残業時間と限度時間

人事労務
小島 彰社労士 こじまあきら社会保険労務士事務所

 従業員の残業時間の管理にあたり、気をつけるべき点について教えてください。

 残業時間については1か月あたり45時間、80時間、100時間を超えているかどうかが管理上の目安になります。
 上司が労働者に残業を命じていないにもかかわらず、労働者が自身の判断で残業をした場合のトラブルを防ぐためにも、就業規則などに会社のルールを定め、上司が部下の業務状況を把握することが求められます。

解説

目次

  1. 月45時間を超える場合は要注意
  2. 明示的な指示がない場合
  3. どんな対策を講ずるべきか
  4. 残業を勝手にさせない

月45時間を超える場合は要注意

 会社としては、労働者が健康障害を起こさないようにするため、労働者の労働時間を適切な時間内にとどめるように管理しなければなりません。よく言われる基準として「1か月に45時間までの残業時間」があります。月45時間という数字は、通常の人が1日7〜8時間の睡眠をとった場合に、残業時間に充当できる時間の1か月分の合計です(1日2〜2.5時間×20日間)。月45時間は時間外労働の限度時間としても採用されています。

三六協定の締結事項と限度時間(2018年改正による)

三六協定の締結事項と限度時間(2018年改正による)

 また、1か月の残業時間が80時間を超えているかどうかも1つの目安となります。この数字は、通常の人が1日6時間の睡眠をとった場合に、残業時間に充当できる時間(1日4時間の残業時間)を基準として、1か月あたり20日間働くものとして算出された数字です。

 さらに、1か月の残業時間が100時間を超えている場合には、健康上のリスクは相当高まっているといえます。月100時間の残業は、1日5時間の残業を1か月あたり20日間行ったのと同等です。残業時間が月100時間を超える労働者については、過労死のリスクが高まっていますから、会社としても労災事故のリスクが高くなっているといえるのです。なお、2018年の労働基準法改正により、月100時間を超える時間外・休日労働をさせると、原則として刑事罰の対象になることにも注意が必要です。

明示的な指示がない場合

 労働者が残業をしても、上司が残業を命じた場合でなければ、会社としてはそれを残業と認めないとする会社は多いようです。このような会社であっても、会社側が業務上必要であると判断して、労働者に残業を命じた場合は特に問題は生じません。なぜなら、この場合には残業代を支払わなければ、明らかな法律違反となるからです。

 一方、上司が労働者に残業を命じていないにもかかわらず、勝手に労働者が残業した場合、会社には残業代の支払義務はないと考える経営者は多いようです。

 しかし、労働者がしていた業務によっては、その労働者が会社に残って業務をしていた分について、残業代を支払わなければならないケースもあります。たとえば、残業しないと間に合わないほどの業務を上司が労働者に命じた場合は、上司が残業を命じなかったとしても、黙示的に残業を命令したと扱われる可能性が高いといえます。また、上司が労働者が残業しているところを見ていながら何も言わずにいると、黙示的に残業を命令したと判断される場合もあります。

 逆に、上司から残業しないように命じられていたにもかかわらず、これに反して労働者が残業した場合は、主に2つの点が問題になります。

 まずは、当該会社にとって「時間外労働が適法に行えるか否か」です。従業員の時間外・休日労働をすべて禁止している会社では、時間外・休日労働を適正に管理するための三六協定が未締結の場合があります。この場合は残業手当の対象となる時間外・休日労働そのものが違法と考えられる可能性があります。次に、会社側が時間外・休日労働の禁止を周知徹底していたかどうかです。たとえば、時間外・休日労働の禁止と、その必要が生じたときは役職者が業務を引き継がなければならないという指示や命令を社内通知、朝礼、上司を通じて繰り返し知らされていたかどうかなどが挙げられます。

 これら2点について、命令に反した従業員が知り得る状態にあったと判断されれば、残業代の支払義務はないと考えられます。

どんな対策を講ずるべきか

 まず、業務上必要な残業は事前申請制にすることです。就業規則上「不要な残業をすること、させることの禁止」「業務外目的での終業時刻後の正当な理由のない在社禁止」などを定め、その違反を懲戒事由とすることも大切です。

 また、会社は労働者の労働時間を適正に管理しなければ、労働基準監督署による指導の対象となる場合があります。労働時間を把握する方法として、経営者や上司などの労働者を管理する者が直接労働者の労働時間を現認する(見て確認する)という方法があります。現認が難しい場合は、タイムカードやICカードによる客観的な記録方法によって労働時間を把握するとよいでしょう。

 ただ、タイムカードなどでの管理が難しい会社では、自己申告制を導入しているかもしれません。自己申告制の場合、労働者の申告が本当に実態にあっているのかを確認できるしくみが必要です。たとえば、労働者が残業せざるを得ない状況であるのを承知しながら、自己申告制と残業時間の上限枠を導入し、労働者が残業時間の上限枠を超えている時間分について申告しにくい環境を作り上げることは避けなければなりません。また、自己申告制を適正に実施するための基準が厚生労働省より示されており、会社側は申告により把握される労働時間と実際の労働時間が合致しているか、その実態を調査する義務があります。

残業を勝手にさせない

 労働者が会社側からの残業命令に従い行った残業については残業代を支払う必要がありますが、そうでない場合にまで残業代を支払う義務はありません。たとえば、「残業をする場合は事前に上司の許可を得る」などのルールを定めておくことが重要です。労働者が会社側の指示がなければ残業を行うことができないとするには、管理者が自身の部下の業務状況を適切に把握していることが前提になります。残業については「残業申請書」などの書類を労働者から管理者に提出させるしくみが必要です。

 実際に行われた残業について賃金を支払わないとすることは許されません。もちろん、業務上必要な残業をしているのであれば、経営者側も残業代を支払うことに違和感はないでしょう。

 そこで必要なのが「無用な残業をさせないように対策をする」ということです。たとえば、①「月20時間まで」「週6時間まで」などのように、残業の上限時間を設定する、②退社時間を決めて守らせる、③残業は事前に上司の許可を得た上で行わせる、④不要な残業をする労働者には就業規則などに従って懲戒処分を行う、といったことが考えられます。ここでは主に残業管理を取り上げていますが、残業時間以外の就業時間全体の管理を行うことも重要です。つまり、休憩時間も含めて労働者が拘束されている時間(拘束時間)を管理することも、結果的に残業の削減に結びつきます。

 具体的には、不自然な出勤や休憩時間が発見された場合に、総務部や人事部より実労働時間と休憩時間の調査を行います。その上で、該当者に指導し、または社内通知で警告します。最近では、ICカードの記録やパソコンの動作記録を活用し、出退勤や休憩時間の適正な管理を行う会社もあります。

©小島彰 本記事は、小島彰監修「事業者必携 入門図解 働き方改革法に対応! 会社で使う 労働時間・休日・休暇・休職・休業の法律と書式」(三修社、2019年)の内容を転載したものです。
事業者必携 入門図解 働き方改革法に対応! 会社で使う 労働時間・休日・休暇・休職・休業の法律と書式

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