スマートフォン等の情報通信技術の発展による事業場外労働のみなし労働時間制の適用への影響

人事労務
塚本 健夫弁護士 西村あさひ法律事務所

 当社では、外回りの営業担当者にスマートフォンを貸与し、必要に応じて本社から連絡・指示を行っています。また、スマートフォンにインストールされたアプリにより、当該営業担当者のスマートフォンの位置情報(GPS情報)を把握することも可能です。当該営業担当者には、事業場外労働のみなし労働時間制を適用しているのですが、スマートフォンで連絡・指示を行い、また、GPS情報を把握することにより、労働時間の把握ができるとして、事業場外労働のみなし労働時間制の適用が否定されてしまうのではないでしょうか。

 スマートフォンで連絡・指示を行い、また、GPS情報を把握することのみをもって、事業場外みなしの労働時間性の適用が否定されるわけではないと解されます。

解説

目次

  1. 事業場外労働のみなし労働時間制の適用要件
  2. 行政通達
  3. 情報通信技術の発展と事業場外労働のみなし労働時間制
  4. GPS情報の把握
  5. 雇用型テレワークガイドライン

事業場外労働のみなし労働時間制の適用要件

 事業場外労働のみなし労働時間制は、労働者が事業場外で労働に従事し、その労働時間の算定が困難である場合に、使用者による労働者の労働時間を適切に把握・管理する義務を例外的に免除し、労働者が一定時間労働したものとみなす制度をいいます。
 同制度は、(i)労働者が事業場外で業務に従事したこと、(ii)(i)の労働時間を算定し難いことを要件として適用されますが(労働基準法38条の2第1項本文)、実務上、問題となりやすいのは、(ii)の要件(労働時間算定困難性の要件)です。

行政通達

 上記(ii)の要件に関し、行政通達において、以下の場合には使用者の具体的な指揮監督が及んでいるため、労働時間の算定が可能であるとして、事業場外労働のみなし労働時間制の適用はないとの例示がなされています(昭和63年1月1日・基発第1号・婦発第1号)。

  1. 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
  2. 事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
  3. 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場にもどる場合

 この行政通達は、昭和63年に発出されたものであり、「ポケットベル」との用語が用いられるなど少々古さはありますが、現在の行政実務においても用いられています。
 上記②では、「無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合」には使用者の具体的な指揮監督が及んでおり、労働時間の算定は可能であるため、事業場外労働のみなし労働時間制の適用はないとの例示がなされています。そして、これは、情報通信技術が発展した現代においては、「無線やポケットベル」だけでなく、携帯電話やスマートフォンも含まれ得るものです。

情報通信技術の発展と事業場外労働のみなし労働時間制

 近年、携帯電話やスマートフォンの普及に伴い、携帯電話やスマートフォン利用者の位置情報(GPS情報)の活用が進んでいます。企業における労務管理の場面においても、たとえば、営業担当従業員の稼働状況を確認するために、従業員に貸与した携帯電話やスマートフォンのGPS情報を確認するなど活用がなされています。
 このような情報通信技術の発展により、使用者が労働時間を把握できない場合は、およそ存在しないのではないか(同制度の適用ができる場面はないのではないか)、との疑問も生まれるところです。
 しかしながら、今日、多くの労働者がスマートフォン等の情報通信機器を日常的に所持している状況に鑑みれば、情報通信機器を介して、使用者から連絡を取ろうと思えばいつでも連絡を取れる体制をとっていることのみでは、前記行政通達の例示には該当しない(同制度の適用が否定されるものではない)と考えられます。
 近時のスマートフォン等の普及を前提とした場合、「使用者側から指示をしようと思えばいつでも行える体制にある限り、必ずしも労働者から使用者に連絡を入れる必要まではない」ものの、「当該情報通信機器を通じて随時使用者から指示を受けていると評価し得る程度に労働者と使用者との間で連絡を取り合っているか、又はかかる程度に連絡を取り合うことを前提とした態様で当該情報通信機器を携行している」場合に、前記行政通達の例示に該当すると解されます(山川隆一・渡辺弘編著『最新裁判実務体系第7巻 労働関係訴訟Ⅰ』(青林書院、2018)367頁)。
 この点について、近時の裁判例でも、「携帯電話等の情報通信機器の活用や労働者からの詳細な自己申告の方法によれば労働時間の算定が可能」であったとしても、業務に関する労働者の裁量の大きさや、使用者による指揮命令が及んでいないと認められる各事情から、事業場外労働のみなし労働時間制の適用を肯定した高裁判決があります(ナック事件・東京高裁平成30年6月21日判決・労経速2369号28頁)。

GPS情報の把握

 このように、労働者にスマートフォン等の情報通信機器を貸与し、使用者から連絡・指示を行っていることのみでは、事業場外労働のみなし労働時間制の適用は否定されないといえます。そして、「情報通信機器の活用」の一場面である、スマートフォン等のGPS情報を把握した場合についても同様に考えられます。
 GPS情報により、スマートフォン等の所持者が「◯月◯日◯時◯分に、A地点の半径100メートル以内にいた」といった事実が立証可能と思われますが、そもそも、GPS情報が正確に記録されているか、情報通信機器が正確に作動しているか等については、十分に検証を行う必要があります
 また、「A地点の半径100メートル以内にいた」という事実が立証できたとしても、A地点が都心か郊外かによって、当該労働者が会社の事業場内にいたか否か検討を要します。郊外では、近隣100メートル以内に事業場以外の施設が存在せず、「A地点の半径100メートル以内にいた」ことをもって、会社の事業場内にいた旨、立証することも可能と思われますが、都心では、近隣100メートル以内に、また、同じビル内に飲食店等がある場合も多く、「A地点の半径100メートル以内にいた」ことをもって、会社の事業場内にいた旨、直ちに立証することは困難です。
 さらに、GPS情報により、会社の事業場内にいた旨、立証ができたとしても、単に事業場内にいただけであり、「労働」していたといえるかは別途検討が必要です。
 そのため、使用者が労働者のGPS情報を把握しているのみでは、「労働」時間の算定が可能とはいえず、「当該情報通信機器を通じて随時使用者から指示を受けていると評価し得る程度に労働者と使用者との間で連絡を取り合っているか、又はかかる程度に連絡を取り合うことを前提とした態様で当該情報通信機器を携行している」場合に、労働時間算定困難性の要件が否定され、事業場外労働のみなし労働時間制の適用が否定されると考えられます。

雇用型テレワークガイドライン

 「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(平成30年2月22日策定、以下「雇用型テレワークガイドライン」といいます)では、「労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務」において、以下の要件をいずれも満たす場合には、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定し難いとして、事業場外労働のみなし労働時間制を適用されるとしています。

  1. 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと(すなわち、情報通信機器を通じた使用者の明示又は黙示の指示に即応する義務がない状態であること)
  2. 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと

 雇用型テレワークガイドラインは、事業場外労働のみなし労働時間制の適用について、情報通信技術の発展に伴い、上記2の行政通達よりも詳しく記載したもののように思われ、同ガイドラインの適用が問題となります。
 しかしながら、同ガイドラインにおける「テレワーク」とは、従来事業場で行われていた勤務が「情報通信技術を利用して」事業場外で行われる場合を想定していると考えられます。かかる理解を前提とすれば、出張や客先での営業等の、本来的に事業場外で行われるべき業務に従事する労働者に対して、スマートフォン等の情報通信機器を携行させたような場合には、同ガイドラインにおいて想定されている「テレワーク」には、基本的には該当しないと解されます。そのため、外回りの営業担当者にスマートフォン等の情報通信機器を貸与したからといって、ただちに同ガイドラインが適用されるものではないことにご留意ください。

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