メーカーが安売り価格を広告に載せないよう小売店に要請することができるか

競争法・独占禁止法

 当社は、日本国内の流通業者を通じて、商品を消費者に販売していますが、小売業界での競争激化を受け、大手量販店を中心に、当社製品を安値で販売して消費者の興味を引こうとするケースが頻発しています。安売りを行っている大手量販店に対して、安売り価格を広告に載せないよう要請したいと考えているのですが、法律上問題はないでしょうか。
 大手量販店に対して、文書により「希望小売価格」を通知することは問題ないでしょうか。

 メーカーが流通業者や小売店の販売価格を拘束することは、その手段・方法・態様を問わず、原則として違法です。
 安売り価格を広告に載せないよう要請したり、希望小売価格を通知することも、従わない場合に経済上の不利益を課したり、不利益を課すことを示唆するなど、人為的な手段によって、安売りをさせないようにすれば、独占禁止法上問題となります。

解説

目次

  1. 激化する安売り競争
  2. 再販売価格維持行為に対する独禁法の厳格な規制
  3. 問題があるとされる行為とは
    1. 具体例
  4. 典型的な場面
    1. 安売り広告の自粛要請
    2. 希望小売価格の通知
  5. メーカーによる市場調査の実施
    1. 自社商品の販売価格や販売先などの調査
    2. 問題となるケース
  6. おわりに

激化する安売り競争

 近時は小売業界での競争が激化し、大手量販店を中心に安売り競争が行われる場面を多く見かけるようになりました。メーカーの立場からは、このような安売り競争は、商品価格の低迷や、ブランドイメージを傷つける可能性もあり、できれば阻止したいと思うこともあるかもしれません。

再販売価格維持行為に対する独禁法の厳格な規制

 しかし、独占禁止法は、流通業者や小売店の販売価格に対してメーカーが影響力を及ぼす行為を厳格に規制しています。
 メーカーが流通業者や小売店の販売価格(再販売価格)を維持・拘束することは、その手段・方法・態様を問わず、また直接・間接を問わず、原則として違法とされています。
 そのため、メーカーとして、流通業者や小売店による安売り競争を阻止することは、基本的にはできません。

問題があるとされる行為とは

具体例

 では、具体的にどのような行為が許されないのでしょうか。
 問題となるのは、流通業者や小売店の販売価格を拘束する効果を有する行為です。
 再販売価格の拘束の有無は、メーカーの何らかの人為的手段によって、メーカーの示した価格による販売の実効性が確保されているかどうかで判断されます。
 以下に具体例を示します。

(1) メーカーと流通業者・小売店との間に、メーカーの示した価格で販売するという合意や共通の理解がある場合

 文書によるか口頭によるかを問わず、再販売価格を拘束しているといえます。

(2) メーカーの示した価格で販売しない場合に経済上の不利益を課した、または課すことを通知・示唆する場合

 この場合も独占禁止法上問題があります。なお、ここでいう経済上の不利益には、出荷量の削減、出荷価格の引上げ、リベートの削減、他の製品の供給拒絶など、様々なものが含まれます。

(3) メーカーの示した価格で販売すればリベートなどの経済上の利益を与えるというような場合

 (2)とは逆のパターンですが、こちらも独占禁止法上問題となります。

(4) 安売りを行っている大手量販店に対する近隣の小売店からの苦情をメーカーが取り次ぎ、その大手量販店に対して安売りの自粛を要請した場合

 販売価格に影響が及べば、再販売価格の拘束と判断される可能性があります。

規制の対象となる価格とは

 なお、再販売価格の維持・拘束として問題とされるのは、価格を特定して行う場合に限られません。値下げ幅や最低販売価格を示すような場合も、同様に問題となります。また、一定の価格を下回って販売した場合には警告を行うなどにより、メーカーが流通業者に対し下限価格を暗示することも、問題となります。

典型的な場面

安売り広告の自粛要請

 安売り価格を広告に載せないよう要請する行為は、一見すると、広告における価格表示を拘束しているだけで、販売価格自体を拘束していないように見えます。
 しかし、広域量販店の広告などにおける価格表示は、実勢小売価格の形成に大きな影響を与えることは否めません。安売り広告の自粛要請は、実勢小売価格を一定以上に維持するためのものとして、再販売価格維持行為と評価される可能性が高いといえます。

希望小売価格の通知

 メーカーが設定する希望小売価格は、流通業者に対して単なる参考として示されているだけであれば、それ自体は問題とはなりません。
 しかし、単に参考価格として通知するだけにとどまらず、その価格を守らせるために人為的手段が用いられた場合には、問題となります。
 希望価格を流通業者や消費者に通知する場合は、「参考価格」「メーカー希望小売価格」といった用語を用いるとともに、通知の文面の中で、希望価格はあくまでも参考であることを明示するなどの対応が求められます。

メーカーによる市場調査の実施

自社商品の販売価格や販売先などの調査

 なお、事業者の方からよく質問を受けるのは、「メーカーによる自社商品の販売価格や販売先などの調査を行うことが可能か」という問題です。これについては、流通業者や小売店の販売価格に対して何らかの制限を及ぼすものでなければ、通常、問題とはなりません。

問題となるケース

 しかし、メーカーの示した価格で販売しない場合に、出荷停止などの経済上の不利益を課すことなどは、流通業者や小売店の販売価格に対して制限を及ぼすものといえます。
 また、流通業者や小売店に対して販売価格の報告を義務づけたり、その店頭でパトロールをしたり、安売り商品の流通経路を突き止めたりして、事実上、販売価格を監視しているといえる場合にも、販売価格を拘束していると判断される可能性が高まります。実際に市場調査を行う場合には、実務上、細心の注意が必要です。

おわりに

 以上のように、再販売価格維持行為として独占禁止法上規制される行為は、非常に多岐にわたります。メーカーの行う各種マーケティング活動は、独占禁止法上の再販価格規制との関係で、違法と評価されるリスクを伴うことになります。 小売業界における安売りへの対策など、流通業者や小売店による販売価格に影響を与える可能性があるマーケティング活動を展開する場合は、再販売価格の拘束に該当しないか、個々の具体的事案を前提に、一つひとつ丁寧に検討する必要があります。

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