「企業コンプライアンスは企業経営そのもの」 分野を超えて協力する2人が語る経営・事業部を巻き込む秘訣

危機管理・内部統制

目次

  1. コンプライアンスは会社全体を動かす仕事=経営である
  2. やらされ感のあるコンプライアンスを変える秘訣

法務・コンプライアンスに関わる人のネットワーク作りを行う場として2019年夏に発足した「ぷらっと法務」は、大西 徳昭氏と三浦 悠佑弁護士のある思いから生まれました。

大手海運会社の上司・部下として全社的なコンプライアンス体制の構築に取り組み、部門、国籍も多様なメンバーと共に全社を巻き込んだプロジェクトを推進した2人は、「企業コンプライアンスは企業経営そのものである」と言い切ります。

一方的に法律情報を提供するだけの従来型のコンプライアンス対応から脱却し、経営、事業側、法務が一体となったコンプライアンス体制を構築するためには何が必要なのでしょうか。「ぷらっと法務」立ち上げの思いと共に伺いました(取材・撮影は2月に実施)。

コンプライアンスは会社全体を動かす仕事=経営である

「ぷらっと法務」とはどのような取り組みなのでしょうか。

三浦弁護士:
法務やコンプライアンスに携わる人たちのネットワーク作りの場です。もともと、私と大西さんで主催していたワークショップを受講した方々から「これからも同じ班の人たちと議論する場が欲しい」というご要望を受け、去年の夏に発足しました。「ぷらっと法務」の名称は法務・コンプライアンスの “Platform” であると同時に、ぷらっと気軽に立ち寄って相談できる会にしたいという思いが込められています。

大西氏:
サラリーマン時代はずっと、いわばビジネス側(稼ぐ側)で仕事をしていたのですが、2009年春、入社26年目を迎えた頃、それまで全く経験したこともなく、正直言えば一切興味もなかった法務セクション、具体的には独禁法コンプライアンスに主な焦点を当てた社長特命法務部長になりました。文字通り青天の霹靂で「何が起きたのか?」と驚きました(笑)。

私たちが勤めていた国際海運会社はグローバルビジネスを主戦場としており、私に与えられた最初の課題は、親会社が責任を持つグループの42か国、国内外⼦会社200余社、約55,000⼈の従業員をカバーするグロ ーバルコンプライアンス体制を⼀から構築することでした。

法律面に関しては弁護士に相談できるものの、経営・ビジネスの側面からアドバイスをいただいたり、他社のベストプラクティスを学んだりする機会は全くなく、まさに手探りの毎日でした。窮余の策として、それまでのグローバルビジネスの経験を通じて培った人脈やネットワークを頼りに他社の法務部にコンタクトし、お話を伺ったところ大変参考になったのです。

そういった自分自身の経験もあり、気軽に他社の法務セクションの皆さんと仲間意識をもって話せる場所があれば社会的に大きな意義があるのではないかと考え、我々のコンプライアンスセミナーに参加してくださった皆さんにお声がけし、ワークショップを主催してみたところ「こういう場がほしかった」と評判がすごく良かったのです。

Big West Brothers Consulting & Solutions 代表 大西 徳昭氏

Big West Brothers Consulting & Solutions 代表 大西 徳昭氏

どういう方々が集まって、どのような議論をされているのでしょうか。

三浦弁護士:
法務担当の方を中心に、数十社の会員がいます。私たちが一方的に何かを教えるのではなく、会員相互の学びを大事にしているので、参加者は受講者であると同時に、プレゼンター、ファシリテーターも担います。

これまで2回開催しましたが、初回は国内大手メーカーの元法務部長の方が実践されてきた、海外子会社のコンプライアンス体制強化の事例紹介を、2回目は日本版司法取引の第1号案件である、三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の裁判傍聴記録を元に、コンプライアンス違反発生の理由と防止策を検討しました。

大西氏:
参加者の事情が許す限り、かなり生々しい本音ベースの話をします。通常のセミナーとは違って、本音で突っ込んで議論をし、本当に必要なことについて参加者同士で突き詰めて考えます。

大西さんと三浦先生は上司・部下の関係だったんですね。

三浦弁護士:
非常に難しいコンプライアンス体制構築のプロジェクトに取り組んでいました。大西さんはずっと事業部門にいたビジネスサイドの人。私は法律事務所から出向してきた法律の世界の人間。立場が違うため、お互いの考えを理解するのに苦労し、衝突しながらプロジェクトを進めていたのです。

プロジェクトに集められたメンバーは部署、世代、国籍も様々で非常にバラエティーに富んでいました。そのチームのなかで、問題を解決していくプロセスが非常にクリエイティブで、コンプライアンスに対する私の見方が大きく変わったのです。

どのように変わったのでしょうか。

三浦弁護士:
弁護士だけに頼ってもコンプライアンスはうまくいかないと実感しました。

プロジェクトでは、いろいろなバックグラウンドを持ったメンバーが知恵を合わせてコンプライアンスという「答えのない課題」に取り組みました。しかも、こうした「知恵の集結」はチームだけでなく、事業部を巻き込んで起こりました。事業部とコミュニケーションを重ねるなか事業部の様々なノウハウ=知恵がプロジェクトチームにもたらされ、プロジェクトチームがそれをまとめ上げて社内に還元する…ということが起こったのです。

これは、経営学者である野中 郁次郎先生が提唱する組織的知識創造プロセスそのものです1コンプライアンスとは単なる法律問題ではなく、経営そのものであると目の当たりにしたプロジェクトでした。

法律や弁護士の権威に頼るだけでは人の心は動かせません。「答えのない課題」に対応するには、社内外のあらゆる知恵を取り込む柔軟さが必要です。「ぷらっと法務」はプロジェクトチームで起こった「企業経営としての法務・コンプライアンス」「クリエイティブな法務・コンプライアンス」を世の中に広めるために立ち上げたプロジェクトです。

大西氏:
まさに「企業コンプライアンスは企業経営そのもの」です。「ぷらっと法務」の活動を通じてこうした理念に賛同いただける仲間を、法務に限らず、経営や事業側においても増やしたいですし、コンプライアンス違反の結果、大切な人生が大きなダメージを受けないように、つらい思いをする人が少しでも減るように、本当に世の中に必要な処方箋を「ぷらっと法務」や日常のコンサルティングを通じて提供したいと思っています。

やらされ感のあるコンプライアンスを変える秘訣

社内研修を実施しても事業部が「やらされ感」を持ってしまう、というお話をコンプライアンス担当の方から伺うことがあります。企業のコンプライアンス活動はなぜうまくいかないのでしょうか。

大西氏:
一般的な企業コンプライアンス活動は法務から法律の話を伝える「一方通行」が多く、経営や事業部にとっては、「ジブンゴト」として捉えにくいことが理由の1つにあげられます。興味のないもの、自分に必要のないものを一方的に押し付けられても「ジブンゴト」にはなりません。そこには「マーケットイン」の発想が不可欠です。

三浦弁護士:
私たちが取り組んだプロジェクトでは、コンプライアンスの活動主体を各事業部と定義しました。事業部がそれぞれの部門の内部ルールとして自らコンプライアンスガイドラインを作成し、部門長の名前で部門内に周知、運用していくのです。

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 三浦 悠佑弁護士

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 三浦 悠佑弁護士

大西氏:
従来コンプライアンアス活動の「お客さん」であった事業側に「ジブンゴト」としての主体性を持ってもらうには組織力学・組織運営の視点が欠かせません。

たとえば、活動の戦略策定においては組織内部の権威勾配、レポーティングラインやジャッジメントの力学を探り、正確に把握・理解する必要があります。簡単に言うと、社員の皆さんは「誰を見て仕事をしているのか・それはなぜか」を理解するということです。

実際のコンサルティングの一例をお話すると、法務が事業側に色々言っても聞かないのであれば、事業部側の社員が「見ている」人たち(彼らの上席)に責任を持ってもらうようにする、等の発想の一大転換が必要です。多くの会社では法務がコンプライアンス活動の第一義的な責任を持つために、事業部は「法務に言われたからやる」やらされ感が生じるのです。

法務はあくまでもアドバイザーであり、コンプライアンス活動の主体はリスクにさらされながらビジネスを営んでいる事業側なのだ、というコンセンサスの醸成が必要です。「営業をやっているあなたたちが真っ当なビジネスをやるために必要な環境は、自分たちで考えてください。そのために必要なアドバイスは徹底的に寄り添って行いますよ」という姿勢、具体的な施策・メッセージを組織内のあらゆるチャンネルを動かして浸透させ、明確に示すことが大切です。

言うのは簡単ですが、どの会社でもほとんどできていません。これができるようになったら状況は全く変わります。

お気づきのように、これはもはや法律論ではありません。企業コンプライアンスは法律家のサポートだけでなく、実際の経営や組織運営、そして現場でビジネスを行った人間の経験・知見・ノウハウ、あるいは組織心理学等の切り口を有機的かつ包括的に絡めながら行う必要があります。法律家である三浦さんと、この手の知見・経験を有する私がペアでアドバイスをしている所以がここにあります。

三浦弁護士:
私たちは、この一連のノウハウを「チェンジ・オーナーシップ・アプローチ」と名付け、「ぷらっと法務」やコンサルティングサービスを通じて多くの企業に紹介しています。

他にも企業コンプライアンスがうまくいかない理由はありますか。

三浦弁護士:
最近ではESG投資やSDGsの考え方が広まり、法令違反ではないけれど、企業として好ましくない行動も企業不祥事と捉えられるようになりました。ところが、この種の企業不祥事についても法務や弁護士が中心となって取り組んでいる例が多く見られます。

企業として好ましい行動を決めるのは、法務や弁護士なのでしょうか。たとえば、私は弁護士ですが、企業経営の経験はありません。企業勤務の経験はありますがたったの3年です。そんな私が「企業として好ましい行動」を喧伝して、社内が納得するでしょうか?しませんよね。ところが、多くの企業でそれと似たようなことが起こっているのです。

法務や弁護士に期待し過ぎなのです。私たち弁護士は、法律・法務という分野の知識や経験は豊富ですが、コンプライアンスという経営の重要課題を単体で担うには、あまりにも知識や経験が偏り過ぎています。

コンプライアンス活動がうまくいかないと悩んでいる方は、法律やコンプライアンスについて書かれている本を1冊読む時間を、法務・コンプライアンス以外の分野から何か使えるノウハウがないか探す時間に充ててみてください。私の経験では、社内のノウハウに助けられる場面が多かったので、まずは身近なところで社内に目を向けることが有効だと思います。

(後半に続く)

(写真:弘田 充、取材・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)


  1. 参考:野中 郁次郎、竹内 弘高、梅本 勝博「知識創造企業」(1996、東洋経済新報社)など ↩︎

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