基礎からみたPFI

第5回 PFI事業のプロジェクト・ファイナンス関連契約

不動産

目次

  1. プロジェクト・ファイナンスに関連する契約
    1. 優先貸付契約
    2. 総資産担保
    3. 劣後貸付(株主融資)
    4. 直接協定
  2. おわりに

 「第4回 PFI事業における資金調達」では、PFI事業における資金調達がプロジェクトファイナンスの手法によることや当該手法を通じたリスク管理について解説しました。
 今回は、かかるプロジェクト・ファイナンスを実現するための各種契約のポイントについて解説します。

プロジェクト・ファイナンスに関連する契約

 第4回で述べたプロジェクト・ファイナンスの手法による場合、資金調達に関連して通常締結することになる主な契約は、以下のとおりとなります。

  1. 優先貸付契約
  2. 質権(譲渡担保権)設定契約
    • 事業契約上の債権
    • プロジェクト関連契約上の債権
    • 預金債権
    • 保険金請求権
    • 株式
  3. 契約上の地位譲渡予約契約
    • 事業契約上の地位
    • プロジェクト関連契約上の地位
  4. 抵当権設定契約(BOT方式の場合)
  5. 劣後貸付契約(株主による劣後貸付が行われる場合)
  6. 債権者間契約(株主による劣後貸付が行われる場合)
  7. 金利スワップ契約(優先貸付契約の利息が変動金利の場合)
  8. 株主確認書
  9. 直接協定

優先貸付契約

 金融機関がSPCに対して貸付けを行う際に締結する契約であり、「第4回 PFI事業における資金調達」で述べたリスク管理の観点から、PFI事業実施にあたって必要となる各種前提条件の充足(SPCへの出資完了、事業遂行上必要な契約の締結、事業契約上の義務を適切に履行していること等)、金融機関に対する各種誓約(事業計画に関する金融機関の承認取得、各種契約上の適切な義務履行、金融機関の承認を経ない契約変更・株主構成および株主割合の変更・新たな契約締結および債務負担の禁止、キャッシュフローの一定比率以上の維持、プロジェクトキャッシュフロー管理のための口座開設および維持等)やプロジェクトキャッシュフロー管理のための詳細な規定が設けられることになります。
 これらの規定が遵守されない場合には、劣後貸付の返済を停止させる等の手当によりキャッシュフローの立て直しを行い、それでも計画どおりの返済が困難な見込みとなれば、期限の利益を喪失させてステップ・インを行うことで事業を継続し、可及的な回収を図ることになります。

総資産担保

 第4回で述べたとおり、金融機関は、SPCが保有する総資産を担保にとることになるため、プロジェクト関連契約上の債権や構成企業が有するSPCの株式を対象として質権(または譲渡担保権)を設定し(②)、また、SPCのプロジェクト関連契約上の地位について金融機関の指定する第三者に対する譲渡予約(地位移転に関する予約完結権を金融機関に付与)を行う(③)ことになります。
 プロジェクト関連契約に基づき具体的に生じ得る債権等を対象とした質権(または譲渡担保権)の設定に加えて、同契約上の地位につき譲渡予約(③)を行うのは、その資産価値に着目した担保取得というよりも、「第4回 PFI事業における資金調達」で述べたとおり、事業遂行上問題が生じた場合における金融機関のステップ・インを可能とするための方策となります。これにより、SPCから業務受託を受けたコンソーシアムメンバーの経営不振や倒産等により事業が停止するなど、計画どおりに事業遂行が行われない場合には、第4回で述べたステップ・インにより事業継続を図ることが可能となります

劣後貸付(株主融資)

 SPCに出資を行うコンソーシアムメンバーである「構成企業」のうち一定の出資割合を有する単独または複数の企業により、出資とは別にSPCに対する貸付け(以下「劣後貸付」といいます)が行われたり、一定額の「融資枠」(以下「劣後融資枠」といいます)が設定されることがあります。
 事案にもよりますが、上記 1-1の金融機関による貸付(以下「優先貸付」といいます)では賄えないコストの財源確保(劣後貸付)やコストオーバーラン等に対応するための事業期間中の借入可能な融資枠(劣後融資枠)として用いられることが一般的です。
 かかる貸付は、優先貸付に係る支払に劣後する支払となるよう仕組まれることになります。

直接協定

 直接協定とは、公共と事業契約の当事者ではない金融機関との間で、PFI事業の確実かつ円滑な遂行を図ることを目的として締結されるものです。
 すなわち、SPCによる事業継続が困難な事情が生じ、公共側に事業契約上の解除権が生じた場合であっても、即時に事業契約を解除するのではなく、金融機関に対して事前に通知したうえで解除の適否につき協議を行うべきことが規定されます。他方、金融機関においても、優先貸付契約上の期限の利益喪失事由が生じた場合、これにより株式担保実行やSPCの事業契約上の地位譲渡予約に係る予約完結権行使を行う場合には、事業継続の可能性および講ずべき措置等につき事前に公共と協議を行うべきことが規定されます。このように、SPCによる事業継続に疑義が生じた場合であっても、公共と金融機関が協議のうえ、PFI事業自体は継続させる方向で最適な方針決定ができるよう仕組まれることになります。

おわりに

 以上のとおり、PFI事業において、プロジェクト・ファイナンスの手法により金融機関が優先貸付を行うことは、単にSPCの資金調達目的を果たすのみならず、金融機関による事業リスクに係る分析および管理の観点から極めて重要な役割を果たすことになります。  

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