変化する時代に企業はどう立ち向かうべきか 「攻めのガバナンス」の基礎となる「守りのガバナンス」

危機管理・内部統制

目次

  1. ガバナンス概念の変化 その実効性とは
    1. 「既成概念を破るのが真の仕事」
    2. コーポレートガバナンス・コードの採用 — 和魂洋才という手法
  2. 持続的成長を図るための源泉は何か?
    1. 「自助論」が明治日本を創りあげた
  3. より厳しく求められる守りのガバナンス
    1. 社会的責任を果たすという経営理念
    2. 守りのガバナンスなくして攻めのガバナンスは成り立たない

ガバナンス概念の変化 その実効性とは

「既成概念を破るのが真の仕事」

 従来のガバナンスの概念は、法令などの遵守だった。つまり、それは企業の不祥事防止を目的としたものであった。ところが、アベノミクスの3本目の矢である成長戦略に基づき、ガバナンスの概念は企業の持続的成長をはかるという「攻めのガバナンス」に変えられた。従来の法令などを遵守する概念のままでは、成長戦略に役に立たないと考えたからである。

 成長戦略の実効性を重視して既成概念を変えたのだから、この概念の変更は、単なる言葉遊びに終わらない。それは、従来の社会常識を変える力を持つ可能性があると考える必要がある。

 司馬遼太郎は、幕末の英雄、坂本龍馬を主人公にした「竜馬がゆく」の中で、竜馬をしてこう言わしめている。

「世の既成概念を破るというのが、真の仕事である」

鳥飼 重和弁護士


コーポレートガバナンス・コードの採用 — 和魂洋才という手法

 ガバナンス概念の変更による影響は、すでに出ている。その典型例が、コーポレートガバナンス・コードの採用である。上場企業の持続的成長を図るために、海外の機関投資家が投資基準として活用するROE(自己資本利益率)等を重視することにしたのである。
 このROE等向上のために、73項目のコードを決め、東証の一部・二部の上場企業に対し、コードを遵守するのか、遵守しないのであれば、その理由を説明することを求めたのである。

 これは外圧によって、日本企業の従来の統治のあり方を欧米流に抜本的に変えようとすることに等しく、明治初期の文明開化による日本の改革に類似している。そこまでしてでも、企業に大いに稼いでもらわなければ、1,000兆円超の政府債務を抱えた日本の復興は困難だということである。
 この改革を成功させるには、明治時代に日本を短期間で一流国にした考え方が必要になる。それは「和魂洋才」である。日本民族の精神を基礎にして、西欧列強の優れた文化・制度・技術などを取り入れようという考え方である。

持続的成長を図るための源泉は何か?

「持続的成長を図るための源泉は何か?」
「持続的成長という結果を必然的にもたらす原因は何か?」

 こういった問いかけをしないで、攻めのガバナンスの実効性はない。
 コーポレートガバナンス・コードに従うだけで企業が持続的成長をするはずがないし、持続的成長の目標を立てるだけで成長するはずもない。企業の持続的成長は企業行動の結果に過ぎないからである。

 真に企業が持続的に成長するには、そうなるための必然的原因が必要となる。企業活動の自由がある以上、その必然的原因をつくりだすのは、各々の企業の創造的な活動にかかっている。その意味では、企業の持続的成長という結果をもたらす原因は、企業経営の基本的態度と実行力にあるのである。
 これこそが「和魂洋才」における「和魂」という自律的精神に基づく経営である。それを分かりやすく示せば、次のようになる。

結果を創造する自律的精神 ⇒ 持続的成長

「自助論」が明治日本を創りあげた

 この点で参考になるのが、サミュエル・スマイルズ著の「自助論」である。これを中村正直が「西国立志編」として翻訳し、明治日本に驚異的な成長を もたらす源泉となったのである。
 この点に関し、平川祐弘東京大学名誉教授は、その著書「天ハ自ラ助クルモノヲ助ク 中村正直と『西国立志編』」(名古屋大学出版会)において、「西国立志編」の明治における役割を次のように述べて、最高の評価をしている。
 「私の見るところ、『明治日本を作りしものはこの書なり』といいうる一書はこの書物をおいて他にない。・・・この一冊が日本における産業国家建設に果たした役割は・・・極めて大きい」
 では、西国立志編で紹介された考え方を紹介しよう。

「自助の精神は、人間が真の成長を遂げるための礎である。
 自助の精神が多くの人々の生活に根づくなら、それは活力にあふれた強い国家を築く原動力ともなるだろう。」
(竹内均訳「自助論」三笠書房から引用)

 このように、自助の精神が人間の成長および組織成長の原因となるのである。
 同様に、攻めのガバナンスによって、企業が持続的に成長するには、その原因として、自助の精神による経営、つまり、 自律的経営が必要になる。
 コーポレートガバナンス・コードも、自律的経営を前提とし、それを促進する手段的位置づけになっている。

より厳しく求められる守りのガバナンス

社会的責任を果たすという経営理念

 自律的経営の基本になるのは、経営理念である。経営理念は、企業の存在の根拠となる社会に対する役割を明らかにするものである。その社会的役割を果たすことが、持続的成長という結果を生み出すことになる。
 この点について、経営の神様である故松下幸之助氏は次のように述べている。

「自由競争とは、社会的責任を多く果たすための競争である」
(松下幸之助著「企業の社会的責任とは何か?」PHP研究所)

 この考え方は、企業がその社会的責任を果たすことが原因となって、企業が成長するかどうかの結果が決まるというものである。

守りのガバナンスなくして攻めのガバナンスは成り立たない

 この社会的責任には、当然、守りのガバナンスである法令などの遵守も含まれている。つまり、 守りのガバナンスを確立せずに、持続的成長をもたらす攻めのガバナンスは成り立たないということである。
 むしろ、攻めのガバナンスで持続的成長の結果を生み出すには、今まで以上に、守りのガバナンスを強化する必要がある。
 攻めのガバナンスが成功すると利益が多くなり、それをさらに多くしようとするとき、人間の常として、精神の堕落・腐敗を招きやすくなる。
 この精神の堕落・腐敗こそ、自律経営の中核となる社会的責任感の弱体化と喪失につながり、その精神状態を原因として、企業業績の悪化、あるいは、企業業績を良く見せかけるという粉飾ないし不適正会計という企業衰退の結果を招くことになる。
 このような企業家精神の衰退を招かないようにするには、 攻めのガバナンスの下でこそ、厳しい守りのガバナンスが必要になるのである。この点は、強調しても強調しすぎることがないほど重要な点である。
 積極的な攻めのガバナンスと厳しい守りのガバナンスのバランスこそが持続的成長の秘訣である。

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