健康食品の広告宣伝における留意点
競争法・独占禁止法当社ではインターネットメディアの運営を行っているのですが、このたび健康食品に関する広告掲載についての問い合わせがありました。製品に含まれる栄養や健康への効果についても訴求を考えているようなのですが、留意すべき点について教えてください。
健康食品の広告宣伝に、一般人がその健康保持増進効果を実際のものよりも優良だと誤認するような表示や事実に相違する健康保持増進効果の表示、販売者側に都合のよいところだけを取り上げた体験談などがある場合には、当該広告宣伝は健康増進法の虚偽誇大表示(健康増進法31条1項)や景品表示法の優良誤認表示(景品表示法5条1項)に該当する可能性があります。また、薬機法の広告規制により、医薬品的な効能効果を記載することも原則として認められません(薬機法68条)。
健康増進法、薬機法は表示規制の対象が「何人も」となっているため、場合によっては、インターネットメディアもこれらの法律の適用対象となります(健康増進法31条1項、薬機法66条1項)。運営するメディアの信頼性を維持するためにも、上記のような虚偽誇大表示・優良誤認表示(以下「虚偽誇大表示等」)や薬機法の表示規制に関するルールを理解し、違法な広告の掲載を避けるための適切な体制を構築することが望ましいでしょう。
解説
健康食品とは
健康食品という言葉に法的な定義はありませんが、一般的には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメントなど、健康の保持または増進にかかる効果、機能等を表示して販売・利用されている食品を指す言葉として用いられています。
健康食品は、特定の健康の維持および推進に役立つという食品の機能性を表示できるかどうかで、「一般食品」と「保健機能食品」に分類できます。「保健機能食品」は、表示できる機能性表示によって「特定保健用食品」(いわゆる「トクホ」)(健康増進法 26条1項、健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令2条1項5号)、「栄養機能食品」(食品衛生法4条1項、食品表示基準2条1項11号)、「機能性表示食品」(食品表示法4条1項、食品表示基準2条1項10号)の3つに分類できます(詳細は後述します)。「保健機能食品」以外の食品をここでは「一般食品」といいます。
健康食品の分類
一般食品 | 保健機能食品 | ||
栄養機能食品 | 機能性表示食品 | 特定保健用食品 |
健康食品の表示規制
健康食品の表示規制には、景品表示法、健康増進法、薬機法の表示規制があります。
景品表示法では商品等の品質や規格、そのほかの内容について、実際のものよりも著しく優良であることを示す表示や、事実に相違してほかの事業者の提供するものよりも著しく優良であると示す表示を優良誤認表示として禁止しています(景品表示法5条1号)(景品表示法には有利誤認表示(景品表示法5条2号)への規制もありますが、健康食品に特有の問題は多くないためここでは省略します)。健康増進法では健康保持増進効果等について、著しく事実に相違する表示または著しく人を誤認させるような表示を虚偽誇大表示として禁止しています(健康増進法31条1項)。また薬機法では医薬品ではないものに医薬品的な効能効果を表示することを禁止しています(薬機法68条)。
このように、健康食品の表示規制は複数の法律の規制が関係してくることになります。以下では、まず薬機法の表示規制について述べたうえで、虚偽誇大表示等についても規制の概要を説明します。
薬機法の表示規制
先にも示したとおり、薬機法では、医薬品として承認・許可されていないものの広告には医薬品的な効能効果を表示することが禁止されています(野菜、果物等、明らかに食品とわかるものは除く)(薬機法68条)。そのため医薬品として許可を受けていない健康食品の広告に医薬品的な効能効果を表示すると薬機法に抵触することになります。このような表示は同時に、虚偽誇大表示等にも該当するおそれが強いといえるでしょう。
厚生労働省「医薬品の範囲に関する基準」(昭和46年6月1日、平成31年3月22日最終改定)を参考とすると、医薬品的な効能効果とは、主に以下のようなものを指します。
- 疾病の治療または予防を目的とする効果
- 身体の組織機能の一般的増強、増進を主たる目的とする効果
- 医薬品的な効能効果の暗示
①は「糖尿病の人に」、「ガンがよくなる」、「生活習慣病の予防」、「便秘改善」などの表示、②は「疲労回復」、「食欲増進」、「若返り」、「病中病後に」などの表示、③は「〇〇の精」、「不老長寿」などの名称やキャッチフレーズ、新聞記事や医師の談話を掲載して医薬品的な効能効果を暗示させる表示などが、それぞれ該当します。
健康食品の虚偽誇大表示等
保健機能食品か一般食品かにかかわらず、健康食品に関する表示は、虚偽誇大表示等に該当する可能性に留意する必要があります。虚偽誇大表示等の規制概要ですが、一般消費者が当該表示を見て持つ印象や期待感と実際の健康保持効果等との相違が社会一般に許容される限度を超えている場合に、虚偽誇大表示等に該当することになります(健康増進法31条1項参照)。
具体的にどのような表示が虚偽誇大表示等に該当するかは、消費者庁による「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(以下「健康食品ガイドライン」)が参考になります。
健康食品ガイドラインによると健康保持増進効果等に関し事実に相違する表示・人を誤認させる表示は虚偽誇大表示等に該当するおそれが強いと言えるでしょう。
事実に相違する表示とは、たとえば十分な実験結果等の根拠がないのに「3か月で10キロやせることが実証されています」と表示したり、体験者の体験談をねつ造したりする場合などがあげられます。
人を誤認させる表示については、たとえば以下のような表示方法が虚偽誇大表示等に該当するおそれがあります。
- 都合のよい体験談のみ、また体験者の都合のよいコメントのみを引用すること
- 根拠となる学術データのうち、不都合な個所を捨象すること
- デメリットとなる情報(効果が現れない場合もあることや一定の条件下でなければ効果が得られにくいことなど)を表示しないこと
そのほか、特段の運動や食事制限をしなくても短期間で容易に痩身効果が得られるかのような表示、立証できないにもかかわらず品質に「最高級」や「日本一」などという言葉が使われている表示なども虚偽誇大表示等に該当するおそれがあります。
保健機能食品に関する表示規制
保健機能食品はそれぞれの基準に従った機能性表示をすることが可能です。それでも以下のように、ルールを守らなかった場合には、虚偽誇大表示等に該当するおそれがあります。
特定保健用食品
特定保健用食品は特定の保健の目的が期待できる旨の表示を許可・承認された食品です(許可制)。特定保健用食品として許可された場合には、許可された表示内容を表示することはできます。しかし、特定保健用食品の表示では、許可を受けた表示内容を厳密に守らなければならず、許可表示から期待される保健の用途を超える効果があるような誤認を与える表示はできません。健康食品ガイドラインによると、たとえば許可を受けた表示内容が「本品は、脂肪の吸収を抑えるのを助ける」である場合に、「脂肪の吸収を抑える」という表示をすると虚偽誇大表示に該当するおそれがあります。
そのほか、試験結果やグラフの使用方法が不適切な表示や、アンケートやモニター調査等の使用方法が不適切な表示、医師または歯科医師の診断、治療によることなく疾病を治癒できるかのような表示も認められません。
機能性表示食品
機能性表示食品は、事業者の責任により、科学的根拠にもとづいた機能性を表示する食品であり、販売前に安全性と機能性の根拠等を消費者庁に届け出ることで、当該食品に認められた機能性表示が可能になります(届出制)。
届出表示と異なる表示をする場合には、虚偽誇大表示等に該当するおそれがあります。たとえば、届出表示が「本品に含まれている●●は、血中コレステロールを低下される機能があることが報告されています」となっているのに「本品を飲めば血中コレステロールを下げることができます」などと表示することは虚偽誇大表示に該当するおそれがあります。
そのほか、健康食品ガイドラインでは、表示の裏付けとなっている科学的根拠に合理性がない場合や、当該機能性表示食品が国の評価・許可等を受けたと誤認される表示などが、虚偽誇大表示に該当するおそれがある表示として指摘されています。
栄養機能食品
栄養機能食品は、特定の栄養成分を含むものとして国が定める一定の基準に従い当該栄養成分の機能の表示が認められます(自己認証制)。国が定める基準にかかる栄養成分以外の成分の機能を表示することや、基準を満たさない食品について栄養成分の機能を表示することはできません。
具体的な表示ルールについては、食品表示基準第7条や健康食品ガイドラインが参考になります。手元に実際の栄養機能食品を置いてルールを見ると、規制の理解に資するでしょう。
まとめ
以上が健康食品の表示規制の概要です。実際には健康食品ガイドライン等を読んでも、健康食品の表示規制を網羅的に理解することは容易ではないと思います。具体的な表示の適法性や表示規制のルール作りで悩むことがあれば、表示規制に詳しい専門家の助言を受けることをお勧めします。

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