企業不祥事の原因は「倫理観の不足」だけなのか 分野を超えたコンプライアンスのプロフェッショナルが集まる場を目指して

危機管理・内部統制

目次

  1. 企業の不祥事は「倫理観の不足」が原因で起こるのか
  2. コンプライアンスを投資に、キーマンは社外取締役
  3. コンプライアンスに関するプロフェッショナルが集まる場へ

企業経営においてコンプライアンスの強化が求められる一方で、企業の不祥事は後を絶ちません。法務・コンプライアンスに関わる人たちのネットワーク作りを行う場である「ぷらっと法務」を主催する大西 徳昭氏と三浦 悠佑弁護士は、企業におけるコンプライアンス体制を強化するために、弁護士だけではない様々な分野の専門家の知見を集める必要性を説きます。

前回に続き、企業不祥事とコンプライアンスに関する現状の問題点、不祥事を乗り越えるために取るべき具体的なアクション、そして2人が目指すビジョンについて伺いました(取材・撮影は2月に実施)。

企業の不祥事は「倫理観の不足」が原因で起こるのか

コンプライアンスに対する要請が従来より高いレベルで求められるなか、企業の不祥事が繰り返される原因をどのようにお考えですか。

大西氏:
不祥事を起こした企業の第三者委員会の報告書に「倫理観の不足」という指摘がよく見られますが、私には企業不祥事の当事者たちが「非倫理的」な人間だったとは思えません。日本型の不祥事は、個人の利得のために不正を行うものもありますが、多くの場合、不祥事を悪いことだと明確に理解していても「会社のために」「仲間のために」「顧客のために」等と言いながらコンプライアンス違反に手を染めている例が多いからです。「長いものにまかれる」日本型企業不祥事の典型例です。

なぜ悪いことだと思いながら不祥事を起こしてしまうのでしょうか。

大西氏:
不祥事に手を染めるかどうかの瀬戸際に立たされた場合に、不祥事につながる行動を取ったときと、取らなかったときの「損得勘定」が真っ当に行われていないからなのだと私は結論します。コンプライアンスを善悪や倫理観で片付けようとする一般的な風潮に真っ向から石を投げるような意見ですが、私はこれが本質だと考えます。

その会社の組織の風土、権威勾配、人事・評価制度、報酬体系、そして組織・個人の倫理観等々。様々な経営エレメントが複雑に絡まって一人ひとりの「損得勘定」が行われます。単純な法律論でも倫理観の話でもなく、まさに企業経営の様々な要因が内包されるわけです。前回お話しした「企業コンプライアンスは企業経営そのものなのだ」という我々の理解の論拠はここにあります。

たとえば、コンプライアンスに違反する行動を取っても数字を上げた人間が昇進し優遇されている会社の場合、昇進や優遇に一番の価値を見出す人間にとっては悪いことをやった方が「得」ですよね。「結局ああいう人間が評価されるのか」と皆見ているわけです。口には出さなくてもそういう企業風土の会社で、コンプライアンスは大切だ、倫理が求められる、と言っても効果は期待できません。

正すべきは、個人の倫理観だけではなく、組織に潜む不祥事を惹起する「病理」なのです。

三浦弁護士:
「ぷらっと法務」で取り上げた三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の事件でも、真っ当な損得勘定がゆがめられていたことが、原因の1つであると私たちは考えています1

関係者の証言を読んでいると、どう合理的に考えても海外贈収賄は防がなければならない、取れるリスクではないのですが「この商売は捨てる」という意思決定が苦痛を伴うため、「賄賂を払ってでも事業を進めた方がいい」とリスクの評価自体を歪めてしまったように思われます。

これは「認知的不協和」という心理学的なバイアスの典型例です。ところが、法務・コンプライアンス業界では、こうした心理学的、意思決定論的な見地から企業不祥事が分析されることはほとんどありません。

企業不祥事が起きた会社では一般的に弁護士の方々による第三者委員会が組成されて、今後の解決策が出されています。

三浦弁護士:
実は、第三者委員会が弁護士を中心に構成されるようになったのはここ数年のことです。かつては様々な分野の専門家が集まって問題の本質を検証するやり方が主流でした。これは「ぷらっと法務」の考え方に近いやり方です。

もちろん、企業側も弁護士が万能だとは考えていないでしょう。ただ、企業不祥事への対応を見て、もっと問題の本質に突っ込んでいかなければならないのに、「厳しい弁護士にお裁きを受ける」ことで禊を済ませたような体裁にしていると感じることはありませんか? 仮に経営陣にそうした意図はなくとも、従業員から「経営陣は問題の本質を見て見ぬふりをしている」と受け止められてしまえば、企業不祥事の連鎖は止まらないと思います。

企業不祥事が起きた後の立て直しには何が必要なのでしょうか。

三浦弁護士:
企業全体でコンプライアンスの課題に対処できるような仕組みや企業風土を整えることです。自然体でコンプライアンスが実現できる組織への「衣替え」といってもよいでしょう。

今や、企業不祥事は企業の存続を脅かす重大な危機です。「コンプライアンスは誰の仕事か」などという責任の押し付け合いや、「誰が悪いのか」といった犯人探しに終始している場合ではありません。企業存続の危機を乗り越えるべく、経営陣から末端の従業員までが立場を超えて知恵を結集しなければならないのです。法務・コンプライアンス部門はその仕組みづくり、企業風土づくりの旗振り役です。

もし、組織運営や企業風土づくりのノウハウに長けた人材がいなければ、プロジェクト発足当初だけでも外部のアドバイザーを使いましょう。企業不祥事をきっかけとして始まった仕組みや改められた企業風土は、その後も維持・発展していかなければなりません。そのためには最初に自走できる体制を作ることが不可欠です。問題発生当初にその場しのぎの対応、たとえば法律問題への対応に終始して、組織運営や企業風土の問題をなおざりにしていると、数年で息切れを起こし、コンプライアンス施策は瞬く間に風化します。

「ぷらっと法務」は、私たちが現在クライアント企業に提供している、法律、組織運営、知識創造等をまとめ上げたコンプライアンスのノウハウの紹介だけでなく、参加企業や法律以外の様々な専門家のノウハウを集め、コンプライアンスを継続的に発展させていく土台となるような集まりにしたいと考えています。

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 三浦 悠佑弁護士

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 三浦 悠佑弁護士

コンプライアンスを投資に、キーマンは社外取締役

経営がコンプライアンスに対して理解を示していない場合、どのような対処法が考えられますか。

大西氏:
私は経営層の方々には、一貫して「コンプライアンス対策は投資と位置づけてください」とお話しています。コンプライアンスを単なるコストと見ると、条件反射的に「削減」となりますよね。それでは優秀な人材も起用できないし、有効な活動に必要な予算も出てきません。ESG経営が注目される現在、企業を真っ当に運営し、マーケットや社会から正しく評価されるために、ESGのG(Governance)の根幹をなす企業コンプライアンスはマストの投資案件であり、その充実のための経営戦略が必要です。

コンプライアンスは企業にとって法務に丸投げできる問題ではありません。経営の明確なコミットメントが求められます。

三浦弁護士:
経営に働きかけるフックとして、社外取締役や監査役も重要です。経産省の「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」でも、社外取締役は企業のガバナンスに果たす役割を期待されています。

企業不祥事が起こると、第三者委員会はほぼ必ず取締役会議事録のレビューを行います。社外取締役の発言は事後的にチェックの対象になるのです。コンプライアンスに精通されていない社外取締役が、組織の利益をコンプライアンスに優先させると捉えられかねない発言をすれば、たちまち責任問題になります。

そのような方にも、ぜひ「ぷらっと法務」に参加していただきたいですね。取締役会での問題提起につながる情報収集の場として使っていただけますし、経営に近い方との多面的な議論は、参加企業や私たちにとっても非常に刺激になります。

経営者に進言するべきは社外取締役や監査役なのでしょうか。

大西氏:
そう考えます。自らの知見と「これはまずいのでは」という肌感覚を最大限活用し、経営者がコンプライアンス違反につながる行動を取らないように、サラリーマン的な忖度や躊躇なく、潜在・顕在的なリスクを執行側に進言できる立場にある社外取締役、監査役の使命は重大です。

三浦弁護士:
外部から来た、しがらみを持たない人による劇薬的な発言は効果が大きいです。

どの企業の経営者も、好きでコンプライアンス違反をしているわけではありません。真っ当な意思決定ができなくなっているのであれば、どこかで正気に戻してあげる人が必要です。

日本の社外取締役人事を見ていると、経営者同士のつながりで選ばれている傾向もありますが、それでは経営者を正気に戻すような思い切った発言ができず、かえって企業不祥事発生のリスクが高まるのではないかと思います。

大西氏:
私自身が有事・事件対応の当事者であった時はたとえ短期的にどんなに嫌われても疎まれてもいいから、会社のために、言わなければいけないことは徹底的に言う勇気を持とうと決めました。ラグビーに例えればフルバック、間近に迫る自陣のゴールラインを横目で意識しながら、自分の後ろには誰もいないんだ、という気持ちを持っていましたね。サラリーマンとしてはかなりの勇気が必要でした(笑)。

同種の境遇に喘ぐクライアントさんにも全く同じことを進言します。盾になろう、と。皆さん目を白黒されますが、そんな時に社外取締役・監査役は強い支えになるはずです。

不祥事に巻き込まれてひどい目に遭う人をこれ以上は絶対につくらない、この会社で、この社会で、辛い思いをする人がなるべく少なくなるような活動にしよう。立場は変わりましたが、そういう思いを持って、今もこの活動を本気でやっています。

大西さんは経営陣とどういうコミュニケーションをとっていたのでしょうか。

大西氏:
当時の社長は終始一貫して「十分なコンプライアンスの体制の構築は企業としてやらなければいけないことなんだ」と言ってくれました。大きな物心両面の支えになりました。正直言うと、それがなかったら、間違いなくうまくいかなかったと思います。

Big West Brothers Consulting & Solutions 代表 大西 徳昭氏

Big West Brothers Consulting & Solutions 代表 大西 徳昭氏

コンプライアンスに関するプロフェッショナルが集まる場へ

これから、どのように「ぷらっと法務」を運営されていきたいですか。

三浦弁護士:
「ぷらっと法務」が目指すのは法務・コンプライアンスの知識創造です
そのために、まずは今日お話ししたようなコンプライアンスに関する問題意識を持っている方、法務だけでなく経営層や社外取締役、監査役の方にも集まっていただき、仲間を作るところからスタートしたいと思っています。

そのうえで、会員の方々が抱えている悩みや課題を共有し、立場を超えて濃密な議論をしていきたいと考えています。議論の結果は各会員が各企業に持ち帰って実践し、社内からのフィードバックを「ぷらっと法務」内で共有してノウハウをブラッシュアップする…まさに、私がプロジェクトチームで経験した知識創造プロセスの再現・実践です。

究極的には、法務・コンプライアンスのベストプラクティスが集積する場であり、新しい課題に対してクリエイティブな解決策を皆で考えられるような場を目指していきます。

大西氏:
知識創造とそのシェアは「ぷらっと法務」の大きなテーマですが、私自身はそれに加えて、「こころざし」的なものの共有を是非その土台に置きたいと考えます。企業コンプライアンスの世界に蔓延する「知識偏重」への強烈なアンチテーゼです。

人間が本当に動くかどうかは、人々の「こころ」が共鳴できるかどうかにかかっていると思います。理屈やノウハウだけでは足りない世界、空疎なお題目に堕しない、やっている人間の「本気」をとことん問われる世界であり、本気の「魂」がそこにこもっているかどうかが問われているのです。

企業コンプライアンスに「魂」や「損得勘定」などと変わったことをいう奴だなと思われるかもしれませんが、企業コンプライアンス活動の「神髄」を正しく理解し実践することに唯一の成功のカギがあると私は確信していますし、クライアントさんにもそうお伝えしています。

企業コンプライアンスの強化・実践にとって弁護士の皆さんは法律のプロフェッショナルであり、重要なアドバイザーです。ただ、これまでお話したように、企業コンプライアンスはまさに企業経営そのものです。その実効的な実践には法律だけでなく組織運営や様々な専門的な能力が必要です。各分野のプロフェッショナルが力を発揮し、協力しあうことで良い社会を作っていきたいですね。

「ぷらっと法務」では様々な経験と知見をお持ちの経営者・社外取締役・監査役、そして現役・OBの企業法務経験者のみなさんの参加をお待ちしています。

(写真:弘田 充、取材・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)


  1. タイ南部での火力発電所建設に関係して現地公務員に賄賂を提供したことにより、三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の元幹部3人が2018年7月に起訴された。法人としてのMHPSは東京地検と司法取引に応じたことにより起訴を免れた。 ↩︎

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