比較広告をはじめとするネットを利用した選挙広告の実施可否

競争法・独占禁止法
宮谷 英樹 株式会社電通

 当社ではインターネットにおいて、様々な商品・サービスの比較サイトの運営を行っています。このたび国政選挙が行われるのに際し、ある政党から他の政党の政策との比較広告の掲載について問い合わせがありました。広告の実施可否を判断するうえで留意すべき点があれば教えてください。

 消費者庁が定める「比較広告に関する景品表示法上の考え方」(「比較広告ガイドライン」)に沿った内容であれば、各政党の政策についての比較広告は可能です。ただし、公職選挙法では、有料インターネット広告で選挙運動に関する表現を行うことは禁止されており、政党や候補者への投票の呼びかけ、または投票しないことの呼びかけを行うような表現を使用することはできません。

解説

目次

  1. はじめに
  2. 消費者庁の「比較広告ガイドライン」
  3. インターネット選挙運動解禁法(改正公選法)
  4. 設例への当てはめ

はじめに

 平成25年4月に公職選挙法(以下「公選法」といいます)が改正され(平成25年法律第10号)、それまで規制されていた「インターネットを利用した選挙運動」が解禁、同年7月21日に投開票された参議院議員通常選挙から適用されています。

 この解禁から6年後の令和元年7月21日に投開票された参議院議員通常選挙では、政党(党首を含む)や各候補者がツイッターやインスタグラム等のSNSによる情報発信を積極的に実施した選挙運動が見られました。

 これらの流れを受け、インターネット上の比較サイトで、各政党の政策の比較を行うことも可能となりましたが、比較広告を実施するには2で説明する消費者庁の「比較広告に関する景品表示法上の考え方」1(以下「比較広告ガイドライン」といいます)を遵守しなければなりません。また、サイトに掲載される有料の比較広告は、政党や候補者自身によるインターネット配信ではありませんので、当該広告の表現内容自体が公選法で禁止される選挙運動に該当しないようにするなどの注意が必要です。

 次章以下で、それぞれ具体的に説明します。

消費者庁の「比較広告ガイドライン」

 景品表示法5条では、自己の供給する商品・サービスの内容や取引条件について、他の競争事業者のものよりも、著しく優良または有利であると一般消費者に誤認される表示などを不当表示として規制しています。ただし、他の競争事業者の商品・サービスとの比較そのもの(比較広告)について禁止し、制限するものではありません。

 そこで、消費者庁は比較広告を適切に実施するために、「比較広告ガイドライン」を定め、適正な比較広告の要件、その他注意事項などについての考え方を示しています。

 「比較広告ガイドライン」の基本的な考え方として、消費者庁は、比較広告が不当表示とならないようにするためには、一般消費者に誤認を与えないようにするため、次の3つの要件をすべて満たす必要があるとしています。

  1. 比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
  2. 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること
  3. 比較の方法が公正であること

 したがって、上記の3つの要件をすべて充足する場合には、景品表示法上は政党の政策についての比較広告を行うことは可能です。

インターネット選挙運動解禁法(改正公選法)

 次に検討しなければならない点として、比較広告の表現内容が公選法に抵触しないかということがあります。

 昭和25年に制定された比較的古い法律である公選法では「選挙運動として禁止される行為」が個別に限定列挙され、そのなかで、政党等や候補者が自らの選挙のために選挙運動 2 として行うことのできる「広告」(公選法では、文書図画 3 の頒布といいます)の種類・規格・回数等が厳密に定められています。

 このため、公選法制定当時、存在すらしていなかったインターネットや電子メールによる「広告」は、これまで、同法で認められた選挙運動ではありませんでした。

選挙の種類 選挙運動が可能な期間
衆議院議員選挙 12日間
参議院議員選挙 17日間
都道府県知事選挙 17日間
都道府県議会議員選挙 9日間
市長(東京23区の区長)・市(東京23区の区議)議会議員選挙 7日間
町村長・町村議会議員選挙 5日間

 そうしたなか、高度情報化社会の急速な進展などにより、インターネットや電子メールが身近な存在となりました。ハガキや電話などとは異なり、安価で、多くの有権者に一斉かつ迅速に情報を配信できるこうしたツールを利用した選挙運動を行えるよう求める声が、与野党を問わず少しずつ高まり、インターネット選挙運動解禁法(改正公選法)の制定・施行に至りました。

 改正公選法では、一定の条件下で、政党等や候補者が自らの政策・政見や個人演説会の案内、演説や活動の様子を撮影した動画など、選挙に関し必要な情報を随時ウェブサイトや電子メール等で提供できるようになりました(公選法142条の4第1項)。ただし、政党等・候補者以外の一般有権者が電子メールを利用する方法で、選挙運動用の文書図画を頒布することは、引き続き禁止されています。

 あわせて、候補者・政党等以外の者のウェブサイト等による選挙運動も解禁され、選挙運動期間中、これらの者がウェブサイト等で候補者や政党等を支持したり、応援したりすることができるようになりました。

 しかしながら、選挙運動のために行う有料インターネット広告については、有料広告の利用が過熱する結果、公選法の本来の目的である「カネのかからない選挙」とは反対の「カネのかかる選挙」につながりかねないとして、以下のようなものは禁止されています。

  1. 候補者・政党等の氏名・名称またはこれらの類推事項を表示した選挙運動用の有料インターネット広告(公選法 142条の6第1項)
  2. ①の禁止を免れる行為としてなされる、候補者・政党等の氏名・名称またはこれらの類推事項を表示した、選挙運動期間中の有料インターネット広告(公選法 142条の6第2項)

 その上で、政党等に限り、選挙運動期間中であっても、政治活動 4 用の有料インターネット広告のみ掲載することができることとされ、当該広告面から当該政党等の選挙運動用ウェブサイト等に直接リンクする有料インターネット広告を出すことも可能となりました(改正公選法142条の6)。

設例への当てはめ

 上記 2、3の内容を踏まえますと、設例のようにインターネット上の比較サイトにおいて、ある政党が他の政党の政策との比較広告を有料インターネット広告として掲載するには、以下の3点を満たす場合に限り、当該国政選挙の選挙運動期間の内外を問わず、掲載が可能と考えられます。

  1. 「比較広告ガイドライン」が示す3つの要件に抵触しない方法である
  2. 各政党の政策を客観的かつ正確・公正に比較対照し、当該広告表現の内容が政治活動の範囲内である
  3. 選挙運動(例:「わが◯◯党に清き一票を!」、「投票は◯◯(候補者名)へ!」など)とみなされないような表現である

 ただし、当該広告表現の掲載時期、掲載回数、体裁等によっては、選挙運動のための有料インターネット広告とみなされるおそれも否定できませんので、実際の掲載にあたっては、所轄の選挙管理委員会等に事前の確認が必要です。

改正公選法施行後の選挙運動
候補者 政党等 一般有権者
ウェブサイト等を利用する方法による選挙運動 ホームページやブログなどでの投票の呼び掛け
SNS(フェイスブック、ツイッター等)などでの投票の呼び掛け
政策・政見動画等のネット配信(※1)
電子メールを利用する方法による選挙運動 電子メールでの投票の呼び掛け ×
選挙運動用のポスター・ビラ等を添付したメールの送信(※1) ×
送信された選挙運動用の電子メールの転送(※2) ×
選挙運動用有料インターネット広告 選挙運動用のネット広告 × × ×
選挙運動用サイトに直接リンクするネット広告 × ×
挨拶を目的とするネット広告 × × ×
その他 ホームページや電子メールで特定の政党等や候補者に投票しないように呼び掛ける落選運動(※3)
サイト上や、電子メールに添付された選挙運動用のポスター・ビラ等を紙に印刷して頒布する × × ×

(※1)動画・広報物の権利(著作権・肖像権等)処理が別途必要
(※2)新たな送信者として、送信主体や送信先制限の要件を満たすことが必要
(※3)落選運動 5 を行う場合は、電子メールアドレス等の表示義務が必要

参考・引用文献
  • 選挙制度研究会 編「インターネット選挙運動解禁 改正公職選挙法解説」(ぎょうせい、2013)
  • ネット選挙研究会 編「【Q&A】インターネット選挙 公職選挙法の一部改正」(国政情報センター、2013)
  • 飯田泰士 著「新法対応!ネット選挙のすべて 仕組みから活用法まで」(明石書店、2013)
  • 三浦博史 著、清水 大資 監修「完全解説インターネット選挙 改正法の解説から実践的な活用方法まで」(国政情報センター、2013)
  • インターネット選挙運動等に関する各党協議会 編「改正公職選挙法(インターネット選挙運動解禁)ガイドライン(第1版)」(2013)
  • 情報ネットワーク法学会 編「知っておきたいネット選挙運動のすべて」(商事法務、2013)

(監修:株式会社電通 法務マネジメント局 局長 弁護士 弁理士 長谷川 雅典)


  1. 消費者庁「比較広告に関する景品表示法上の考え方」(平成28年4月1日) ↩︎

  2. 選挙運動:判例・実例によれば、「①特定の選挙について、②特定の候補者の当選を目的として、③投票を得または得させるために直接または間接に必要かつ有利な行為」とされ、選挙運動は、公示(告示)日に立候補の届出をしてから、投票日の前日までに限り行うことができるとされています(公選法129条)。 ↩︎

  3. 文書図画(ぶんしょとが):「文字若しくはこれに代わるべき符号又は象形を用いて物体の上に多少永続的に記載された意識の表示をいい、その記載が象形による場合を図画(とが)といい、文字又はこれに代わるべき符号による場合を文書(ぶんしょ)という」とされています。そして判例上、コンピュータのディスプレイ上に現れた文字等の表示も、公選法上の「文書図画」に当たると解されています。 ↩︎

  4. 政治活動:判例・実例によれば、政治上の目的をもって行われる一切の活動から、「選挙運動」に該当する行為を除いたものとされており、政治運動は、一定の場合を除き、原則として、いつでも自由に行うことができるとされています。 ↩︎

  5. 落選運動:特定の候補者(必ずしも1人の場合に限らない。以下同じ)の落選を目的とする行為であっても、それが他の候補者の当選を図ることを目的とする場合には、他の候補者のための選挙運動とみなされるため、本稿では、特定の候補者の落選のみを図る活動を落選運動というものとする。なお、判例上、何ら他の候補者を当選させる目的がなく、単に特定の候補者の落選のみを図る行為は、選挙運動に当たらないと解されている(大審院昭和5年9月23日判決)。 ↩︎

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