
 また、保証の対象としては、特定目的への適合性、商品性、正確性、完全性、有用性などが検討されることもありますが、データの利用目的を踏まえたより具体的な条件に関する保証の要否や可否などの検討が有用な場合も考えられます。
 加えて、表明保証条項違反の効果は必ずしも明確ではないため、その内容を契約で明示することが重要です。

解説

目次

  1. データの保証条項
  2. 保証条項の法的性質
    1. データの保証の法的性質
    2. 契約不適合責任としての保証条項
    3. 損害担保特約としての保証条項
    4. 両責任の関係
  3. 保証条項の検討対象
  4. 保証条項違反の効果
  5. おわりに

データの保証条項

 データの利活用に関する契約において、データの保証条項は、当事者間における利害関係の対立が先鋭化しやすい条項の1つです。実務においては、データの取得経緯や品質などについて、データ提供者(データ開示者)が保証をするか否か、仮に保証する場合には、その具体的な保証範囲などが議論の対象になります。たとえば、次のような条項が用いられることがあります。

【保証を明示する場合】
1 開示者は、本データが、その提供時点において、次の各号を満たすことを保証する。
  1. 開示者が本データを受領者に対し、提供することが法令に反せず(開示者にとっての個人情報を含む場合には個人情報保護法上、必要な手続の履践を含む。)、かつ、開示者がその提供について、正当な権限を有すること
  2. その収集時から提供時点までに本データに改変が加えられていないこと

【非保証を明示する場合(簡易)】
開示者は、受領者に対し、本データに関し、何ら保証しない。

【非保証を明示する場合(詳細)】
開示者は、受領者に対し、本データに関し、その名目及び法的性質を問わず、特定目的への適合性、商品性、正確性、完全性、有用性をはじめ、いかなる種類の保証もしない。

保証条項の法的性質

データの保証の法的性質

 データの「保証」は、民法上の保証債務、すなわち、主たる債務者が債務を履行しない場合に、原則として、その債務を主債務者に代わって履行する債務(民法446条。英米法上のguaranteeに相当します。)とは異なる概念です。
 ここでの「保証」は、いわゆる表明保証責任(representation & warranty)であり、契約の一方当事者が他方当事者に対し、自らの能力・権限や契約の目的物の性質などに関する一定の事実の正確性を表明し、その違反に対して自らが責任を負うことを内容とします。

 表明保証責任は、英米法から輸入された概念であることから、その日本法上の位置づけには議論があります。改正前民法の下では、表明保証責任の一般的な性質を、瑕疵担保責任(法定責任)に関する特約と考える説 1 もありましたが、瑕疵担保責任とは異なる損害担保契約に基づく責任と考える説 2 が有力でした。
 この有力説は、瑕疵担保責任(法定責任)が、契約不適合責任(契約責任)に改められた現行民法下でも同様に妥当すると思われます。有力説の下では、契約不適合責任と、損害担保特約としての表明保証責任はそれぞれ独立した法的責任であるため、重畳して適用される場合があります。そのため、保証条項を設ける場合、これらの適用関係を整理することが重要です。

契約不適合責任としての保証条項

(1)保証条項がない場合

 データの利活用に関する契約として有償取引を想定する場合には、データの種類、品質、数量などについて、開示者が契約不適合責任(民法559条・562条1項)を負うことが原則です 3
 そのため、仮に契約上、データの品質に関する担保の定めがなかったとしても、データ開示者は一定の限度で、受領者に対して担保責任を負うことになり、受領者は、契約不適合がある場合には、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求または解除などによる救済を受けることができます

(2)保証条項で保証を明示する場合

 契約上、データの種類、品質、数量などについて、データ開示者が明示的に保証をする場合には、契約不適合の内容を具体的に特定する意味を持つでしょう。

(3) 保証条項で非保証を明示する場合

 当事者間で「担保の責任を負わない旨を特約したとき」には、データ開示者は、契約不適合責任を免れることが可能です(民法572条)。そのため、たとえば、契約上、データの品質などに関して保証しない旨を明記する場合には、上記免責の特約をしたものと解釈されます。ただし、担保責任免除の特約は、データ開示者が「知りながら告げなかった事実」には適用されませんので、いかなる場合でも免責を受けられるわけではないことに留意が必要です。

損害担保特約としての保証条項

(1)保証条項がない場合

 損害担保契約は当事者の合意がない場合には成立しませんので、データ開示者は、契約上の保証責任を負いません(ただし、上述のとおり、種類、品質、数量などには契約不適合責任が及ぶことは別論です)。

(2)保証条項で保証を明示する場合

 データの保証条項を設け、データに関する保証を明示する場合、データ開示者と受領者の合意により、データ開示者の損害担保義務が生じます。合意によってはじめて保証義務が創出される点において、契約不適合責任とは位置づけが異なりますが、契約によりその責任範囲が特定される点では、その実質的機能は類似します。また、4で後述するとおり、違反の際の救済内容が契約不適合責任とは異なる場合があります。

(3)保証条項で非保証を明示する場合

 (1)と同様に損害担保契約は当事者の合意がない場合には成立しませんので、保証責任が発生しないことを確認する位置づけになるでしょう。

両責任の関係

 仮に、契約上、保証条項を含む保証に関する定めが何もなければ、契約不適合責任のみが適用されますので、重畳関係は生じません。
 他方で、契約上、保証に関する定めがある場合には、種類、品質、数量について両責任の重畳適用を認めるのか、それとも、民法の適用を全面的に排する趣旨なのか、あるいは、保証対象によって民法の適用関係を分ける趣旨なのか(ただしこの場合、技巧的との評価を受ける場合は少なくないでしょう)など、その関係の整理をする必要が生じます。何ら解釈指針がない場合、その意味内容の確定が困難な場合もあるでしょう。
 そのため、たとえば、次のとおり、両責任の関係を契約上明示しておくことが望ましい場合もあるでしょう。

【民法の重畳適用を認める場合】
本条の保証は、開示者の民法上の契約不適合責任を免除するものではない。

【民法の適用を排除する場合】
本条の保証には、契約不適合責任に関する民法の各規定は適用されないものとする。

保証条項の検討対象

 データの保証条項の規律対象は、具体的に取り扱うデータによって異なりますが、その性質や品質などについては、一般的には、次の各事項が検討対象になることが少なくありません(たとえば、経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン1.1版(データ編)」33頁以下)。

項目 保証内容
正確性 事実と異なるデータが含まれていないこと
完全性 データがすべてそろっていて欠損や不整合がないこと
商品性 データの内容が通常の用途に合致していること
有効性
(目的適合性)
計画されたとおりの結果が達成できるだけの内容を伴っていること
例:学習用データの加工が適切に施されているなど
安全性 提供データがウイルスに感染していないことなど
有用性 経済的・商業的価値を持っていること
継続的創出可能性 データが継続的に創出され、量が確保されること
知的財産権の非侵害 他者の知的財産権を侵害していないことなど

 そのため、これらについて、保証をするのか、保証をする場合に主観的態様による限定(たとえば「知る限り」など)、時期的限定(たとえば「本契約締結日現在」)、対象による限定(たとえば「●●に関するデータ」)などの制限が可能か否かを考えることが基本的な検討手順になります。

 ただしデータの性質にもよりますが、実務上は上記の各事項を列挙したうえでその真実性を保証することは、知的財産権の非侵害を除いて、必ずしも多くはありません(そもそも、上記の意味での「正確性」などが本当に保証可能なのかとの問題もあります)。むしろ、これらの事項は、保証責任を否定する際に、単に「一切の責任を負わない」とするに留まらず(1の【非保証・簡易】型の記載)、責任を負わない対象を注意喚起的に明示する趣旨で、「開示者は、受領者に対し、本データに関し、特定目的への適合性、商品性、正確性、完全性、有用性をはじめ、いかなる種類の保証もしない」(1の【非保証・列挙】型の記載)などと列挙される場合に触れられることがある、というのが実情に近いといえます。

 加えて、データ提供の際に、データを利用する具体的な目的が定まっているのであれば、抽象的にデータの「正確性」や「完全性」などの保証を求めるのではなく、そのデータが契約上備えるべき性質や条件(たとえば観察条件など)を具体的に特定したうえで、その充足に関する保証の要否や可否を議論するほうが、より建設的とも思われます。また、センシングデータについては、取扱者の恣意的な判断が介在しない点に実務上の有用性がありますので、「正確性」や「完全性」などよりも、たとえば、恣意的な変更(改竄)が加えられていないことの保証が実務上より有益な場合もあるでしょう。
 その他、個人情報を取り扱う場合には、その提供などに関して個人情報保護法を遵守していることなどを保証させることもあります。

保証条項違反の効果

 データの種類、品質、数量については、保証条項その他契約条項において、その違反の効果が明示されておらず、かつ、契約不適合責任の適用が有効に排除されていない場合には、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求または解除などによる救済を受けることができるのが原則です(民法562条から564条)。もちろん、契約上、保証条項違反の効果が明示されているのであれば、その適用を受けることになります(ただし、契約不適合責任と損害担保特約の関係の整理が重要であることは上述のとおりです)。

 他方、種類、品質、数量以外の事項は、そもそも、契約不適合責任の適用は受けませんので、原則的な救済手段を想定することができません。保証条項違反の救済に関して、当事者間で何ら合意が成立していない場合、データ受領者がいかなる救済を受けることができるかは不明確です。そのため、補償条項を設けたり、解除事由や期限の利益喪失事由として表明保証違反をあげたりするなどの対応が無難でしょう。

 なお、表明保証が、データの保証者に対して、何らかの債務を発生させるものか否かには議論の余地があります。仮に債務が生じないとすれば、表明保証条項の違反は、契約違反にはなっても、債務不履行を生じさせないとも解釈可能ですので、その違反を表現するときは「契約違反」や「表明保証違反」などの文言を用いることがよいでしょう。

おわりに

 以上を踏まえると、次のとおりです。

  • データの保証条項の法的性質には議論があるが、少なくとも、データの種類、品質または数量については、契約不適合責任との関係を意識しておくことが重要である。

  • 保証の対象としては、特定目的への適合性、商品性、正確性、完全性、有用性などが検討されることもあるものの、データの利用目的を踏まえたより具体的な条件に関する保証の可否などの検討が有用な場合がある。

  • 表明保証条項違反の効果は必ずしも明確ではないため、契約における明示が重要である。

  1. 堂園昇平「表明・保証をめぐる東京地判平成 18. 1. 17」(金法1772号5頁、2006)など ↩︎

  2. 潮見佳男「表明保証と債権法改正論」銀法719号24頁以下、青山大樹「英米型契約の日本法的解釈に関する覚書(下)―「前提条件」、「表明保証」、「誓約」とは何か」(NBL895号80頁~81頁、2008)など ↩︎

  3. 契約不適合責任は、種類、品質、数量以外についても問題になりうるものの、データの取扱いに関しては、これら要素に関する不適合が問題になることが少なくないため、以下、これらを念頭において議論します。 ↩︎

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