コンプライアンス・クライシスの際はワーストケースを想定した対応を 少人数制セミナー「法務・コンプライアンス機能強化塾」を開催

危機管理・内部統制

目次

  1. 企業価値の回復・再生の早期実現を目標に捉えた対応が重要
  2. 海外贈収賄事案をワークショップ形式でシミュレーション

5月17日、渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 東京オフィスにて「法務・コンプライアンス機能強化塾」が開催されました。4月19日に「品質偽装と海外贈収賄、日本版司法取引」をテーマとした第1回が開催された同強化塾。第2回となる今回のテーマは「コンプライアンス・クライシス対応シミュレーション」でした。国内外の規制当局による立入り調査・調査協力要請を受けたケースや社内で法規制違反を発見したケースの対応など、具体的な場面を想定したシミュレーションがワークショップ形式で行われました。本稿では、当日の様子を一部お届けします。

企業価値の回復・再生の早期実現を目標に捉えた対応が重要

講師は、渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 早川 真崇弁護士(シニアパートナー)とKPMGコンサルティング 水戸 貴之氏(シニアマネージャー)の2名。弁護士とコンサルタントというそれぞれの観点から、コンプライアンス・クライシス対応の勘所について複眼的に解説をしました。

はじめに早川弁護士が、コンプライアンス・クライシス対応の総論として、不正会計の事例を題材に、会社で必要となる具体的な対応の流れに関して説明しました。コンプライアンス・クライシス対応の基本的な発想として重要なことは、まずコンプライアンス違反の全体像を把握し、ワーストケースの場合に生じる最大限の影響をいかに正確に把握するかという点です。目の前の「危機」や「有事」から脱却するという限定的な対応にとどまらず、企業価値の回復・再生の早期実現を目標に捉えた対応が何より大切になります。

負の側面の印象が強いコンプライアンス・クライシス対応ですが、「コンプライアンス意識を組織に浸透させる絶好のチャンスとも捉えられる」と、プラスの側面もあることを早川弁護士は強調しました。不祥事等のコンプライアンス違反を機に、組織体制や企業風土を変革していける可能性があるためです。

早川弁護士は、東京地検特捜部、ワシントン大学客員研究員、法務省刑事局総務課などを経て、2014年に弁護士登録。検事や法務省での勤務経験を生かし、危機管理・コンプライアンスに関する様々な案件を取り扱ってきました。講義では、早川弁護士が豊富な実例などを交えながら、捜査や調査を行う「当局」とはどこなのかといった基礎的な点から、初動調査から事後対応までの具体的な流れまでを丁寧に確認していきました。

一方、水戸氏は、グローバルでの法務・コンプライアンス体制・業務プロセス等の整備・運用や、モニタリング対応にかかる支援経験を活かして、主に海外当局による立入り調査や調査協力要請を受けた際の対応方法に関して解説しました。

海外法規制のうち、その罰金額の高さから最も注意が必要な法規制のひとつである贈収賄規制の執行は、米国当局によるものが圧倒的に多く、この3年間で急増しています。多くの国・地域の規制当局が米国のケースを参考にしていることもあり、米国当局の考え方を踏まえた対応が肝要です。

米国連邦検事マニュアルをみると、企業を訴追する際、企業責任の判断にて考慮すべきとされている要素のなかには「調査への企業の協力意思」や「コンプライアンス・プログラムの実効性」、「適時かつ自主的な不正についての情報開示」、「企業による改善措置」など、平時からの備えにより対応水準が大きく異なる項目があることがわかります。日本企業は法規制違反が起こらないものだと考え、有事を想定しない傾向にありますが、グローバルコンプライアンスにおいては、非現実的なスタンスだと言わざるを得ません。なお、新興国においては、「当局の担当者の裁量が大きくなりやすく、その場その場での判断が求められることも多いため、いかに本社・子会社間での情報連携がスムーズにできるかがカギになる」(水戸氏)ことにも注意が必要です。

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 早川 真崇弁護士

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 早川 真崇弁護士

海外贈収賄事案をワークショップ形式でシミュレーション

早川弁護士と水戸氏による講義の後は、参加者を交え、海外で贈収賄事案が発見された事例を題材としたクライシス対応を、ワークショップ形式でシミュレーションしました。

事例
  • 日本に本社があるコンサルタント会社X
    →社長の指示によってプロジェクト担当者がプロジェクトを実施している現地(Z国)の公務員に対し賄賂を渡したというケース
  • 米国に本社があるコンサルタント会社の日本支社Y
    →アメリカ本社より日本支社を介してプロジェクトを実施している現地(Z国)のプロジェクト担当者へ贈賄指示があり、Yの日本支社から米国の中継銀行を通じて、現地(Z国)の公務員の口座へ送金したというケース

どちらも、同じZ国という外国公務員に対して賄賂を提供した事例ですが、検討すべきポイントは異なります。また、当局の摘発を受けた場合と内部通報などにより社内で発見できた場合とでも、対応方法は大きく違ってきます。

この事例を題材に、初動対応から、社内調査、当局対応、開示までのフェーズにわけて順番に対応策や検討すべき事項にかかるディスカッションが進んでいきました。たとえば、初動対応に関して「XとY、それぞれのケースで発見の端緒を知る必要がある。それによって対応の動きが異なる」という参加者からの意見があがると、他の参加者からも、競合他社からの情報提供や、他社から賄賂を受け取っていた場合の余罪、送金記録をもとにした当局への内部告発などといったように、発見に至る具体的な例があがってきました。水戸氏によると、税務監査の際等にお金の不自然な動きを追っていくことで発覚するケースが多いといいます。

また、海外で生じた法規制違反に対応するための社内調査に関して「現地の弁護士はどのような観点で探せばよいのか」という質問が参加者から出ました。これに対して早川弁護士は「事務所の規模のみで決めるものではなく、実際に問題となる分野に強みを有するか、担当する弁護士が十分な経験を有しているかというような観点から、弁護士を選択することが重要と思われます。」と回答しました。さらに、水戸氏からも、国によって弁護士をとりまく環境や文化は大きく異なることに加え、法規制違反が生じた現地法人から弁護士を推薦された場合であっても、そのサービス品質や現地法人関係者との利害関係が不明であるため、選定にあたっては注意が必要であるとも付け加えました。

ここではワークショップにおけるディスカッションの場面のごく一部をご紹介いたしました。本セミナーは活発な意見交換が行えるよう少人数制となっており、当日は講師と10名ほどの参加者による双方向の活発なディスカッションが行われました。

またセミナー参加者からは「一方的な座学でなく、考えさせられるケーススタディがあったのは非常によかった」「事例にそった具体的対応を知ることができた」といった意見が寄せられました。

KPMGコンサルティング 水戸 貴之氏

KPMGコンサルティング 水戸 貴之氏

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