改正健康増進法と職場の受動喫煙対策

第2回 プロボノ活動の枠を超え 議員の道を選んだ弁護士が「2020」に描く夢

人事労務
岡本 光樹弁護士 岡本総合法律事務所

目次

  1. 企業法務とプロボノ活動
  2. 「朝から晩まで8時間、白く霞むほどの煙のなかで働いています」
  3. 都議会選挙立候補の舞台裏
  4. 「習慣ではなく依存症」という認識を広めていく

大手法律事務所の企業法務弁護士としてクライアント企業の課題解決に取り組むかたわら、受動喫煙の相談に応じる個人ホームページを立ち上げ、法律の専門家の立場から受動喫煙に苦しむ数多くの相談者をサポートしてきた岡本光樹氏。

2017年に都議会議員選挙に立候補し、見事初当選を果たした岡本氏は、2020年4月1日に全面施行される東京都受動喫煙防止条例の制定に大きな役割を果たしました。

東京五輪・パラリンピックを来年に控え、改正健康増進法と東京都条例の周知活動に奔走する岡本氏に、弁護士としてのキャリア、議員活動にかける思いを聞きました。

企業法務とプロボノ活動

もともと岡本議員は大手の法律事務所に所属され、企業法務などを担当されていらっしゃったそうですね。当時、主にどのような案件を担当されていたのでしょうか。

M&A、買収防衛策、ファイナンス・不動産の流動化、労働事件、株主総会指導などですね。なかでも労働事件は比較的多く担当していました。

そのような企業法務の仕事に弁護士としてのやりがいを感じていましたか。

非常に大きなやりがいを感じていました。

一方で、学生時代から人権問題に関心を持っていらっしゃったと。

はい。大学2年生のときにゼミの活動で、ハンセン病国家賠償訴訟を担当された弁護士の先生の講演を聴きました。弁護士は、人々の苦しみに寄り添い、裁判を通じて国の政策・法律の過ちをただし、さらには、時の小泉純一郎総理大臣に働きかけて控訴断念・熊本地裁判決確定という結果まで導いた。弁護士という職業の可能性に強く惹かれました。そうした弁護士への憧れをもって、司法試験の受験勉強に打ち込み、合格しました。大手法律事務所への就職活動の際には、プロボノ活動に比較的理解のある事務所を選びました。

岡本光樹 東京都議会議員・弁護士

岡本光樹 東京都議会議員・弁護士

タバコ問題に関心を持たれたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

大学4年生のときに司法試験に合格して、高校時代の友人が合格祝いを開いてくれたんです。宴席に行くと、私以外の友人全員が喫煙者になっていました。大学4年間、私は自宅・大学・塾にこもって司法試験の勉強に専念していましたので、友人たちの変化や社会の様子にあまり気付かなかったんですね。私の両親はタバコを吸いませんし、もともとタバコと接することの少ない環境で育ってきた私は、ただただ驚きました。お祝いの主役であるはずの自分が、モクモクとするタバコの煙の中で、翌日まで続くほどのひどい喉の痛みを我慢しなければならない。そうしたことが一度ならず、繰り返しありました。

法律事務所への就職活動では、自分は喉が弱いということを話したにもかかわらず、喫煙する弁護士から受動喫煙を強いられたこともありました。そんな事務所への就職はお断りしましたが。

これから社会に出て行くうえで、タバコを避けて通ることはできないということ、そして、喫煙しない人間も他人のタバコの煙を吸わされてしまう状況が当たり前のように存在し野放しにされていることを認識し、私は強い違和感を覚えたんです。私自身、そんな苦痛を受け容れることに同意した覚えはないにもかかわらず、社会では、当然のようにありふれた光景となっている。法律を学んできた者の素朴な受けとめ方として、それは理解しがたいことでした。

司法試験の合格祝いで遭遇した受動喫煙の体験が、現在の活動へとつながっていくわけですね。

こうして私は、大学の卒業が近い時期にタバコの問題を強く意識するようになり、「受動喫煙」という言葉についても知りました。当時はまだ健康増進法が施行されたばかりで、徐々に大きなホテルなどで「健康増進法に基づき禁煙」といった掲示が出始めてきた時期でした。

「朝から晩まで8時間、白く霞むほどの煙のなかで働いています」

インターネットで検索して、タバコ問題首都圏協議会という団体のサイトを知りました。そのサイトに掲載の団体が毎月1回、タバコ問題に関する定例会を東京の飯田橋で開催していることがわかり、私も参加してみることにしました。そこには、受動喫煙で苦しんでいる人、受動喫煙に苦しんだ経験者が集まっていました。

女性相談者「私は朝から晩まで8時間以上、白く霞むほどの煙のなかで働いています。働いて帰宅すれば、髪や下着にまで強烈なニオイが染みつく状況です。毎日とても苦しくて、勇気をふりしぼって、上司や役員に話したところ、『タバコが嫌なら、会社を辞めるしかない。』と言われました。苦しさと悔しさを抱えたまま、どうしたらいいかわかりません。」

職場での受動喫煙に苦しんでいる方々を目の当たりにして、私のような一過性の受動喫煙よりもはるかに深刻な実態があることを知りました。タバコの問題に取り組んでいる弁護士は少数いたものの、受動喫煙問題を中心に扱う弁護士はいませんでしたので、ほかの弁護士がこの問題に取り組まないなら、自分が取り組むしかないと決意しました。私は「労働者の人権」という観点から、受動喫煙に関する相談を受けるようになりました。

弁護士として初めて受動喫煙に特化した相談ホームページを立ち上げたのも、そうした思いからだったのでしょうか。

はい。「受動喫煙の相談に応じる弁護士のHP」は2006年の弁護士登録後、まもなく立ち上げました。当時もそうでしたが、弁護士が受動喫煙に特化して一般の方から相談を受け付けるホームページは、現在でもおそらくないと思います。飯田橋の定例会に来ることができる相談者はごく一部で、受動喫煙で苦しんでいる方は日本中にいると思いましたので、ホームページを作って全国どこからでもメール相談を受けられるようにしようと考え、始めたのがきっかけでした。

どういった相談が寄せられましたか。

ホームページを立ち上げる前は、職場での受動喫煙ばかりを想定していましたが、実際には、マンションの隣人や階下の喫煙者のベランダ喫煙の臭いが住居に入ってくるといった相談も多く寄せられ、職場と同じくらい近隣住宅の受動喫煙の相談がありました。

また、件数は多くないながらも、夫からの受動喫煙に耐えられず協議離婚した件が複数ありましたし、家庭内で子どもが受動喫煙を受けていることに関する相談も複数寄せられました 1

当初私は、受動喫煙問題を、働く人の労働問題の視点でとらえていましたが、住環境における近隣からの権利侵害、家庭内、屋外・路上など、様々な社会生活における問題として、より幅広い人権問題ととらえるようになりました。

その後、米国ノースイースタン大学ロースクールの公衆衛生政策研究所で学ばれます。当時のことで印象に残っていることはありますか?

3週間ほど教授の研究室に入れていただき、研究者の方々と交流させていただくなかで、米国のタバコ裁判に関する多くのことを教えてもらいました。受動喫煙の裁判のリストを目にして、「米国ではこれだけの裁判を積み重ねてきたことにより、受動喫煙に対する理解が浸透していったんだな」と感じたことを覚えています。米国では能動喫煙でも勝訴の判決がいくつも出ており、懲罰的な賠償を認めた判決も出ています。日米のタバコ裁判の歴史の違いを学んだ時期でした。

その後帰国され、一度事務所を移籍し、2011年に独立されました。事務所の移籍を決めたのはやはり、受動喫煙の問題への思いだったのでしょうか。

キャリアのスタートに選んだ大手法律事務所は、人権問題やプロボノ活動 2 にも比較的理解はあったのですが、非常に規模の大きな事務所ですから、どうしてもコンフリクト(利益相反)の問題がつきまとってしまいます。当時、受動喫煙は、労働基準監督署への相談や使用者側企業との交渉が中心であり、直接タバコ会社を訴えるという話ではありませんでしたので、直接的な利益相反にはあたらないと考えていましたが、継続が難しくなるような状況も出てきてしまい、パートナーとも話し合って事務所を辞めることに決めました。

新しい事務所ではどのように活動に取り組まれたのでしょうか。

次にお世話になった中規模法律事務所は、タバコ問題、受動喫煙問題に非常に理解を示してくれて、活発に活動をさせていただきました。併行して、事務所の案件では、企業再生・倒産案件、会社法訴訟等の企業法務から、相続・離婚等の家事や一般民事まで取り扱いました。労働事件は、会社側も個人側もどちらも取り扱いました。弁護士として幅広い業務分野の経験を積ませていただきました。その後、独立への思いを強くし、2011年に独立しましたが、現在でも、その法律事務所とは仕事面で連携をさせていただいています。

岡本光樹 東京都議会議員・弁護士

企業法務から家事、一般民事にいたるまで幅広く弁護士業務に取り組む一方で、プロボノ活動として受動喫煙対策に力を注いできた岡本議員

大手事務所からの移籍後には、受動喫煙被害を理由に直接タバコ会社を訴える裁判の弁護団長を務めました。かつて所属していた大手法律事務所のパートナーと法廷で再会し対峙するときは複雑な心境でした。

タバコ会社が、受動喫煙の健康被害の告知・周知を怠ったこと、それどころかむしろ受動喫煙の健康被害を矮小化する広告を積極的に行って受動喫煙を助長し続けたこと等を理由として、製造販売者の責任を追及する裁判を展開しましたが、結果は敗訴しました。

このときの挫折によって、司法の壁の高さ、国策や国家権力に対する司法の限界についてあらためて痛感させられました。

都議会選挙立候補の舞台裏

その流れのなかで、今度は東京都議会議員選に出馬されます。そこにはどのような思いがあったのでしょうか。

私は、裁判と併行して、医師・看護師ら約3000人が所属する日本禁煙学会の理事メンバーとして、もともとタバコ問題に関するロビー活動も行ってきました。2014年の労働安全衛生法改正については、民主党政権時代の2010年から議論をしていましたし、民主党はマニフェストで「たばこ事業法」廃止を公約に掲げていましたから、私自身、民主党政権に大きな期待を持ち、当時の小宮山洋子厚労大臣をサポートする立場で活動をしていました。

タバコ問題の裏には、政官財(政治家・財務省官庁・タバコ産業)の利権構造 3 の問題があり、政治家への働きかけを避けては通れないことを実感していました。

その後、自民党が再び政権を取り、タバコ対策は遅々とした状況に戻ってしまいました。そうしたなかで、東京五輪・パラリンピックの開催が決まります。2016年10月および2017年3月に塩崎恭久厚労大臣がかなり厳格な案を出していたことから、これに期待して塩崎大臣を応援する立場で、署名活動やメディアでの発言をしていました。しかし、自民党内からの反対が強く、見通しが不透明な状況となりました。

私としても、国政より都政に働きかけたほうが実現可能性があるかもしれないと考え、小池知事が立ち上げた政治塾「希望の塾」に参加しました。

2017年3月に「希望の塾」から面接に呼ばれ、立候補を打診されました。しかし、私自身は「弁護士として、政策顧問や政策ブレーンとして使ってほしい」とお伝えして、立候補をお断りしました。その場で、「自身が都議会議員になった方が、政策や条例制定に直接関わることができる」と面接担当者から再考を促されました。

そこからしばらくして、4月末から5月初旬にかけて、小池百合子東京都知事が、受動喫煙対策の法制について国でできないなら東京都でやる、と宣言します。これを機に私としては、タバコ対策の主戦場は国ではなく東京都になると確信し、面接での言葉を思い返して翻意し、家族の反対を押し切って立候補の覚悟を決めました。

投票日は7月2日。5月末に最終的に公認が決定しました。

実質、残り1か月ですね。

1か月です。5月31日に公認が発表され、6月から政治活動をスタートし、6月23日に選挙戦に突入し、7月2日に投開票日ですから、非常に劇的な1か月でした。

選挙活動のノウハウは実戦で学ばれたのでしょうか。

はい。「都民ファーストの会」の議員経験者の先輩に、まさに実戦の中で街頭演説のやり方を教えて頂きました。「希望の塾」の「都議選対策講座」で公職選挙法の禁止事項を学んでいましたが、「都民ファーストの会」では、よりクリーンな選挙戦を行うため上乗せの自粛ルールを設けており、その遵守を心掛けました。

そして見事当選され、現在、まさに受動喫煙対策のルールメイキングの根幹に関わっているわけですね。

そうですね。まず、当選直後に議員提案の条例 4 を作りました。議員提案条例は当然議員しかできませんので、そういった意味では、議員になった意義が直ちに現われたと思っています。

岡本光樹 東京都議会議員・弁護士

岡本議員が当選直後に議員提案した「東京都子どもを受動喫煙から守る条例」は2018年4月1日に施行された

また、「働く人を守るんだ」というのが、私の活動の原点であり、そのことは都議会で何度も発言してきました。小池知事が、条例のなかに「働く人を受動喫煙から守る」という観点を明確に盛り込んでくださったことも、やはり議員になったからこそだと思っています。

成し遂げるべきことを実現するためのスピード感は、外から働きかけるより内側に入ったほうが圧倒的に早かったと。

そうですね。間接的に働きかけるだけでは、どうしても距離があります。また、議員になっても、既存の歴史ある政党では、当選期数の方が重視され1年目の議員の発言は十分に尊重されないかもしれません。しかし、「都民ファーストの会」という新しい党においては、多様な人材が議員に当選し、それぞれが各分野で培ってきた専門性を発揮し、党としても議員1年目からその専門的知見を積極的に活用するというマインドがあります。私はそのことを非常にありがたいと感じています。

「習慣ではなく依存症」という認識を広めていく

今年はラグビー・ワールドカップが開催され、来年には東京五輪・パラリンピックが控えています。大勢の外国人が来日するなかで、受動喫煙問題を考えるきっかけが増えてくるかもしれません。しかし、受動喫煙問題は「喫煙者vs非喫煙者」という対立軸で語られてしまい、議論がいつの間にか感情論にすり替わっているということがしばしば起こります。それを踏まえて、岡本議員は、タバコを吸わない人と吸う人の理想的な関係、議論の落としどころについて、どのように考えますか。

喫煙の本質は、ニコチン依存にあります。タバコを365日、朝から晩まで日常的に使用することは、「依存」によって、人が物質に支配されてしまっていると言えるでしょう。

工業的に大量生産された紙巻きタバコが常習的に消費されるようになったのは、せいぜいこの50年〜100年程度のものです。

タバコの問題はよく「嗜好(好み)」の問題として語られてしまいますが、本質的には「依存」の問題です。ニコチンが依存性の高い物質であるからこそ、解決の難しい問題であるわけです。

職場に限らず、住環境においても同じことです。職場の従業員や同僚・部下、また、家族、隣人、集合住宅の住人から苦情や苦痛を訴えられてもなお、自分のタバコ使用を他者の健康よりも高い優先順位に設定してしまう。これは依存症に伴う「乱用」や「認知の歪み」として説明できるのですが、根幹には「依存症」の問題があるわけです。

あくまでも疾患の1つの形態である、ということでしょうか。

はい。受動喫煙問題は、単なる好き嫌いの問題であったり、タバコを吸わない人との対立の問題などではなく、依存性物質の「乱用」であるという認識を、もっと広げていく必要があると考えています。

最後に、今後の活動の展望と目標を教えてください。

まずは、2020年4月1日の改正健康増進法と東京都受動喫煙防止条例の全面施行に向けて、周知徹底と遵守の確保を図っていく必要があります。また、東京都や千葉市のように「働く人を守る」という観点から、健康増進法の既存飲食店の例外措置を補う条例の制定を全国各地に広げていきたいですね。

さらには、現在の受動喫煙問題のなかで最も相談件数が多くなっている近隣住宅における受動喫煙被害の相談について解決策を模索していきたいです。改正健康増進法では、屋外・家庭内を問わず、広汎な一般的義務として、喫煙者の配慮義務が新たに導入されました。また、全面禁煙の集合住宅についても、もっと増えていく必要があると思います。

視点を広げると、環境問題・ゴミ問題として、タバコのフィルターによる海洋汚染の問題も指摘されています 5。また、海外の葉タバコの製造過程における児童労働の深刻な人権侵害も報告 6 されています。

タバコ規制はSDGs(持続可能な開発目標)の3.a 7 に明記されているということも、ぜひ知っていただきたいですね。

岡本議員、会期中のお忙しいところ、貴重なお話をありがとうございました。

ありがとうございました。

岡本光樹 東京都議会議員・弁護士

(取材・文・構成・写真:BUSINESS LAWYERS)

連載「職場の受動喫煙対策」。第3回では、地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪国際がんセンターの田淵貴大医師に医学的見地から受動喫煙対策に関するお話を伺います。

  1. 岡本光樹「「受動喫煙はまさに児童虐待だ!」私が都の禁煙条例を草案した理由」産経デジタルiRONNA ↩︎

  2. 職業人が専門スキルや経験を活用して行う社会貢献・ボランティア活動のこと。ラテン語のpro bono publico(公共善のために)に由来する。 ↩︎

  3. 松沢成文「JT、財務省、たばこ利権 ~日本最後の巨大利権の闇~」(ワニブックス、2013) ↩︎

  4. 東京都子どもを受動喫煙から守る条例(2017年10月13日公布、2018年4月1日施行) ↩︎

  5. 石田雅彦 Yahoo!ニュース記事 海は「タバコ吸い殻」汚染で泣いている
    石田雅彦 Yahoo!ニュース記事 タバコ「吸い殻」は街中「ポイ捨て」から海へたどり着く ↩︎

  6. ヒューマン・ライツ・ウォッチ「インドネシア:たばこ農場が潤う陰で苦しむ子どもたち 有害なニコチンや農薬にさらされる」2016年5月25日 ↩︎

  7. 国連開発計画「持続可能な開発目標(SDGs)」3.a「すべての国々において、たばこ規制枠組条約の実施を適宜強化する。」 ↩︎

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