基礎からみたPFI
第3回 PFI事業に関わるコンソーシアムとSPCの活用
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「第2回 PFIの事業類型」では、PFI事業(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ:民間資金等活用事業)について、事業者の収益の観点や対象施設の所有形態の観点から分類しつつ解説しました。
今回は、PFI事業に関わるコンソーシアムやSPCの活用等について触れながら、PFIの基本構造について解説します。
PFI事業に関わるコンソーシアムとそのメンバー
「第2回 PFIの事業類型」のとおり、PFI事業は、国または地方公共団体(以下「公共」といいます)から複数の業務を一括して受注するものであることから、当該各業務(設計・工事監理業務、建設業務、維持管理業務、運営業務等)遂行に適した複数の民間事業者が一つのグループ(一般的に「コンソーシアム」と呼ばれます)を組成し、コンソーシアム単位で入札に参加することになります。そして、無事落札できた場合には、コンソーシアムに属する民間事業者(以下「コンソーシアムメンバー」といいます)が特別目的会社(SPC)を設立し、当該SPCがPFI事業の実施主体となって、公共との契約締結等を行います。
ただし、SPCが事業の実施主体となりつつも、PFI事業を構成する各業務はSPCから各コンソーシアムメンバーに個別に委託・発注され、また、コンソーシアムメンバーからSPCに役員が派遣される等して、実質的な事業運営はコンソーシアムメンバーにより行われることになります。
上記の基本構造を図示すると、以下のとおりとなります。
コンソーシアムメンバー間の合意と資格要件
PFI事業は、民間事業者の集合体であるコンソーシアム単位で、入札準備、入札、SPC設立、事業契約の締結、資金調達、事業実施という一連のプロセスを行うことになるため、コンソーシアムメンバーが協同し、一定の範囲で相互に拘束し合うことが必要となります。かかる観点から、入札前においては「入札前協定書」、落札後、SPCを設立した際には「株主間協定書」が締結されることが通常です 1。
なお、コンソーシアムメンバーのうち、SPCに出資を行う事業者を「構成企業」、出資は行わないものの一定の業務を行う事業者を「協力企業」と呼ぶことが一般的です。公募資料である「入札説明書」や「募集要項」等において、「構成企業」、「協力企業」または各業務を担当する企業(SPCから受託・受注し各業務遂行を行う企業)ごとの資格要件が定められることになります。
したがって、上記各資格要件を満たすコンソーシアムメンバーにより入札を行うことが当然必要となりますが、実務では、公共サービスの実施という性質上、地元企業がコンソーシアムメンバーに含まれていることも入札時の重要な要素になることが多く、それに加え、PFI事業の経験のある企業が含まれていること等も入札時のポイントになり得るものと考えられます。
特別目的会社(SPC)の活用
上記1のように、落札により特定のコンソーシアムによる事業実施が決定した場合には、コンソーシアムメンバーの全部または一部(構成企業)の出資および役員派遣により特別目的会社(SPC)が設立されます。かかるSPCに各種キャッシュフローや権利義務を一本化することによって、事業全体の効率的なリスク管理等に資することとなります。
上記2にあるとおり、SPC設立後、構成企業(株主)の間で、以下の定めを含む「株主間協定書」が締結されます。
- 各構成企業の出資割合、役割および役員派遣の人数等
- 株式譲渡制限
- 各構成企業に信用不安や約定違反が生じた場合に、当該構成企業の株式を他の構成企業が買い取ることができること
- 一部の構成企業(一定以上の出資割合を有する企業)によりSPC向け劣後融資を行う場合には、その旨やその場合の条件等
- SPCの倒産不申立ての約定等が規定されることとなり、PFI事業を実施するうえでのSPCの運営・支援体制やリスク分担
SPCと公共間での事業契約の締結
上述のとおり、PFI事業の実施主体はSPCとなるため、SPCと公共の間で事業契約が締結されることになります(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(以下「PFI法」といいます)14条)。事業契約では、PFI法、PFI事業に関する「基本方針」2 およびPFI事業に関する「リスクガイドライン」3、会計法その他の法令等に照らし求められる、以下の事項について規定します。
- 契約の目的
- 事業の趣旨の尊重
- 契約期間および事業日程(履行期限)
- 事業概要、事業者の資金調達
- サービス対価(契約金額)
- 契約保証金に関する事項
- 解除等による契約の終了
- 公共と事業者の間の責任分担およびリスク分担 等
このうち、公共と事業者の間のリスク分担については、事業全体の効率的なリスク管理というPFI事業の趣旨に照らし極めて重要な項目であり、「リスクを最もよく管理することができる者が当該リスクを分担する」4 という考えに立って規定されるべきです。このように、事業契約は、事業者が自ら資金調達を行うことで公共が求めるサービス水準(要求水準)を満たす公共サービスを提供し、これに対して公共がサービス対価を支払うことおよび公共と事業者間のリスク分担等について規定する、事業の根幹となる契約と位置づけられます。
事業契約が締結される時期はコンソーシアムによる落札後にはなりますが、公募の段階で公共から事業契約書「案」として公表されていることから、基本的に、事業契約の内容について交渉等による変更は想定されていません。したがって、通常は、事前に公表された「案」の内容からほぼ変わらず締結されることになります。ただし、事業契約の締結前に「解釈確認」のプロセスを挟むことにより、公共側に個別の条項にかかる解釈や運用上の想定等を確認できるというのが実務的な運用となっています。
SPCによる金融機関からの資金調達
SPCは、事業実施にあたり必要となる費用につき自ら資金調達を実施する必要があるため、民間の金融機関から借入れを行い、また、当該借入れに関し、SPCが保有する全資産に担保権を設定するのが一般的です。
融資金融機関にとっては、SPCが行うPFI事業からの収益のみを引当てとして貸付けを行うことになるため、いわゆるプロジェクト・ファイナンスの手法によることになります。この点についての詳細は、次回の記事において説明します。
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なお、落札後において、公共とコンソーシアムとの間では「基本協定」が締結されることが通常であり、コンソーシアムの構成企業がPFI事業者となる株式会社を設立すべきことや事業の準備行為に関する取扱い等について規定されることになります。 ↩︎
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「民間資金等の活用による公共施設等の整備等に関する事業の実施に関する基本方針」(2012年(平成24年)3月27日閣議決定、平成27年(2015年)12月18日変更) ↩︎
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「PFI事業におけるリスク分担等に関するガイドライン」(2001年(平成13年)7月27日、2019年9月12日最終閲覧) ↩︎
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出典:「PFI事業におけるリスク分担等に関するガイドライン」一の2(2001年(平成13年)7月27日公表、2019年9月12日最終閲覧) ↩︎
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