メンタル不調を患った社員の個人情報管理のポイント

人事労務
林 智之社労士 さくら坂社労士パートナーズ

 従業員のメンタルヘルス疾患に関する情報を取得し管理する際、使用者として注意すべき点を教えてください。

 従業員のメンタルヘルス疾患に関する情報は、個人情報保護法における「要配慮個人情報」に該当します。情報の取得にあたっては、従業員本人の同意のもとで適切な手段で行う必要があるほか、情報の正確性を保持することや個人情報の安全管理措置を取ることなどが求められます。

解説

目次

  1. 個人情報は個人情報保護法で保護されている
  2. 情報を取得・開示する際に気をつけること
  3. 個人情報の取扱いにおいて重要なこと

個人情報は個人情報保護法で保護されている

 メンタルへルスケアを行う際には、健康情報を含む労働者の個人情報の保護に配慮する必要があります。個人情報の保護に関しては、個人情報保護法で規制がなされているので、まずは個人情報保護法の内容を見ていきましょう。

 個人情報保護法では、個人情報取扱事業者(営利・非営利を問わず、事業のために個人情報を取り扱う個人や法人など)は、本来の利用目的に限定して個人情報を利用しなければならないとされています(16条)。つまり、利用目的を明示して個人情報を入手したにもかかわらず、その情報を他の事業のために流用して用いることは許されません。また、個人情報取扱事業者は、不正な手段による個人情報の取得が禁止される他、要配慮個人情報(病気や犯歴などに関する個人情報)については、法令に基づく場合等を除き、本人の同意を得ずに取得することが禁止されています(17条)。メンタルヘルス疾患に関する情報は要配慮個人情報に該当するため、このような情報を労働者から取得する際は、特に慎重に行わなければなりません。

 さらに、個人情報を取り扱う場合には、その個人情報の内容が正確な状態を保つようにしなければなりません(19条)。不正確な情報を用いることで個人に不利益が生じないようにしています。

 個人情報の安全管理措置も行う必要があります。個人情報取扱事業者は、個人情報の漏えいや滅失などを防止するため、必要かつ適切な措置を講じなければなりません(20条)。

 また、個人情報取扱事業者には、自ら保有する個人情報の対象である本人の求めに応じて、個人情報を開示したり、個人情報の訂正・削除などを行ったりすることが要求されています。

 このように、個人情報保護法において、個人情報取扱事業者にはさまざまな義務が課せられています。メンタルヘルスに関する情報は個人情報(場合によっては要配慮個人情報)に該当するので、個人情報保護法に反することがないように常に注意をする必要があります。

情報を取得・開示する際に気をつけること

 事業者による労働者の健康情報の取得・開示については、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」の中でも触れられています。そこで、労働者の健康情報を取得・開示する際に気をつけることについて、この指針に沿って紹介していきます。
 まず、メンタルヘルスケアを推進するに当たって、労働者の個人情報を取得する際には、事業者はこれらの情報を取得する目的を労働者に明らかにして承諾を得るとともに、これらの情報を労働者本人から提供してもらうことが望ましいとされています。

 また、健康情報を含む労働者の個人情報を第三者へ提供する場合も、原則として本人の同意を得ることが要求されています。ただし、緊急に労働者の生命や健康の保護をする必要性がある場合には、本人の同意が得られなくても、労働者の健康情報を積極的に利用することが認められています。

 さらに、メンタルヘルスケアにおいては、さまざまな角度から労働者の健康を守るためのアプローチをすることになります。そのため、労働者の健康情報に触れる者も多くなることが予想されます。個人情報保護の観点からは、労働者の健康情報を扱うことが許される者を、あらかじめ事業所内の規程で定めておくべきであるとされています。

個人情報の取扱いにおいて重要なこと

 メンタルヘルスに関する情報を取得・開示する際に重要なことは、労働者本人の同意を得ることです。個人情報は、基本的には本人が管理すべき情報なので、個人情報を用いる際には、用途に応じて逐一本人の同意を得ることが望ましいといえます。また、後の紛争を防ぐために、個人情報を用いることについての本人の同意は、口頭ではなく書面で得ておくのがよいでしょう。

 ただし、本人の生命や身体を守るために健康情報を用いる緊急の必要があり、しかも本人の同意を得ている余裕がない場合には、本人の同意がなくても個人情報を用いることができます(個人情報保護法16条3項、23条1項を参照)。本人の同意を得られないからといって健康情報を用いることができず、それが原因で本人が命を落としてしまえば元も子もないからです。

 しかし、本人の同意なしに個人情報を用いることができる場面は、人の生死に関わる場合などかなり限定されていると考えるべきです。本人の同意なしに個人情報を用いることが許されるかどうかは、専門家とよく話し合った上で判断することが望ましいといえます。

個人情報の取扱いに関する義務
  1. 利用目的を特定しなければならない
  2. 利用目的に沿った項目のみを取得しなければならない
  3. 取得に際しては利用目的を通知・公表しなければならない
  4. 適正な手段によって取得しなければならない
  5. 内容の正確性の確保に努めなければならない
  6. 漏えい防止などの安全管理措置を講じなければならない
©林智之 本記事は、林智之監修「すぐに役立つ 入門図解 最新 メンタルヘルスの法律問題と手続きマニュアル」(三修社、2019年)の内容を転載したものです。
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