売買契約に関する民法改正と実務上の留意点 - 売買基本契約書の作成等を念頭に

取引・契約・債権回収
吉原 秀弁護士 TMI総合法律事務所

 2020年4月1日より、改正民法が施行されましたが、売買基本契約書の作成・修正等に際し、留意を要するのはどういった点ですか。

 売買に関する民法改正は、手付や追奪担保責任に関するものも含めれば多岐にわたります。しかし、契約書の作成または修正との関係についてみれば、契約不適合責任に関する規律が特に重要で、売主・買主の立場に応じた留意が必要となります。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 契約不適合責任に関する法改正と契約書作成等に関する留意点
    1. 契約不適合責任に関する規律の概要
    2. 「瑕疵」から「契約不適合」への文言変更
    3. 追完請求権の明文化と追完方法の選択権等に関する留意点
    4. 代金減額請求権と契約書作成等における留意点
    5. 権利行使期間と留意点
    6. 法定責任としての瑕疵担保責任から契約責任としての契約不適合責任へ
  3. その他の留意点
    1. 目的規定の重要性
    2. 自動更新条項と連帯保証(個人根保証)
    3. 債権譲渡制限特約
  4. おわりに

※本記事の凡例は以下のとおりです。

  • 改正民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正後の民法
  • 旧民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正前の民法

はじめに

 いよいよ改正民法が施行されることとなり、各事業者においても、改正民法に対応すべく、社内の契約書ひな形および附属書類等の作成または改定(以下本稿においては「契約書の作成等」と表記します)を進めている状況かと拝察します。

 改正民法の施行に伴い、契約書の作成等が必要になるものは必ずしも売買基本契約書に限られませんが、契約不適合責任に関する規律(詳しくは後述します)は、売買契約以外の有償契約にも準用されることとされていますので(改正民法559条)、契約不適合責任の基本形として、売買契約に関する契約不適合責任の規律およびその留意点を押さえておくことは、他の類型の契約書の作成等との関係でも有用です。

 売買契約に関する改正項目等を網羅的に概説する文献等はすでに複数存在しますので、本稿では、実務上、喫緊の課題と思われる契約書の作成等を念頭に、留意点をご説明します。

契約不適合責任に関する法改正と契約書作成等に関する留意点

契約不適合責任に関する規律の概要

 今般の改正では、旧民法下における瑕疵担保責任に関する規律が見直され、売主の担保責任は「契約不適合責任」として、債務不履行責任に関する規律に一元化されました。具体的には、特定物売買であるか不特定物売買であるかを問わず、売主は種類、品質および数量に関して契約の内容に適合した目的物を引き渡す債務を負うとされ、引き渡された目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しない場合には、その不適合が「隠れた」ものであるか否かを問わず、買主は、救済手段として、旧民法が定めていた損害賠償請求および解除権の行使に加え、当該目的物の修補または代替物の引渡し等の履行の追完の請求(改正民法562条1項本文)および代金減額請求(改正民法563条1項・2項)が可能になりました。

「瑕疵」から「契約不適合」への文言変更

 旧民法における「瑕疵」という文言は、「契約の内容に適合しない」=「契約不適合」という文言へと改められました。一見すれば、規律内容も変更されたかのように思われますが、この改正自体は、従前の瑕疵概念を変更するものではないと解されています。旧民法下において、判例は、「瑕疵」があるといえるかにつき、「売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては、売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべき」と判示し 1、いわゆる主観的瑕疵概念(「瑕疵」とは、契約内容に照らして導かれる「あるべき」性質からの乖離を意味するという考え方)が採用されていると解されてきました。改正民法においても、このような判例の傾向を踏まえて、「『契約の内容に適合しない』との用語を用いて、端的に『瑕疵』の具体的な意味内容を表すこととしている」とされています 2

 したがって、契約書の作成等において「瑕疵」という文言から「契約の内容に適合しない」という文言に変更する必要性があるとまではいえません。他方で、改正民法が規定する契約不適合責任は、契約不適合が「隠れた」(換言すれば、目的物の引渡時において契約不適合について買主が善意無過失であること)ものであるかは問わないこととされましたので、契約書に「隠れた」という文言が残っている場合には、買主が契約不適合責任を追及する要件が改正民法の定めに比して加重されていると解され得る点に注意が必要です

追完請求権の明文化と追完方法の選択権等に関する留意点

 改正民法は、契約不適合の場面における買主の救済手段として、旧民法が規定していた解除権と損害賠償請求権に加え、追完請求権を明文で認めました。
 この追完にあたっては、一般に追完方法が複数存在し得る(たとえば、修補するか、代替物を提供するか等)ところですが、改正民法では、第一次的には買主が追完方法を選択できることとされており、買主に不相当な負担を課するものでないときに、売主が、買主が選択した方法とは異なる方法で追完することができるにとどまるとされている点には留意が必要です。売主の立場で契約書作成等を行う場合には、第一次的な追完方法の選択権を売主に付与する特約を設けることも検討に値するといえるでしょう

 また、(これ自体は当然のことですが)不完全な履行がなされたものの、追完が不能であれば追完請求権は否定されるところ、いかなる場合に「追完不能」と解されるかは実務において問題となり得ます。
 この点に関しては、物理的な不能に限らず、契約の趣旨等も考慮して追完不能か否かが事案ごとに判断されるとの指摘もありますが、改正民法に明確な基準は定められていません。立案担当者は、請負契約に関する文脈ですが、「新法の下では、過分の費用を要するときは、修補は取引上の社会通念に照らして不能であると扱われ、履行不能に関する一般的な規定(新法第412条の2第1項)によって、請負人は修補を請求することができなくなる」と指摘しており、修補に要する費用の多寡も「追完不能」の判断における考慮要素となり得ます 3。加えて、追完について債権者(買主)の協力が必要となる場合の負担の度合い 4 等も、追完不能か否かにあたっての判断要素となると思われ、実務的に追完不能の判断には困難が伴うことが予想されます

 そこで、たとえば売主の立場からは、事前に修補等の追完を免れたいケース(例:修補に売買代金の一定割合以上の費用を要するケース)が想定できるのであれば、そのようなケースについては修補を免れる旨の特約を設けるなどの手当てを検討する必要があるといえるでしょう

代金減額請求権と契約書作成等における留意点

 買主が相当の期間を定めて追完の催告をし、当該期間内に追完がないときの救済手段として、改正民法は、新たに代金減額請求権を明文で認めています(改正民法563条1項)。このような救済手段が明文化されたこともさることながら、その要件として、事前の追完の催告と相当期間の経過が必要となる点には留意が必要です(なお、契約不適合が売主の帰責性に基づくことは要件ではありません)。買主側において契約書の作成等をする場合には、代金減額請求権の行使要件を緩和する特約を設けることを検討する必要があるでしょう

 また、代金減額請求権については、減額される金額の算定方法や価額を比較する基準時について明文の規定がなく、解釈に委ねられています。具体的には、代金減額請求は、実際に引き渡された目的物でも契約の内容に適合していたと擬制してその差を代金額に反映させるという意味で契約の改訂を行うものであるとの理解に基づき、契約締結時が基準時になるとする見解と 5、代金減額請求は引き渡された目的物を当該契約の目的物と承認して受領する旨の買主の意思表明に他ならないとの理解に基づき、目的物の引渡時が基準時になるとする見解 6 があります。このように現時点では見解の一致を見ませんので、紛争予防の観点から、契約書の作成等においては、代金減額の基準時や算定方法等について明文で規定することを検討するのが望ましいでしょう

権利行使期間と留意点

 旧民法における瑕疵担保責任にかかる期間制限は、瑕疵の存在を知った時から1年以内に損害賠償請求権または解除権の行使をしなければならないという規律であったのに対し(旧民法570条、566条3項)、改正民法は、契約不適合を知った時から1年以内に通知することを義務付けるにとどまります(改正民法566条)。すなわち、同条の定める通知を行った後も、契約不適合に基づく損害賠償請求権等は、債権一般の消滅時効期間が経過するまで存続することとなります

 このような規律を前提とすれば、売主側で契約書の作成等を行う場合には、契約不適合責任に基づく損害賠償請求権等の権利行使期間を旧民法の規定に合わせるなど、別途の特約を設けることも検討に値します。加えて、何らの特約も設けない場合には、当該契約が商人間取引であれば、商法526条2項が適用されることになりますので、併せて、留意が必要です。

法定責任としての瑕疵担保責任から契約責任としての契約不適合責任へ

 上述のとおり、改正民法が定める契約不適合責任の法的性質は債務不履行責任(契約責任)と解されますので、損害賠償請求の要件として債務者(売主)の帰責性が必要になります。この点は、旧民法の下で、瑕疵担保責任が無過失責任と解されていたところから、今般の改正で規律が変更されていますので、注意が必要です。加えて、旧民法の下では、瑕疵担保を理由に損害賠償を求めることができる損害の範囲はいわゆる信頼利益にとどまると解されていましたが、契約不適合を理由に損害賠償を求める場合にはいわゆる履行利益についても賠償を求めることができると解されています 7
 最後に、旧民法下では、売主は、原則として瑕疵のない目的物を交付する義務を負わないと解されていましたが(特定物ドグマ)、今般の改正ではその根拠である旧民法483条が削除され、売主は契約に適合した目的物を交付する義務を負うことが原則となりました。

 これらの点は、必ずしも契約書の作成等において文言に反映されるものではありませんが、売買に関する重要な改正点の1つですので、ここにご紹介する次第です。

その他の留意点

目的規定の重要性

 紙幅の都合上、詳述できませんが、今般の債権法改正により、債務者の帰責事由の有無、債務不履行解除における軽微性、契約不適合性の判断等にあたり、契約の目的が考慮されることが明確になったため、旧民法の規律に服する場合に比べて、契約の目的はよりいっそう重要な意義を有するようになりました。
 そこで、大量かつ安価に商品を購入できることに主眼を置く契約なのか、商品の性質に主眼を置く契約なのかなど、契約ごとに重視するポイントを明文で規定することも検討に値します。

自動更新条項と連帯保証(個人根保証)

 売買基本契約書には、自動更新条項が設けられており、かつ、連帯保証(個人根保証の場合が多いと思われます)の規定も更新されるまたはそのように読める場合も少なくないでしょう。そのような契約であれば、改正民法の施行日後の更新以後、当該連帯保証条項が無効になることのないよう留意が必要です。この点については、「民法改正と経過規定-施行日前に契約を締結する際の留意点等」で詳しく紹介しています。

債権譲渡制限特約

 今般の改正により、債権譲渡禁止(制限)特約が付されていても、債権譲渡は有効に行うことができることとなりました。買主側で契約書の作成等を行う場合には、弁済先固定の利益を図るため、別途の手当を設けることも検討に値します。この点については、「弁済に関する民法改正のポイント」をご参照ください。

おわりに

 売買契約に関する民法改正のうち、契約書の作成等との関係で特に留意を要する点は以上のとおりです。契約不適合責任については、他の有償契約においても概ね同様ですので、契約当事者としての立場(売主・買主)に応じて、契約書の作成等を行う際には上述の視点をもっておくことが肝要といえるでしょう。


  1. 最高裁平成22年6月1日判決・民集64巻4号953頁。 ↩︎

  2. 筒井健夫・村松秀樹編著「一問一答 民法(債権関係)改正」(商事法務、2018)275頁。 ↩︎

  3. 筒井健夫・村松秀樹編著「一問一答 民法(債権関係)改正」(商事法務、2018)341頁・脚注1)。 ↩︎

  4. たとえば、工場に設置する大型機材の売買契約について、買主自らが工場に当該機材を搬入して固定した後に契約不適合が発覚したが、取り換えるには当該機材を取り外すための大掛かりな工事が必要である場合等が考えられます(この点につき、潮見佳男「新債権総論Ⅰ」(信山社、2017)336頁以下参照)。 ↩︎

  5. 筒井健夫・村松秀樹編著「一問一答 民法(債権関係)改正」(商事法務、2018)279頁。 ↩︎

  6. 潮見佳男「民法(債権関係)改正民法の概要」(金融財政事情研究会、2017)262頁以下、山野目章夫「新しい債権法を読みとく」(商事法務、2017)191頁。 ↩︎

  7. 筒井健夫・村松秀樹編著「一問一答 民法(債権関係)改正」(商事法務、2018)280頁。 ↩︎

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