契約書のバージョン管理を「GitHub」のように実現する、「Hubble」の誕生秘話

ベンチャー

目次

  1. ローカルのWordの課題は「GitHub」で解決できる
  2. ユーザーへヒアリングをしながら一緒に作り上げていった
  3. 手軽にバージョン管理ができる待望のプロダクトをリリース
  4. Microsoft社のGitHub買収について

2018年10月、契約書等のドキュメントバージョン管理サービス「Hubble(ハブル)」が正式リリースされた。Hubbleは、Microsoft Word(以下、Word)で契約書を作成する際に、誰がいつどの部分を変更したのかを管理・共有できるようにするクラウド型ソフトウェアだ。業務の生産性向上だけでなく、法務ナレッジの属人化を防ぎ、蓄積・活用を促していくサービスであるともいえる。今回は、Hubbleの開発を進める株式会社HubbleのCEO 早川 晋平氏、CTO 藤井 克也氏、CLO 酒井 智也氏の3名に、サービス立ち上げの経緯などについてお話を伺った。

ローカルのWordの課題は「GitHub」で解決できる

Hubbleはどのようなきっかけで立ち上げられたのですか。

早川氏:
私たちは当初、法務に特化したGoogleドキュメントのようなものを作ろうと考えていました。しかし当時、当社の顧問弁護士だった酒井と一緒にアイデアのブレインストーミングをした際、酒井は普段Googleドキュメントをまったく使わず、ローカルのWordしか利用していないことがわかったんです。ローカルのWordには、バージョン管理や共有、セキュリティーなど、さまざまな面に課題があります。こうした課題は、多くのエンジニアが利用している「GitHub」というサービスで解決できると気づいたのが私たちのアイデアのスタートでした。

同種のツールは日本にはありませんが、GitHub自体にローカルのWordを載せようとしても、なかなかうまくいきません。なおかつ、法務担当者や弁護士からの「GitHubは実際には運用が難しい」という意見をTwitterやFacebookなどで目にしていたので、ローカルのWordファイルをGitHubのように管理できるサービスにビジネスチャンスを感じました。

開発には海外の類似サービスなども参考にされましたか。

藤井氏:
海外のサービスで参考にしているものはあります。弁護士業界は非常にドメスティックですので、欧米で類似のサービスがあったとしても今のうちにスタートしておくことで日本やアジアなどでは勝算があると思っています。

早川氏:
Googleのアクセラレータープログラムに参加した際、海外のシリアルアントレプレナーに「日本より海外のほうがローカル環境で文書を扱う文化が強いから、海外での可能性も大きい」と言われましたので、海外にも市場はあるという意味でもわくわくしています。

株式会社Hubble CEO 早川 晋平氏

株式会社Hubble CEO 早川 晋平氏

ユーザーへヒアリングをしながら一緒に作り上げていった

Hubbleの開発にあたっては、どれくらいのユーザーに対してヒアリングを行われたのでしょうか。

早川氏:
企業法務の担当者がターゲットになると思ったので、片っ端からお会いしていきました。300社は超えていると思いますね。ヒアリングから見えてきたのは、上場を見込んだ3000名を超える規模の企業からのニーズが高いということでした。
ヒアリングの際には、「こんなアイデアを持っていますが、どうしたら今の御社の課題が解決できますか」といったように、できるだけフラットな状況でお客さまに質問をするよう心がけていました。プロダクトありきでヒアリングしてしまうと、プロダクトがある前提で話をしてしまったり、良いことしか話していただけなかったりするためです。

酒井氏:
感覚としては、本当に応援してくれるユーザー候補の企業様と作っていったという思いがあります。かなり継続して企業様にかなりヒアリングさせていただいて、その声をどうプロダクトに反映させるか何度もチームで議論して、作り上げていきました。また、プロダクトの進行状況なども小まめに報告していって、ユーザー様との各アポイントの間でも自分たちの進捗をご報告することで、良い関係性を継続していくことができたかなと思います。

早川氏:
アイデアが出てすぐに売れるだろうと開発したのではなく、何度もヒアリングを重ねながら、ユーザーと共にという感覚で作っていったのが現状です。実際にユーザーが解決したいことやニーズ、僕たちの会社が成長していくためにしっかりとフィーをいただけるのか、を繰り返し検証しました。

酒井氏:
リーガルテックのプレーヤーはまだ少数ななかで、ITリテラシーの高い人たちが関心を持って応援してくれているのは、僕らとしてもすごくうれしかったです。当初はまだまだ機能も少なかったので、プロダクトのみならず、チーム含め一ファンになってもらうぐらいの気持ちで、一緒にプロダクトを作っていくという状態を目指しておりました。

実際にプロダクトを開発する段階で大変だったことはありますか。

早川氏:
ローカルのWordを使いながらクラウドとシームレスにつなげることがアイデアとしてあるものの、技術的にできるのかという問題はありました。藤井がリサーチして実現可能だとわかった後も、その技術をどう攻略しようかと苦労しました。

藤井氏:
時間は掛かりましたね。リサーチの段階では、すでに世の中にある技術を用いればアイデアを実現できると思っていました。ただ実際には、世の中でそれほど広く使われている技術ではないので、リリースに向けたスケジュールは立てづらかったです。

酒井氏:
僕は、ユーザーの法務や弁護士から話を聞き、それを開発チームに伝えて、プロダクトに反映させていく役割を担っています。リーガルの経験があるので、ユーザーからの意見に共感できる部分は多々あります。ただ、開発チームと関わるのは初めての体験なので、エンジニアに対するアイデアの受け渡しが難しいと感じています。
早川はナレッジや経験の面でも、僕と開発チームの中間地点にいるので、仕様を決めてうまく橋渡しをしてくれる形があり、しっかりユーザーの声を反映したプロダクトに育っている感覚があります。

株式会社HubbleのCEO 早川 晋平氏、CTO 藤井 克也氏

左から、株式会社Hubble CEO 早川 晋平氏、CTO 藤井 克也氏

手軽にバージョン管理ができる待望のプロダクトをリリース

ユーザーの方からの反響を教えてください。

早川氏:
「難易度の高いソフトウェアを入れる必要なく、手軽にバージョン管理ができるのは良い」というフィードバックをいただいています。TwitterやGoogleなどでWordのバージョン管理について検索すると、「GitHubを使ってどう管理するか」といった話題が出てきますが、ベストプラクティスは発表されていません。
こうした状況でしたので、リリース後、ユーザーの皆さまからは「待っていました」と非常にポジティブな評価をいただいています。

酒井氏:
契約書や社内の規約などのバージョン管理にかなり苦労して、そこに特化したサービスを探す途中でHubbleを見つけてお問い合わせをいただくというケースが非常に多いです。よくイベントなどで、デスクトップが乱立している状態の画像を見ていただくのですが、どのイベントでもウケるので、おそらく法務パーソンであればあるあるなのかと思います。
ユーザー側の視点から見ると、今まで通り、Wordを利用しながらクラウドの恩恵が受けられることがHubbleの1番の特色です。既存の商慣習を維持しながら、テクノロジーによるメリットを自然と享受できるような、ユーザーの導入障壁が低いプロダクトだからこそ、皆さまに使ってもらえる状況になっていると思います。

Hubbleの操作画面

今回のインタビュー原稿のやりとりはHubbleを用いて行った。ドキュメントのバージョンと修正履歴を自動で管理し、
ローカルのWordの画面でスムーズに編集ができる

Microsoft社のGitHub買収について

2018年6月にMicrosoftがGitHubを買収しました。今後Microsoftから同様のサービスが出る可能性もありえると思います。これについてはどう捉えていますか。

早川氏:
我々がアイデアを出した後の出来事だったので仕方がないですし、今後のMicrosoftの動きも正直私たちにはわかりません。ただMicrosoftは現在、クラウドへの移行を強く進めているところなので、あえて今からローカルのWordを普及させるような取り組みはしないだろうと考えています。ですので、あまり意識はしていないです。私たちは私たちの思うプロダクトを作っていくしかありません。
ちなみに、Microsoftからは、ビジネス面・開発面からも支援を受けています。一緒にWordの可能性を広げていくといったスタンスの方が近いかもしれません。

藤井氏:
GitHubは、世界中のエンジニアが利用しているサービスで、世の中ほとんどのソースコードがそこで管理されているといっても過言ではありません。そうしたサービスを買収したいというのは、ITカンパニーとしては自然な流れです。
Microsoftだけでなく、Googleも、Twitterも、数多のIT企業が欲しがっていたはずです。買収したのがたまたまMicrosoftだっただけで、彼らの狙いはバージョン管理システムそのものというより、エンジニアのコミュニティを囲いにいったのではないかと予想しています。
こうした中で、Hubbleと同じようなプロダクトを出してきたら、それはそれでお見事と言うしかありませんね。


後編(「法務の未来を変える「Hubble」チームはどうやってできたか」)では、3人のこれまで歩んできたキャリアや、Hubbleの未来について伺います。

会社概要
株式会社Hubble
所在地:東京都渋谷区神宮前3-27-15 FLAG 3-O
設立:2016年4月14日
資本金:6046万円(資本準備金を含む)
代表者:CEO 早川 晋平、CTO 藤井 克也、CLO 酒井 智也


プロフィール
早川 晋平(はやかわ・しんぺい)
関西学院大学数理科学科を卒業後、会計事務所にて40社を担当。在職中にファイナンスとプログラミングを学び、起業。

藤井 克也(ふじい・かつや)
東京大学大学院修士課程卒業。マサチューセッツ工科大学 MIT Media Lab で訪問研究員として研究に従事した後、米国でのベンチャー企業立ち上げに参入。共同設立者としてHubbleを始動、同社CTOに就任。東京大学大学院博士課程在籍中。

酒井 智也(さかい・ともや)
慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。2013年司法試験合格後、東京丸の内法律事務所でコーポレート、M&A、破産管財業務、紛争案件、スタートアップ顧問アドバイザー業務等に従事。2017年6月からRUC株式会社(現在の株式会社Hubble)の顧問弁護士を経て、2018年6月、株式会社Hubble取締役CLOに就任。

(文:周藤 瞳美、取材・構成・編集:村上 未萌、取材:BUSINESS LAWYERS編集部)

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