労働基準法違反に対する罰則

人事労務
小島 彰社労士 こじまあきら社会保険労務士事務所

 労働基準法に違反した場合にはどのような罰則が課せられるのでしょうか。

 労働者を強制的に労働させた場合には、1年以上10年以下の懲役、または20万円以上300万円以下の罰金が科されます。労使協定(三六協定)がないにもかかわらず、法定労働時間を超えて労働させた場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるほか、変形労働時間についての労使協定の届出をしなかった場合には、30万円以下の罰金が科されます。

 この他、中間搾取、児童の使用、均等待遇や解雇、休日・休暇、賃金など罰則が科される行為は多岐にわたります。違反行為者に加えて、事業主(会社など)にも罰金刑が科されることもあります。

解説

目次

  1. 6か月以下の懲役が科される可能性もある
  2. 違法な労働を命じた管理職だけでなく、会社も罰せられる
  3. 付加金の支払いを命じられることもある

6か月以下の懲役が科される可能性もある

 労働基準法は労働条件の最低基準を定めている法律です。そのため、労働基準法で定められたルールに違反して労働者を働かせると、後述のとおり違反行為者や事業主に罰則が科せられます。

 労働基準法で最も重い罰則が科されるのは、暴行、脅迫、監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制する場合です(労働基準法5条)。いわゆる強制労働ですが、労働者に強制労働をさせた場合には、1年以上10年以下の懲役、または20万円以上300万円以下の罰金が科されます。

 時間外労働については、たとえば、労使間で時間外労働について定めた労使協定(三六協定)がないにもかかわらず、法定労働時間を超えて労働させた場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。また、変形労働時間についての労使協定の届出をしなかった場合には、30万円以下の罰金が科されます。

違法な労働を命じた管理職だけでなく、会社も罰せられる

 たとえば、残業(時間外・休日労働)を命じる権限を持っているとされる部長が、労働基準法に違反する残業を自分の部下に命じて行わせた場合、その部長は、違反行為者としての責任を追及されることになります。これを行為者罰といます。

 通常、罰則は違反行為者自身にしか科さないのが原則ですが、労働基準法違反については、原則として、違反行為者(事業主のために行為した代理人、使用人その他の従業者)に加えて、その事業主(会社など)に対しても罰金刑を科すこととしています(会社は生身の人間ではないので会社に懲役刑を科すことはできません)。このように違反行為者と事業主の両者に罰則を科すことを、両罰規定といいます。

 ただし、事業主(会社の代表者など)が違反の防止に必要な措置をした場合は、その事業主には罰金刑を科しません。しかし、事業主が違反の計画を知りつつ、その防止に必要な措置を講じなかった場合や、違反の行為を知りつつ、その是正に必要な措置を講じなかった場合または違反を教唆した(そそのかした)場合は、事業主も違反行為者として罰せられます(罰せられるのは会社の代表者などです)。

付加金の支払いを命じられることもある

 付加金とは、労働基準法で定める賃金や手当を支払わない使用者に対して裁判所がそれらの賃金や手当とは別に支払いを命じる金銭のことです。裁判所は、休業手当、割増賃金、年次有給休暇手当、解雇予告手当を支払わなかった使用者に対し、労働者の請求によって未払金の他、これと同額の付加金の支払いを命ずることができます。付加金の金額は未払の金銭と同額であるため、平たく言えば、未払金銭の倍額を支払わなければならないことになります。

 使用者の付加金支払義務が「いつ発生するのか」については、さまざまな考え方がありますが、付加金は、裁判所が支払いを命じることで初めて支払義務が発生するという考え方が有力のようです。そのため、法定の支払期限に所定の金額が全額支払われていなくても、その後に割増賃金や解雇予告手当などの全額が支払われれば、労働者は付加金請求の申立てをすることができませんし、裁判所も付加金の支払いを命じることはできないことになります。

 また、付加金の請求権は、違反のあったときから2年で時効により消滅します。

主な労働基準法の罰則

1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金
強制労働をさせた場合(5条違反) 労働者の意思に反して強制的に労働させた場合
1年以下の懲役又は50万円以下の罰金
中間搾取した場合(6条違反) いわゆる賃金ピンハネ
児童を使用した場合(56条違反) 児童とは中学生までをいいます
6か月以下の懲役又は30万年以下の罰金
均等待遇をしない場合(3条違反) 国籍・信条・社会的身分など
賃金で男女差別した場合(4条違反)
公民権の行使を拒んだ場合(7条違反) 選挙権の行使等が該当する
損害賠償額を予定する契約をした場合(16条違反) 実際の賠償自体は問題ない
前借金契約をした場合(17条違反) 身分拘束の禁止
強制貯蓄させた場合(18条1項違反) 足留め策の禁止
解雇制限期間中に解雇した場合(19条違反) 産前産後の休業中または業務上傷病の療養中及びそれらの後30日間
予告解雇しなかった場合(20条違反) 即時解雇の禁止
法定労働時間を守らない場合(32条違反) 時間外労働をさせるには三六協定が必要
法定休憩を与えない場合(34条違反) 途中に一斉に自由に
法定休日を与えない場合(35条違反) 所定と法定の休日は異なる
割増賃金を支払わない場合(37条違反)
年次有給休暇を与えない場合(39条違反) 使用者は時季変更権を行使できるだけ
年少者に深夜業をさせた場合(61条違反) 年少者とは18歳未満の者
育児時間を与えなかった場合(67条違反) 育児時間とは1歳未満の子への授乳時間等のこと
災害補償をしなった場合(75〜77、79、80条違反) 仕事中の傷病や死亡に対して会社は補償しなければならない
申告した労働者に不利益取扱をした場合(104条2項違反) 申告とは労働基準監督官などに相談すること
30万円以下の罰金
労働条件明示義務違反(15条)
法令や就業規則の周知義務違反(106条)
©小島彰 本記事は、小島彰監修「事業者必携 入門図解 働き方改革法に対応! 会社で使う 労働時間・休日・休暇・休職・休業の法律と書式」(三修社、2019年)の内容を転載したものです。
事業者必携 入門図解 働き方改革法に対応! 会社で使う 労働時間・休日・休暇・休職・休業の法律と書式

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