日本企業間で株式取得や事業譲渡を行う際に海外での届出が必要となる場合

競争法・独占禁止法
菅野 みずき弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所

 当社は、A社の株式を取得する予定であり、また、事業譲渡によりB社の事業を譲り受けることも検討しています。当社、A社、B社ともに日本企業ですが、A社は米国に子会社があり、B社は当該事業にかかる製品を欧州と中国に輸出しています。日本企業間で株式取得や事業譲渡を行う場合でも、海外での届出が必要になりますか。また、届出が必要となる国はどのように判断するのでしょうか。

 日本企業間の株式取得や事業譲渡の場合であっても、海外当局に対する企業結合の届出が義務付けられることがあります。届出が必要か否かの基準(「届出基準」)は国によって異なりますが、日本と同じく、当該国において一定の売上高を有しているかを基準としている国が多いです。そこで、まずは、直近事業年度において貴社グループ、A社/B社グループの売上高がある国をリストアップし、当該国の届出基準を確認することになります。

解説

目次

  1. 日本企業間の株式取得・事業譲渡が海外届出規制の対象となる場合
  2. 海外の基準
    1. 米国の届出基準
    2. 欧州連合の届出基準
    3. 中国の届出基準
  3. おわりに

日本企業間の株式取得・事業譲渡が海外届出規制の対象となる場合

 外国企業からの株式の取得や事業の譲り受けの場合には、当然海外の届出規制を検討することになりますが、日本企業間の企業結合の場合でも、海外当局への届出が必要となることがあります。届出が必要か否かは、各国の定める届出基準を満たすかで決まり、届出基準は国によって異なりますが、当該国において一定の売上高もしくは市場シェア、または一定の資産を有することが届出基準となっているのが一般的です。当該国で製品・サービスを販売している場合(つまり、市場シェアがある場合)はもちろん、当該国に資産(子会社や工場)がある場合には、当該国において売上高があると考えられますので、まずは売上高がある国の届出基準を満たしているかを検討することになります。

 以下では、日本企業間での企業結合の際に届出の要否を検討することが多い、米国、欧州および中国の届出基準の概要を説明します。

海外の基準

米国の届出基準

 米国では、あらゆる方法による資産または議決権付き株式の取得が届出の対象となり、日本企業間の株式譲渡および事業譲渡であっても、届出基準を満たす場合には、事前届出が必要です。取引規模(取得する株式や資産の価格)が9,000万米ドル以下の場合は一律届出は不要となりますが、外国企業同士の企業結合には特別な届出免除規定があり、その結果、以下の届出基準を満たす場合に届出が必要となります。

 以下の基準における「売上高」および「総資産」は直近事業年度における当事会社グループ連結での数値を指し、後記 2-2(欧州連合の届出基準)および 2-3(中国の届出基準)も同様です。

 また、米国では届出基準の数値が毎年改定され、以下の数値は2019年の基準値である点に留意してください。

外国企業による外国企業の株式取得/米国外事業・資産取得の場合の届出基準

    ①-1 株式取得の場合、対象会社の支配権を取得するとき(50%以上の議決権付株式を取得するとき)であって、対象会社の米国内売上高または米国内総資産のいずれかが9,000万米ドルを超える場合

    ①-2 事業譲渡の場合、当該米国外事業・資産にかかる米国内売上高が9,000万米ドルを超える場合

    ② ①に該当し、取得会社および対象会社の米国内売上高または米国内総資産のいずれかが1億9,800万米ドル以上であり、かつ、取引の結果3億5,990万米ドルを超える議決権付株式または事業(資産)を取得する場合

 たとえば、設例において、A社の全部の議決権付株式を取得する場合で、A社グループの米国内総資産が9,000万米ドルを超え、取得会社グループとA社グループの米国内売上高の合計が1億9,800万米ドル以上であり、かつA社株式の対価が3億5,990万米ドル超の場合には、届出が必要となります。

欧州連合の届出基準

 欧州では、各国が届出規制を有していることに加え、欧州連合レベルの届出規制であるEC企業結合規則があります。EC企業結合規則の届出基準を満たす場合、欧州委員会に届出を行う必要がありますが、同時に加盟国の届出基準を満たしても、加盟国当局に別途届出を行う必要はありません。そこで、まずはEC企業結合規則の届出基準を満たすかを確認し、満たす場合には欧州委員会に届出を行い、満たさない場合には各国の届出基準を確認することになります。以下では、EC企業結合規則の基準を説明します。

 EC企業結合規則では、(i)合併のほか、(ii)株式・資産の取得、契約、その他の方法による対象会社の「支配権の取得」が届出の対象とされており、株式取得や事業譲渡は届出の対象となりえます。支配権の取得に該当するかは、対象会社に対する「決定的な影響力」を及ぼすことになるかという観点から総合的に判断され、過半数に及ばない議決権付株式の取得でも支配権の取得とみなされることがありますので、注意が必要です。届出基準には下記の2通りがあります。

(1)基準1

  1. 企業結合を行う全当事会社の全世界売上高の合計額が50億ユーロを超え
  2. 2以上の当事会社がそれぞれ2億5,000万ユーロを超える欧州連合内売上高を有する場合
  3. ただし、当事会社それぞれの欧州連合内売上高の3分の2がいずれも同じ1つの加盟国における売上高である場合は除く

(2)基準2

  1. 企業結合を行う全当事会社の全世界売上高の合計額が25億ユーロを超え
  2. 2以上の当事会社がそれぞれ1億ユーロを超える欧州連合内売上高を有し
  3. 3以上の加盟国のそれぞれにおける全当事会社の売上高の合計額が1億ユーロを超え
  4. ③の3以上の加盟国それぞれにおいて2以上の当事会社が2,500万ユーロ超の売上高を有する場合
  5. ただし、当事会社それぞれの欧州連合内売上高の3分の2が、いずれも同じ1つの加盟国における売上高である場合は除く

 たとえば、設例において、下記のすべてに該当するような場合には基準2を満たし、欧州委員会への届出が必要となります。

  • 取得会社グループとB社グループの全世界売上高の合計が25億ユーロ超
  • 両グループそれぞれの欧州連合内売上高が1億ユーロ超、かつ、ドイツ、ベルギー、フランスにおける売上高が2,500万ユーロ超
  • 当該3国における両グループの売上高の合計が各国1億ユーロ超
  • 両グループともに欧州連合内売上高の3分の2以上が一国に集中しているわけではない

中国の届出基準

 中国では、(i)合併のほか、(ii)株式・資産の取得による対象会社の「支配権の取得」、または(iii)契約、その他の方法による「支配権の取得」もしくは対象会社に決定的な影響をもたらしうる行為が、届出の対象とされています。したがって、株式取得や事業譲渡は届出の対象となり得ます。「支配権の取得」に該当するかは総合判断により、欧州連合の場合と同じように、過半数以下の議決権付株式の取得でも支配権の取得とみなされることがありますので、注意が必要です。届出基準には下記の2通りがあり、「中国国内」に香港、台湾およびマカオは含みません。

(1)基準1

  1. 企業結合を行う全当事会社の全世界売上高の合計額が100億元を超え
  2. そのうち2以上の当事会社の中国内売上高がそれぞれ4億元を超える場合

(2)基準2

  1. 企業結合を行う全当事会社の中国内売上高の合計が20億元を超え
  2. そのうち2以上の当事会社の中国内売上高がそれぞれ4億元を超える場合

 たとえば、設例において、取得会社グループとB社グループの全世界売上高の合計額が100億元以下であれば基準1は満たしませんが、取得会社グループとB社グループの中国内売上高の合計が20億元を超え、両グループ4億元以上の中国内売上高があれば、基準2を満たし、届出が必要となります。

おわりに

 日本企業間での企業結合の際に届出の要否を検討することが多く、届出義務違反に関する制裁が課された例もある米国、欧州、中国の届出基準を紹介しましたが、アジア、中南米、アフリカ、中東を含む多くの国が届出規制を有しています。実際に企業結合を行う際には、売上高のある国を確認し、必要に応じて弁護士に相談のうえ、届出の要否を検討する必要があります。

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