中国子会社の不祥事防止のための平時の備え

国際取引・海外進出
外山 信之介弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 中国子会社の不祥事防止のための平時の備えとして、どのような対策をとればよいのでしょうか。

 日本本社における中国子会社の所管部署を明確にしたうえで、管理部門による調査結果やリスク対策への提言を事業部門に対して適切に共有し、それを事業部門が尊重することが必要です。また、リスクの影響や発生可能性に応じて日本本社による財務検査や内部監査を実施することも必要です。

解説

目次

  1. 中国子会社の不祥事防止のための準備の必要性
  2. 有事に対応できる体制構築
    1. 所管部署・派遣駐在員の適切な設定
    2. 職務分掌や職務権限の制定
  3. 事業部門・管理部門間の情報共有
  4. リスクに応じた対処の必要性
  5. おわりに

中国子会社の不祥事防止のための準備の必要性

 日本企業の中国子会社・関連会社(以下「中国子会社等」といいます)における不祥事が相次ぐなかで、依然として、中国をはじめとする海外子会社の不祥事防止のための平時の備えとして、適切な内部統制やコンプライアンス強化の重要性が高まっています。本稿では、実際に生じた不祥事の例に触れながら、中国子会社等の管理のために想定される具体的な手段について考えます。

有事に対応できる体制構築

 中国子会社等の円滑な事業運営や適切な管理のためには、 ①日本本社側において所管部署を明確に定めることのほか、②日本本社と中国子会社等を含むプロジェクトを実施する場合には、関連する事業部門の職務分掌や職務権限を明確に定めることが望ましいといえます。

所管部署・派遣駐在員の適切な設定

 日本本社において、中国子会社等の管理機能を有する部署を明確に定めるほか、中国子会社等への派遣駐在員として適任者を配置することは、1つの有用な体制構築といえます。
 日本本社の事業部門のみで中国の現地情報を確実に取得することは困難であるため、日本本社において中国子会社等の管理機能を有する部署を明確に定め、当該部署を日本本社と中国子会社等間の双方向による情報伝達の役目を果たせるようにすることが望ましいといえます。

 また、中国では、政治経済の動向がビジネスに急速かつ直接的に影響を与え得るため、当該部署を通じて、中国子会社等に関する「ミクロ」情報のみならず、中国の政治事情や経済指標といった「マクロ」情報の収集を日常的に図ることも有用です。派遣駐在員には、そのような日常的な情報収集を通じて問題点が発見された場合や、問題点が顕在化する可能性がある場合に、日本本社に対して適切に報告し、必要な協力体制を構築できるような権限が求められます。日本本社側においても、そのような報告を踏まえて中国子会社等の管理に必要な施策を実行できるような協力体制を常日頃から構築し、中国子会社等のモニタリングを行い、コンプライアンス上の問題を早期に把握する仕組みを整備することが重要です。

 筆者が関与した事例のなかには、中国子会社等において、中国語で円滑にコミュニケーションがとれる日本本社からの派遣駐在員が少なかったうえに、日本本社においても中国現地の法制度等に関する知見が十分でなかった事例がありました。この事例では、日本本社が中国子会社等の日常業務を十分に把握できず、中国子会社等の独断による不正行為の発覚に多大な時間を要しました。
 したがって、日本本社の管理部門が中心となり、中国子会社等に対する必要な情報収集を継続的に実施するほか、中国子会社等のビジネス環境やプロジェクトが抱えるリスクを考慮し、リスクが高いと判断される場合には、中国語が堪能で中国子会社等の現地従業員とのコミュニケーションを容易に行うことのできる適任者を派遣駐在員として配置することも必要といえます。派遣駐在員は、日常的に中国子会社等や現地実務・制度に関する情報を収集し、必要に応じて不祥事発生前の平時の段階から外部専門家等も適宜活用したうえで、日本本社との情報共有を図ることが望ましいといえます。

職務分掌や職務権限の制定

 筆者が関与した事例のなかには、日本本社側において、海外事業の所管部署や責任部署が明確に定まっていなかったため、海外子会社等において不正行為の予兆となるような事象が発覚した際に、日本本社が一体となって実効的な是正措置を講じることができず、結果的に不正行為が拡大してしまった事例がありました。
 特に複数の事業部門が関与するような海外事業を展開する場合は、日本本社側における事業部門間の職務分掌や職務権限を明確に制定したうえで(少なくとも責任の所在が明らかになるようにする)、有事における本社機関(取締役会、監査役会等)への報告基準を策定し、有事の際の交渉担当者の選任手続等の具体的なオペレーションの概要を事前に定めておくことが有用です。

事業部門・管理部門間の情報共有

 2−1で述べたような管理部門における情報収集やリスク分析が適切になされていたとしても、得られた情報が事業部門に対して円滑に共有され、事業に生かされていなければ、実効的な方策とはいえません。
 特に昨今の中国では、多くの領域において法整備が進んでいます。習近平体制への移行後は腐敗撲滅に向けた動きが特に加速しており、求められるコンプライアンスのレベルは一昔前よりも相当程度高まっています。一方で、中国(特に地方)においては、整備された法規則の内容と運用レベルにおける実態が乖離している場合もあり、いわゆるグレーの領域が依然として存在していることは否定できません。したがって、法務部を中心とする管理部門等によるコンプライアンス遵守のための日常的な情報収集や、外部専門家等からの意見聴取に加えて、当該情報や見解等の事業部門への共有は必須といえます。

 筆者が関与した事例のなかには、日本本社の法務部が中国子会社等の不正行為の端緒となり得る事象を把握したうえで、今後の方策に関する弁護士の見解を得ていたにもかかわらず、事業部門との情報共有がうまくなされていなかった事例もありました。そればかりか、法務部側も事業部門のビジネス上の意図を正確に把握できておらず、互いに情報共有の行き違いから有効な方策を講じることができず、結果として中国子会社等による不正行為が増長してしまいました。
 4で述べるリスク分析の前提としても、事業部門は、法務部等の管理部門や外部専門家等から定期的に情報共有を受け、管理部門や外部専門家等の意見を尊重することを慎重に検討すべきといえます。

リスクに応じた対処の必要性

 現実問題として、中国子会社等に生じ得るすべてのリスクについて完全に対応することは人的・金銭的コスト面からも不可能です。一方で、認識できたリスクを漫然と見過ごすことは、結果として重大な悪影響が生じた場合に、経営層の善管注意義務違反を問われかねません。そこで、中国子会社等の運営において生じ得るリスクを網羅的に想定したうえで、影響の強弱・発生可能性の大小に応じてリスク対策の実施の有無や内容を検討するアプローチが有用です。

 具体的には、日本本社の事業部門・管理部門の担当者のみならず、中国子会社等の派遣駐在員・現地従業員を交えたヒアリングやアンケート等を活用することにより、多方面において生じ得る様々なリスクを洗い出し、それぞれのリスクの重要性や発生可能性を検討し、対応すべきリスクについては、あらかじめ対応方法や対応部署等の体制を構築しておくことが想定されます。
 たとえば、日本企業による投資額が大きい、出資比率が高い等の事情がある海外子会社について、発生可能性の大きい財務的なリスクが存在する場合には、多少のコストが生じるとしても定期的かつ詳細な財務検査や内部監査を行い、当該リスクをフォローしておく必要性が極めて高く位置付けられます。
 財務検査や内部監査の他には、以下のような方法が考えられます。リスクの大小に応じた措置を検討することが重要です。

  • 日本本社側のマネジメント層から直接コンプライアンス遵守のメッセージを発する
  • 中国子会社等から定期的にコンプライアンスの遵守状況に関する報告書を提出させる
  • 日本本社側がハンドリングする形で中国子会社等におけるコンプライアンス教育や研修を実施またはその内容を確認する

 筆者が関与した事例のなかには、日本企業と中国企業の共同出資によって設立された合弁会社について、設立後、資金難に陥った合弁相手方の中国企業が当初の契約に定められた期間内に追加の出資義務を履行できないなか、日本企業が当該中国企業に対して、経営権の委譲、財務検査、内部監査の要求を求める実効的な交渉を行わず、合弁会社に対する十分な監査体制を構築できない事例がありました。やがて合弁会社において、中国企業側の派遣していた現地従業員の独断による不正行為が蔓延し、損害が拡大しました。
 したがって、リスクの及ぼす影響や発生可能性等の事情に応じて、現地での定期的な財務検査や内部監査等を実施し、全般的なモニタリング機能を強化するなど、中国子会社等に対する牽制手段となり得る方策を継続的に検討すべきといえます。この検討にあたっては、3で述べたように、事業部門・管理部門を交えた横断的な検討が必須といえます。

おわりに

 日本企業にとって、隣国の経済大国である中国におけるビジネスは、依然として重要性が高い一方で、コンプライアンス上のリスクを多く抱えているといえます。以上に述べてきた方策に限らず、想定されるリスクに応じた柔軟な方策が平時から検討されるべきですが、本稿が少しでもその参考になれば幸いです。

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