準備書面作成時に企業担当者において留意すべきこと

訴訟・争訟

 当社は現在、かつての取引先相手に訴訟で争っており、係争額はかなりの多額に上ります。前回期日に、相手方から、その主張を記載した100ページ近い大作の書面が提出され、今度は当社側が反論の書面を提出しなければならないのですが、当社の訴訟代理人弁護士が送ってきた書面のドラフトを見ると、20ページ程度しかなく、シンプルな内容となっています。その弁護士によれば、「相手方の主張は長いだけで内容が希薄なので、反論としてはこの程度で十分」とのことですが、裁判官から、当社が反論できる内容が少ないのだと誤解されて、訴訟上不利になるということはないでしょうか。

 訴訟当事者がその主張を記載する準備書面は、裁判官を説得して自己に有利な判決を書いてもらうことを目的とするものであって、いたずらに長文の記載とすればよいというものでは決してありません。事実を端的に記載し、自己の主張の要点をできるだけ簡潔に記載する方が、裁判官に対して説得力のある準備書面になるものと思われます。

解説

目次

  1. 準備書面の提出
  2. 「良い準備書面」とは
    1. 「事実」を端的に記載する
    2. 誤りや不確かなことは記載しない
    3. 短くまとまった書面とする
  3. 準備書面作成時の企業担当者の留意点

準備書面の提出

 訴訟においては、原告になろうとする者が訴状を提出し、被告とされた者が答弁書を提出することによって、それぞれが主張を行うこととなりますが、訴状と答弁書だけですべての主張が出尽くすという事件はごく少数であると思われます。

 訴状と答弁書の提出後に、訴訟当事者においてさらに主張すべき事由が生じた場合、準備書面を提出することができます(なお、厳密にいえば、答弁書も準備書面の一種です。民事訴訟規則79条1項参照)。「準備書面」という名称(民事訴訟法161条2項等)は、民事訴訟法161条1項が、「口頭弁論は、書面で準備しなければならない」と規定していることに由来します。すなわち、口頭弁論期日では、訴訟当事者は公開の法廷において口頭で自らの主張を行う建前となっていますが、実際には、当事者は、その主張を記載した書面をあらかじめ提出しておき、期日ではその書面に記載されたとおりに「(自らの主張を)陳述します」と述べるのが一般的です。このように、口頭弁論期日における主張の準備をするための書面であることから、「準備書面」という名称が付されているわけです。

 準備書面は、「これに記載した事項について相手方が準備をするのに必要な期間をおいて、裁判所に提出しなければならない」とされているところ(民事訴訟規則79条1項)、実務上は、裁判所から、期日の約1週間前の提出を指示されるのが一般的です。裁判所への提出と同じタイミングで、相手方に対しても準備書面を直送することになりますが(民事訴訟規則83条1項)、かかる直送は、ファクシミリ送信によることも認められています(民事訴訟規則47条1項)。
 なお、訴訟の内容にもよりますが、準備書面は、当事者双方において少なくとも2~3通ずつは提出することが通常のように思われます。

「良い準備書面」とは

 準備書面は、訴訟当事者が、訴訟の目的となっている紛争につき、自らに理があることを示すために種々の主張を記載する書面であり、その究極的な目的は、裁判官を説得して有利な判決を書いてもらう(あるいは、そのような心証を前提に、有利な条件での和解勧試をしてもらう)ことにあります。その意味で、「良い準備書面」とは、抽象的にいえば、裁判官を味方につけられるよううまく説得する書面ということになります

 とはいえ、具体的にどのような記載内容とすれば、裁判官に対して説得的な準備書面となるのかについては、弁護士によっても意見は様々なはずです。以下では、筆者が考える準備書面作成上のポイントをいくつかあげますが、これらはあくまでも筆者の私見であることは、留意いただきたいと思います(それでも、以下のポイントについては、訴訟を中心的に取り扱う弁護士のうちの相当数に首肯してもらえるところではないかと考えています)。

「事実」を端的に記載する

 裁判官は、訴訟において、「事実」を認定し、その「事実」に法律をあてはめて評価することによって結論を出し、これを判決にまとめます。法的評価の方は、裁判官が自己の判断のみで行えるところですから、裁判官が訴訟当事者に特に求めているのは「事実」の提供であり、「事実」を端的に記載した準備書面は裁判官の受けが良いということになります。
 しかしながら、実務では往々にして、主観的な「評価」が多分に含まれる反面、「事実」がどうであったかが必ずしも明確に記載されていない準備書面が出されています。このような書面は、裁判官が判決を書くうえで必要となる「事実」の認定に資するところがなく、「良い準備書面」とはいえないものと思われます。

 たとえば、購入した機械のスペックが実際の使用条件に合致せず、役に立たなかったため、買主が売主を訴えたという事案で、購入前の売主担当者の説明内容が問題となったとします。このとき、買主がその準備書面において、「売主担当者は、買主担当者に対し、本件機械の最高使用温度は●●、連続稼働時間は●●、…と述べた」というように、発言内容を事実として記載したのであれば、それが真実であるときには売主は買主の主張を認めざるを得ないはず(故意に虚偽を述べる場合は別ですが)であり、結果として、そのような発言があったという事実は当事者間に争いのない事実となるため、裁判官はその事実を前提に法的評価を行えばよいことになります。

 上記に対し、買主の準備書面の記載が、「売主担当者は、本件機械を買主の作業現場で使用することには何らの問題もないかのごとくいい加減な説明をして、買主担当者をだました」となっていたらどうでしょうか。売主は当然、「だましてなどいない」と反論するでしょうし、結局どのようなやり取りが当時あったのか裁判官には全く分からないことになり、このような買主の準備書面は、裁判官の受けが良いものではないといわざるを得ません。準備書面には「評価」は一切書くべきではないということでは決してありませんが、「評価」を記載するときは、できるだけ「事実」と切り分けて記載すべきであると考えられます。

 なお、実務では時に、相手方の主張内容を必要以上に攻撃したり(「原告は、●●などと虚言を弄し、…」、「被告は、子どもだましの屁理屈で言い逃れを図るが、…」等々)、相手方を誹謗中傷したり(「原告がこのような訴えを起こしてきたこと自体、原告のクレーマーとしての悪質性を物語る」、「被告がこの期に及んで原告の請求を争うのは、厚顔無恥というほかない」等々)する準備書面を見かけますが、このような記載は厳に慎むべきです。「強い言辞を使った方が、迫力が出て説得力が増す」などということは、こと裁判官を相手取る限り、全くないといえますので、準備書面では、あくまでも「事実」を分かり易く記載することで勝負すべきであると思われます。

誤りや不確かなことは記載しない

 訴訟では、対立する訴訟当事者の言い分が真っ向から反していることはよくあります。つまり、故意によるものか過失によるものかは別として、当事者の一方(あるいは双方)は、事実と異なる主張をしているわけであり、裁判官は、(特に訴訟の初期段階では)当事者双方の主張を、眉につばを付けて吟味しているといえます。そのような状況において、一方当事者が出した準備書面の記載内容が、後に誤りであることが判明し、訂正を余儀なくされたような場合、たとえその誤りが訴訟の争点とは直接関係しない周辺的な事情に関するものであったとしても、裁判官をしてその当事者の主張全体への疑念を抱かせる可能性は否定できません。したがって、当然のことではありますが、準備書面には、事実と異なる記載をしないようくれぐれも注意しなければなりませんし、後に誤りであると判明するリスクを回避するためには、不確かなことやあいまいなことも、軽々に記載しないようにしなくてはなりません

 なお、誤解のないようにいえば、「誤りを書かない」ということは、「あらゆる事実を正確に書き切る」ということとは、必ずしもイコールではありません。裁判官を説得するためには、自分たちのストーリーを分かり易く裁判官に示すことが必要となりますが、正確性にこだわるあまり、事実関係の枝葉的な部分についてまで漏らさず記載しようとすると、一読して何が言いたいのかが分かり難くなってしまうことに注意が必要です。

 たとえば、金融商品を購入して損失を被った顧客が、金融機関に対し、説明義務違反に基づく損害賠償請求を行ったという事案を想定します。金融商品については、比較的単純な仕組みの投資信託等であっても、顧客への交付資料の中には100ページ前後といった分量になるものがある(たとえば目論見書)ところ、そこに示された商品内容を準備書面に正確に書こうとすれば、必然的に長文の記載となってしまいます。しかしながら、顧客の投資判断上必要なのは、本来的には、「指標(株価、為替相場等)がどうなれば、どの程度損を(得を)するのか」ということのみのはずであり、金融実務においても、その点が重点的に説明されているはずです。それにもかかわらず、上記のように商品内容について準備書面に長々と記載すれば、裁判官に「この商品は、非常に複雑な内容の商品である」とか、「準備書面記載の内容のすべてが顧客に説明されてはいないから、この説明は不十分な説明である」といった印象を与えるおそれがあり、百害あって一利なしといえます。準備書面には、誤りは書かないことを大前提に、事実関係について要点を絞って分かり易く記載することが重要であり、ここが訴訟弁護士の腕の見せどころであると思われます。

短くまとまった書面とする

 もしかするとこれが最も重要なポイントかもしれませんが、準備書面は、極力短くまとめるよう心がけるべきです。
 裁判官は、(所属庁にもよりますが)一人あたり100件を大きく上回る事件を担当していることが通常であり、1件の事件処理に費やせる時間は決して多くはありません。特に、上級審の裁判官ほど、その傾向は顕著となります。そんな中で、訴訟当事者が、必然性もなく50ページ、100ページといった準備書面を提出したとしても、裁判官としては、(やや言い方は悪いですが)「流して読む」ことにならざるを得ないと思われます。「たくさん書いた方が、熱意が伝わる」とか、「分量で上回ることで、相手方の主張を圧倒できる」などと期待するのは必ずしも的を射てはおらず、むしろ、簡にして要を得た記載により、裁判官に自らの主張を一読了解してもらうことを重視すべきです。準備書面の適正な分量がどの程度かについては、もちろん事件の性質によっても異なるでしょうが、一般的な事件であれば、長くとも20~30ページあれば十分であるように感じられます。

 ところで、準備書面は短い方がよいということは、相当数の訴訟弁護士の共通認識であるように思われるところ、それにもかかわらず、準備書面が長くなってしまいがちなのは、訴訟当事者において、相手方の主張のすべてに徹底的に反論したいという意向があることが、その一因となっているように思われます。しかしながら、準備書面は、あくまでも裁判官を説得するために作成するものであって、相手方を論破するために作成するものではありません。相手方の主張の中には、訴訟の勝敗を左右するような重要な争点に関するものもあれば、周辺事情を述べるにすぎないものもあるところ、後者についてまで前者と同程度に反論を加えようとすれば、準備書面全体の分量が多くなるのはもちろんのこと、どこを主たる争点としたいのかが不明瞭となり、裁判官にとって非常に読み難いものになってしまいます。そのため、相手方の主張に対する反論は、メリハリをつけて行うべきです。準備書面の作成において熟慮すべきは、「何を書くか」よりも「何を書かないか」であると、個人的には考えています。

準備書面作成時の企業担当者の留意点

 企業が当事者の訴訟において、準備書面は基本的には代理人弁護士が作成するものですが、そこに記載すべき事実関係については、企業側から幅広に代理人弁護士に提供すべきであるということは、訴状や答弁書の作成時と変わるところはありません。そして、前記のとおり、準備書面に誤りや不確かなことを記載してしまった場合のデメリットの大きさに鑑みれば、企業担当者としては、代理人弁護士に事実関係を説明する際には、その確度もあわせて説明することが重要であるといえます。すなわち、企業側で認識するある事実につき、客観的なエビデンスが存在するのか関係者が記憶しているのみなのか、また、後者であるとして、その関係者の記憶がどの程度はっきりとしたものであるのか、あるいは、その事実に関する客観的なエビデンスを相手方が保有している可能性があるのか等を伝えることにより、代理人弁護士において、その事実を準備書面に記載するか否か、記載するとしてどの程度詳細に記載するかといったことを判断できるようにすることが重要です。

 また、準備書面はできるだけ短くまとめるのが望ましいことに鑑み、企業担当者においては、訴訟当事者として主張したいことのうち、どの範囲までを主張するのかにつき、代理人弁護士とよく議論すべきであると思われます。もちろん、代理人弁護士としては、当事者たる企業側からその主張したい(できる)と考える内容を聴取して、準備書面のアイデアを得るところもあるため、言いたいことがあってもなるべく我慢すべきというつもりは全くありません。しかしながら、他方で前記のとおり、準備書面の作成、特に相手方主張への反論については、相手方主張の軽重などもあり、メリハリをもって記載することが重要となります。そのため、訴訟経験が豊富な弁護士であればあるほど、準備書面作成上、ある論点についてはあえて簡潔な主張にとどめる等の工夫をする場合があるところ、企業側で主張が足りないのではないかと感じたときは、単に主張を追加してほしいと注文するだけでなく(そのような注文があった場合、代理人弁護士としてはできるだけ依頼者の意向を酌みたいと考えがちです)、なぜその程度の主張にとどめているのか、その意図するところや懸念点について代理人弁護士に確認し、訴訟戦略についての認識を共有するよう努めることが、より良い準備書面を作成するために有益であると考えます(このような代理人弁護士との協働という点で、企業側において法務部門の果たすべき役割は大きいものと思われます)。

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