タイ国際航空の会社更生とチケットの払い戻しの可否

国際取引・海外進出
ラートティーラクン・ナットアプソン 弁護士法人大江橋法律事務所

 私はタイ国際航空のバンコク行きのチケットを購入していたのですが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により海外渡航ができなくなりました。そのような中、タイ国際航空が会社更生手続に入った旨のニュースを見ました。私は、タイ国際航空にチケットの払い戻しを求めたいのですが、会社更生手続中でも払い戻しを求めることはできるのでしょうか。

 会社更生申立後に払い戻しを求めても、タイ国際航空は払い戻しに応じていないようであり、顧客としてはフライト変更など、返金以外の選択肢を取ることが望ましいと考えられます。

 タイの破産法では、裁判所により会社更生の申立が受理されると、原則として、会社更生手続が完了するまでの間、債務者の財産、担保に対する請求権の行使を凍結することにより、債務者を債権者から守るための自動停止の効力が生じます。自動停止の主な効果として、債務者の正常な事業の継続に必要な場合を除き、申立前に発生した債務の弁済が禁止されます。そのため、顧客が会社更生申立前に払い戻しを求めていた場合、タイ国際航空は更生計画に基づかずに返金に応じることができません。

 また、現状、タイ国際航空は申立後になされた払い戻しについても返金に応じていないようですので、顧客としてはフライトの変更など、返金以外の選択肢を取ることが望ましいと考えられます。

解説

目次

  1. タイ破産法による自動停止の効力
  2. 会社更生手続中であっても債務の弁済ができる場合
  3. タイ国際航空の会社更生の申立て前に払戻請求をした者
  4. タイ国際航空の会社更生の申立て前に払戻請求をしなかった者
  5. まとめ

タイ破産法による自動停止の効力

 米国のChapter11の自動停止(Automatic Stay)と同様のコンセプトに基づき、タイ破産法では、裁判所が会社更生の申立てを受理した場合、債務者は債務の弁済や資産の譲渡を禁止され、債権者は訴訟提起や担保実行を禁止されます。この自動停止の時点から、申立前に発生したすべての債権は、更生計画に従って処理され、更生計画管理者(plan administrator)が管理します(タイ破産法90/12条)。

 タイ破産法では、裁判所により会社更生の申立が受理された後、裁判所は、申立に対する調査を行い、申立を却下するか、債務者の会社更生を命じるかを決定します。裁判所が会社更生を命じる場合には、裁判所は、債務者の事業、資産等に関する権利および義務を持つ更生計画作成者(plan preparer)を選任します。

 更生計画作成者は、原則として、その選任が官報に公告された日から3か月以内に、更生計画を作成して管財人(Receiver)に提出します(タイ破産法90/43条)。更生計画の提出を受けた管財人は、債権者集会を招集します。債権者集会を経て、裁判所により更生計画が認可されると、計画作成者の権利義務は、更生計画認可の時点から計画管理者に移行することになります。

会社更生手続中であっても債務の弁済ができる場合

 債務者は、債務者の事業の正常な運営を維持するために必要があると認められる場合には、自動停止にかかわらず、債権の弁済ができます。この自動停止の例外は、債務者の事業継続の確保が、すべての債権者の利益となるとのコンセプトに基づくものです。しかしながら、タイ国際航空の事例では、チケットの払い戻しはこの例外に該当するとはみなされていないようです。

タイ国際航空の会社更生の申立て前に払戻請求をした者

 会社更生の申立て前にチケットの払戻請求をした顧客は、タイ国際航空の債権者とみなされます。債権者は、タイの官報で更生計画作成者の選任が公表された日から1か月以内に、管財人に対して、債権届出をしなければなりません(タイ破産法90/26条)。債権者がその期間内に債権届出をしなかった場合、更生計画に別段の定めがない限り、更生計画が成功したかどうかにかかわらず、失権することになります(タイ破産法第90/61条)。

 タイ国際航空の事例では、裁判所が2020年9月14日にタイ国際航空の会社更生を命じて更生計画作成者を選任しており、債権者はタイ法務省執行局のウェブサイトを介して管財人に対して債権届出を行うことができるようになりました。

 他方、タイ国際航空は、払い戻しを要求した顧客の負担を軽減するため、顧客の権利を、自ら更生計画にその詳細と返済条件を明記することにより、顧客が債権届出をしなくとも、その権利を確保することを検討していると発表していますが、その詳細は現時点では明らかになっていません。

 タイの会社更生手続は最大5〜7年かかる可能性がありますし、タイ国際航空の場合には、負債が多額で、かつ、債権者が非常に多いことからすると、請求した全額の返済が受けられない可能性が高いと考えられます。そこで、未使用のチケットを有する顧客の対応としては、払い戻しの代わりに、バウチャーを受け取る等、他の方法による補償を受け入れることが考えられます。

タイ国際航空の会社更生の申立て前に払戻請求をしなかった者

 会社更生の申立てをする前にチケットを購入したものの払い戻し請求をしていない顧客は、契約上の請求権を有する債権者として自動停止の対象となりえます。もっとも、タイ国際航空の事例では、チケットの継続使用を認めることが債務者の事業継続の確保に必要であることから、払戻請求をしていない顧客は、自動停止の例外として、自動停止期間中であっても契約に基づきチケットを使用することができるとされています。

 なお、現状、タイ国際航空は、会社更生の申立て後にチケットの払い戻し請求がなされた場合にも、払い戻し対応しておらず、フライトの変更等を認めるにとどまっているようですので、留意が必要です 1

まとめ

  1. 自動停止の前(タイ国際航空が会社更生の申立てをする前)に払い戻しを請求している場合、会社更生手続上の債権届出をすることになると思われますが、タイ国際航空は債権届出をしなくとも顧客が更生計画に基づく弁済を受けられるようにすることを検討としているとのことであり、引き続き注視が必要です。

  2. タイ国際航空のチケットを持っている方は、自動停止の後でも、タイ国際航空に対して契約上の請求権を有しており、引き続きチケットを使用して搭乗できます。

  3. 会社更生の申立て前に払い戻し請求のあったチケットの取扱い等は更生計画で定められることになりますが、更生計画の策定・提出はこれからであり、引き続きタイ国際航空の事業再建の行く末を注視していく必要があります。

  1. タイ国際航空ウェブサイト(2020年10月7日最終閲覧) ↩︎

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