第三者の大量出願に後れて商標出願しても、登録を受けるための対応策とは(先願の出願手数料が未納付の場合)

知的財産権・エンタメ
三品 明生弁護士 弁護士法人イノベンティア

 当社が長年使用している商標について出願をするために、既に登録または出願されている商標を調査したところ、ある出願人から、当社が使用している商標と同一の商標が出願されていました。しかし、この出願人による他の出願を調べてみると、メディア等で取り上げられた商標を手当たり次第かつ大量に出願している様子で、この出願人が出願中の商標を使用して事業をするとは思えません。
 この場合、当社が、先にされている出願(先願)と同一の商標を出願しても、登録を受けられないのでしょうか。

 先願の出願手数料が未納付の場合、4~6か月程度で先願が却下されます。却下された先願は、後にされた出願(後願)の登録の支障にはなりません。そのため、貴社の出願自体が登録要件を備えていれば、登録を受けられる可能性があります。

解説

目次

  1. 大量出願の目的
  2. 大量出願への対応
  3. 先願の出願手数料が未納付の場合
    1. 出願手数料が未納付の出願の取り扱い
    2. 分割出願
    3. 対応方法

大量出願の目的

 数年前に、メディア等で取り上げられた商標が、手当たり次第かつ大量に出願されていることが話題になりました。
 このような大量出願は、その後に出願される同一または類似の商標の登録を妨げ(先願主義、商標法8条1項)、それによって商標の登録を受けられなくなった者から、先願の譲渡(商標登録出願により生じた権利の移転、商標法13条2項で準用する特許法33条1項)や先願の取り下げなどに対する金銭的対価を得ることを目的として行われていると考えられます。

大量出願への対応

 特許庁の発表によれば、大量出願のほとんどは、出願手数料の支払いのない、手続上の瑕疵がある出願であるとされています 1。手続上の瑕疵がある出願は、「J-Plat-Pat」で検索すると、ステータスが「方式未完」と表示されますので、それによって確認することができます。

 大量出願された商標の中に、これから出願して登録を得ようとしていた商標と同一または類似の商標の出願が含まれている場合の対応は、当該出願について出願手数料が納付されているか否かによって変わってきます。
 当記事では、先願の出願手数料が未納付の場合について解説します。先願の出願手数料が納付されている場合については、「第三者の大量出願に後れて商標出願しても、登録を受けるための対応策とは(先願の出願手数料が納付されている場合)」を参照ください。

先願の出願手数料が未納付の場合

出願手数料が未納付の出願の取り扱い

 出願手数料が納付されずに出願された場合でも、特許庁は出願を受け付けて、出願日を認定します(商標法5条の2第1項)。
 しかし、出願後も出願手数料が納付されない場合、特許庁から出願人に対して納付を指示する書面が送付される等の手順を経て、出願日から4~6か月程度が経過した時点で、特許庁は出願を却下します 2

分割出願

 上記のような商標の大量出願には、分割出願が含まれています。
 分割出願とは、元の出願の一部を派生させて別の出願にするものです(商標法10条1項)。適法な分割出願は、元の出願の出願日に出願されたものとみなされます(商標法10条2項)。
 また、分割出願についても、出願手数料が納付されなければ、分割出願がされた日から4~6か月程度が経過した時点で、特許庁によって出願が却下されます 3

 なお、従前は、出願手数料が未納付である出願が却下される前に分割出願を行うことで、元の出願日を維持していた事例がありました。しかし、2018年6月に施行された商標法の改正により、出願手数料が納付されていない出願から分割出願をしても、適法な分割出願とは認められなくなりました(商標法10条1項)。このような不適法な分割出願は、出願日が遡及せず、分割出願がされた日が出願日になります。

手続き上の瑕疵がある商標登録出願却下の流れ

対応方法

(1)自己が使用している商標を出願し、先願が出願手数料の未納付により却下されるのを待つ

 商標登録を受けるためには、特許庁に出願をしなければなりません(商標法5条)。
 問題は、出願しようとしている商標と同一または類似の商標が、既に第三者から出願されており、先願である第三者の出願が存在している限り、後願である自己の出願が登録されないことです(先願主義、商標法8条1項)。

 しかし、上記の通り、出願手数料が未納付の出願は、そのまま出願手数料が納付されなければ、所定の手順を経て最終的に却下されます。そして、却下された先願は、後願の登録の支障にはならないため(商標法8条1項、3項)、後願が登録要件を備えていれば、登録を受けられる可能性があります。

 したがって、先願の出願手数料が未納付である場合は、まずは自己が使用している商標を出願して、その間に先願が出願手数料の未納付により却下されるのを待つという対応方法が考えられます。

先願の出願手数料が未納付である場合は、まずは自己が使用している商標を出願して、その間に先願が出願手数料の未納付により却下されるのを待つ

(2)自己の出願よりも後に、先願の分割出願がされても、登録の支障にはならない

 なお、自己の出願よりも後に、先願の出願手数料が納付されない状態で分割出願が行われることがあります。
 しかし、上記の法改正により、元の出願の出願手数料が未納付の状態で分割出願がされたとしても、その分割出願の出願日は元の出願の出願日に遡及せず、自己の出願よりも後に出願されたままの扱いとなります。したがって、そのような分割出願は、自己の出願の先願になることはなく、自己の出願における登録の支障にはなりません。

元の出願の出願手数料が未納付の状態で分割出願がされたとしても、自己の出願(後願)の先願にはならない

(3)先願の出願人による出願状況を調査し、場合によっては先願の却下前であっても出願する

 商標の出願は、出願から2~3週間のうちに公開されます(公開商標公報)。そのため、先願の却下前に、自己が使用している商標を出願して公開された結果、先願の出願人に察知され、先願について出願手数料が納付されて却下されなくなる可能性があります。

 しかし、出願手数料が納付されていない先願の却下を確認してから出願しようとすると、却下前に分割出願や新たな出願を重ねられる場合があり、その分割出願や新たな出願は自己の出願の先願になります。すると、今度はそれらの出願が却下されるのを待たなければならなくなり、自己の出願時期がさらに遅れます。特に、先願が絶えず発生し続けると、いつになっても出願ができなくなることもあり得ます。
 また、「第三者の大量出願に後れて商標出願しても、登録を受けるための対応策とは(先願の出願手数料が納付されている場合)」に述べるように、仮に先願に対して出願手数料が納付されたとしても、先願が実体審査において拒絶されれば、自己の出願について登録を受けられる可能性があります(商標法8条1項、3項)。

 したがって、先願の出願人による出願状況を調査して、分割出願や新たな出願がされる可能性が高い場合や、仮に先願について出願手数料が納付されたとしても実体審査で拒絶される見込みが十分ある場合は、先願の却下前であっても出願をした方が良いでしょう。


  1. 特許庁「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」(2018年6月8日公表、2019年9月10日最終閲覧) ↩︎

  2. 特許庁「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」(2018年6月8日公表、2019年9月10日最終閲覧) ↩︎

  3. 特許庁「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」(2018年6月8日公表、2019年9月10日最終閲覧) ↩︎

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