グローバル経済下の競争法の特色

競争法・独占禁止法
小田 勇一弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 経済のグローバル化に伴い、競争法が世界各国に急速に普及し、その執行も活発になっていますが、このような競争法のグローバル化の潮流や特色を教えてください。また、競争法のグローバル化に対し、企業はどのように対応したらよいのでしょうか。

 競争法は、現在、130以上の国・地域に普及しています。その執行は、米国やEUのみならず、ブラジル、ロシア、インド、中国および南アフリカといったBRICS諸国等においても活発化し、また、競争法の執行にあたり各国・地域の競争当局間での情報交換等の協力も活発に行われています。世界の競争法は、複数の事業者が共同して行う共同行為規制(カルテル規制、再販売価格拘束等の垂直的制限に対する規制)、事業者が単独で行う単独行為規制(私的独占/支配的地位の濫用)、企業結合規制の3つから構成されています。
 グローバルに活動する日本企業は、事業展開する国・地域、そこで展開する事業の内容・事業者の地位(市場シェア等)、当該国・地域における競争法の執行状況等を踏まえ、リスクに応じたコンプライアンス体制を整備することが求められます。

解説

目次

  1. 世界の競争法の状況
    1. 競争法のグローバル化
    2. 世界の競争法の特色
    3. 米国モデルとEUモデル
  2. 競争法のグローバル化に対する企業の対応
    1. 適用されるのはどの国・地域の競争法か
    2. 国・地域を問わずカルテルの回避を
    3. カルテル以外の行為は各国・地域の競争法制・執行状況の違いを意識して対応
  3. おわりに

世界の競争法の状況

競争法のグローバル化

 競争法のグローバル化とは、経済のグローバル化や経済の民主化を受け、世界の多くの国・地域において競争法が整備され、競争法を持つ国・地域が世界的に増加していることをいいます。競争法はcompetition lawの訳語ですが、日本の競争法にあたる法律は独占禁止法です。
 古くは米国が1890年にシャーマン法、1914年にクレイトン法および連邦取引委員会法を制定し、競争法を整備したほか、日本は1947年に独占禁止法を、EUはEU機能条約の一部として1957年にEU競争法をそれぞれ制定しました。1990年以降、新興国が競争法の整備を進め、現在、130以上の国・地域が競争法を有しています。なお、各国・地域の競争当局のウェブサイトは、米国司法省のウェブサイトにまとめられており、便利です。
 近時は、米国やEUのみならず、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ(BRICs諸国)やシンガポールなどにおいても競争法の執行が活発になっています。また、競争法の執行に際し、二国間の協力協定等に基づく各国・地域の競争当局間での情報交換等の協力も活発に行われるようになっています。

世界の競争法の特色

 各国・地域の競争法は、大きく、共同行為規制単独行為規制および企業結合規制という3本柱から成り立っています。

 共同行為規制は複数の事業者が共同して行う反競争的行為を対象とし、代表例はカルテル規制や、再販売価格拘束等の垂直的制限に対する規制です。特にカルテルについては、各国・地域の競争法に共通して、高額な罰金・制裁金、役職員の懲役刑をもって厳しく規制されています。

 単独行為規制は事業者が単独で行う反競争的行為を対象とし、代表例は独占行為(monopolization)または市場支配的地位の濫用行為(abuse of dominance)の禁止です。当該行為に対する競争法の執行は国・地域により温度差があり、たとえば、一般的には米国は消極的であるのに対し、EUは積極的であるといえますが、近時、デジタルプラットフォーマーに対する競争法の執行に関しては米国でも関心が高く、米国司法省および米国連邦取引委員会がそれぞれ調査を開始しています。

 企業結合規制は、競争を実質的に制限することとなる合併や株式取得などの企業結合を禁止し(実体規制)、また、企業結合の届出を事前または事後に義務付けること(手続規制)を内容とします。

米国モデルとEUモデル

 世界の競争法の中でも大きな影響力を有するのは米国競争法とEU競争法です。米国およびEUは競争法の輸出国といえ、米国やEUの競争法をモデルに多くの国・地域において競争法が整備されています。そのため、ある国・地域の競争法を理解するうえで、米国モデルなのかEUモデルなのかを意識することは有益です。近時の調査結果 1 を見ますと、EU競争法をモデルとした競争法がより普及していることがわかりますので、EU競争法の特徴を理解しておくことの重要性は増しているといえます。

Figure 4: Greater Correlation to the EU and US

出典:Bradford、Anu and Chilton、Adam S. and Linos、Katerina and Weaver、Alex、
The Global Dominance of European Competition Law Over American Antitrust Law(July 2. 2019).

 EU競争法の特徴の1つとしては、単一市場の形成というEU設立の目的を反映し、域内の単一市場を分断するような垂直的制限(たとえば、販売地域の制限)を、米国競争法より厳格に規制している点があげられます。また、米国競争法は、条文自体はわずかであり、基本的にケースバイケースで判断するルール(合理の原則)が広く採用されているのに対し、EU競争法は、市場シェア、行為類型や契約類型に応じ、共同行為規制(EU機能条約101条)の適用が免除される場合が細かく規則化されている点も特徴の1つです。

競争法のグローバル化に対する企業の対応

 競争法のグローバル化により、グローバルに活動する日本企業にとって、諸外国の競争法の概要を把握する必要性が増しています。しかし、具体的にどこまで何をやるかは実務上悩ましい問題であり、正解が用意されているわけでもありません。事業展開する主たる国・地域はどこか、当該国・地域における事業の内容・事業者の地位(市場シェア等)、当該国・地域における競争法の執行状況等を踏まえ、リスクに応じ、コンプライアンス体制を整備する必要があります。以下、競争法の観点からその検討にあたり認識しておくべきポイントをあげます。

適用されるのはどの国・地域の競争法か

 ある競争制限的行為を行う場合、どの国・地域の競争法の適用を検討すべきでしょうか。競争法コンプライアンスを考える際に入口となる問題です。
 たとえば、A国においてある競争制限的行為を実施する場合(A国=行為地)、A国の競争法上当該行為が問題とならないかを検討する必要があるということは比較的容易に思い付くでしょう。しかし、A国の競争法の適用を検討するだけでは不十分であり、当該競争制限的行為の効果が及ぶ国・地域(効果発生地)の競争法の適用も検討する必要があります。
 なぜなら、世界の競争法においては、仮に自国の外で競争法違反行為が行われた場合であっても、その影響(効果)が自国の市場に及ぶ場合には、自国の競争法を適用するという考え方(効果主義)が主流であるからです。 以上のとおり、行為地のみならず効果発生地の競争法の適用を検討する必要があります。

国・地域を問わずカルテルの回避を

 カルテルについては、各国・地域の競争法上当然違法またはそれに近い取扱いがなされ、許容される余地がほぼない行為です。また、多額の罰金・制裁金や役職員の懲役刑といった厳しい制裁の対象にもなります。さらに、カルテルの影響が及ぶ製品が複数の各国・地域に輸出されると、2−1で説明した効果主義の考え方に基づいて当該国・地域の競争法が適用され、その結果複数の国・地域の競争当局から制裁金・罰金を課されるなどして、損害が拡大していきます。
 したがって、カルテルについては、国・地域を問わずその発生を防止する体制を整える必要があります。

カルテル以外の行為は各国・地域の競争法制・執行状況の違いを意識して対応

 カルテル以外の行為については、各国・地域の競争法制・執行状況に相違があるため、それらを意識した対応が必要です。たとえば、販売代理店契約における販売地域の制限は、1−3で述べたとおり、米国競争法とEU競争法では温度差があります。そのため、米国企業と販売代理店契約を締結する感覚で、フランス企業との販売代理店契約を締結すると、思わぬところでEU競争法違反となりかねませんので、注意が必要です。

おわりに

 競争法のグローバル化が進み、今後、競争法の執行を強化する国は年々増えていくものと思われます。その状況をフォローし、リスクに応じた海外競争法コンプライアンスを整備することがますます重要になっていくでしょう。


  1. Bradford、 Anu and Chilton、Adam S. and Linos、 Katerina and Weaver、Alex、The Global Dominance of European Competition Law Over American Antitrust Law (July 2、 2019). ↩︎

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