インド人の創業者から株式を譲り受ける場合、価格は自由に決められるのか

国際取引・海外進出

 インド人の創業者株主からインドの会社(非上場会社)の株式の譲渡を受けることを検討しています。 譲渡価格について交渉中なのですが、創業者株主から「自分はインド居住者なので譲渡価格は法律上一定の価格以上でなければならない」と言われました。本当でしょうか。

 本当です。創業者株主は、価格ガイドライン(pricing guideline)と呼ばれる規制を指摘しているものと思います。

 価格ガイドラインにより、非居住者が居住者から株式を譲り受けるときには、法律上一定の価格以上でなければならないという規制が定められています。

 創業者株主はインド居住者とのことですので、その場合には、非居住者である日系企業が譲渡を受ける株式の価格は一定の価格以上である必要があります。非上場会社の株式の場合、譲渡価格は、インドの証券取引委員会に登録されているカテゴリー1のマーチャントバンカーまたは勅許会計士が算出する株式の公正な評価額(fair value)以上である必要があります。

解説

目次

  1. 価格ガイドラインに基づく価格規制
  2. 株式譲渡を行う際の具体的な規制内容
  3. 売却のときにも要注意

価格ガイドラインに基づく価格規制

 外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act, 1999)においては、インド非居住者が、インドの会社の既存株式をインド居住者から購入し、またはインド居住者に譲渡する場合等に、譲渡価格を完全に自由に合意することはできず、「価格ガイドライン(pricing guideline)」と呼ばれるガイドラインに基づく価格規制が課せられています。

 株式の対価についてインド居住者の利益を保護することを目的とした規制です。

株式譲渡を行う際の具体的な規制内容

 価格ガイドライン上、株式譲渡に関する価格規制は、①インド居住者がインド非居住者に対してインド内国会社の既存株式を譲渡する場合(内→外の取引)と、②インド非居住者がインド居住者に対して既存株式を譲渡する場合(外→内の取引)とで、同一の価格を基準として、常にインド居住者側に有利な規制内容となっています。

 具体的には、非上場株式の場合、インドの証券取引委員会に登録されているカテゴリー1のマーチャントバンカーまたは勅許会計士が算出する株式の公正な評価額(fair value)を基準として、上記①の場合(インド居住者からインド非居住者への譲渡)、基準価格以上の価格で株式が譲渡されなければならず、②の場合(インド非居住者からインド居住者への譲渡)、基準価格以下の価格で株式が譲渡されなければならないとされています。

 かかる評価は、独立当事者間において用いられるのと同様の国際的に受入れられている株式価値算定方法(internationally accepted pricing methodology for valuation of shares on arm’s length basis)で行われます。

譲渡態様 規制内容
インド居住者からインド非居住者への譲渡 基準価格以上の価格で株式が譲渡されなければならない
インド非居住者からインド居住者への譲渡 基準価格以下の価格で株式が譲渡されなければならない

売却のときにも要注意

 なお、インド非居住者がインド居住者に対して既存株式を譲渡する場合の規制もありますので、もし将来貴社がこのインドの会社の株式をインド居住者に売るときには、一定の価格以下で譲渡せざるをえなくなる点にも注意が必要です。

 価格ガイドラインは非居住者間の取引には適用されませんので、貴社が他の非居住者(米国の会社など)に譲渡する場合には、価格ガイドラインの適用はなく、自由に譲渡価格を決定できます。

無料会員登録で
リサーチ業務を効率化

1分で登録完了

無料で会員登録する