贈与契約に関する債権法改正の概要

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吉原 秀弁護士 TMI総合法律事務所

 2020年4月1日より改正民法が施行されましたが、贈与契約に関し、どのような改正がなされましたか。また、依然として解釈に委ねられている問題としては、どういった点がありますか。

 贈与契約に関する改正項目は、大きく分類すれば、①贈与の目的物に関する改正、②書面によらない贈与に関する規律の改正、③贈与者の負う担保責任に関する改正に整理されます。他方で、改正民法550条が規定する「書面」の意義や、他人所有の物を贈与した場合の贈与者の義務等については、依然として解釈に委ねられています。

解説

目次

  1. 贈与契約に関する改正項目
    1. 贈与の目的物
    2. 書面によらない贈与の「解除」
    3. 贈与者の負う義務
  2. 改正民法下において解釈に委ねられた問題
    1. 「書面」の意義
    2. 債務免除および債権放棄の贈与該当性
    3. 他人所有物を贈与した場合の贈与者の責任
  3. おわりに

※本記事の凡例は以下のとおりです。

  • 改正民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正後の民法
  • 旧民法:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)に基づく改正前の民法

贈与契約に関する改正項目

贈与の目的物

 旧民法549条は、売買契約に関する冒頭規定である旧民法555条と異なり、贈与の目的を「自己の財産」と規定していましたが(旧民法555条は、売買の目的を「ある財産権」と規定している)、旧民法の起草者は他人所有の財産を目的物とする贈与が有効であるのは売買の場合と異ならないと解しており、判例(最高裁昭和44年1月31日判決・集民94号167頁)・通説も他人物贈与を有効と解していましたので 1、条文の解釈とその字義が異なることとなっていました。
 そこで、贈与の目的物につき「自己の財産」との文言が「ある財産」という文言に改められましたが(改正民法549条)、旧民法下での規律を変更するものではありません

書面によらない贈与の「解除」

 贈与も契約ですので、贈与契約を締結した以上は拘束力が生じます。もっとも、贈与が無償契約であること等に鑑み、民法は、改正の前後を問わず、書面によらずに贈与契約を締結した場合には、履行が終わっている場合でない限り、それを解消することができる定めとしています。すなわち、旧民法550条本文は、「書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる(太字は筆者による)」と規定していましたが、ここにいう「撤回」の意味合いは「解除」と同内容ですので、今般の改正で、用語法が統一され、「解除」という文言に改められました(改正民法550条本文)。

 これも、上記1−1と同様に、旧民法下でのルールを変更するものではありませんが、用語法が統一されたことで、解除に関する総則的な規定(改正民法540条等)が、書面によらない贈与の解除にも適用されることとなった点には若干の留意を要します。また、すべての規定が適用されるのではなく、たとえば、贈与の無償性に鑑み、解除権の消滅を定める改正民法547条は書面によらない贈与には適用されないと解されており、既履行部分の原状回復等を定める改正民法545条および546条や、財産の給付を受けた者が解除権を有する場合の規律である改正民法548条も書面によらない贈与には適用されないと解されています 2

贈与者の負う義務

 旧民法551条1項は、贈与の目的物に瑕疵があったとしても、贈与者はこれを知りながら受贈者に告げなかった場合を除き、瑕疵担保責任を負わない旨規定していましたが、贈与の無償性に鑑み、贈与者の担保責任を軽減しようという考え方自体は合理性がありますので、改正民法下においてもこの規律は維持されています。具体的には、贈与者は種類、品質および数量に関して贈与契約の内容に適合した目的物を引き渡す債務を負うことを前提に、贈与者は原則として契約不適合責任を負わない規律とすべく、贈与者は、贈与の目的として特定したときの状態で贈与の目的物を引き渡すことを合意していたものと推定する旨定めています(改正民法551条1項)3

 他方で、旧民法下での瑕疵担保責任に関する規律は、今般の民法改正で、契約不適合責任に改められ、改正民法551条2項は、負担付贈与の贈与者が、その負担の限度において契約不適合責任を負う旨定めていますので、贈与契約書を作成する場合には、契約不適合該当性等の判断指標とすべく、当該贈与の目的等について規定しておくことも検討に値します

改正民法下において解釈に委ねられた問題

「書面」の意義

 旧民法550条が定める「書面」の意義について、判例はその字義に比して緩やかに「書面」該当性を認めています。すなわち、判例によれば、旧民法550条の「書面」は贈与契約書である必要はなく、贈与者の意思表示が書面によって明らかにされていれば足りると解されています 4。また、契約当事者ではなく、第三者との間で作成された書面であっても書面性要件を満たすと判断された判例もありますが 5旧民法550条の「書面」性について、贈与の意思を明確にして紛争を予防するという立法趣旨に鑑み、契約当事者名、贈与の目的物および贈与の意思が書面に記載される必要があり、原則として、当事者間で作成、受贈者に交付された書面であるとする見解も有力です 6

 改正民法の立案過程では、旧民法550条の「書面」の意義を条文上明確化することも検討されましたが、最終的に、そのような改正は見送られましたので、改正民法下でも、改正民法550条の「書面」の意義は、解釈に委ねられていることになります 7。「書面」性が問題になる場合には、旧民法下での上記判例および議論等も参照に値するように思われます。

債務免除および債権放棄の贈与該当性

 旧民法下において、贈与の範囲をいかに解するかについては必ずしも見解の一致をみていません。たとえば、債務免除がその無償性に鑑みて贈与に該当し得るか、あるいは、無償でなされる用益物権の設定が贈与に該当するかといった問題については、その該当性を肯定する見解と否定する見解が存在しています。

 この点に関し、改正民法549条は、贈与の目的を「財産」と定めています。立案過程の当初において「財産権を移転する」契約と定義することが検討されていたものの(このような規定であれば、債務免除や用益物権の設定は贈与に該当しないこととなります)、贈与の目的を財産権の移転に限定すると、財産権とはいえない利益(顧客関係や営業秘密情報等)を無償で相手方に付与する契約に関する規律が不明確になること、無償の消費貸借契約との分水嶺が曖昧になること等を理由に旧民法の文言が維持されることとなりました 8

 したがって、債務免除の合意等が対価に関係なくなされた場合に贈与に該当するかといった問題も、改正民法下において、依然として解釈に委ねられることとなります

他人所有物を贈与した場合の贈与者の責任

 上記のとおり、改正民法は、他人物贈与も有効であるとする規律を明確にすべく、旧民法549条の「自己の財産」という文言を「ある財産」に改めましたが、他人の財産を贈与した場合に、贈与者が当該他人の財産を取得する義務があるかという問題は、条文上は明確に規定されていません。立案過程においては、贈与の無償性に鑑み、他人の財産を取得する義務まで負わないことを明確化することも検討されましたが、民法のデフォルトルールとしてそこまで規定することには慎重であるべきとされ、改正は見送られました。

 改正民法を前提に、他人物贈与者は、他人物売主と同様に当該他人所有物を取得する義務を負うとする見解もありますが、契約解釈に帰着するとも考えられますので、贈与契約書を作成する局面において、当該目的物が他人物であった場合の処理を定めておく余地もあるように思われます 9

おわりに

 贈与契約に関する改正項目および解釈に委ねられた点を整理すれば、大要、以上のとおりです。実務上、留意を要する場面は必ずしも多くないようにも思われますが、贈与契約に関する改正事項や問題点等に関して、読者のみなさまが法的問題点の整理または検討等される際の一助となれば望外の喜びです。

<追記>
2020年4月2日:民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)の施行に伴い「現行民法」の記載を「旧民法」に改めました。

  1. 潮見佳男ほか『詳解改正民法』(商事法務、2018年)440頁〔横山美夏〕。 ↩︎

  2. この点につき、筒井健夫=村松秀樹編著『一問一答民法(債権関係)改正』(商事法務、2018)264頁以下。 ↩︎

  3. この点につき、筒井健夫=村松秀樹編著『一問一答民法(債権関係)改正』(商事法務、2018)264頁。 ↩︎

  4. 大審院昭和2年10月31日判決・民集6巻581頁。 ↩︎

  5. 最高裁昭和60年11月29日判決・民集39巻7号1719頁。 ↩︎

  6. 我妻榮『債権各論中巻一』(岩波書店、1957)228頁。 ↩︎

  7. 以上の点につき、潮見佳男ほか『詳解改正民法』(商事法務、2018)441頁以下〔横山美夏〕。 ↩︎

  8. この点につき、潮見佳男ほか『詳解改正民法』(商事法務、2018)443頁〔横山美夏〕。 ↩︎

  9. 以上の点につき、潮見佳男ほか『詳解改正民法』(商事法務、2018)443頁以下〔横山美夏〕参照。 ↩︎

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