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第4回 同族会社の行為計算否認規定、法人税の負担が「不当」となるポイントは?
税務
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同族会社の行為計算否認規定
東京高裁は、平成27年3月25日、同族会社の行為計算否認規定の適用をめぐる税務訴訟の判決理由において、同規定の適用基準について従来よりも踏み込んだ判断を示しました。
同族会社とは、例えば、子会社の株式全てを親会社が保有している場合の当該子会社など、少数の株主または社員によって支配されているような会社をいいます。法人税法132条1項は、次のように、同族会社である納税者の行為または計算の否認規定を定めています。
税務署長は、次に掲げる法人〔筆者注:内国法人である同族会社など〕に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。
同族会社は少数の株主または社員によって支配されているため、当該会社の法人税の税負担を不当に減少させる行為や計算が行われやすいことから、税負担の公平を維持するため、当該会社の法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為または計算が行われた場合に、これを正常な行為または計算に引き直して当該会社に係る法人税の更正または決定を行う権限を税務署長に認めたものとされています。
もっとも、どのような場合に法人税の負担を「不当に」減少させる結果となるのかについては、法文上具体的な基準は定められていません。そのため、この否認規定が適用される場合について、実務的には悩みの尽きないポイントになっていました。
第一審が示した判断基準
本件は、親会社が100%子会社に対し当該子会社株式の譲渡(当該子会社にとっては自己株の取得)をしたことにより生じた損失を連結納税制度の適用上損金として取り込んだところ、税務当局が上記の同族会社の行為計算否認規定を適用して損金算入を否認した事案です。
本件の第一審である東京地裁は、平成26年5月9日、次のように判断基準を示した上で、納税者が行った具体的な取引については、法人税法132条1項にいう「不当」なものと認めるには足りないと判示しました。
これに対し、税務当局は、控訴理由において、同族会社の行為または計算が、独立かつ対等で相互に特殊な関係にない当事者間で通常行われる取引(独立当事者間の通常の取引)とは異なり、当該行為または計算によって当該同族会社の益金が減少し、または損金が増加する結果となる場合には、特段の事情がない限り、経済的合理性を欠くものというべきであると主張しました。
他方、納税者側は、「法人税の負担を不当に減少させる」とは、当該行為または計算が異常ないし変則的であり、かつ、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められるような場合であると反論していました。
控訴審の判断と実務上の留意点
控訴審の判断ポイント
この点について、東京高裁は、次のように判示して、控訴審における税務当局の主張を一般論としては認めました。
その実質的な理由として、東京高裁は、法人の諸活動は、様々な目的や理由によって行われ得るのであって、必ずしも単一の目的や理由によって行われるとは限らないため、 同族会社の行為または計算が、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在するかどうかといった判断は、極めて複雑で決め手に乏しいものとなり、納税者側主張のような解釈を採用すれば、税務署長が法人税法132条1項所定の権限を行使することは事実上困難になるものと考えられる旨指摘しています。
この判断基準によれば、税務当局としては、納税者の行為または計算が異常ないし変則的であり、かつ、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないということまで主張立証しなくてもよく、納税者の行為または計算が独立当事者間の通常の取引とは異なっていることを主張立証すればよいことになりますので、税務当局が同族会社の行為計算否認規定を適用する上でのハードルは下がります。
もっとも、結論としては、上記の判断基準に照らしても、納税者が行った具体的な取引については、法人税法132条1項にいう「不当」なものと評価することはできないとして、第一審と同様に納税者勝訴の判決を下しました。
実務上の留意点
第一審である東京地裁は、同族会社の行為計算否認規定の判断基準に関する従来からの考え方を踏襲するものですが、この東京高裁の判断基準は、それをさらに一歩進めて、より具体化したものといえます。
この判断基準によっても、実際の当てはめにおいては、個別かつ具体的な事案に即した検討が必要になることには変わりありませんが、独立当事者間の通常の取引かどうかというアプローチであれば、例えば独立当事者間価格についての分析を中心とする移転価格の分野における考え方を参照することもできますので、アプローチはより容易になると考えられます。
今後の対応としては、このような裁判所の判断を踏まえ、同族会社の行為計算否認規定の適用可能性を分析するに当たっては、例えば移転価格の専門家とも協働して検討することが有益といえます。
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