初の商標登録 大幸薬品、インテル、BMWに認められた「音楽的要素のみからなる音商標」のポイント

知的財産権・エンタメ

目次

  1. 「音楽的要素のみからなる商標」とは
  2. 音商標の背景と現状
    1. 「音商標」はいつから登録できるようになったのか
    2. 「音商標」の登録が可能となった理由
    3. 「音商標」の出願・登録状況
  3. 「音商標」の商標登録が認められる場合
    1. 登録要件
    2. 不登録要件
  4. これまでの音商標との違い
    1. これまでに登録が認められていた音商標
    2. 今回登録が認められた「音楽的要素のみからなる商標」との違い
  5. 「音楽的要素のみからなる商標」の登録が認められた理由
  6. 「音楽的要素のみからなる商標」はどのような保護を受けるか
    1. 登録商標の保護
    2. 判例の考え方
    3. 「音楽的要素のみからなる商標」の類否の判断はどうなるか

 特許庁は9月26日、「音楽的要素のみからなる音商標」について、初めて登録を認める旨の判断をしたことを発表した(参照:特許庁「音楽的要素のみからなる音商標について初の登録を行いました」)。今回登録が認められるのは、大幸薬品の「正露丸」のCMで用いられているおなじみのラッパの音の他、インテル社およびBMW社の各CMなどで使用されている音だ。

出願人 出願番号 商標 区分/指定商品・役務
大幸薬品株式会社 2015-029809

大幸薬品(株)の音商標(MP3:227KB)
第5類/胃腸薬
インテル・コーポレーション 2015-029981

インテル・コーポレーションの音商標(MP3:117KB)
第9類/マイクロプロセッサ,ソフトウェアのプログラムが可能なコンピュータ用マイクロプロセッサ
Bayerische Motoren Werke Aktiengesellschaft 国際登録1177675

BMWの音商標(MP3:120KB)
第12類/Automobiles and parts thereof, included in this class.

 (出典:特許庁「音楽的要素のみからなる音商標について初の登録を行いました」)

 では、「音楽的要素のみからなる商標」とはどのような商標で、どういった場合に登録が認められるのだろうか。潮見坂綜合法律事務所の吉羽 真一郎弁護士に聞いた。

「音楽的要素のみからなる商標」とは

「音楽的要素のみからなる商標」とはどのような商標でしょうか。

 「音楽的要素のみからなる商標」とは、歌詞等の言語的要素を含まず、音の要素のみで構成されている商標をいいます。

 音商標は、平成27年4月から登録の受付を開始したいわゆる「新しいタイプの商標」の一つで、この音商標には、①音の要素(音楽的要素および自然音等)と言語的要素(歌詞等)の双方で構成されるものと、②音の要素のみで構成されるものがあります。このうち、今回初めて登録が認められた「音楽的要素のみからなる商標」は、その名の通り、②音の要素のみで構成されている商標をいいます。

 この「音の要素」は、いわゆる音符で表されるような「音楽」である必要はなく、「ピューピュー」「ゴーゴー」といった風の吹く音のような自然音や、「ニャー」といった動物の鳴き声、「パンパン」と手を叩く音なども音の要素に該当します。また、これらの音の組み合わせも認められます。

音商標の背景と現状

そもそも「音商標」はいつから登録できるようになったのでしょうか。また、登録が可能となった理由や、出願・登録状況について教えて下さい。

「音商標」はいつから登録できるようになったのか

 「音商標」は、平成27年4月1日に施行された「特許法等の一部を改正する法律(平成26年5月14日法律第36号)」により商標法が改正されて導入され、同日から出願受付が開始されています。

「音商標」の登録が可能となった理由

 この商標法改正においては、「音商標」の他、「動き商標」「ホログラム商標」「位置商標」「色彩のみからなる商標」という、いわゆる「新しいタイプの商標」と呼ばれる5つの商標の登録が新たに認められました。これは、近年のデジタル技術の発展や商品等の販売戦略の多様化に伴い、商品や役務のブランドとして、従来の文字や図形だけでなく、色彩や音についても商標として用いられてきているという社会的実態が背景にあります。また、諸外国では、すでにこのような「新しいタイプの商標」を保護対象とする国も多く、我が国においても保護ニーズが高まっていたということもあります。

 参考:「「色彩のみからなる商標」を企業が活用するために知っておきたいポイント

「音商標」の出願・登録状況

 「音商標」については、出願受付開始日の平成27年4月1日の時点で144件の出願があり(特許庁発表)、本原稿作成時点においては、出願件数566件、商標登録済み172件となっています。これらに加えて、今回、冒頭の3つの商標の登録が認められました。

【平成27年4月1日時点の出願数(特許庁発表)】

合計 内訳
色彩 位置 動き ホログラム
出願件数 481 151 192 103 32 3
出典:経済産業省「新しいタイプの商標について初めての審査結果を公表します

【平成29年9月26日時点の出願件数及び登録件数】

合計 内訳
色彩 位置 動き ホログラム
出願件数 1,594 566 509 376 126 17
登録件数 303 172 2 35 83 11
出典:経済産業省「音楽的要素のみからなる音商標について初の登録を行いました

「音商標」の商標登録が認められる場合

「音商標」の商標登録が認められるのはどのような場合でしょうか。

 「音商標」についても、他の商標と同様に、登録要件(商標法3条)や不登録事由(同法4条)の該当性が審査されますが、以下では、音商標において特に特徴的と思われる要件について解説します。

登録要件

 その商品や役務に慣用されている商標は、登録できません(商標法3条1項2号、商標審査基準[改訂第13版](以下「審査基準」といいます)第1四)。たとえば、商品「焼き芋」について、「石焼き芋の売り声」(「いしや~きいも~♪」)や、役務「屋台における中華そばの提供」について、「夜鳴きそばのチャルメラの音」などは、慣用されている商標に該当し、登録できません(審査基準第1四-1)。

 また、商品が通常発する音や、役務の提供にあたり通常発する音を、普通に用いられる方法で表示するものについても、原則として登録できません(商標法3条1項3号、審査基準第1五-8)。これはたとえば、商品「炭酸飲料」について、「『シュワシュワ』という泡のはじける音」や、商品「目覚まし時計」について、「『ピピピ』というアラーム音」、役務『焼肉の提供』について、「『ジュー』という肉が焼ける音」などが、審査基準上は例としてあげられています(審査基準第1五-8)。ビールをグラスに注ぐ「コポコポ」のような音は、テレビやラジオのCM等でも効果的に利用されている場合もありますが、この基準からすると、そういった音は残念ながら商標登録できないことになります。

 さらに、たとえば、

  1. 単なる自然音(風の吹く音や雷の音)
  2. 聴く者にクラシック音楽、歌謡曲、オリジナル曲等の楽曲としてのみ認識される音(CM等のBGMなど)
  3. 商品または役務の魅力を向上させるに過ぎない音(商品「子供靴」において、歩くたびに鳴る「ピヨピヨ」という音など)
  4. 広告等において需用者の注意を喚起したり、印象付けたり、効果音として使用される音
  5. 役務の提供のように供するものが発する音(役務「車両による輸送」について、「車両の発するエンジン音」等)

などは需用者に自他商品・役務の識別標識として認識されない(識別力がない、商標法3条1項6号)ため、商標登録できないとされています(第1八-11)。

不登録要件

 他の商標と同様、「音商標」も、先願の他の登録商標と類似する場合は、登録できません(商標法4条1項11号)。
 そこで、類否の判断基準が問題となりますが、特許庁の登録審査では、「商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察」して判断するとされており(審査基準第3十-1)、また、「商標が使用される商品又は役務の主たる需用者層(中略)その他商品又は役務の取引の実情を考慮し、需要者の通常有する注意力を基準として判断」するものとされています(審査基準第3十-2)。
 さらに、「音商標」については、音商標を構成する「音の要素」(メロディー、ハーモニー、リズム又はテンポ、音色等の音楽的要素および自然音等)および「言語的要素」を総合して、商標全体として考察することとされています(審査基準第3十-9(1))。

 「音商標」の類否判断の中で特徴的なものとしては、以下のようなものがあります。

ア 音の要素のみからなる音商標が同一または類似であるためには、少なくともメロディーが同一または類似であることが必要とされています(審査基準第3十-9(4))。

イ 言語的要素も含む音商標間の類否の判断にあたっては、音の要素と言語的要素のそれぞれの識別力の強弱を考慮するものとされており、たとえば、造語や著名な企業名などのように言語的要素の識別力が非常に強く、それに比して音の要素の識別力が低い場合は、言語的要素のみを考慮する場合もあるとされています(審査基準第3十-9(5))。

【(例)原則として類似しない場合(言語的要素が非類似、音楽的要素が同一)】

(例)原則として類似しない場合(言語的要素が非類似、音楽的要素が同一)

出典:特許庁「商標審査基準[改訂第13版]」18頁

ウ 言語的要素も含む音商標と、文字商標の類否の判断においては、音商標の言語的要素が要部として抽出される場合には、類否の判断を行うとされています(審査基準第3十-9(6))。

【(例)原則として類似する場合】

(例)原則として類似する場合

出典:特許庁「商標審査基準[改訂第13版]」18頁

これまでの音商標との違い

今回登録された「音楽的要素のみからなる商標」と、これまでに登録が認められていた音商標との違いは何ですか。

これまでに登録が認められていた音商標

 2-3に記載のとおり、音商標自体としては、これまで登録されているものが多数あります。しかし、これらの音商標は、いずれも、「音の要素」と「言語的要素」の組み合わせで構成された音商標でした。

 たとえば、最初期に登録された音商標として、久光製薬株式会社の

久光製薬株式会社の音商標

出典:特許庁「新しいタイプの商標について初めての審査結果を公表します

や、味の素株式会社の

味の素株式会社の音商標

出典:特許庁「新しいタイプの商標について初めての審査結果を公表します

があります(これらのフレーズは、みなさんもテレビCMなどでおなじみではないかと思います)。
 これらの音商標には、いずれも「音の要素」であるメロティーに加えて、「HI SA MI TSU」「あ じ の も と」といった「言語的要素」が含まれています。

今回登録が認められた「音楽的要素のみからなる商標」との違い

 これに対して、今回登録が認められた「音楽的要素のみからなる商標」は、いずれもその名の通り、「音の要素」のみで構成されており、「言語的要素」すなわち文字は含まれていません。

 音商標は、前述のとおり、平成27年4月1日から出願が認められており、最初に登録があったのは同年11月です。そして、これまで172件が登録済みとなっていますが、これらはいずれも、「音の要素」と「言語的要素」の双方から構成されています。この点、音商標が商標としての識別力を有しているかどうかは、特許庁の基準によれば、「音の要素」と「言語的要素」を総合して商標全体として考察し判断するとされているところ(審査基準第1八-11)、「音の要素」と「言語的要素」の双方で構成される商標の場合は、「言語的要素」が識別力を有していれば、商標全体としても識別力を有していると判断されます(審査基準第1八-11(2))。

 これはすなわち、「音」の識別力の高低にかかわらず、言語的要素にさえ識別力があれば、商標登録が認められることを意味します。たとえば前述の久光製薬株式会社の音商標も、味の素株式会社の音商標も、「久光」「味の素」という言語的要素に識別力が認められるため、ある意味商標登録が認められるのは当然であるといえ、「音」自体の識別力の有無が直接的に問題となるわけでは必ずしもありません(音の要素の部分が、ありふれた識別力がないものであっても、これらは音商標として商標登録が認められたであろうと思われます)。

 これに対して、今回登録が認められた3件の音商標は、「言語的要素」を含みませんので、これらが登録されたということは、「音の要素」に識別力があったからに他なりません。この点が、これまで登録されてきた音商標とは明確に異なります。もちろん、これまで登録されてきた音商標の中にも、音の要素に識別力があるものも多く存在していると思われます。しかし、これまで特許庁が約2年もの間、音楽的要素のみからなる商標の登録をしてこなかったのは、音楽的要素のみからなる商標の登録の判断が、言語的要素を含む音商標とは異なること、換言すれば音楽的要素のみからなる商標の登録の判断の方が難しいことの証左であるように思われます。

「音楽的要素のみからなる商標」の登録が認められた理由

今回、これらの「音楽的要素のみからなる商標」の登録が認められたのはなぜでしょうか。

 これらの商標の登録が認められたのは、これらの商標が、音の要素において識別力があったからであるといえます。
 音の要素のみからなる音商標については、前述3-1の①から⑤のような場合は識別力が無いため商標登録が認められないとされています。この点、大幸薬品とインテルの出願した「音」は、パッと聴くとCMでもおなじみのいわゆるサウンドロゴとして誰でもわかるような知名度を有しているように思えます(BMWのものは、使用期間が短いこともあってあまり馴染みがないかもしれませんが・・)。

 しかし、これらの各商標の登録審査過程を見ますと、いずれの商標も、広告の演出等に用いられる音の一種に過ぎず識別力が認められないという理由で、一旦は拒絶理由通知書が出されています。これに対して、出願人が、TVCM、ウェブサイト、出版物など、これらの音商標が広く使用されていたことを示す多くの資料を提出することで、使用によって識別力が獲得されていることを立証し、その結果商標登録が認められたという経緯があります。ただし、識別力が認められるのは、現に使用してきた商品・役務に限定されるため、登録できる商品・役務は自ずと限られます(たとえば、未だ販売等を行っていない、今後予定している新たな商品分野、といったものについては登録できないことになります)。

 このような登録の実情から考えると、音の要素のみからなる音商標は、文字やマークといった普通の商標登録に比べて、識別力の立証の点や、登録できる商品・役務が限定されてしまう点などにおいて、その登録のハードルは高いといえるでしょう。

「音楽的要素のみからなる商標」はどのような保護を受けるか

「音楽的要素のみからなる商標」が登録できた場合、どのような保護を受けることが出来るのでしょうか。侵害の判断基準についても教えてください。

登録商標の保護

 商標が登録できた場合、商標権者は、その登録した商品または役務(「指定商品」「指定役務」といいます)について、登録商標の使用をする権利を専有します(商標法25条)。これにより、商標権者は、自己の登録商標と同一または類似の商標を、指定商品または指定役務と同一または類似の商品・役務に使用する者に対して、その使用の差止等を請求することができます(商標法36条、37条参照)。

判例の考え方

 商標登録時における特許庁の商標の類否判断の基準は前述3-2のとおりですが、商標権侵害時における裁判所の商標の類否判断の基準も、基本的には特許庁の審査基準を踏まえて判断されています。

 商標の類否判断のリーディングケースである氷山印事件(最高裁昭和43年2月27日判決・民集22巻2号399頁)では、「商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによつて決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によつて取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。」「商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、従つて、右三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によつて、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない。」と判示しており、以後の裁判所における類否判断ではこの基準が踏襲されているといえます。

【商標の類否の判断基準】

商標の類否の判断基準

「音楽的要素のみからなる商標」の類否の判断はどうなるか

 「音楽的要素のみからなる商標」の類否の判断も、基本的にはこれまで通りの判断基準に沿ったものになると解されますが、現時点では、未だ3件が登録されることになっただけであり、裁判所が商標権侵害の際に実際にどのような判断をするかはまだわかりません。前述のとおり、商標登録時における特許庁の審査基準では、メロディーの同一・類似性を重視することとsされていますので、侵害の判断においても同様に、メロディーが最も重要な判断基準になるでしょう。

 また、通常の基準では、外観、称呼、観念が一致する商標は類似するという判断になりますが、「音楽的要素のみからなる商標」では、そもそもこれらの三要素がありません。そうすると、専らメロディーの類似性のみが判断されることになりますが、その場合、どの程度似ていれば類似の商標と判断すべきなのか、さらに詳細な基準が必要となってきます。このあたり、裁判実務上どのような判断になっていくかは、事例の蓄積を待つしかありません。

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