介護保険サービスの指定事業者とは
人事労務介護保険サービスを提供する指定事業者とはどのようなものでしょうか。指定事業者の種類や特例などについても教えてください。
指定事業者とは、在宅サービスや施設サービスを提供する事業者のうち、介護保険の適用を受けるサービスを提供する事業者を指します。介護保険サービスを提供する指定事業者には、「指定居宅介護支援事業者」「指定居宅サービス事業者」「介護保険施設」の3つの種類があります。指定は都道府県知事や市町村長からサービスの種類ごとに受けなければなりません。そのほか、指定を受けずに介護保険サービスを提供することができる3つの特例もあります。
解説
指定事業者とは
在宅サービスを提供したり施設サービスを提供する事業者のうち、介護保険の適用を受けるサービスを提供する事業者のことを指定事業者といいます。指定事業者は、要介護者を対象に行うサービスについて大別すると、指定居宅介護支援事業者、指定居宅サービス事業者、介護保険施設の3つの種類に分かれます。
① 指定居宅介護支援事業者
指定居宅介護支援事業者は、在宅で支援を受ける利用者の利用計画(ケアプラン)を作成することがおもなサービス内容です。その他にも、利用者の状況や家庭の事情などを考慮して、その人らしい生活が送れるように、さまざまな調整を行います。具体的には、すでに提供しているサービスが利用者にあっているかどうかをチェックしたり、必要に応じてプランの再作成を行います。また、サービス事業者との連絡をとるなど、利用者と事業者の橋渡し的存在です。
このようなケアプランの作成をメインとして行うケアマネジャーは、指定居宅介護支援事業者のもとで仕事を行っています。
② 指定居宅サービス事業者
利用者に対して直接、介護サービスを提供しているのが指定居宅サービス事業者です。指定居宅サービス事業者は、在宅の利用者に対してケアプランに沿った居宅サービスを提供します。指定居宅サービス事業者は、その提供するサービス内容の種類に応じて細かく指定されます。たとえば、事業者が訪問看護と訪問介護のサービスを提供したい場合には、訪問看護の指定と訪問介護の指定を受ける必要があります。
③ 介護保険施設
指定事業者が運営する施設です。介護保険施設は、指定介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院に分けられます。かつての指定介護療養型医療施設は、2023年度末に完全に廃止される予定です。なお、介護保険施設のうち、介護老人福祉施設と介護医療院などは介護保険上の指定を受けることが必要ですが、介護老人保健施設は介護保険上、許可を受けることが必要とされています。
また、事業者の指定を行う主体についても注意が必要です。②指定居宅サービス事業者と③介護保険施設については、都道府県知事が指定を行います。その他に、要支援者を対象に、訪問入浴介護サービスなどを提供する指定介護予防サービス事業者についても、都道府県知事の指定を受ける必要があります。
これに対して、①指定居宅介護支援事業者については、かつては都道府県知事の指定を受ける必要がありましたが、現在では、指定の権限が市町村長に移譲され、市町村長の指定を受ける必要があります。また、指定介護予防支援事業者についても市町村長の指定が必要です。その他にも、地域密着型サービスを提供する事業者(指定地域密着型サービス事業者や指定地域密着型介護予防サービス事業者)については、市町村長の指定が必要になりますので注意が必要です。
人員基準、設備基準、運営基準には何が規定されているのか
サービスを提供する上で、最低限必要な職種やその人数を規定しているのが人員基準です。介護サービスを提供する事業所では、さまざまな職種の人が働いています。訪問系、通所系、施設系のサービスによって、提供するサービスも異なりますので、当然必要となる職種や人数も異なっています。たとえば、訪問介護で、オムツ交換などの身体介護や洗濯などの生活介護を提供する場合は、介護福祉士などのヘルパーが行います。一方で、医師の指示のもと医療的なケアを行う訪問看護では、看護師など専門的な資格を持った従業員が提供する必要があります。また、施設系のサービスでは、ケアプランを作成するケアマネジャーや、利用者の個別相談、入退去のサポートを行う生活相談員、食事の管理を行う栄養士などを置かなければなりません。必要な従業員数も規定されています。施設サービスや通所サービスでは、利用者3名に対して、1名以上の介護職員や看護職員を配置するのが原則です。一方、訪問サービスでは、1名の利用者に対して、原則1名の職員がサービスを提供します。
設備基準では、居室面積や必要なスペースなどを規定しています。介護施設では病院などと違い生活の場にもなっているため、病院と比べて広い居室面積が必要とされています。また、プライバシーへの配慮やバリアフリーにするなどが求められます。高齢者は火災が起きると逃げ遅れる場合があるため、消防設備などを備える必要もあります。
運営基準では、運営上、事業所が行わなければならないことや留意すべき事項が規定されています。介護サービスは、専門的なことも多く、利用者にはわかりにくい制度となっています。そのため、事業者は、運営規程の概要やサービスの内容、料金を記載した重要事項説明書などを、利用前に利用者やその家族に説明して、同意を得る必要があります。また、サービスの提供を拒否したり、何らかの理由でサービスが提供できない場合は、他の事業者を紹介するなどのルールが定められています。
サービス内容の種類ごとに指定を受ける
介護保険サービスを提供する事業者は、都道府県知事や市町村長から指定を受ける必要があります。この指定は、事業者単位で受けるものではなく、サービスの種類ごとに受ける必要があります。指定を受ける際には、サービスごとに定められた基本方針、人員基準、設備・運営に関する基準に従う必要があります。たとえば、訪問・通所サービスなどについて指定を受ける場合は、ケアプランに沿ったサービスの提供、必要に応じた個別支援計画の変更、サービスの提供に関する事項の記録を残すこと、居宅介護事業者との連携などが求められています。
一方、短期入所サービスについて指定を受ける場合には、不要な身体拘束の禁止、入浴・オムツ交換の頻度、職員以外の者による介護の禁止などについて、一定の基準に従う必要があります。
指定には特例もある
指定を受けなくても、介護保険サービスが提供できる「特例」が適用される場合が3つあります。
① みなし特例
他の法律によって認可、指定を受けている機関は、指定を受けたとみなされるという特例です。医療法、健康保険法、福祉法、老人保健法で認可、指定を受けている機関が一定の介護サービスを提供する場合に、この特例が適用されます。たとえば、病院や診療所が、訪問看護、訪問リハビリ、居宅療養管理指導といった介護サービスを提供する場合には、介護保険についての指定を受ける必要がありません。
② 申請なしで指定介護保険施設となることができるという特例
たとえば、介護保険法施行前から存在していた既存の特別養護老人ホームや介護老人保健施設については、介護老人福祉施設や介護老人保健施設の指定を受ける必要がありません。
③ 指定を受けていない事業者が提供するサービスであっても、市町村の判断で、介護保険の給付対象とできるという特例
この特例の対象になるのは、指定サービスと同水準と考えられる基準該当サービスと、サービス確保が難しい離島や過疎地において提供される離島等相当サービスです。
指定の取消や業務管理体制の届出について
かつての介護保険制度は、社会保険制度などと比べると規制がされていなかったため、悪質な業者によって多くの不正な請求がなされていました。こうした事態への対策を重視した国は、段階的に介護保険の事業者に関する規制の見直しや強化を繰り返してきました。不正請求を行う悪質な事業者については、指定を取り消すことで、介護保険の制度から締め出すしくみを導入し、介護サービスの質の向上を図りました。指定制度について強化された項目として、以下の項目が挙げられます。
① 指定の更新拒否と取消制度
指定の有効期限を6年程度とし、更新時に適正な事業運営が不可能だと判断された事業者については、更新が拒否されます。また、介護サービス事業者の指定権者である都道府県や市町村は、労働基準法など、労働法規に違反して罰金刑を受けた事業者の指定を取り消すことが可能です。
② 業務管理体制の届出の義務化
整備すべき体制は、各事業者が運営する事業所等の数により異なり、運営する事業所・施設の数が1以上20未満の場合は、法令順守責任者を選任する必要があります。また、20以上100未満であれば、法令遵守規程の整備と、法令遵守責任者の選任が必要です。さらに、100以上であれば、それらに加え業務執行の状況の監査の方法の届出も必要です。

- 参考文献
- すぐに役立つ 入門図解 最新 介護保険【サービス・費用】と介護施設のしくみと手続き
- 監修:若林 美佳
- 定価:本体 1,800円+税
- 出版社:三修社
- 発売年月:2019年8月

行政書士事務所 わかば