不正・不祥事発生後における株主への対応のポイント(株主代表訴訟・株主総会等)

危機管理・内部統制

 不祥事が発覚したことにより、会社としていろいろな対応を迫られることになりますが、株主に対する対応としてはどのようなものが考えられるでしょうか。

 不祥事が発覚した場合、その内容の報道により株価が大きく下落することが考えられます。
 会社としては、株主総会その他の場で、不祥事の概要、会社に与える影響、その原因、再発防止策、責任者に対する処分について十分に説明を行うことが必要となります。また、株主から、役員に対する提訴請求がなされる場合があり、提訴しないと判断すると、株主代表訴訟が提起される可能性があり、これに対応する必要が出てきます。

解説

目次

  1. はじめに(不祥事による株価の下落)
  2. 株主による責任追及訴訟の提起(株主代表訴訟)
    1. 役員が不正・不祥事の責任を問われるケース
    2. 株主代表訴訟提起のための手続(提訴請求に対する対応)
    3. 株主代表訴訟における会社の関与
  3. 不正・不祥事発覚後の株主総会での対応
    1. 株主総会における不祥事についての説明
    2. 株主からの質問に対する対応
    3. 株主提案に対する対応
  4. 株主総会以外の場での説明

はじめに(不祥事による株価の下落)

 近時、会計不正や品質・データ偽装などの企業不祥事が相次いでいますが、当該企業等の信用が失墜することで、補償金や賠償金等の経済的損失にとどまらず顧客の流出をはじめ企業の存続に対してきわめて甚大なダメージを受ける例も数多く見られます。
 その結果、当該企業の株価が大きく下落したことが報道される例も見られます。

  • 多数のアパートで建築基準法上違法な施工がなされていたことが判明したケースでは、株価が2割弱下落しストップ安となった
  • 多数のアパートで建築基準法上違法な施工がなされていたことが判明した別のケースでも、株価が2割近く下落
  • 免震・耐震製品のデータ偽装が判明したケースでは、株価が2割以上下落

 そのため、不正・不祥事が発生した場合には、迅速かつ適切な対応をとるとともに、当該対応等を適時かつ適切に公表することなどにより、ステークホルダーである株主に対して企業としてのメッセージをいかに示すかがきわめて重要になります。
 以下、不祥事発生後における株主に対する対応のポイント(株主代表訴訟・株主総会の対応等)について解説します。

 また、危機管理・リスク予防のための内部通報制度の実務対応については、以下も参照してください。

株主による責任追及訴訟の提起(株主代表訴訟)

 不正に関して責任のある役員に対する民事責任の追及として、株主代表訴訟が提起されることも少なくありません。
 株主代表訴訟とは、会社が、被った損害を回復するために役員に対する責任を追及しようとしない場合に、株主が会社に代わって責任追及をする「株主による責任追及等の訴え」(会社法847条)のことをいいます。

役員が不正・不祥事の責任を問われるケース

 『不正・不祥事に責任のある役職員に対する責任追及と処分のポイント』において説明したとおり、不正・不祥事が発生した企業においては、以下のような場合に取締役の責任が認められます。
 詳細は、『不正・不祥事に責任のある役職員に対する責任追及と処分のポイント』を参照してください。

  1. 役員が不正に直接関与しているケース
  2. 役員が不正に直接関与していないケース
  3. (a) 不正行為に関し、監視・監督を怠っていたことの責任(監視・監督義務違反)
    (b) 内部統制システムの構築を怠っていたことの責任(内部統制システム構築義務違反またはその監視義務違反)
    (c) 不正発覚後の損害拡大回避を怠ったことの責任(損害拡大回避義務違反)

 内部統制システムの構築を怠っていたことの責任(内部統制システム構築義務違反またはその監視義務違反)を問われて株主代表訴訟が提起された例としては以下のようなケースがあります。

【最高裁平成21年7月9日判決・判時2055号147頁】
事業部長兼営業部長が部下数名と共謀し、注文書、検収書を偽造して、チェック部門に送付し架空の売上を計上させた事案
  • (1) 事業部門と財務部門の分離、(2) 別部署による注文書、検収書のチェック、検収確認、(3) 監査法人が売掛金残高確認書を取引先に直接郵送し確認するという体制をとっていたことから、通常想定される架空売上の計上等の不正行為を防止しうる程度の管理体制は整えていた
  • 過去に同様の不正行為が存在したなど本件不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事情も見当たらない
  • 内部統制を機能させていたかという点については、(4) 売掛金回収遅延の説明が合理的であった、(5) 販売会社との間で過去に紛争が生じたこともなかった、(6) 監査法人も適正意見表明をしていたことから、財務部におけるリスク管理体制が機能していなかったということはできない

 不正発覚後の損害拡大回避を怠ったことの責任(損害拡大回避義務違反)を問われて株主代表訴訟が提起された例としては以下のようなケースがあります。

【大阪高裁平成18年6月9日判決・判タ1214号115頁】
販売していた肉まんに食品衛生法で禁止されている未認可添加物が混入していたことにより会社が多額の出費を強いられたことについて株主代表訴訟が提起された事件
  • マスコミの姿勢や世論が、企業の不祥事や隠ぺい体質について敏感であり、少しでも不祥事を隠ぺいするとみられるようなことがあると、しばしばそのこと自体が大々的に取り上げられ、追及がエスカレートし、それにより企業の信頼が大きく傷つく結果になることが過去の事例に照らしても明らかである
  • 現に行われてしまった重大な違法行為による企業としての信頼喪失の損害を最小限度に止める方策を積極的に検討することこそが、このとき経営者に求められていた
  • 「自ら積極的には公表しない」というあいまいで消極的な方針が、大々的な疑惑報道がなされるという最悪の事態を招く結果につながったことは否定できない
  • 損害が拡大したことに責任を負うべきである

 株主代表訴訟のなかには、きわめて高額の賠償責任が認められるケースがあります。

【大阪地裁平成24年6月29日】
  • 廃棄物のリサイクル製品(埋戻し材)について成分を偽装して認定を受けたうえで販売・不法投棄したケースで、株主代表訴訟が提起された例
  • 第一審は、元役員ら3名の責任を認め、そのうち1名に対しては請求額のほぼ全額である485億8,400万円の支払い命令
  • なお、第一審判決に対して控訴がなされましたが、控訴審では、元役員らがコンプライアンスの不備に遺憾の意を表明し、和解金として合計約5,000万円余りを会社に支払う旨の和解が成立したとのことです

 この内容については、連載「近時の不祥事ケースと危機管理・リスク予防」第2回『産業廃棄物の不法投棄事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント』も参照してください。

株主代表訴訟提起のための手続(提訴請求に対する対応)

(1)株主代表訴訟提起のための手続

 不正や不祥事について役員に責任があったとしても、基本的に、株主が当該役員に対してただちに責任追及のための訴訟を提起することはできません。
 株主代表訴訟を提起するまでの流れは、概要以下のとおりです。

  1. 株主が、会社(監査役)に対して、書面で、取締役に対する責任追及訴訟の提起を請求(提訴請求)
  2. 会社が、提訴するかどうかを検討
  3. 会社が提訴しないと判断した場合には、当該株主に対して不提訴理由について書面で通知(不提訴理由通知書)
  4. 提訴請求の日から原則60日以内に会社が提訴しない場合には、株主は株主代表訴訟を提起することができる
    なお、60日間の検討期間が経過すると会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合には、株主は提訴請求をせずに、ただちに株主代表訴訟を提起することができる

(2)会社として役員を提訴するか否かの検討・判断

 株主から提訴請求を受けた会社(監査役)は、不正を行った従業員・役員に対して民事責任の追及(損害賠償請求等)を検討することになります。
 不正を行った役員に対する民事責任の追及(損害賠償請求等)の検討については、『不正・不祥事に責任のある役職員に対する責任追及と処分のポイント』も参照してください。
 監査役としては、顧問弁護士や業務執行部門(代表取締役ら)が通常依頼している弁護士とは別の外部の弁護士に訴訟提起の要否に関する調査・検討を委託する例も見られます。

株主代表訴訟における会社の関与

 株主代表訴訟が提起された場合、同訴訟の手続において、原告は株主となり、被告は取締役等の役員となります。一方で、会社は、株主代表訴訟の判決の効力を受けることになりますが、同訴訟の手続には原則として関与しません。
 もっとも、会社として、役員(株主代表訴訟における被告)の主張が正当であると考える場合、当該訴訟手続きにおいて、被告側(役員側)に補助参加することにより訴訟手続に関与することができます(会社法849条1項)。
 なお、補助参加をする場合には、監査役等の同意が必要となります(同条3項)。
 他方、会社として、(自ら提訴しなかったものの)株主の主張を正当と考えるに至った場合には、原告側(株主)に共同訴訟参加または補助参加することにより訴訟手続に関与することができます。

不正・不祥事発覚後の株主総会での対応

 不正・不祥事発覚後の株主総会においては、一般的に通常の場合よりも多くの株主が出席し、また不祥事の責任を問う株主の発言等によって紛糾するケースも見られます。
 会社としては、株主総会の場において、必要かつ十分な説明を行い株主の納得を得ることが必要となります。

株主総会における不祥事についての説明

 不正・不祥事発覚後の株主総会においては、出席株主に対して、不祥事の発生について謝罪をし、不祥事の概要、会社に与える影響、その原因、再発防止策、責任者に対する処分について十分に説明を行う場合もあります。
 そのような場合、株主から経営陣を叱責する怒号が飛び交うなど、株主総会が「荒れる」可能性もあることから、過度なヤジ等が繰り返される場合の対応等を事前に用意しておくことが考えられます。

 また、株主総会開催の時点で判明している事実が限られているケースも多いと思われます。かといって、その場合であっても、場当たり的に事実に反する説明や弁解を行い、また説明内容が二転三転してしまうと、株主の信頼をさらに失う事態を招きかねません。
 不正発生後に会社が公表を行った例ではありますが、たとえば以下のような例があります。

  • 廃棄物の不法投棄が行われたケースで、不法投棄をした廃棄物に有害物質が混入していることはないこと、また企業として不法投棄を行った事実はないことなどの声明を発表した後に、それらの声明の内容が事実ではなかったことが判明し、大きな問題となった例
  • 土壌汚染が検出された事実を告知せずに地上マンションを分譲したケースで、当初、宅地建物取引業法違反にあたらないと考えている趣旨の見解を公表していたが、後にこれを撤回したことからさらに企業の信用を傷つけてしまった例

 このように、株主総会において十分な説明を行うことが求められるとしても、どのような内容を開示公表するかについては慎重に検討することが必要です。そのため、説明内容について事前に弁護士等のチェックを受ける例も多くみられます。

株主からの質問に対する対応

 また、同様に、株主から、不祥事の概要、会社に与える影響、その原因、再発防止策、責任者に対する処分について質問がなされることが想定されます。 株主からなされる質問として、たとえば以下のようなものが考えられます。

  • 不祥事に関与した従業員に対しては、会社としてどのような対応をとったのか。損害賠償請求や刑事告訴をする予定はあるか。
  • 不祥事を招いたのは、役員や企業風土に責任があるのではないか。辞職および報酬を減額すべきではないか。

 たとえば、建築基準法違反の設計・施工がなされた不祥事事案で、株主総会において、不祥事の責任をとって退任する代表取締役が相談役として会社に残ることについて、株主から厳しい意見がなされた例があります。
 そのため、株主からの質問に対して必要かつ十分な説明を行い、その理解・納得を得るために、想定問答等の準備を周到に行うことも必要となります。

株主提案に対する対応

 さらに、株主総会において、株主から議題の提案がなされることも考えられます。
 不祥事の発生を受けて、株主から、役員の報酬等の減額や役員の解任、新たな役員の選任など、株主提案が行われる可能性もあります。

 いずれに対しても、会社としては、十分な説明を行い株主の納得を得ることが必要となります。

株主総会以外の場での説明

 株主総会の場に限らず、不祥事の概要、会社に与える影響、その原因、再発防止策、責任者に対する処分について十分に説明を行う必要があることはいうまでもありません。
 不祥事発生後の開示・広報対応については、連載「近時の不祥事ケースと危機管理・リスク予防」の以下の回を参照してください。

第2回『産業廃棄物の不法投棄事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント
第4回『土壌汚染に関連する不祥事事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント
第6回『免震・制震製品のデータ偽装事案から考える、不正発覚後の対応・再発防止策策定のポイント
第7回『SNSによる不祥事事案から考える、不正発覚後の対応(初動対応・広報対応)のポイント

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