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2020年6月成立、改正公益通報者保護法への対応に向けて企業が注意すべき点とはPR 適切な内部通報対応とリスクマネジメント策を考える

危機管理・内部統制 公開 更新

目次

  1. 改正公益通報者保護法のポイント
  2. 「悩み相談」と「不正の告発」を切り分けた制度設計を

公益のために内部通報を行った労働者に対する、解雇などの不利益な取扱いを禁止する「公益通報者保護法」。その規律のあり方や行政の果たすべき役割について改正する法案(以後「改正法」)が2020年6月8日に可決された。2年以内に施行される予定だ。

一部の通報者が組織から不利益な取扱いを受けたケースが見られるなど現行法の不備を指摘する声があったことから、改正法では、従業員300人超の企業に内部通報制度の整備を義務づけるほか、内部通報を理由に報復的な人事をした会社は企業名公開を行うなど、通報者がより手厚く守られるように改正されている。

本稿では、改正法の施行に向けて企業がとるべき対応方法などを、デロイト トーマツ リスクサービス株式会社のシニアマネジャー 亀井 将博氏と、同マネジャー 和田 皇輝氏に聞いた。

デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 シニアコンサルタント 和田 皇輝氏、デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 シニアマネジャー、内閣府消費者委員会 公益通報者保護専門調査会委員、経済産業省ISO/TC309国内対策委員会委員(WG3 Whistleblowing担当) 亀井 将博氏

(左から)デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 マネジャー 和田 皇輝氏、
デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 シニアマネジャー、
経済産業省ISO/TC309国内対策委員会委員(WG3 Whistleblowing担当) 亀井 将博氏

改正公益通報者保護法のポイント

改正法の成り立ちをお聞かせください。

亀井氏:
公益通報者保護法は、その名のとおり公益に資する通報をした人を保護するための法律として2006年に施行されました。しかしその後、通報者が所属組織から不利益な扱いを受けてしまったという事例が複数発生しており、公益通報者保護法の不備を指摘する声が社会のさまざまなところから上がってきていました。そこで公益通報者保護法の改正に向けて専門家や通報経験者等の意見を取りまとめた法案が策定され、2020年6月8日に参議院本会議で全会一致で可決されました。衆参両院を通過したため改正法は成立し、2年以内に施行される予定です。

改正法の中で企業が注意しておくべきポイントについて教えてください。

亀井氏:
改正法には「常時雇用する労働者の数が300名超規模の民間事業者に内部通報制度の体制整備を義務付ける」という条項(改正法11条)があり、この対策として少なくとも、今後開示されるであろう「指針」を満たす体制が必要と考えます。また、改正法の施行を機に、現在自己適合宣言を登録する事業者が数十社ある「内部通報制度の認証制度(WCMS:Whistleblowing Compliance Management System)」の基準も改訂を受ける可能性があります。こういった公開基準も参考にしながら、通報者に対する不利益取扱を起こさないようにする体制整備と企業風土の醸成が重要になると思っています。

さらに、内部調査等に従事する者に対し、通報者を特定させる情報の守秘を義務付けた改正法12条、21条の条項にも留意すべきでしょう。この守秘義務違反には刑事罰が科されます。

内部通報制度の運営に守秘義務が課されるのは自然であるように思えます。

亀井氏:
通報者保護の観点で、通報者が特定されるような情報の管理には最大限の注意が払われるべきであり、その重要性を明確にしたという点では歓迎します。

しかし、日本企業の内部通報制度の多くは、いわゆる“公益に資する通報”ではなく、通報者の不満や悩みを受け付けてしまっています。この不満や悩みは、自組織が社会に対して害をもたらしているために発生しているものではなく、ほとんどが通報者自身の処遇に関するものです。

また通報者自身が被害者である場合、企業の担当者が通常の注意義務を払っていたとしても、通報された人(被通報者)が通報者を類推することができるケースがあります。しかも通報者が匿名を希望している場合は、企業の担当者が気付かない間に被通報者が通報者を特定する可能性が高まります。通報者自身が被害者である案件については、通報者の匿名堅持の期待と情報の守秘性にギャップが生じやすいのです。

こうした従来からの課題があるなか、今回の改正では、内部調査等に従事する者(組織ではなく個人)に対し、通報者を特定させる情報の守秘を義務付け、同義務違反に対する刑事罰を導入(改正法12条、21条)する点に実務上の問題が生じるのではないかと考えています。通常、内部通報制度の担当者は別の業務との兼務者が多く、特別な手当などを支給されていないケースがほとんどです。通報の多くはハラスメント系の通報者被害の軽減を訴求する通報で、通報者の匿名堅持が難しい案件です。対処が難しい案件に兼務で対応しているにも関わらず、自分自身が刑事告発や民事訴訟の対象にもなりえる、となれば、内部通報制度の担当者はリスクがあってメリットの乏しい職務ということになってしまいます。

デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 シニアマネジャー、内閣府消費者委員会 公益通報者保護専門調査会委員、経済産業省ISO/TC309国内対策委員会委員(WG3 Whistleblowing担当) 亀井 将博氏

「悩み相談」と「不正の告発」を切り分けた制度設計を

企業としては、担当者を保護するために具体的にどのような対策をしておけばよいのでしょうか。

亀井氏:
公益通報者保護法で公益通報となりうる対象の法規制は政令で指定されています 1。現時点で、その470の対象法令のなかには、たとえば男女雇用機会均等法や、パワハラ対策を定めた労働施策総合推進法が見当たりません。企業がそれらに関連する通報を受け付けること自体に問題はないのでしょうが、通報者自身の被害軽減を訴求するタイプのこのような法令に関係する通報に対しては、前述のとおり匿名堅持が難しいことからも、匿名の定義を見直すという方法が考えられます。元々匿名通報ができないルールにしておけば、担当者個人が守秘義務違反を問われる可能性も低減できるのではないでしょうか。

和田氏:
これが正解と断言はできませんが、具体的な方法として、匿名の定義の変更だけではなく、そもそも内部通報制度と個人の不満や悩みを受け付ける制度とを明確に分離するということも考えられます。

現在、日本企業が運営している内部通報制度は、従業員が抱える多くの不満や悩みのなかに不正の予兆があるだろうという発想で、不満や悩みまでを含めた報告をすべて受けることが主流になっています。その場合、通報件数はなるべく多いほうがよいという考え方になります。しかし当社が通報中継サービスの提供で得た統計値は、通報受信数と不正告発の件数に高い相関がないことを示しています。不正の告発は本来少なくて当然であり、0件を理想とすべきです。

出典:デロイト トーマツ リスクサービス株式会社(DTRS)のグローバルホットラインサービスの受信通報を集計

内部通報制度と不満や悩みを受け付ける制度を並立させるために鍵となるのは具体的にどんな点ですか。

和田氏:
公益通報が発生した場合は、握りつぶしを防ぐために監査役や外部取締役など会社からある程度客観的な立場の人に全件共有すべきですが、不正と不満を分けていない状態で全件共有しようとすると、件数が大量になり生産的ではありませんし、職責とはあまり関係のない人間関係のもつれなどを共有してしまうことになります。

不正の告発の対応プロセスと、不満や悩みをくみ取る仕組みを明確に分離し、不正の告発については匿名通報が可能だが、不満や悩みをくみ取る仕組みは、原則として匿名通報はできず、当事者同士の話し合いによる解決を仲立ちする、解決が困難な場合は当事者のいずれかの者が異動となることもあり得る、という制度に設計変更し、その点を納得が得られるまで従業員に説明することが大切になると思います。

当然ですが、どちらの制度も通報者に対する不利益取扱は厳禁です。ルールの制定だけでなく全従業員の意識に対しても、絶対に不利益取扱をしてはならない、という点を徹底していく必要があります。

不満や悩み相談と不正の告発とを完全に切り分けて取り扱えるような制度設計にすべきということですね。

和田氏:
はい。そうすることで、通報者の過大な期待も減少し、未解決のままで積み残されることが多いタイプの通報案件を減らすこともできるのではないかと思います。また、当社が提供する多言語対応の内部通報の受付窓口である「グローバルホットライン」も使いやすくなります。このサービスは、従業員などからの内部通報を適切にお客さま企業の担当部門へ中継し、担当部門からの回答を通報者へ伝達するというもので、特に「グローバル不正プラン GF」というプランでは、悩み相談ではなく不正告発に的を絞ってサポートしています。実際にお客さまにも、グローバルホットラインを利用するのであれば、悩み相談と不正告発の窓口を完全に分けていただくことをおすすめしています。

貴社のサービスを導入して運用する際に、効果を発揮させるためのポイントはありますか。

和田氏:
前述のように、不満や悩みを受け付ける制度と内部通報制度を明確に切り分け、従業員に周知する内容が非常に重要となります。被害者は自分自身や自組織なのか、あるいは自組織外のステークホルダーなのかを明確にすべきであること。そして自分が被害者となる場合には、匿名の通報はできないということ、自分が受けた被害を匿名で解決できる魔法のような解決策はない、ということをはっきりと従業員の方に伝えていただきたいです。

内部通報の窓口と不満に対応する窓口を区別する運用例

内部通報の窓口と不満や悩みに対応する窓口を区別する運用例

そのような運用をするのであれば、不満や悩みを受け付ける窓口と内部通報の窓口に求められる機能は自ずと変わってきますね。

和田氏:
そうですね。不満や悩みの相談窓口は人事・労務部門、内部通報は法務・コンプライアンス部門で受け付けるなど、まずは窓口を分けていただきたいです。仮に、結局どちらの対応部門も総務部になるという場合であったとしても、入り口である窓口だけは分けるという方法をおすすめしています。特に不満を受け付ける窓口の場合は、自分の思いを聞いてもらいたいだけというケースが少なからずあります。この場合、受付チャネルとしては電話もあったほうがよいでしょう。一方で、不正の告発は、通報者への質問経路と記録が確実に確保できるEメールのほうが圧倒的に対応しやすくなります。したがって、当社のサービスでは、基本的に受付チャネルをEメールのみとしています。

グローバルホットラインでは外国語などにも対応しているのですか。

和田氏:
合計14言語に対応しています。当社内で翻訳できたとしても多くの時間を要する一部の言語については、セキュリティ面で信頼がおける事業者に限って翻訳を外部委託しています。一方で、高いセキュリティが担保できる事業者に限定しているため対応できる言語もその事業者に依拠せざるをえず、対応できるのは14の言語となっています。

これは、窓口を分けたほうが良いという話につながります。不正に関する情報は、基本的に日本語・英語の話者にしか関係しないようなことが多い一方で、不満や苦情は各地の工場などからあがってくるため、多くの言語への対応が必要になります。実際にグローバル不正プラン GFの導入実績としては、日本語のほか英語、中国語の3言語の採用にとどまる企業が多数派です。

改正法が施行されると、会社名公表に至るリスクもあるかと思います。そうした事態を防ぐために気をつけるべき点をお聞かせください。

亀井氏:
通報者に不利益な取り扱いをしたことが明らかになって行政処分されたとなれば、企業としては大きなダメージを負います。通報者に不利益取扱いをしないようにするために、内部通報制度を運営する側と通報者の双方に対して、公益通報とは何か、何が不利益取扱いにあたるのか、不満を解消するための人事異動とは何が違うのか、という定義を明確にし、教育の機会を設けることが重要になりそうです。

和田氏:
不利益取扱いを受けた、あるいは、通報情報を漏らされた、と通報者に主張された場合、通報者あるいは行政等のステークホルダーに対してそれが誤解であることを説明するためには、内部通報の対応経緯を詳細に記録しておく必要があります。しかし、内部通報対応の情報および通報者の人事考課をタイムリーに結び付け、かつ記録を残していくことは大変です。そういった観点からも本当に公益通報である可能性の高いものに的を絞り、不満や相談については、内部通報制度とは異なるプロセスで対応すべきでしょう。WCMS認証制度の自己適合宣言を検討している場合にも、不満や相談対応の制度は対象外として申請した方が、負担も少なく合理的ではないでしょうか。

不正に関する情報を的確に受け付け、対応できる制度設計を考えていくことは、会社のリスクマネジメントだけでなく、通報者をきちんと保護するという、社会的な意義を考えるうえでも非常に大切なことだと思っています。

デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 シニアコンサルタント 和田 皇輝氏

【お問い合わせ先】
デロイト トーマツ リスクサービス株式会社
〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-2-3 丸の内二重橋ビルディング

電話 03-6213-1300
<追記> 2020年7月3日:2020年6月8日の「公益通報者保護法の一部を改正する法律案」可決にあわせ、本稿内の各表現を改訂いたしました。

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