仮想通貨をめぐる法的なポイント

第2回 仮想通貨の取引における当事者間の権利関係とトラブルが生じた場合の法的問題点

IT・情報セキュリティ

目次

  1. 仮想通貨の仕組み
    1. ビットコインアドレス 秘密鍵と公開鍵
    2. 仮想通貨の取引はどのように成り立っているか
    3. ブロックチェーン
  2. 仮想通貨に対する所有権が認められるのか
    1. 所有権の対象となるための要件
    2. ビットコインが所有権の対象となるか否かについて判断した裁判例
    3. 資金決済法の改正による影響
  3. 仮想通貨の取引を行う場合の当事者間の権利関係
    1. 取引所を通じて仮想通貨の売買取引を行う場合の利用者の権利
    2. 仮想通貨の売買契約に基づく引渡請求が認められるか
    3. 仮想通貨に対して強制執行することができるか
  4. 第三者の不正アクセスによって仮想通貨が盗まれた場合に損害を回復することができるか
  5. 取引所が破産した場合に、預けていた仮想通貨の返還を請求することができるか
    1. 取戻権の行使により預託した仮想通貨の返還が認められないか
    2. 利用者が取引所の倒産リスクを回避することができるか(信託による倒産隔離)

 取引所を通じて仮想通貨を取引する場合、当事者間にどのような権利関係が発生するのでしょうか。仮想通貨の取引を行う場合に考えられるトラブルや問題点について、具体的に検討します。
 なお、以下、本稿においては、分散管理型の仮想通貨の代表である「ビットコイン」を念頭に置いて説明します。

仮想通貨の仕組み

 まず、仮想通貨の仕組みについて説明します。
 仮想通貨の代表とされているビットコインは、ある者が保有しているビットコインの量(有高)を個々に表象する特定のデータが存在するわけではなく、ビットコインネットワークの各参加者が、ネットワーク上における過去の全取引(たとえば、「AさんがBさんに10BTC(BTCとはビットコインの単位のこと)を払う」という取引の集合)が記録された取引台帳に相当するもの(ブロックチェーン)をインターネット上で共有するものであると理解されています。
 ここでは、ある者が保有するビットコインの量(有高)は、ブロックチェーンによって、各参加者が保有するビットコインアドレス(銀行の預金口座に相当する識別情報)ごとに、記録された全取引を差引計算した結果を確認することで把握することになります。アドレスの集合は「ウォレット(財布)」などと呼ばれます。
 ビットコインは、銀行口座を用いて法定通貨の送金を行う場合のように、銀行という特定の第三者により預金残高や送金取引の記録が管理されるものではなく、不特定多数のビットコインネットワークの各参加者が、P2P(Peer to Peer)ネットワークにより全取引履歴(ブロックチェーン)を共有することで管理が行われているというものです(分散型台帳システム)。

仮想通貨の仕組み

ビットコインアドレス 秘密鍵と公開鍵

 ビットコインアドレスの実体は、秘密鍵と公開鍵のペアです。
 公開鍵とはビットコインアドレスを特定するためのIDや口座番号のようなものです。これに対し、秘密鍵とは預金口座の暗証番号のようなものであり、「7Ka9eAejwgQErsregKN88QkAE9ZdUEH94dRFMbvVnNswIYSOB5EW」のような文字列になります。

【公開鍵暗号方式とは】
 「公開鍵暗号方式」とは、「公開鍵」と「秘密鍵」という異なる2種類の鍵を使って暗号化と復号を行えるようにした暗号方式のことです。

 かつての暗号化は「共通鍵暗号方式」で行われてきました。共通鍵暗号方式とは、暗号化と復号(暗号を元に戻すこと)を同じ鍵で行うもののことを指します。古典的な暗号化の方法として、アルファベットの文字を3文字ずらすという「シーザー暗号」があります(「ABCD」を「DEFG」に置き換える)。シーザー暗号では、「3文字ずれている」という鍵で暗号を復号しますが、この鍵は、暗号化する者と復号する者とで同じ(3文字ずれているという鍵)ということになります。このように、暗号化する者と復号する者で同じ鍵を用いる暗号を「共通鍵」暗号方式といいます。
 暗号を解読されないためには鍵が第三者に分からないことが必要ですが、共通鍵暗号方式では、鍵を暗号化せずに送信すると、それを拾った第三者が暗号を復号できてしまいますし、鍵を暗号化して送ってしまうと、受け取った者が復号できないという問題があります。

 この問題を解決するために発明されたのが、暗号化する鍵と復号する鍵を分ける「公開鍵」暗号方式です。この暗号方式は、「公開鍵」と「秘密鍵」という異なる2種類の鍵を使って暗号化と復号を行えるようにしたものです。公開鍵暗号方式では、秘密鍵と公開鍵という1対1で対応する鍵を用います。一方の鍵で暗号化した情報は、対になる他方の鍵でのみ復号が可能です。また、秘密鍵は秘密として保持する鍵であり、公開鍵は公開されている鍵であるというのがポイントになります。

 典型的には、Xさんが公開鍵をYさんに送信したり公開しておき、Yさんは公開鍵を使って情報を暗号化してXさんに送信します。Xさんがそれを受信したら、手元にある秘密鍵で復号することができます。ここで、公開鍵から秘密鍵を推測することはできないようになっています。公開鍵は暗号化に使うだけのものであるため、誰に知られても良いものです。しかし、その公開鍵で暗号化した情報を復号することができるのは、当該公開鍵に対応した秘密鍵を持っている自分だけである、というのが、公開鍵・秘密鍵を使った情報のやりとりの特徴です。

 他方で、下記図のように、Aさんが秘密鍵で情報を暗号化した場合には、Bさんは、Aさんが公開している公開鍵で復号することができます。この場合、第三者も公開鍵を入手することはできるため、当該第三者は公開鍵を用いて情報の内容を確認することができてしまいます。しかし、ここでは、前述のように情報の内容を隠すために公開鍵が利用されているのではなく、受信した情報をAさんの公開鍵で復号することができたという事実をもって、間違いなくAさんの秘密鍵で暗号化した情報である(すなわち間違いなくAさんが送信した情報である)ことを確認するために利用されているのです。

「なりすまし」対策

 このように公開鍵暗号方式が採用されている理由として、「なりすまし」対策があげられます。たとえば、「AさんからBさんへ10BTC送付」する際に、悪意を持ったCが「AさんからCさんへ10BTC送付」するという偽の送付データをネットワークへ流すことが考えられますが、秘密鍵と公開鍵を用いることで、当該アドレスでビットコインを保有している本人が送付したこと等を確認することができるため、これにより「なりすまし」を防いでいるのです。

 ビットコインの送付、取り出しなど、すべての操作に秘密鍵が必要となり、秘密鍵から公開鍵を作成し、公開鍵からビットコインアドレスを生成して利用することになります。
 秘密鍵が自分以外の者に知られると勝手に使われてしまいますし、秘密鍵を忘れてしまうとそのビットコインは使えなくなってしまいます。

仮想通貨の取引はどのように成り立っているか

 AさんからBさんに10BTCを支払うという取引を行う場合、銀行送金サービスを用いて法定通貨の送金を行うのとは異なり、ビットコイン取引ではP2P(Peer to Peer)の通信により、直接送付者と受取人の間で取引情報データのやり取りがなされます。同時に、ビットコインネットワークにも同じ情報が送信されます。
 「AさんがBさんに10BTCを払う」という取引(トランザクション)は、前の取引(トランザクション)を特殊な符号(「ハッシュ値」と呼ばれます)にしたものや、送付額、Bさんのアドレス(公開鍵)等の情報を、Aさんの秘密鍵で電子署名したものから成っています。間違いなくAさんが行ったトランザクションであることはAさんしか知らない秘密鍵で電子署名されていることで証明できます(Aさんの公開鍵により、Aさんの秘密鍵で署名されたことが確認できます)。また、Bさんとしては、過去すべての取引の履歴を確認できますから、Aさんが当該トランザクションによって送付できるだけのビットコイン保有数(有高)を持っているかどうかも確認できます。

【ハッシュ値・ハッシュ関数とは】
 ハッシュ関数とは、文字列から一定の長さの符合(ハッシュ値)を生成する関数のことをいいます。
 たとえば、「東京地方裁判所」をMD5と呼ばれるハッシュ関数でハッシュ値を算出すると、「939b0cab823f59ab595af0d85892585e」となります。ハッシュ関数は、同じ入力値からは毎回同じ「ハッシュ値」が算出される(偶然性がない)一方で、入力値が少しでも異なればハッシュ値も異なることになるという特色があります(非衝突性)。
入力値 MD5によるハッシュ値
東京地方裁判所 939b0cab823f59ab595af0d85892585e
東京地方裁判所。 3a9fdbb8f3aa438e416f5a1e02e7bebc
 また、長さが異なる入力値に対しても同じ長さ(固定長)のハッシュ値が生成されるという特徴もあります。
入力値 MD5によるハッシュ値
東京地方裁判所での第1回期日に出頭した。 109f4cbcfb3211537178cbe368ffbe28
 そして、ハッシュ関数は不可逆であり、ハッシュ値から元の入力値を割り出すことは極めて困難です(一方向性)。
 このような特徴を有するハッシュ関数(ハッシュ値)は、たとえば、通信においてデータが改ざんされていないことを確認するために利用されています。つまり、データ(および第三者に分からない鍵)とそのハッシュ値を送信し、受信した側でも同じくデータ(および当該鍵)からハッシュ値を算出して、ハッシュ値が一致しなければデータが改ざんされていることが分かるということになります。

ブロックチェーン

 ビットコインの実体は、このような形で、ビットコイン創設以来のすべての取引を記録した履歴そのものであり、ビットコインというものが実体を有して存在しているわけではありません。そしてこの取引履歴の台帳が、「ブロックチェーン」と呼ばれる方法で保存されています。
 前述のとおり、ブロックチェーンは、取引履歴を特定の機関やサーバで管理するのではなく、ビットコインネットワークの参加者全員が通信し合うP2P(Peer to Peer)ネットワークにより管理する「分散型台帳システム」です。したがって、P2Pネットワークを構成するすべてのコンピュータのデータが破壊されない限り、ブロックチェーンが消滅することはないとされています。
 たとえば、「AさんがBさんに10BTCを払う」という取引(トランザクション)は、当事者であるAさんからBさんにだけ送られるのではなく、AさんからP2Pネットワークを通じてネットワーク上のすべてのコンピュータに送信され、各コンピュータで保管されることになります。

【ブロックチェーンの仕組み】

ブロックチェーンの仕組み
 出典:経済産業省「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料」

出典:経済産業省「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利⽤したサービスに関する国内外動向調査)報告書概要資料

 前述したとおり、ブロック(取引記録)に保存されている取引(トランザクション)のデータには、前の取引のハッシュ値が含まれています。そのため、取引記録を少しでも改ざんすると、ハッシュ値が変わってしまいます。
 取引のデータを改ざんするためには、その後の取引の全てのハッシュ値を改ざんする必要があり、かつ、ブロックを保存している極めて多数のコンピュータ相手にその改ざんを行う必要があります。ビットコインでは、ブロックを保存しているコンピュータの数が無数に存在しているため、改ざんが事実上不可能だといわれているのです。

仮想通貨に対する所有権が認められるのか

 このようなビットコインの仕組みを前提として、ある者が、開設したビットコインアドレスでビットコインを保有している場合、そのビットコインに対する民法上の所有権や、その他の権利が認められるのでしょうか。
 この問題は、後述する仮想通貨の取引を行う場合の当事者間の権利関係(後述3)や、取引所が破産した場合に預けていた仮想通貨の返還を請求することができるか(後述5)という問題と関わります。

所有権の対象となるための要件

 所有権は、「法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利」であると定義されていますが(民法206条)、ここでいう所有権の対象となる所有「物」は、「有体物」であるとされています(同法85条)。また、所有権の法的性質が、対象物に対する他人の利用を排除することができる権利であるということから、所有権の対象となるには排他的に支配可能である物であることが要件となると考えられています。
 そうすると、ビットコインの仕組みを前提とする限り、仮想通貨は、「有体物」の「排他的な支配権」である所有権の対象とはならないという考えが成り立ちます(もっとも、これに対する疑問も指摘されています)。

ビットコインが所有権の対象となるか否かについて判断した裁判例

 仮想通貨が所有権の対象とならないことは、東京地裁平成27年8月5日判決においても判断されています。

(東京地裁平成27年8月5日判決)

【事案の概要】
 破産会社(株式会社MTGOX)が運営するビットコイン取引所を利用していた顧客(原告)が、破産管財人(被告)に対し、被告が占有している原告のビットコインの引渡し等を求めた事案。

【裁判所の判断】
 所有権に基づく原告の請求を棄却した。

【争点】
  1. 仮想通貨に「有体性」が認められるか
     ビットコインは、「デジタル通貨」あるいは「暗号学的通貨」であるとされているほか、その仕組みや技術は専らインターネット上のネットワークを利用したものであることからすると、ビットコインには空間の一部を占めるものという有体性がない。
  2. 仮想通貨に「排他的支配性」が認められるか
     特定の参加者が作成し、管理するビットコインアドレスにおけるビットコインの有高(残量)は、ブロックチェーン上に記録されている同アドレスと関係するビットコインの全取引を差引計算した結果算出される数量であり、当該ビットコインアドレスに、有高に相当するビットコイン自体を表象する電磁的記録は存在しない。上記のようなビットコインの仕組み等に照らせば、ビットコインを排他的に支配するものとは認められない。

資金決済法の改正による影響

 平成28年に改正された資金決済に関する法律(以下「改正資金決済法」といいます)において、はじめて「仮想通貨」が定義されたうえで法の規制対象となることが明記されました(改正資金決済法2条5項)。
 もっとも、同法はいわゆる規制法(仮想通貨交換業者等に対する規制を定めたもの)であり、仮想通貨の保有者が有する権利の法的性質や仮想通貨の私法上の位置付けを明らかにするものではありません。つまり、現時点においては、仮想通貨の発生や移転(取得や譲渡)等に関する直接のルールは存在しないということになります。
 では、仮想通貨の取引を行う場合等に、当事者間でどのような権利関係が生じるのでしょうか。

仮想通貨の取引を行う場合の当事者間の権利関係

取引所を通じて仮想通貨の売買取引を行う場合の利用者の権利

 通常、ビットコインの取引を行う場合には、取引所を通して行われることが多いように思われます。なぜなら、ビットコインの取引を行おうと考えた場合であっても、買い手や売り手を自分で探し出すことは難しいため、取引の場として取引所が利用されることが多いのです。また、取引所は、ビットコインと法定通貨、ビットコインと他の仮想通貨との両替の場として利用されることもあります。
 ビットコインの売買の媒介および決済を行う取引所では、顧客の発注したビットコインの売買の約定が成立した場合に速やかにかつ確実にこれを決済するため、顧客からあらかじめビットコインの預託を受ける(顧客のアドレスから取引所のアドレスにビットコインを送付する)というのが一般的な取扱いのようです(もちろん、そうでない場合もあります)。
 この場合、預託されたビットコインは取引所に帰属し、顧客は、取引所に対してビットコインの返還を求める債権のみを有することになると考えられています。

取引所を通じて仮想通貨の売買取引を行う場合の利用者の権利

仮想通貨の売買契約に基づく引渡請求が認められるか

 仮想通貨の売買契約がなされた場合、先ほど述べた考え方からすれば、買主は仮想通貨の所有権を理由に引渡し(送付)を求めることはできないということになりますが、売買契約を理由に引渡しを求めることは可能です。
 たとえば、仮想通貨を用いた各種の取引(ビットコインと法定通貨の両替、ビットコインによる商品・サービスの購入など)において、取引の相手方が契約上の債務に違反した場合(たとえば、交換契約に基づいて送付する義務のある仮想通貨を送付しない場合や、商品・サービスを提供する対価として送付する義務のある仮想通貨を送付しない場合など)には、契約上の合意違反を理由として当該債務(仮想通貨の送付)の履行を求めること、債務不履行を理由に契約の解除や損害賠償の請求を行うことが可能であると考えられます。

仮想通貨に対して強制執行することができるか

 契約に基づき仮想通貨の引渡しを求めたにもかかわらずこれが拒否されたような場合、たとえ民事訴訟を提起して判決で引渡請求が認められたとしても、相手方から任意の引渡しがなされることは必ずしも期待できません。その場合、強制執行の手続を利用して、仮想通貨の引渡しを実現させることはできるでしょうか。
 民事執行手続において仮想通貨に対する強制執行が認められるかどうかについては、電子記録債権に対する強制執行手続が定める方法により強制執行を行うことが考えられるとの指摘があります(電子記録債権法49条3項、民事執行規則150条の9参照)。電子記録債権とは、従来からあった手形や指名債権(売掛債権等)に代わって、電子債権記録機関の記録原簿に電子的に記録することによって権利を発生させ、譲渡させることができる債権のことをいいます。
 しかし、実際には、仮想通貨の送付を命じる判決が得られたとしても、仮想通貨の送付それ自体を強制することは技術的にも容易でないことから、結果として仮想通貨の価値相当分の損害賠償を求めることが多いのではないかと考えられます。この場合、後述するとおり、ビットコインの評価額(つまり損害額)をどのように定めるかが問題となると思われます。

第三者の不正アクセスによって仮想通貨が盗まれた場合に損害を回復することができるか

 第三者の不正アクセスによって保有するビットコインが保有者の許可なく他者に送付されてしまった場合、つまり仮想通貨が第三者に盗まれた場合に、被害者は当該第三者に対してその回復を求めることができるでしょうか。
 盗まれたのがドル・円等の法定通貨であった場合には、盗まれた金額について不法行為に基づく損害賠償請求をすることが考えられます。
 民法上は、不法行為の保護対象は「権利」(たとえば所有権等)のみならず「法律上保護される利益」も含まれます(民法709条)ので、ビットコインを保有することによる経済的利益もここに含まれると考えられます。したがって、仮想通貨の保有者が、不正アクセスなどにより仮想通貨を奪った者に対して、不法行為を理由とする損害賠償を請求すること、また、不正送付された仮想通貨を受け取った者に対して不当利得の返還を請求(民法703条・704条)することは、法的に可能であると考えられます。
 もっとも、現実的には、仮想通貨を盗んだ第三者を特定することや、当該第三者が盗んだという証拠を確保することは必ずしも容易ではないという問題があります。

取引所が破産した場合に、預けていた仮想通貨の返還を請求することができるか

取戻権の行使により預託した仮想通貨の返還が認められないか

(1)破産法上の取戻権

 仮想通貨の取引所が破産した場合であっても、取引所の利用者その他の第三者は、破産者に属しない財産を破産財団(破産債権となってしまう資産)から取り戻す権利を有しています(破産法62条)。
 この「取戻権」が認められるためには、取り戻すことを求める対象物について、所有権その他の物権(占有権や占有を内容とする用益物権、占有を伴う担保物権等)や、財産の給付を求めることを内容とする債権的請求権等を有していることが必要です。これらの権利が認められる限り、取戻権に基づく返還請求が認められ得ることになります。

(2)取引所に対する取戻権の行使

 しかし、破産した取引所にビットコインを預けていた場合、利用者が当該ビットコインに対する所有権その他取戻権を基礎付ける権利を有していない以上は、破産した取引所に対するビットコインの返還請求権は「破産債権」と評価されることになります。この場合、ビットコインを預けていた利用者は、破産手続の中で破産配当を受ける権利を有するのみで、預けていたビットコインすべての返還が認められるわけではありません。実務的には、破産配当にあたって、ビットコインの評価額をどのように定めるかが問題となると思われます。

取引所に対する取戻権の行使

 これに対し、取引所が利用者のビットコインと取引所のビットコインを分別管理していれば、利用者のビットコインは「破産者に属しない」利用者固有の財産と評価され、取戻権が認められる余地があるとの指摘もあります。

取引所に対する取戻権の行使

 なお、前述の東京地裁平成27年8月5日判決は、利用者によるビットコインの所有権に基づく取戻権を否定しましたが、所有権以外の権利に基づく取戻権までも明示的に否定したわけではありません。そのため、所有権以外の物権や財産の給付を求めることを内容とする債権的請求権等に基づく取戻権が認められる余地はあると考えられます。

利用者が取引所の倒産リスクを回避することができるか(信託による倒産隔離)

 取引所等の仮想通貨交換業者が利用者(顧客)の「金銭」を管理する場合には、取引所の倒産の影響を利用者に及ぼすことを避けるため、信託業務を営む金融機関等に対して信託を行うなどの方法によって管理しなければならないことが規定されています(改正資金決済法63条の11第1項、仮想通貨交換業者に関する内閣府令案20条1項、21条)。つまり、信託された金銭等の資産は、取引所固有の資産から独立したものとされることから、仮に取引者が破産した場合であっても、倒産の影響を受けないということになります(信託による倒産隔離)。
 これに対して、利用者の「仮想通貨」を管理する場合には、このような信託を行うことは求められていません(改正資金決済法63条の11第2項)。
 それでは、利用者が預託した仮想通貨について、信託を用いた手法等により取引所の倒産リスクを回避することができないでしょうか。

(1)金銭等の財産の信託

 取引所が利用者から預かった金銭等の財産を信託財産、取引所を委託者、信託業務を営む金融機関等を受託者、利用者を受益者として信託契約を締結することで、金銭等の顧客資産を取引所の破産財団から隔離することができます
 この場合、受益者である利用者は、破産した取引所の固有財産で構成される破産財団に対し破産債権を有するのではなく、信託財産に対し受益権を有することになります。
 このような信託契約が成立するための要件は、①特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をすること、ならびに、②当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理または処分およびその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきであることを内容とする合意をすることが必要になります(信託法3条1号)。

(2)仮想通貨の信託をすることができるか

 では、ビットコインを信託の対象とすることができるでしょうか。
 信託の対象となる「財産」(信託法2条1項)といえるためには、①金銭的価値に見積もることができる積極財産であり、かつ、②委託者から移転または分離することが可能であることが必要であると解されています。
 ①ビットコインが取引の対象とされていることからすれば、ここでいう金銭的価値に見積もることができる積極財産にあたると考えられます。また、②ビットコインは、各人が開設したビットコインアドレス間で移転することが可能であり、かつその保有数(有高)をアドレスごとに確認することができるため、委託者(利用者)から移転または分離することも可能であると考えられます。したがって、ビットコインを信託の対象として考えることは可能であるように思われます。

 なお、倒産隔離を行うためには、取引所において帳簿上の分別管理をするだけでは不十分であり、取引所と顧客のビットコインアドレスが別に管理されている必要があるということが指摘されています。なぜならば、倒産隔離が認められるためには、分別管理により特定性をもって信託財産に属するということを証明する必要があると解されているためです。
 もっとも、取引所によるビットコインの管理方法として、セキュリティ上の問題などから、同一のアドレスにおいて固定的に管理しない方法をとるケースもあると考えられることから、この場合に信託財産としての特定性を充たす管理といえるか否かについて問題となり得ることが指摘されています。

 これに対し、金融審議会「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ報告」(平成27年12月12日)では、仮想通貨を信託の対象とすることに否定的な意見がなされています。

(「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ報告」29頁)
 利用者が交換所に預託した金銭・仮想通貨の分別管理の方法に関して、分別管理に係る我が国の金融法制では、①供託の方法で保全するもの、②信託の方法で保全するもの、③自己の資産と顧客資産を明確に区分し、直ちに判別できる状態で管理するものに大別される。
 仮想通貨については、現時点では、私法上の位置付けも明確でないため、供託・信託を行うことができないとの制約がある。また、そうした中で、金銭についてのみ供託・信託を行うこととしても、どこまで利用者保護の実効性があるか疑問であるとの指摘、あるいは、現実に、交換所が金銭の信託等を行うことが可能かとの指摘もある。

 信託契約の内容等を工夫することによってこの問題に対処することは不可能ではないと思われますが、その実現にはさまざまな法的・実務的な障害を解決する必要があると考えられます。

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