迅速仲裁とは?手続の流れ、期間・コストなどを解説

訴訟・争訟
柴田 啓介弁護士 A&S福岡法律事務所 瀬川 慶弁護士 A&S福岡法律事務所

目次

  1. 通常仲裁と迅速仲裁
    1. 通常仲裁
    2. 迅速仲裁
    3. 通常仲裁と迅速仲裁の制度設計の違い
  2. 迅速仲裁手続の流れ
    1. 申立て・答弁・反対請求
    2. 仲裁人の選任・審理予定表の作成
    3. 書面審理・仲裁判断
  3. 迅速仲裁の審理期間・コスト
    1. 審理期間の比較
    2. コストの比較
  4. 迅速仲裁に向いている紛争類型/向いていない紛争類型
    1. 迅速仲裁に向いている紛争類型
    2. 迅速仲裁に向いていない紛争類型
  5. まとめ

 迅速仲裁手続とは、審理期間を短縮することで早期に紛争解決を図る仲裁手続です。例として、日本商事仲裁協会(JCAA)の商事仲裁規則2021においては、紛争金額が3億円以下の事件などの場合、当事者が特段の対応をしない限り、原則として迅速仲裁手続が適用されます。

 迅速仲裁手続には、スピーディーかつ短期間で紛争を解決できるというメリットがあります。裁判所での民事訴訟手続については、短期間での審理・判決の実現を目的とする「法定審理期間訴訟手続」が創設されましたが、実効性が疑問視されている面があります。そのため、短期間での紛争解決手段としての迅速仲裁手続は、紛争の国際性の有無を問わず、よりいっそう注目されます。
 他方で迅速仲裁手続は、事件の内容によっては十分な主張・立証を行うための時間を確保しづらいというデメリットもあります。そのため、契約書等の紛争解決条項で仲裁による解決を選択する場合には、将来想定される紛争の内容を踏まえ、迅速仲裁手続の適用を前提とするか否かをあらかじめ検討しておくことが重要です。
 本稿では、迅速仲裁の特徴を概観したうえで、迅速仲裁手続の流れや迅速仲裁になじみやすい紛争類型など、実務上の対応ポイントについて解説します。

通常仲裁と迅速仲裁

通常仲裁

 迅速仲裁手続について概説する前提として、まず仲裁手続について簡単に説明すると、仲裁手続は、当事者が仲裁による解決を行う旨の合意(いわゆる仲裁合意)を行った場合に利用される、裁判所外で行われる紛争解決手続です。

 仲裁手続が特に国際取引の場面で広く利用される理由の1つは、仲裁判断の国際的な執行可能性が高い点にあります。裁判手続で得た判決を外国で執行するためには、その国の法制度に従って判決の承認等を受ける必要があるため、仮に勝訴判決を得たとしても、相手方の所在国によっては執行ができない場合があります。他方、仲裁手続では、「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(ニューヨーク条約)」を多数の国が締結していることから、仲裁判断については、相手方の所在国において承認・執行を求めることができる場合が多くあります。

 また、仲裁手続は、原則として非公開であり(例としてJCAA仲裁規則 1 42条1項)、仲裁人、当事者その他の仲裁手続の関係者には、仲裁事件に関する事実や仲裁手続を通じて知り得た事実について守秘義務が課されています(同条2項)。そのため、口頭弁論期日等が公開され(憲法82条1項)、訴訟記録の閲覧等が可能(民事訴訟法91条1項、91条の2第1項)な訴訟手続と比較して、紛争に関する情報の秘密性を維持しやすいことも仲裁手続の特徴の1つです。
 これらの特徴は、通常仲裁だけでなく、本稿で取り上げる迅速仲裁手続にも共通しています。

迅速仲裁

 本稿で例として取り上げるJCAA仲裁規則の下では、迅速仲裁手続は、原則として以下のいずれかに該当する場合に実施されます(JCAA仲裁規則84条1項)。紛争金額が一定額以下の事件については、当事者が特段の対応をしない限り、原則として迅速仲裁手続が適用される点が大きな特徴です。

  1. 紛争金額 2 が3億円以下の場合
  2. 当事者間で迅速仲裁手続によるべき旨の書面による合意があり、これをJCAA(一般社団法人日本商事仲裁協会)に通知した場合

 契約書において、特定の仲裁機関の仲裁規則に基づく仲裁により紛争を解決する旨の合意(いわゆる仲裁合意)をした場合、将来の紛争が所定の要件を満たせば、自動的に迅速仲裁手続の適用を受けることになります。

 迅速仲裁手続においては、手続の迅速化を図るため、通常仲裁と比較して審理期間が大幅に短縮されています。具体的には、仲裁判断は仲裁廷成立から6か月以内(紛争金額5,000万円以下の場合は3か月以内)という短期間のうちにするよう努めることとされており(JCAA仲裁規則88条1項・2項)、やむを得ない事情がない限り、その期間は延長されません(JCAA仲裁規則89条)。
 筆者らの所属法律事務所が代理人を務めた迅速仲裁事件においても、6か月の審理期間はかなり厳格に運用されている印象であり、延長は当事者が合意した場合など、例外的な場合に限定されているものと考えられます 3。

 これに対し、通常仲裁においては、仲裁判断は仲裁廷成立から9か月以内にするよう努めることとされているものの(JCAA仲裁規則43条1項)、実際には仲裁廷成立から仲裁判断まで平均10.5か月を要しており、紛争金額が10億円を超える大型事件の場合、平均18.1か月を要しているとの統計がJCAAによって公表されています 4。かかる実態に照らせば、迅速仲裁手続を選択することにより、紛争解決までに要する期間を実効性をもって短縮できる可能性があるといえそうです。

通常仲裁と迅速仲裁の制度設計の違い

 迅速仲裁手続においては、手続の迅速化を図るため、通常仲裁とは異なる以下のような制度設計となっています。

通常仲裁 迅速仲裁
仲裁人の数 1人または3人(JCAA仲裁規則26条1項) 原則1人(JCAA仲裁規則86条1項)。ただし、仲裁人の数を3人とする旨の当事者の合意がある場合は3人(同条2項)
審問(当事者による口頭での意見陳述、証人に対する尋問など)の要否 仲裁廷が審問を行うか書面審理のみとするかを決定。ただし、一方当事者から審問開催の申立てがあれば、審問を開催(JCAA仲裁規則50条1項)。 当事者の意見を聴いたうえで、審問を行う必要があると仲裁廷が認める場合または当事者の合意がある場合を除き、書面審理のみ(JCAA仲裁規則87条1項)。
手続参加および複数の仲裁手続の併合の可否 一定の要件が具備されていれば可(JCAA仲裁規則56条、57条) 不可(JCAA仲裁規則90条)

迅速仲裁手続の流れ

 迅速仲裁は、上記のとおり、審理期間を短縮することで早期に紛争解決を図る制度です。そのため、限られた時間の中で効率的に主張立証を行う必要があり、仲裁手続開始直後から計画的な対応が必要になります。

申立て・答弁・反対請求

 迅速仲裁は、申立人がJCAAに対して仲裁申立書を提出することにより開始されます(JCAA仲裁規則14条)。これに対し、被申立人は、原則として、仲裁申立ての通知を受領した日から4週間以内に、JCAAに対して答弁書を提出しなければならず(JCAA仲裁規則18条)、反対請求を行う場合も、原則として同じく4週間以内に行わなければなりません(JCAA仲裁規則19条)。特に、反対請求も想定している場合には、答弁書と反対請求を同時並行的に進める必要があるため、より迅速性が求められるといえます。

 なお、被申立人においては、必要と認められる場合には、JCAAに対して、答弁書および反対請求の提出期限の延長を求めることが可能です(JCAA仲裁規則12条5項)。例外規定である点には留意すべきですが、実際に、申立内容について技術的事項が多岐にわたる場合や証拠が大量に提出されている場合などには、「必要と認められる場合」として、期限の延長が認められることがあります。

仲裁人の選任・審理予定表の作成

 迅速仲裁においては、仲裁人は原則として1名であり(JCAA仲裁規則86条1項)、仲裁人の専門性や経験などが審理に与える影響が大きいといえます。申立人・被申立人としては、仲裁人の選任にあたって、専門分野や経歴などを踏まえて、審理が不利に進むおそれがないよう適切に意見を述べることが重要です。

 仲裁廷成立 5 後は、仲裁廷が当事者と協議のうえ、審理予定表を作成します(JCAA仲裁規則88条3項)。迅速仲裁では、通常仲裁よりも書面の提出期限がかなり短く設定される傾向にあるため、現実的に対応可能なスケジュールとなっているかどうかを慎重に検討することが重要です。

書面審理・仲裁判断

 迅速仲裁では、原則として書面審理のみが行われ、審問(ヒアリング)は仲裁廷が必要と認めた場合、または全当事者の合意がある場合に限り実施されます(JCAA仲裁規則87条1項)。
 そして、仲裁廷は、審理を経たうえで、仲裁廷成立から原則として6か月以内に仲裁判断を行います(JCAA仲裁規則88条1項・2項)。仲裁判断は終局的な判断として当事者を拘束し(JCAA仲裁規則64条)、上訴も想定されていませんので、かかる観点からも、限られた時間の中で主張立証を尽くす姿勢が重要になります。

迅速仲裁の審理期間・コスト

 紛争解決手段を選択する際、実務上特に重要となる指標は「審理期間」と「コスト」です。以下では、民事訴訟と対比させながら、迅速仲裁の特徴について解説します。

審理期間の比較

(1)民事訴訟との比較

 裁判所が公表する資料によれば、地方裁判所における民事第一審訴訟事件の平均審理期間は約9.2か月とされています。さらに、建築瑕疵損害賠償事件では平均26.9か月、医療損害賠償事件では24.9か月と、専門的争点を含む事件ではより審理期間が長期化する傾向にあります 6。

 これに対し、迅速仲裁は、上記のとおり、事件の類型にかかわらず、仲裁廷成立から6か月以内(5,000万円以下は3か月以内)に仲裁判断を行うよう努める制度設計となっています。そのため、審理期間は民事訴訟と比較して有意に短縮されることが見込まれます。

(2)法定審理期間訴訟手続との比較

 裁判所の民事訴訟手続に関しては、2026年5月21日に施行された改正民事訴訟法により、短期間での審理・判決の実現を目的とする「法定審理期間訴訟手続」が創設されました。

 この手続は、通常の民事訴訟の提起と同時に、または通常訴訟係属後に、当事者双方が当該手続による審理および裁判を求める旨を申し出た場合等に、審理終結までの期間および判決言渡しまでの期間があらかじめ法定される点に特徴があります。具体的には、手続開始から6か月以内に口頭弁論を終結し、その後1か月以内に判決が言い渡されることとされています(民事訴訟法381条の3第1項・2項)。

 もっとも、法定審理期間訴訟手続では、当事者の一方から通常訴訟手続への移行の申出があった場合等には、裁判所は通常の訴訟手続によって審理および裁判をする旨の決定をしなければなりません(民事訴訟法381条の4第1項1号)。また、終局判決に対しては原則として控訴は認められないものの(同法381条の6)、判決をした裁判所に異議を申し立てることができ(同法381条の7)、適法な異議があった場合には、訴訟は口頭弁論終結前の段階に戻り、通常の訴訟手続による審理および裁判が行われることになります(同法381条の8)。

 このように、法定審理期間訴訟手続では、一定の場合には通常訴訟手続へ移行することが予定されており、法定された期間内に必ずしも手続が終結するとは限らない点に留意が必要です。

 これに対し、JCAA仲裁規則に基づく迅速仲裁では、上記のとおり、仲裁廷成立後、原則として6か月以内を目途に仲裁判断を行うこととされ、やむを得ない事情がない限り、その期間は延長されません(JCAA仲裁規則88条、89条)。また、実務上も、迅速仲裁手続における審理期間はかなり厳格に運用されている印象を受けます。

 このように、法定審理期間訴訟手続と迅速仲裁手続はいずれも早期の紛争解決を目的とする制度ですが、手続の設計や運用には相違があります。そして、迅速仲裁手続は、制度上だけでなく実務上も審理期間が比較的厳格に運用されており、早期の紛争解決を重視する当事者にとって有力な紛争解決手段の1つといえます。

コストの比較

 民事訴訟においては、期日の積み重ねによる弁護士費用の増加や、社内での対応負担の増加など、審理期間の長期化に比例してコストが積み重なる傾向があります。これに対し、迅速仲裁では審理期間が限定されているため、そのようなコストは抑えやすい傾向にあります。

 ただし、仲裁においては、仲裁人に支払われる報償金・経費や仲裁機関に支払われる管理料金など、仲裁制度特有の費用が発生します(JCAA仲裁規則80条1項)。このうち、仲裁人報償金については、JCAA仲裁規則上、タイムチャージ制(時間単価5万円(消費税別))が採用されており(JCAA仲裁規則93条1項・2項。ただし紛争金額に応じた上限あり)、事案が複雑であるなど審理に時間を要する事情がある通常仲裁事件においては特に、コストが相対的に高くなる可能性があります。

 なお、上記費用の負担については、仲裁廷が手続の経過や仲裁判断の内容、そのほか一切の事情を考慮して各当事者の負担割合を定めることになり(JCAA仲裁規則80条2項)、敗訴者負担とされる可能性がある点には注意が必要です(勝訴者には有利になり得る仕組みです)。

迅速仲裁に向いている紛争類型/向いていない紛争類型

 このように、迅速仲裁は紛争の早期解決という点では優位性を有し得る一方で、迅速仲裁による解決がなじむか否かについては、紛争類型によって左右される部分があるといえます。

 迅速仲裁では、仲裁廷成立から仲裁判断までの期間が限られているため、主張立証活動を十分に実施できるかが重要な懸念点となります。そのため、紛争の複雑さなどの紛争類型の特徴が、迅速仲裁の適否に大きく影響すると考えられます。
 最終的な判断は個別事情を踏まえて行うべきですが、迅速仲裁に向いている紛争類型とそうでない紛争類型については、一般的には以下のように整理することができます。

迅速仲裁に向いている紛争類型

 一般的に迅速仲裁に向いているといえる紛争類型は以下のとおりです。

類型 向いている理由
争点が限定的な紛争 審理範囲を絞り込みやすく、主張立証範囲が過度に広がりにくいため
客観的資料により立証が完結しやすい紛争 専門家証人等に依存せず、提出された証拠資料を中心に仲裁判断がしやすいため

 これらの紛争類型に共通するのは、争点や主張立証構造が、追加的な証拠収集や専門的検討に大きく依存せず容易に整理できる点です。迅速仲裁は、このように整理が容易な紛争において、その迅速性を最大限に発揮できる制度といえます。

迅速仲裁に向いていない紛争類型

 一般的に迅速仲裁に向いていないといえる紛争類型は以下のとおりです。

類型 向いていない理由
事実関係が複雑な紛争 事実確認に相当な検討を要し、判断枠組みを早期に確定することが難しいため
争点が多岐にわたる紛争 審理範囲の限定が困難で、主張立証範囲が広がりやすい傾向にあるため
証拠資料が多岐にわたる紛争 証拠資料の収集、分析に相応の時間を要するため
専門家による立証が中核となる紛争 専門家証人の関与や鑑定が不可欠となり、審理に相応の時間を要するため

 これらの紛争類型では、審理に相応の時間が必要となることが予想されるため、迅速仲裁の時間的制約により、主張立証などが不十分になるリスクがあります。

 なお、将来発生する紛争の類型を事前に予測することが容易ではない場合も多いと考えられますが、紛争化した場合の事件の複雑さが特に見込まれるといった事情がないような場合には、紛争の早期解決によるメリットを勘案しつつ、迅速仲裁による解決について、有力な選択肢として検討する余地が出てくるものと思われます。

まとめ

 以上のように、迅速仲裁手続は、争点や事実関係の複雑化が特に見込まれるといった事情がない紛争事件に関して、その早期解決を実現する有用な手段となり得ます。契約締結段階で、または紛争解決手続が不可避となった段階で、紛争の早期解決が重要視されるケースにおいては、迅速仲裁手続の内容およびその適否を見定めつつ、迅速仲裁手続を含めてどのような紛争解決手段が望ましいか検討することが重要になると考えられます。


  1. 一般社団法人日本商事仲裁協会「商事仲裁規則(2021)」 ↩︎

  2. 紛争金額には、申立ての請求金額、反対請求申立ての請求金額および相殺の抗弁に供する自働債権の金額の合計額を含みます。なお、利息および費用の請求金額は算入されません。 ↩︎

  3. JCAAによれば、迅速仲裁手続が適用された事件のうち、約7割の事件で、指定された期限内に仲裁判断が下されています(一般社団法人日本商事仲裁協会「数字で見るJCAA」)。 ↩︎

  4. ただし、これは迅速仲裁、通常仲裁の双方を含む平均期間です(一般社団法人日本商事仲裁協会「数字で見るJCAA」)。 ↩︎

  5. 仲裁廷成立とは、その事件を担当するすべての仲裁人(1名または3名)がJCAAによって選任または確認された時点のことをいいます。 ↩︎

  6. 最高裁判所事務総局「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」48頁 ↩︎

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