金融商品購入者向けの景品提供キャンペーンを実施する際の留意点
競争法・独占禁止法当社ではプロモーション施策の提案を行っています。このたびクライアントである金融機関へ提案するプロモーション施策の一環として、商品を購入した方へ景品の提供や手数料等の割引をするキャンペーンを考えているのですが、キャンペーンの内容について留意すべき点があれば教えてください。
金融機関の商品を購入した方へ景品の提供や手数料等の割引をする場合は、景品表示法の規制に加えて、各種業法、金融庁の監督指針、自主規制団体の自主規制規則等に留意する必要があります。
解説
金融業界の法規制の構造
銀行、証券会社および保険会社等の金融機関が行うことができる業務は、それぞれ、銀行法、金融商品取引法および保険業法等といった各種業法によって規制されています。また、金融庁が作成した監督指針や、全国銀行公正取引協議会、日本証券業協会および生命保険協会、日本損害保険協会等の自主規制団体が作成した自主規制ガイドラインが、より詳細な行為規範を定めています。
本稿では、金融業界のなかでも代表的な銀行、証券(金融商品)、そして保険商品に関して、景品提供・割引サービスに関する業規制や監督指針・ガイドライン等における行為規範を解説します。
銀行商品購入者への景品提供
預金や融資等の銀行商品に関する景品提供・割引サービスについては、銀行法や監督指針による直接の規制はありません(外貨預金やデリバティブ預金等、銀行法によって金融商品取引法の利用者保護規制が準用される投資性の強い商品は除く(銀行法 13条の4))。よって、銀行商品に関する景品提供や割引サービスを検討するにあたっては、基本的には景品表示法の景品規制の問題のみを検討することになります。また銀行商品に関する景品規制の適用については、全国銀行公正取引協議会が「銀行業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約」を作成しており、銀行はこの公正競争規約をベースに、銀行商品に関する景品提供キャンペーンの是非を検討すべきでしょう。
全国銀行公正取引協議会のWEBページでは、上記公正競争規約が掲示されているほか、「景品規約に関する照会事例」としてQ&Aが掲示されています。このQ&Aの内容は、銀行商品購入者への景品提供、割引キャンペーンを検討するにあたって是非ともおさえておきたい内容です。
証券商品購入者への景品提供
金融商品取引法では、金融商品取引契約につき、顧客に「特別の利益の提供」を行うことが禁止されています(金融商品取引法38条9号、金融商品取引業者等に関する内閣府令117条1項3号)。株式や投資信託等の金融商品に関する景品提供や割引サービスの検討をするにあたっては、この「特別の利益の提供」に該当しないかという点に留意する必要があります。
「特別の利益」の該当性について、金融庁は、「景品の提供やキャッシュバックが一律に禁止されるものではなく、取引条件の設定が不当でないこと、同様の取引条件にある他の顧客に対し同様の取扱いをすることや過大な景品やキャッシュバックでないなど、社会通念上妥当と認められる範囲内の取扱いに留まる場合は、基本的には「特別の利益の提供」には該当しないものと考えられます」との見解を示しています(平成19年7月31日「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」P634)。特に着目すべきは、取引条件の設定が不当でないことや、同様の取引条件にあるほかの顧客に対し同様の取り扱いをすること等、顧客間の公正性を重視しているように思われる内容になっていることです。このパブリックコメントの考え方からすると、景品表示法上は問題ないキャンペーンであっても、たとえば、ごく少数の顧客しか取引条件を充たせない場合等、顧客間の公平性を欠くようなキャンペーンは「特別の利益提供」に該当し違法であると判断される可能性があるとも考えられます。
また、日本証券業協会が作成した自主規制規則 1のなかにも、景品提供や割引キャンペーンに関する考え方が記載されていますので、これらの内容をチェックしておくことも重要であると考えられます。
保険商品購入者への景品提供
保険業法では、保険契約締結または保険募集に関して保険契約者等(見込客も含む)に対して、保険料の割引、割戻し、そのほか特別の利益を提供することが禁止されており(保険業法300条1項5号)、保険商品購入者への景品提供等のキャンペーンを検討するにあたっては、景品提供がこれらの禁止行為に該当しないかどうかという点に留意する必要があります。「その他特別の利益」に該当するかどうかという点については、金融庁「保険会社向けの総合的な監督指針」(平成30年2月)のⅡ‐4‐2‐2(8)①において視点が示されています。
注意すべきなのは、一般に景品表示法の景品規制等に違反せず合法であると考えらえるキャンペーンであっても、保険商品の場合は違法になることがありうる、ということです。たとえば、景品表示法では、正常な商慣習に照らして値引きと認められる経済上の利益は景品類には該当せず、景品表示法の規制対象外ですが、保険業法300条1項5号では保険料の割引が禁止されていますので、保険商品においてはその金額の多寡を問わず、保険料の割引キャンペーンを行うことができません。
また、「その他特別の利益」に該当するかどうかという点については、「保険会社向けの総合的な監督指針」Ⅱ‐4‐2‐2(8)①において、社会相当性、公平性が求められていますが、景品表示法の景品規制をクリアしていても社会相当性を超える場合はありうると考えられていますし(滝本豊水「特別の利益の提供(上)」2002年12月4日保険毎日新聞)、利益提供の対象につき一定の限定を行って企画を実施する場合、その限定の仕方(取引条件の設定の仕方)いかんによっては、景品表示法上は適法であっても、公平性を欠くものとして違法であると判断される可能性はありうると考えられます。
以上、銀行、証券および保険商品を購入した方へ景品提供や手数料等の割引キャンペーンをする場合の、キャンペーンの内容に関する留意点について概観しました。これについてより正確に理解するためには、各種業法、監督指針、自主規制規則の原文にあたり、当該金融商品の景品提供規制に関する考え方を体系的に理解することが重要だと思われます。
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「広告等の表示及び景品類の提供に関する規則」(昭和49年11月14日)、「金融商品取引法における広告等規制について(第4版)」(平成21年7月)、「広告等に関する指針(平成28年9月版)」等 ↩︎

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