中国電子商取引法の概要 日本企業が中国ECモールへの出店時に気をつけるべきポイント

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目次

  1. はじめに
  2. 本法の適用を受ける者
  3. 本法の構成および主要な義務
    1. EC事業者の主要な義務
    2. ECプラットフォーム事業者の主要な義務
  4. 中国でEC取引を行う日系企業に関連すると考えられる条項
    1. 情報開示義務
    2. 虚偽宣伝の禁止
    3. 抱き合わせ販売の禁止
    4. 個人情報の取扱い
    5. ECプラットフォーム事業者による不合理な制限等に対する権利主張
    6. 自社製品の偽物を発見した場合のECプラットフォーム事業者に対する権利主張
    7. 越境ECを行う場合の留意点

はじめに

 2017年の中国における年間EC取引(B to B取引を含む)の取引合計額は29兆1600億人民元(約500兆円)に達したといわれ、中国のEC業界は近年急成長を遂げています。他方で、偽物品の流通を指摘されることも少なくなく、また、ECプラットフォーム事業者と当該プラットフォームに出店する事業者の法的関係性や、これらのプレーヤーがそれぞれ消費者(ユーザー)に対してどのような法的責任を負うのかといった点が必ずしも明確ではありませんでした。

 このような事情を背景に、全人代常務委員会は、2013年12月に電子商取引法 1 の立法作業に着手し、数年間にわたって検討を続けた結果、2018年8月31日に本法が成立し、2019年1月1日に施行されることが予定されています。なお、以下、本稿におけるかっこ書き内の条数は、本法の条数を表します。

 本法は、電子商取引(EC取引:Electronic Commerce)を、「インターネット等の情報ネットワークを通じて商品を販売し、又はサービスを提供する事業活動」と広く定義したうえで(2条2項)2EC取引の健全な発展を図ることを目的としています(1条)。

本法の適用を受ける者

 本法は、(上記のとおり定義した)EC取引を行う法人、団体または個人を総称して「EC事業者」と定めています。「EC事業者」には、少なくとも、①ECプラットフォーム事業者、②ECプラットフォームに出店する事業者(EC出店事業者)および③自社または個人サイト等で商品販売を行う者(自社サイト事業者)等が含まれます(9条)3。なお、本法は、中国国内におけるEC取引に適用されるため(2条1項)、中国に関連しないEC取引を行う事業者には適用されません。

中国電子商取引法の適用を受ける者のイメージ

本法の構成および主要な義務

 本法の構成に関しては、本法の成立日である2018年8月31日に、全人代財経委員会の尹中卿副主任が、EC取引関係者のうち、立場が最も弱い者はユーザーであり、次に弱い者はEC事業者であり、立場が最も強い者はECプラットフォーム事業者であるとしたうえで、3者の法的関係のバランスを取るため、EC事業者に対する一般的な義務を強化することに加えて、ECプラットフォーム事業者の責任と義務を特に重くしたと述べています 4

 この説明のとおり、本法は、まずEC事業者一般に対して適用される規定を定めたうえで、ECプラットフォーム事業者に対して追加的に適用される規定を定めるという構成をとっています。

 以下では、EC事業者とECプラットフォーム事業者のそれぞれに課される主要な義務の概要を列記します。

EC事業者の主要な義務

EC事業者の義務の概要 条文
1 主体に関する登記、納税義務の履行、関連する行政許可を取得すること。 10~12条
2 商品販売およびサービス提供についてユーザーの生命や財産の安全および環境保護に係る必要な条件を満たし、法令で取引が禁止されている商品・サービスを販売しないこと。 13条
3 紙又は電子媒体で発票(領収書)を発行すること。 14条
4 ウェブサイトのトップページの分かりやすい位置に、営業許可証や行政許可情報等の情報を継続的に表示すること。 15条
5 EC事業を終了しようとする場合、遅くとも終了30日前までに関連する情報をウェブサイトのトップページの分かりやすい位置に継続的に掲示すること。 16条
6 商品およびサービスにかかる全面的な情報を開示し、ユーザーの知る権利や選択する権利を保障すること。また、架空の取引やユーザー評価の捏造等によって虚偽または誤解を与えるような商業宣伝や詐欺、ユーザーを誤導する行為の禁止。 17条
7 ユーザーの趣味嗜好・消費習慣等に基づき商品およびサービスの検索結果を提供する場合でも、ユーザー個人の特性にあったもの以外の選択肢も同時に提供すること。 18条
8 抱き合わせ販売を行う場合は、分かりやすい方法でユーザーに注意喚起しなければならないこと。 19条
9 期限内にユーザーに商品・サービスを提供し、かつ、商品輸送中のリスクと責任を負担すること(ユーザーが配達業者を別に指定した場合は除く)。 20条
10 ユーザーから提供を受けた保証金(中国語:押金)の返還方法や手続を明示すること、保証金返還において不合理な条件を課さないこと。 21条
11 技術的優位性、ユーザー数、業界に対するコントロール能力等の要因によって市場で支配的な地位を得ている場合に、市場支配的地位を濫用する行為や、競争を制限する行為の禁止。 22条
12 ユーザーの個人情報を収集し、使用する場合、個人情報保護に関連する法令の規定を遵守すること。 23条
13 ユーザーに対して個人情報の検索、更新、削除および登録取消しの方法と手順を明示すること。 24条
14 政府の関連する主管部門から、法令に基づいて関連するECデータの情報を提供するよう要請があった場合には、同要請に応じること。 25条
15 越境ECを行う場合は、輸出入監督管理等の関連法律・法規を遵守すること。 26条
16 ECに関連する紛争の処理において、元の契約や取引記録を提供すること。これらの資料を紛失し、または毀損する等によって、人民法院または仲裁機関等による法的事実の究明が不可能となった場合、相応の法的責任を負うこと。 62条

ECプラットフォーム事業者の主要な義務

(1)ECプラットフォーム事業者自身の事業活動に関する義務

ECプラットフォーム事業者の義務の概要 条文
1 ネットワークの安全および安定的な運営を保証し、ネットワーク上の犯罪活動を防止すること。 30条
2 ECプラットフォーム上の商品およびサービスに関する取引情報等を記録し、取引終了時から少なくとも3年以上保存すること(法令に別途定めがある場合は、その定めに従う)。 31条
3 ウェブサイトのトップページの分かりやすい位置に、ECプラットフォームで提供するサービスに関する取引規則等のリンク等を公開したうえで、閲覧およびダウンロードが可能な状態にすること。 33条
4 ECプラットフォーム事業者がECプラットフォーム上で直営業務を行う場合、直営業務とEC出店事業者の業務を明確に区別し、ユーザーを誤って誘導しないこと。 37条
5 信用評価システムを構築すること、ユーザーの評価を削除することの禁止。 39条
6 価格競争で検索結果表示の順位を決めている場合(高い金額を支払った者の情報が検索結果の上位に表示される場合)は「広告」であることを明示すること。 40条

(2)EC出店事業者の管理に関する義務

ECプラットフォーム事業者の義務の概要 条文
1 ECプラットフォームへの出店を申請する事業者に対し、その身元に関する情報、住所、連絡手段、行政許可等の事実に合致する情報を提出させ、検査、登記、登記資料の作成を行い、かつ定期的に検査・更新を行うこと。 27条
2 EC出店事業者の身元に関する情報を市場監督管理部門に申告すること、身元に関する情報と納税に関する情報を税務部門に申告すること。 28条
3 ECプラットフォーム内の商品およびサービスについて12条および13条にかかる違反を発見した場合、必要な処置・措置をとるとともに、関連主管部門へ報告すること。 29条
4 EC出店事業者が取引規則等の改定・変更に同意せず、ECプラットフォームからの退店を要求した場合に、退店を阻止することを禁止。 34条
5 EC出店事業者に対してECプラットフォーム内での取引・取引価格・他の経営者との取引に関する不合理な制限や条件を課すことの禁止。 35条
6 法令に違反したEC出店事業者に警告を行った場合や、サービスの一時停止または終了等の措置をとった場合、速やかに公表すること。 36条
7 EC出店事業者の商品またはサービスが安全性の要求を満たさないことまたはユーザーの合法的権益を侵害することを知りまたは知り得る場合で、必要な措置をとらないとき、法に基づいてEC出店事業者と連帯責任を負うこと。 38条
8 知的財産権保護に関する規則を整備し、知的財産権利者と協力を強化し、法に基づいて知的財産を保護すること。 41条~45条

中国でEC取引を行う日系企業に関連すると考えられる条項

 以下では、上記の各条項のうち、中国でEC取引を行う日系企業との関連で重要性が高いと考えられる条項をいくつか取り上げて説明を行います。

情報開示義務

 EC事業者は、ウェブサイトのトップページの分かりやすい位置に、営業許可証や行政許可情報等の情報を継続的に表示しなければならず、EC事業を終了しようとする場合、遅くとも終了30日前までに関連する情報をウェブサイトに継続的に掲示することが必要になります(15条、16条)。

 EC事業者がこの義務に違反した場合、市場監督管理部門から期限付きの是正命令を受け、また、1万人民元以下の過料が科される可能性があります(76条1項)。

 この点に関し、既に対応を行っている企業も多いとは思いますが、本法の施行前に改めて自社の体制を確認することが望まれます。

虚偽宣伝の禁止

 EC事業者は、商品やサービスについて全面的に真実かつ正確な情報等を用いることにより、ユーザーの知る権利や選択する権利を保障することが義務付けられ、架空の取引やユーザー評価等を用いることによりユーザーの知る権利を侵害してはならないとされています(17条)。
 なお、中国では、自社の商品や役務に人気があるように見せるために、EC事業者が架空の口コミやユーザー評価のアップロード等を行うことがあると指摘されており、これらの行為も禁止されます。

 EC事業者がこの義務に違反した場合の法的責任について、本法は特別の規定を設けていないことから、具体的な態様に応じて、「不正競争防止法」、「消費者権益保護法」または「広告法」等の関連規定が適用されることになります(85条)。

 この点に関し、本法施行後は、当局の監視および行政執行が強化されることが見込まれるため、中国でEC取引を行う日系企業には、より徹底した情報管理が求められます。

抱き合わせ販売の禁止

 中国では、近年、EC取引における抱き合わせ販売の問題が指摘されており(たとえば、宿泊や航空券の予約サイトで予約を取るときに、食事・送迎・保険等が初期設定として選択されている場合)、このような場合には、ユーザーに対する注意喚起を行うことが義務付けられ、また、初期設定として抱き合わせ販売を行うことが禁止されました(19条)。

 EC事業者がこの義務に違反した場合、市場監督管理部門から期限付きの是正命令を受け、違法所得を没収され、さらに、5万人民元~20万人民元(情状が著しく重い場合には20万人民元~50万人民元)の過料が科される可能性があります(77条)。

 この点に関し、中国におけるEC取引において複数のサービスを提供している日系企業としては、抱き合わせ販売と評価されるような初期設定画面になっていないか、ユーザーに対する注意喚起が行われているか等に留意する必要があります。

個人情報の取扱い

 EC出店事業者は、EC事業者として、個人情報の保護に関する法令を遵守することが求められるほか、ユーザー情報の閲覧・修正・削除およびユーザーの登録抹消の手続について不合理な条件を設定することが禁止され、また、法令に基づき当局から情報開示を求められた場合にはこれに応じなければなりません(23条、24条、25条)。

 EC事業者がこの義務に違反した場合、市場監督管理部門から期限付きの是正命令を受け、また、1万人民元以下の過料が科される可能性があります(76条1項)。

 この点に関し、サイバーセキュリティ法(中国語:网络安全法)にも類似の規定がありますが 5、EC出店事業者が同法の対象者であるかは必ずしも明確ではありませんでした。本法によって、EC出店事業者に対して個人情報・ユーザー情報の取扱いについて義務が課されることが明確になりました。
 さらに、本法は、EC事業者に対し、ユーザーアカウントの抹消申請を受けた場合には、ただちにユーザー情報を抹消することも義務付けており(24条2項)、この点は、EC取引におけるユーザーの個人情報等の取扱い等が強化されたと評価されています。ただし、24条2項に違反した場合の法的責任は本法に明記されていません。
 なお、本法では、ユーザー情報(中国語:用戸信息)の定義が定められてはいませんが、個人情報に加えて、取引に関連する情報も含むと考えられます。

ECプラットフォーム事業者による不合理な制限等に対する権利主張

 ECプラットフォーム事業者に対し、ECプラットフォーム内での取引、取引価格、他の経営者との取引においてEC出店事業者へ不合理な制限や条件を課すことが禁止されています(35条)。

 ECプラットフォーム事業者がこの義務に違反した場合、市場監督管理部門から期限付きの是正命令を受け、また、5万人民元~50万人民元(情状が著しく重い場合には50万人民元~200万人民元)の過料が科される可能性があります(82条)。

 この点に関し、仮にEC出店事業者である日系企業がECプラットフォーム事業者から不当な制限や条件を課された場合、ECプラットフォーム事業者に対して直接に権利侵害を主張するほか、本法に基づき政府主管部門に申立てを行うこともできます。

自社製品の偽物を発見した場合のECプラットフォーム事業者に対する権利主張

 ECプラットフォーム事業者に対し、知的財産保護に関する規則の整備を義務付けたほか、知的財産権者からECプラットフォーム事業者に対して権利侵害の申し出があった場合の処理手順を定めています(41条~45条)。

 ECプラットフォーム事業者がこの義務に違反し、知的財産権の侵害行為に対して必要な措置を講じなかった場合、知的財産に関連する行政部門から期限付きの是正命令を受け、期限内に改善できないときには、5万人民元~50万人民元(情状が著しく重い場合には50万人民元~200万人民元)の過料が科されることになります(84条)。

 たとえば、知的財産権を保有する者は、その権利が侵害されたと認識した場合、ECプラットフォーム事業者に対し、権利侵害を示す初期的な証拠を添えたうえで、削除・リンクの解除・取引の終了等の必要な措置を求める通知をする権利を有します(42条1項)。そして、ECプラットフォーム事業者は、当該通知を受けた後、速やかに必要な措置を行い、かつ、EC出店事業者に対し、当該通知を転送する義務を負います。必要な措置を速やかに行わなかったために損害が拡大した場合、ECプラットフォーム事業者は、EC出店事業者と連帯責任を負うことになります(42条2項)。

 この点に関し、知的財産権を有する日系企業の立場から見れば、訴訟提起に先立つ差止手段としてこれらの手続を利用することも可能であって、ECプラットフォーム上で自社製品の偽物を発見した場合には、まずECプラットフォーム事業者に対して通知することが考えられます。

越境ECを行う場合の留意点

 EC事業者が越境ECを行う場合は、輸出入監督管理等の関連法律・法規を遵守することが明記されました(26条)。

 本法は越境ECに関する新たに規制を加えるものではありませんが、今後、関連規制がより厳格に執行される可能性があります。なお、 2016年に施行された、越境ECにおける通関証明書(通関単)提出等の実施を猶予する措置は、2019年1月以降も延長されることになりましたが、本法の施行を契機にして、越境ECに関する税制(ECプラットフォーム事業者を含むEC事業者の代理納付義務等)の執行等が、より厳格になされる可能性があります。
 この点に関しては、今後の法令の制改定や当局の動向を注視する必要があります。


  1. 中国語は「电子商务法」であり、「電子商務法」と翻訳される場合もあります。 ↩︎

  2. ただし、「金融に関する商品及びサービスや、インターネットを利用した、ニュース・音楽・動画番組・出版・文化商品の提供等のサービス」は、本法の対象からは除外されています(2条2項)。 ↩︎

  3. 「EC事業者」の中国語は「电子商务经营者」、「ECプラットフォーム事業者」の中国語は「电子商务平台经营者」、「EC出店事業者」の中国語は「平台内经营者」です。 ↩︎

  4. 尹中卿:以中国智慧创新电商协同监管体制和具体制度」(2018年8月31日) ↩︎

  5. サイバーセキュリティ法(中国語:网络安全法)については「2017年6月1日施行、中国インターネット安全法が日系企業に与える影響」を参照ください。 ↩︎

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