ナイトタイムエコノミーの海外事例と日本の動向

危機管理・内部統制
仁木一彦

目次

  1. 海外都市ではナイトタイムエコノミーの経済規模算出に取り組んでいる
  2. 日本においてもナイトタイムエコノミー振興のための施策が検討されている
  3. 海外においてはナイトタイムエコノミー振興の先進事例が数多く存在する
    1. 有力コンテンツ
    2. 夜間交通
    3. 法規制と推進体制

近年、夜間帯における個人の消費やそれに伴う雇用の増加といった、経済規模の大きさに注目する「ナイトタイムエコノミー」という概念が、世界の各都市で注目されています。本稿では、ナイトタイムエコノミーに関する海外事例と日本の状況について取り上げます。

海外都市ではナイトタイムエコノミーの経済規模算出に取り組んでいる

都市によって算出手法は異なりますが、ロンドンにおけるナイトタイムエコノミーの経済規模は£40.1bn(約5.6兆円、Gross Value added; 付加価値の合計、2017年公表)、ニューヨークでは$29.1bn (約3.2兆円、Economic Output、2018年公表)と公表されており、その経済規模の大きさが注目されています。
*£=140円、$=110円で換算

このように、世界の主要都市ではナイトタイムエコノミーに関する統計の算出が進められているとともに、その経済規模をさらに拡大するための様々な取組みが官民の両側から行われています。

日本においてもナイトタイムエコノミー振興のための施策が検討されている

日本においてはナイトタイムの活用に向けた議論が本格化し始めたという段階です。

現在のナイトタイムエコノミー振興をめぐる議論は、訪日外国人観光客の消費額を増大させるための戦略の一環で検討されています。

政府が「明日の日本を支える観光ビジョン」にて定めた、「2020年までに訪日旅行消費額8兆円」という目標を達成するため、観光庁は『「楽しい国 日本」の実現に向けた観光資源活性化に関する検討会議』の成果として、『「楽しい国 日本」の実現に向けて』の提言を公表しました。その中で、夜間帯における訪日外国人の消費拡大が課題として特定されました。

具体的な課題としては、以下の事項が挙げられています。

  • グローバルスタンダードであるが、日本にないまたはできていないコンテンツや日本ならではのユニークなナイトライフコンテンツが必要
  • 公共空間や遊休地等の活用により、多数が参加できるダイナミックなエンターテインメント演出が可能となるが、活用のためには規制緩和が必要
  • 「事業者、店舗」「地域、町内会、自治体」「利用者」の三位一体となり、地域の安心安全を作りあげることが必要
  • 日本に行ってみたいと思わせるプロモーション活動や日本国内のイベントの場所や時間などの各種情報を網羅したポータルサイトが必要

また、自民党では、「時間市場創出推進議員連盟(ナイトタイムエコノミー議連)」にて以下の項目に関する中間提言を行っており、ナイトタイムエコノミーを振興するためのより具体的な示唆が出されています。

  • コンテンツの拡充
  • 場の整備
  • 交通アクセス
  • 安心安全の確保
  • プロモーション
  • 推進の仕組み 等

海外においてはナイトタイムエコノミー振興の先進事例が数多く存在する

先に述べたように、ロンドンやニューヨークといった都市では、ナイトタイムエコノミーを活性化するために様々な施策を打ち出しています。本稿では、その一部をご紹介します。

有力コンテンツ

コンテンツの観点では、各都市がその地域固有で特徴的な文化を反映したコンテンツをアピールすることで、多くの観光客を誘致しています。

例えば、ニューヨークがエンターテインメントの集積地であることはあまりにも有名で、ブロードウェイにはミュージカルを観賞するために多くの観光客が世界中から訪れます。ロンドンも、ニューヨークに劣らないミュージカルの観劇で観光客を魅了しています。

また、欧米諸国には観劇の前後に、劇場の周辺で夕食をとる「プレ・ポストディナー」という文化が根付いており、夜の8時頃から始まるミュージカル観賞を中心に、飲食ができる環境を整え消費を促しています。

ニューヨークのエンターテインメントといえば、ナイトクラブも有名です。特徴的なコンセプトを持った多様なニーズに対応するナイトクラブが整備されており、深夜まで賑わいが絶えることがありません。

夜間交通

ナイトタイムエコノミーの振興に欠かすことができないと考えられる夜間交通については、地下鉄の24時間運行や、ライドシェア等の二次交通がニューヨーク、ロンドン、シドニー等では広く浸透しているため、時間を気にすることなくエンターテインメントを楽しめる環境が整っています。

法規制と推進体制

夜間はナイトクラブやショービジネスといった昼間とは異なる事業者が存在するとともに、夜間営業に係るライセンス制度や各種法規制が関係するため、ナイトタイムエコノミー振興に際しては、推進体制が重要となります。

その代表例が、ナイトメイヤーと呼ばれる役職の創設です。ナイトメイヤーは夜間帯における様々な利害関係者を調整することが主な役割で、ロンドンのNight Czar やアムステルダムのNight Mayorが広く知られています。

ナイトメイヤーに関する動きは、日本においても注目が高まっています。2018年12月にはラッパーで渋谷区観光大使ナイトアンバサダーを務めるZeebra氏が「東京ナイトメイヤー」の発足準備委員会設立を宣言したほか、沖縄県沖縄市が人気グループ「DA PUMP」のISSA氏を「沖縄市ナイトメイヤー」に起用しています。

また、自民党時間市場創出推進議員連盟(ナイトタイムエコノミー議連)の事務局長を務める秋元司衆院議員(環境副大臣)は、2019年11月下旬に世界30都市からナイトメイヤーを招いた「ナイトタイムサミット」を東京都内で開催することを明らかにしています。

ナイトタイムエコノミーに関連するビジネスへの参入を目指す企業には、参入戦略の策定、事業計画の策定、法規制への対応、レピュテーションマネジメントなど、多岐にわたるリスク項目の管理が必須ですが、各自治体における機運が日増しに高まるなか、新たな市場に寄せる企業の期待もまた大きく膨らんでいます。

※本記事は、デロイト トーマツ グループ IR(Integrated Resort)ビジネスグループのナレッジ記事の内容を転載し、文末の囲み部分についてはBUSSINESS LAWYERS編集部が加筆したものです。

提供元|デロイト トーマツ グループ IRビジネスグループ

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