医薬品・医療機器等の審査・承認制度変更への対応や、法令遵守体制等の整備が重要に - 薬機法改正の主なポイントと実務への影響
その他
目次
はじめに
令和元年11月27日の参院本会議での可決により「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下「薬機法」という)の改正法案が成立し、同年12月4日に公布されました(以下、改正後の薬機法を「改正薬機法」といいます)。また、令和2年3月11日付で公布された政令(令和2年政令第39号)により、改正薬機法の施行期日は原則として令和2年9月1日、改正法附則1条2号に掲げる規定の施行期日は令和3年8月1日、同条3号に掲げる規定の施行期日は令和4年12月1日とされています。
さらに、その後、オンライン服薬指導に関連する部分に限定して、令和2年3月27日付で改正省令が公布され(改正省令の施行日は改正薬機法のうちのオンライン服薬指導に関する条項と同じ令和2年9月1日とされております)、令和2年3月31日付で施行通知が公表されています。
今回の改正においては、上記の通り改正省令や施行通知の制定が先行して行われているオンライン服薬指導のほか、薬機法の許可等業者に対する法令遵守体制の整備の義務付けや、虚偽・誇大広告による医薬品等の販売に対する課徴金制度の創設など、ヘルスケア業界の実務に大きく影響する内容が含まれており、今後も順次制定されていくことになる省令や施行通知等の動向を注視していく必要があります(具体的な規定の文言は示されておらず、概要しか公表されておりませんが、令和2年6月4日から、①薬局制度に係る改正、②審査制度、治験制度等に係る改正、③輸入確認制度の創設に係る改正等についても省令案のパブコメ手続が開始されております)。
本稿では、改正省令および施行通知ならびにこれらに対するパブコメ回答が既に公表されているオンライン服薬指導や、改正薬機法の公布以降、既に複数の相談を受けている「薬事に関する業務に責任を有する役員」に関する事項を中心に、改正薬機法のポイントと実務への影響について概説していきたいと思います。
改正薬機法の概要
今回の改正の趣旨は、「国民のニーズに応える優れた医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するとともに、住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができる環境を整備するため、制度の見直しを行う」こととされており、その内容は以下の4つの項目に分類されています。
- 医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するための開発から市販後までの制度改善
- 住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための薬剤師・薬局のあり方の見直し
- 信頼確保のための法令遵守体制等の整備
- その他
改正の内容は多岐にわたりますので、以下、上記4項目のうち、1.から3.について、その具体的な内容を、重要度の高いものにフォーカスして概説していきます。
なお、「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」で提言された法違反時の役員変更命令の法定化については今回の改正薬機法には盛り込まれていませんが、衆議院および参議院の厚生労働委員会において「本法の施行状況を踏まえ(引き続き)検討を行うこと」との附帯決議が採択されています。
医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するための開発から市販後までの制度改善
「先駆け審査指定制度」の法制化等
先駆け審査指定制度は現行法の下では法定されておらず、平成27年に発出された通知(平成27年4月1日薬食審査発0401第6号)によって運用されてきましたが、改正法施行後は、「先駆的医薬品等」と「特定用途医薬品等」として法制化されることになります(改正薬機法2条16項)。「先駆的医薬品等」は現在の「先駆け審査指定制度」と同様の医薬品等を対象とすることが想定されており、「特定用途医薬品等」は医療上のニーズが著しく充足されていない医薬品等を対象とすることが想定されています。施行期日は令和2年9月1日とされております。
「条件付き早期承認制度」の法制化等
条件付き早期承認制度も現行法の下では法定されておらず、「医薬品の条件付き早期承認制度の実施について」(平成29年10月20日薬生薬審発1020第1号)および「革新的医療機器条件付早期承認制度の実施について」(平成29年7月31日薬生発0731第1号)によって運用されてきましたが、改正法によって法制化され(改正薬機法14条5項)、事業展開に係る予見可能性を向上させることが企図されています。施行期日は令和2年9月1日とされており、衆議院および参議院の厚生労働委員会においては、「条件付き早期承認制度により製造販売の承認をした場合は、速やかに有効性・安全性を再確認するために厳格な製造販売後調査等を実施すること」等の附帯決議が採択されています。
添付文書の電子的な方法による提供の原則化
現行法の下では、添付文書が迅速な情報提供に役立っておらず、また紙資源の浪費であるとの指摘があったことから、改正法施行後は、添付文書情報(「注意事項等情報」)を電子的に公表し、容器や外箱等の被包に、最新の注意事項等情報にアクセスするための符号(QRコード等)を記載すること、および注意事項等情報の提供を行うために必要な体制の整備を行うことが求められます(改正薬機法52条1項、63条の2第1項、65条の3、68条の2、68条の2の2)。施行期日は令和3年8月1日とされており、衆議院および参議院の厚生労働委員会においては、「添付文書の電子化に当たっては、添付文書の情報が改訂された際に、それが直ちに確実に伝達されるための環境整備を図ること」等の附帯決議が採択されています。
変更計画による医薬品の承認事項の変更手続の見直し
現行法の下では、常にすべてのデータを揃えてから変更申請・審査が行われていますが、改正法施行後は製造方法等の変更に関する計画(PACMP)について厚生労働大臣の確認を受けた者が、一定日数前までに変更を行う旨を届け出たときは、変更に係る承認を受けることを要しないことになります(改正薬機法14条の7の2第6項、23条の32の2第6項)。施行期日は令和3年8月1日とされています。
医療機器の特性に応じた承認制度の導入
現行法の下では、継続的な改良・改善に対しては、その変更による製品への影響の度合いに応じ、①臨床試験が必要な一部変更承認、②非臨床試験で評価可能な一部変更承認、または③軽微変更届で対応することになります(①および②につき薬機法23条の2の5第11項、③につき薬機法23条の2の5第12項)が、性能等が恒常的に変化し続けるプログラムが開発されているAIなどの技術革新には十分に対応できないとの指摘があります。
改正法施行後は、医療機器等の承認を受けた者は、承認事項のうち性能、製造方法等の変更に関する計画について厚生労働大臣の確認を受けることができ、確認を受けた者は、当該計画に従った変更を行う日の一定日数前までに変更を行う旨を届け出たときは、変更に係る承認を受けることを要しないことになります(改正薬機法23条の2の10の2第6項)。施行期日は令和2年9月1日とされています。
住み慣れた地域で患者が安心して医薬品を使うことができるようにするための薬剤師・薬局のあり方の見直し
薬剤師による継続的な服薬状況の把握および服薬指導の義務の法制化
現行法の下では、多くの薬剤師・薬局において本来の機能を果たせておらず、医薬分業のメリットを患者も他の職種も実感できていない等の指摘があります。改正法施行後は、薬剤師による継続的な服薬状況の把握および服薬指導の義務などが法制化されることとなります(改正薬機法9条の4第5項、36条の4第5項)。施行期日は令和2年9月1日とされています。
地域連携薬局および専門医療機関連携薬局の導入
上記の通り、現行法の下では、多くの薬剤師・薬局において本来の機能を果たせておらず、医薬分業のメリットを患者も他の職種も実感できていない等の指摘があります。改正法施行後は、患者が自身に適した薬局を選択できるよう、機能別薬局として、地域連携薬局および専門医療機関連携薬局に関し、都道府県知事による認定制度(名称独占)が導入されることになります(改正薬機法6条の2、6条の3)。施行期日は令和3年8月1日とされています。
テレビ電話等による服薬指導(オンライン服薬指導)の導入
現行法の下では、平成25年薬事法改正により対面での服薬指導を行うことが法律上明記されており、薬機法上、テレビ電話等を使用して服薬指導を行うこと(いわゆるオンライン服薬指導)は認められていません。
改正法施行後は、対面義務の例外として、テレビ電話など、「映像及び音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることが可能な方法その他の方法により薬剤の適正な使用を確保することが可能であると認められる方法として厚生労働省令で定めるもの」(改正薬機法9条の3第1項)によって服薬指導を行うことが可能になります。
そして、改正薬機法9条の3第1項を受けて、令和2年3月27日付で公布された改正省令により薬機法施行規則15条の13第2項が新設され、「薬局開設者が、その薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師に、同一内容又はこれに準じる内容の処方箋により調剤された薬剤について、あらかじめ、対面により、当該薬剤を使用しようとする者に対して法第九条の三第一項の規定による情報の提供及び指導を行わせている場合に行われること」(1号)、「次に掲げる事項を定めた服薬指導計画・・・に従って行われること」(2号)および「薬局開設者が、その薬局において薬剤の販売又は授与に従事する薬剤師に、オンライン診療・・・又は訪問診療・・・において交付された処方箋により調剤された薬剤を販売又は授与させる場合に行われること」(3号)という要件が課されており、特に、1号によってあらかじめの対面による服薬指導を義務づけられている点に留意が必要です 1。
施行期日は、改正薬機法および改正省令いずれも令和2年9月1日とされています。
なお、令和2年4月10日付(事務連絡)厚生労働省医政局医事課、厚生労働省医薬・生活衛生局総務課通知「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」の「2.薬局における対応」「(2)電話や情報通信機器を用いた服薬指導等の実施について」に「新型コロナウイルス感染症の拡大防止等のため、全ての薬局において、薬剤師が、患者、服薬状況等に関する情報を得た上で、電話や情報通信機器を用いて服薬指導等を適切に行うことが可能と判断した場合には、当該電話や情報通信機器を用いた服薬指導等を行って差し支えないこととする」との記載がありますが、当該通知は「新型コロナウイルス感染症が拡大し、医療機関の受診が困難になりつつあることに鑑みた時限的・特例的な対応として」発出されたものであり、恒久的な取扱いを示したものではない点に留意が必要です。
信頼確保のための法令遵守体制等の整備
許可等業者における法令遵守体制の整備
現行法下では、総括製造販売責任者等の技術責任者と経営陣のそれぞれが負うべき責務や相互の関係が薬機法上明確でないことにより、技術責任者による意見申述が適切に行われない状況や、経営陣による技術責任者任せといった実態を招くおそれがあり、法令遵守のための改善サイクルが機能不全に陥りやすいとの指摘がなされてきました 2。 近年の薬機法違反事案の中には、製造販売業者等の経営陣が現場における法令遵守上の問題点を把握していないことや、こうした問題点に対して製造販売業者等が適切な対応を行っていないことに起因すると思われるものが散見されます。そこで改正薬機法では、以下の事項等の手当てが行われました。
- 製造販売業者・製造業者の法令遵守に責任を有する者を明確にするため、「薬事に関する業務に責任を有する役員」(以下「責任役員」といいます)を法律上位置付けるとともに、許可申請書記載事項とする(改正薬機法12条2項2号)
- 総括製造販売責任者・製造管理者による、製造販売業者・製造業者に対する意見申述義務を法律上規定する(改正薬機法17条3項)
- 製造販売業者・製造業者に、業務が法令を遵守して適正に行われるために必要な社内規程等の整備、教育訓練等を通じた当該社内規程等の周知・徹底及び従業者が行った業務の内容が適時かつ正確に記録されるための体制等の整備を求める(改正薬機法18条の2第1項)
- 法令遵守のための整備が不十分な場合に、製造販売業者・製造業者に対して改善に必要な措置を講ずべきことを命ずる権限を厚生労働大臣に付与する(改正薬機法72条の2の2)
特に、責任役員の選任の点につきましては実務に与える影響も大きく、たとえば、どの範囲の役員が責任役員に該当するのか、また、責任役員として選任するためにどのような人材を確保する必要があるのか、といった点について、実務界を中心に多くの方が関心を寄せているものと思われます。
これらの点については、改正薬機法の条文上はどの範囲の役員が責任役員に該当するかが不明確であり、今後、改正省令や施行通知、パブコメ回答等を通じて、厚労省から具体的な解釈の指針が示されていくことになると思われます。一方、従前、許可申請に際して診断書の添付を必要とする「業務を行う役員」について、「会社を代表すべき取締役及び薬事法の許可に係る業務を担当する取締役」を指すと解されてきた 3 ところ、かかる解釈は狭いのではないかという問題意識が今回の改正の背景の1つとしてあったようですので、改正薬機法によって新たに規定された責任役員の範囲については、分掌範囲に薬事に関する法令に関する業務が含まれている限り、薬事部門を直接所管する取締役だけでなく、それ以外の、たとえば生産部門や安全性部門を担当する取締役なども含まれることになる(他方で、食品部門などの薬機法に関連しない部門の取締役は含まれない。また、薬事部門の担当者であっても取締役(または指名委員会等設置会社における執行役)でない者は含まれない)のではないかと思われます。
いずれにしても、このあたりの実務的な解釈や実際の運用については、上記の通り、改正省令や施行通知、パブコメ回答等を通じて明らかにされていくと思われるため、今後の動向を注視する必要があるでしょう。また、法律で規定された措置以外に、厚生労働省令においても、過去に発生した法令違反事案等を参考に製造販売業者・製造業者がとるべき措置が定められることが想定されております(改正薬機法18条の2第1項4号等参照)ので、かかる観点からも、今後制定される省令等の内容に留意が必要です。
なお、許可等業者における法令遵守体制の整備に関する規定の施行期日は令和3年8月1日とされています。
総括製造販売責任者の要件
上記の通り、総括製造販売責任者等の技術責任者と経営陣のそれぞれが負うべき責務や相互の関係が薬機法上明確でないことにより、技術責任者による意見申述が適切に行われない状況や、経営陣による技術責任者任せといった実態を招くおそれがあり、法令遵守のための改善サイクルが機能不全に陥りやすいとの指摘がなされてきました。そこで、総括製造販売責任者は、意見申述義務および品質管理、製造販売後安全管理等のために必要な業務を遂行等するために必要な能力および経験を有する者でなければならない旨規定されました(改正薬機法17条2項2号)。施行期日は令和3年8月1日とされています。
虚偽・誇大広告による医薬品、医療機器等の販売に係る課徴金制度・措置命令の導入
現行法下では、虚偽・誇大広告に違反した場合の罰金は個人・法人ともに200万円以下とされていることから(薬機法66条1項、85条4項)、違法行為によって得られる経済的利得に対して抑止効果が機能しにくいことや、薬機法上の業許可を持たない事業者により行われる違反事例に関しては、許可の取消しや業務停止命令といった行政処分を行うことができないため抑止効果が働きにくいとの指摘がありました。
そこで、厚生労働大臣は医薬品、医療機器等の名称、製造方法、効能、効果または性能に関する虚偽・誇大な広告 4(課徴金対象行為)を行った者に対し、違反行為を行っていた期間(3年間を上限とする)中における対象商品の売上額の4.5%を課徴金額とし、課徴金納付命令を行わなければならない旨の規定が設けられました 5(改正薬機法66条1項、75条の5の2第1項、第2項)。
またその例外として、以下の通り定められています。
- 業務改善命令等の処分をする場合で、保健衛生上の危害の発生・拡大への影響が軽微である場合等には課徴金納付命令を行わないことができる(改正薬機法75条の5の2第3項1号)
- 課徴金が225万円未満の場合には課徴金納付命令を行うことができない(改正薬機法75条の5の2第3項4号)
- 同一事案に対する景品表示法の課徴金納付命令がある場合は、薬機法上の課徴金額である売上額の4.5%から景品表示法上の課徴金額である売上額の3%を控除する(改正薬機法75条の5の3)
- 課徴金対象行為者が、(課徴金納付命令があるべきことを予知せずに)課徴金対象行為に該当する事実を厚生労働大臣に報告したときは課徴金額の50%を減額する(改正薬機法75条の5の4)
他方で、景品表示法のような自主的返金措置に基づく減額規定や、相当の注意を怠った者でないと認められるときに課徴金の規定の適用を除外する規定などは盛り込まれておりません。
課徴金納付手続については、基本的に景品表示法と同様の手続が用意されており、施行期日は令和3年8月1日とされています。なお、衆議院および参議院の厚生労働委員会においては、「新たな虚偽・誇大広告に対する課徴金制度についてその抑止効果の評価を行うこと」等の附帯決議が採択されております。
おわりに
今回の改正は多岐にわたっており、また、体制整備等についても規定されていることから、薬事・ヘルスケア業界各社の実務に大きな影響を与えることになると思われます。施行に向けて、今後、改正省令や施行通知、パブコメ回答等を通じて実務的な解釈や実際の運用方針等が明らかにされていくと思われますので、今後の動向を注視しつつ、社内の体制整備等の改正対応を進めて行く必要があるでしょう。
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この点については、改正省令に関するパブコメ(1番)における「一定程度安全性が確保されている場合など、初回対面を義務づける必要はない。また、無薬局の離島など、必要性が認められるときは、初回又は処方変更の処方箋により調剤された薬剤であってもオンライン服薬指導の対象とすべき。」との意見および施行通知に関するパブコメ(8番)における「一定の要件の下で、初回対面の例外を設けるべき。」との意見に対して「オンライン服薬指導では、得られる情報が限られる中で、可能な限り、患者の状態の見落としや誤った判断を防ぐ必要があり、また、薬剤師が患者から心身の状態に関する適切な情報を得るために、日頃より対面による服薬指導を重ねるなど、信頼関係を築いておく必要があります。医薬品医療機器制度部会における検討においても、『かかりつけ薬剤師に限定すべき』との指摘があったことを踏まえ、今回の改正では、あらかじめの対面による服薬指導を義務づけることとしました。」とされております。 ↩︎
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厚生労働省「2018年11月8日 平成30年度第8回 厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会 議事録」(2018年11月8日、2020年8月18日最終閲覧) ↩︎
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昭和57年3月31日付薬企第19号および平成18年5月25日付薬食総発第0525002号、薬食審査発第0525001号、薬食安発第0525001号 ↩︎
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承認前医薬品等は対象とされていません。 ↩︎
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「対象商品の売上額の4.5%」と規定されていることから、対象商品を販売している者だけが課徴金の対象になります。 ↩︎

長島・大野・常松法律事務所

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