裁量労働制が2024年4月変更!弁護士が対応を解説
人事労務
目次
裁量労働制に関するルールの改正が2024年4月1日から施行され、裁量労働制の導入および継続のために新たな手続が要求されることになります。同施行日を有効期間に含む専門業務型裁量労働制の労使協定、および企画業務型裁量労働制の労使委員会決議は、本改正に適合したものではない場合には、施行日以降は無効とされます(施行通達第4・1)。
新たに裁量労働制を実施しようとする企業のみならず、現時点で裁量労働制を実施している企業も、上記施行日以降に裁量労働制を新たに、または継続して実施するためには本改正に基づく対応が必要となり、実務上重大なインパクトが生じ得ます。したがって、企業においては、施行日に先立ち、早期に対応を検討することが必要になると考えられます。
以下では、本改正の基本事項や実務対応ポイントについて解説します 1。
本稿で用いる略称および参照する資料等の詳細は次のとおりです。
- 改正省令:「労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令」(令和5年厚生労働省令第39号)
- 改正告示:「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針及び労働基準法施行規則第24条の2の2第2項第6号の規定に基づき厚生労働大臣の指定する業務の一部を改正する告示」(令和5年厚生労働省告示第115号)
- 本改正:上記の改正省令と改正告示を合わせて
- 改正労基則:改正後の「労働基準法施行規則」(昭和22年厚生省令第23号)
※改正後の条文はこちらを参照 - 対象業務告示:「労働基準法施行規則第24条の2の2第2項第6号の規定に基づき厚生労働大臣の指定する業務」(平成9年労働省告示第7号)
- 改正指針:改正後の「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」(平成11年労働省告示第149号)
※改正後の条文は、改正告示の新旧対照表を参照 - 施行通達:「労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令等の施行等について(裁量労働制等)」(令和5年8月2日基発0802第7号)
- Q&A:厚生労働省労働基準局「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る裁量労働制に関するQ&A」(令和5年8月作成、令和5年11月追加)
- 労基法:労働基準法
なお、改正省令の内容には、労働条件明示義務に関するルールの改正も含まれます。これに関しては、別稿「労働条件明示ルールが2024年4月変更!弁護士が対応を解説」をご参照ください。
裁量労働制とは何か
本改正の解説の前提として、裁量労働制に関する基本事項を概説します。
専門業務型裁量労働制(専門型)と企画業務型裁量労働制(企画型)
裁量労働制は、労基法が定める労働時間の柔軟化を図る制度の1つであり、業務の性質上その遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるものについて、実労働時間ではなく、労使協定や労使委員会の決議で定められた時間によって労働時間を算定する制度です。
裁量労働制には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2つの類型が存在します(以下、それぞれ「専門型」「企画型」といいます)。
(1)専門型の対象業務
専門型は、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務として法令等により定められた業務について適用が可能な類型です(労基法38条の3、改正労基則24条の2の2第2項、対象業務告示)。
現行法上、専門型の対象は19業務に限られます。なお、本改正により、対象業務が1つ追加されました(詳細は2-1(1)参照)。
(2)企画型の対象業務
企画型は、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査および分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務につき、適用が認められる類型です(労基法38条の4)。
専門型のように対象となる業務は明確に画定されていませんが、対象者の無制限な拡大を防止するため、専門型よりも厳格な手続および要件が定められています。
導入手続
裁量労働制導入のための手続は、それぞれの類型で異なります。
なお、本稿で解説する協定届・決議届の様式については、厚生労働省ホームページをご参照ください。
(1)専門型
労働者に対し、専門型を適用するためには、事業場の過半数で組織する労働組合、または当該労働組合が存在しないときは、当該労働者の過半数を代表する者との労使協定により、一定の事項を定め、これを所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります(労基法38条の3第1項・2項、38条の2第3項)。
なお、本改正により、労使協定で定めるべき事項が追加されました(2-2参照)。
(2)企画型
他方、労働者に対し、企画型を適用するためには、その事業場において、労使の代表で構成される労使委員会を設置したうえで、一定の事項を労使委員会の委員の5分の4以上の多数による決議により決定する必要があります(労基法38条の4第1項)。また、使用者は、その決議を所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります(同条同項)。
導入による効果や注意点
専門型と企画型のいずれの類型についても、法令の定める要件を満たしたうえで、労働者が対象業務に従事した場合には、実際の労働時間(実労働時間)にかかわらず、労使協定または労使委員会の決議で定めた時間数労働したものとみなされます(労基法38条の3第1項、38条の4第1項)。
ただし、休憩(同法34条)、休日(同法35条)、時間外・休日労働および深夜労働(午後10時から午前5時までの時間帯における労働をいいます。同法36条、37条)の法規制の適用は除外されないことから、みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間、1週40時間。同法32条)を超過する場合には、「時間外労働・休日労働に関する協定」(いわゆる「36協定」)の締結が必要です。また、時間外、休日および深夜に労働が行われた場合には、その時間について割増賃金の支払いが必要です(同法37条1項・4項)。
なお、上述した労使協定・労使委員会決議のいずれについても、いわゆる自動更新条項を設定することは認められない点に留意が必要です。労使協定・労使委員会決議の有効期間は、3年以内とすることが望ましいとされています(Q&A 8-3)。
専門型に特有の変更点
以下では、本改正のうち、専門型に特有の主な変更点について解説します。
対象業務の追加
(1)追加されたM&Aアドバイザリー業務の定義
1-1(1)で述べたように、現行法では、専門型の対象業務として19業務が定められていますが、本改正により、「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務」(以下「M&Aアドバイザリー業務」といいます)が追加されました(対象業務告示8号)。
- 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
- 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。7において同じ。)の分析又は設計の業務
- 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第28号に規定する放送番組(以下「放送番組」という。)の制作のための取材若しくは編集の業務
- 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
- 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
- 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
- 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
- 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
- ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
- 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
- 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
- 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
- 銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザリー業務)
- 公認会計士の業務
- 弁護士の業務
- 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
- 不動産鑑定士の業務
- 弁理士の業務
- 税理士の業務
- 中小企業診断士の業務
出所:厚生労働省パンフレット「専門業務型裁量労働制について」
M&Aアドバイザリー業務に関する各文言の詳細は、以下のとおりです(施行通達第2・3およびQ&A)。
「銀行又は証券会社」 | 銀行法(昭和56年法律第59号)2条1項に規定する銀行、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)2条9項に規定する金融商品取引業者のうち、同法28条1項に規定する第一種金融商品取引業を営む証券会社をいうものであり、信用金庫等は含まれない。また、M&A仲介会社は含まれない 2。 |
「顧客」 | 対象業務に従事する労働者を雇用する銀行または証券会社にとっての顧客(個人または法人)をいう。 |
「合併及び買収」 | M&A(Mergers(合併) and Acquisitions(買収))のことをいい、各種手法(会社法の定める組織再編行為(合併、会社分割等)、株式譲渡、事業譲渡等)による事業の引継ぎ(譲渡し・譲受け)をいうものであり、事業承継を含む。 |
「調査又は分析」 | M&Aを実現するために必要な調査または分析をすることをいうものであり、例えば、M&Aによる事業収益への影響等に関する調査、分析や対象企業のデューデリジェンス(対象企業である譲渡し側における各種のリスク等を精査するために実施される調査をいう。)が含まれる。 |
「これに基づく考案及び助言」 | 上記調査または分析に基づき、M&Aを実現するために必要な考案および助言(専ら時間配分を顧客の都合に合わせざるを得ない業務は含まれない。)を行うことをいう。 |
(2)M&Aアドバイザリー業務に従事していると認められるためには
労働者が上記のM&Aアドバイザリー業務に従事していると認められるためには、当該労働者が、「調査又は分析」と「考案及び助言」の両方の業務を行う必要があり、一方の業務のみを行う場合には、当該労働者に専門型を適用することはできません。
たとえば、複数名が参加するプロジェクトチームを組成し、これらの業務を分業する形とした場合のように、労働者が「調査又は分析」と「考案及び助言」のいずれかの業務のみを行う場合には、ここにいうM&Aアドバイザリー業務を行っているとはいえません。
さらに、両方の業務を行う場合であっても、たとえばチーフ(リーダー)の管理の下に業務遂行、時間配分を行う場合など、その労働者に業務遂行または時間配分に関する裁量がない場合には、専門型は適用し得ないものとされています(施行通達第2・4(1)、Q&A 4-1参照)。
同様に、M&Aアドバイザリー業務を所掌する部署に所属しているからといって、その部署において行われる業務のすべてが専門型の対象業務と認められるわけではありません。あくまで「調査又は分析」および「考案及び助言」に該当するもののみが専門型の対象業務として認められる点に留意が必要です(Q&A 4-2)。
さらに、M&Aアドバイザリー業務に従事しつつ、それ以外の業務を混在して行う場合は、それ以外の業務への従事時間がたとえ短時間であっても、それが「予定」されている場合は全体として、専門型の適用は認められません(Q&A 4-4)。
他方、それ以外の業務に「臨時的に」従事した場合には、M&Aアドバイザリー業務に従事した部分への専門型の適用は否定されず、そのみなし労働時間と、それ以外の業務に従事した実労働時間を合計した時間がその日の労働時間となります(Q&A 4-4)。
労使協定事項の追加
本改正により、下表の⑥〜⑧、⑩の下線部の事項が労使協定において協定しなければならない事項として追加されました。このことは、使用者が労使協定に基づき実施する必要がある事項の増加を意味します。
- 制度の対象とする業務
- 労働時間としてみなす時間(みなし労働時間)
- 対象業務の遂行の手段や時間配分の決定等に関し、使用者が対象労働者に具体的な指示をしないこと
- 対象労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置
- 対象労働者からの苦情の処理のため実施する措置
- 制度の適用に当たって労働者本人の同意を得ること
- 制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしないこと
- 制度の適用に関する同意の撤回の手続
- 労使協定の有効期間
- 労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意及び同意の撤回の労働者ごとの記録を協定の有効期間中及びその期間満了後5年間(当面の間は3年間)保存すること
出所:厚生労働省リーフレット「裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です」
(1)労働者本人の同意に関する事項(⑥〜⑧)
企画型を適用するためには労働者の同意を得ることが必要とされていますが、従来、専門型の適用のために労働者の同意を得ることは不要とされていました。しかし、裁量労働制の下で労働者が自らの知識・技術を活かし創造的な能力を発揮するためには、本人が制度について十分に理解・納得したうえで制度が適用されていることが重要であることや、制度の濫用防止の観点から、本改正では、専門型についても、労働者の同意を得ることが必要とされました。
それに伴い、労使協定において、制度の適用にあたって労働者本人の同意を得ること(⑥)、制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしないこと(⑦)、および制度の適用に関する同意の撤回の手続を定めること(⑧)が求められます(改正労基則24条の2の2第3項1号・2号・4号ハ、附則71条)3。
- 同意の取得
⑥の同意については、以下の項目について、使用者が労働者に対し、「明示した上で説明」して同意を得ることとする旨を労使協定で定めることが適当とされています(施行通達第2・1)。
- 対象業務の内容を始めとする労使協定の内容等
- 当該事業場における専門型の概要
- 専門型の適用を受けることに同意した場合に適用される評価制度およびこれに対応する賃金制度の内容
- 専門型の適用を受けることに同意しなかった場合の配置および処遇
ここにいう「明示した上で説明」することの方法については、必ずしも書面のみに限定されるものではありませんが、書面の交付による方法や、電子メールや企業内のイントラネット等を活用して電磁的記録を交付する方法等を用いることで、労働者が制度を確実に理解できるよう明示をすることが適切であるとされています(Q&A 1-5)4。具体的には、説明資料やFAQを労働者にメールの添付資料として送付することや、イントラネット上で公表することが考えられます 5。
また、同意については、書面の交付を受ける方法のみならず、電子メールや企業内のイントラネット等を活用して電磁的記録の提供を受ける方法により取得することも可能です(Q&A 1-4)。ただし、後述(2)の記録の作成・保存義務との関係で、記録に残るもので同意を得る必要があることから、口頭での同意では足りないことに留意が必要です 6。
さらに、専門型導入後の処遇等について十分な説明がなされなかったこと等により、当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものとは認められない場合には、労働時間のみなしの効果は発生しないものとされています(以上につき、施行通達第2・1)。
このように、同意取得に際しては、いわばインフォームド・コンセントが必要とされている点に留意が必要です。このことは労働者の同意の認定につき、慎重な判断を行う近時の判例(たとえば、山梨県民信用組合事件・最高裁(二小)平成28年2月19日判決・民集70巻2号123頁等)の傾向に沿うものといえます。
- 同意の撤回
⑧については、撤回の申出先となる部署および担当者、撤回の申出の方法等の具体的な内容を明らかにすることが必要とされています。また、労働者が同意を撤回した場合の撤回後の配置および処遇またはその決定方法について、あらかじめ労使協定で定めておくことが望ましいとされています。さらに、使用者は、労働者が同意を撤回した場合の配置・処遇について、撤回を理由とした不利益取扱いをしてはならないものとされています(以上につき、施行通達第2・1)。
(2)記録の作成・保存義務(⑩)
従前から、一定の事項の記録の保存義務が協定事項として定められていたところ、専門型の適用に労働者の同意取得が必要とされたことに伴い、同意および同意の撤回に関する記録保存(⑩)も協定事項として追加されました(改正労基則24条の2の2第3項4号ハ)。
これに関連して、この協定対象事項について、労働者ごとの記録を作成し、労使協定の有効期間中およびその満了後5年間(当面の間は3年間)保存する義務が明記されることになりました(改正労基則24の2の2の2、附則71条)。
なお、記録の保存義務は、本改正の施行日である2024年4月1日以降に作成された記録について適用されます(改正省令附則2条)。
企画型に特有の変更点
以下では、本改正のうち、企画型に特有の主な変更点について解説します。
労使委員会の決議事項の追加
本改正により、下表の⑧、⑨、⑪の下線部の事項が労使委員会において決議しなければならない事項として追加されました。以下、それぞれについて解説します。
- 制度の対象とする業務
- 対象労働者の範囲
- 労働時間としてみなす時間(みなし労働時間)
- 対象労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置
- 対象労働者からの苦情の処理のため実施する措置
- 制度の適用に当たって労働者本人の同意を得ること
- 制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしないこと
- 制度の適用に関する同意の撤回の手続
- 対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと
- 労使委員会の決議の有効期間
- 労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意及び同意の撤回の労働者ごとの記録を決議の有効期間中及びその期間満了後5年間(当面の間は3年間)保存すること
出所:厚生労働省リーフレット「裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です」
(1)労働者本人の同意に関する事項(⑧)
従前から、企画型を適用するためには、労働者の同意が必要とされていたところ、本改正により、同意の撤回に関する手続が労使委員会の決議事項に含まれることになりました(⑧。改正労基則24条の2の3第3項1号)7。
- 同意の撤回
同意撤回の手続の具体的な内容は、専門型の場合と同様です(2-2(1)参照)。すなわち、撤回の申出先となる部署および担当者、撤回の申出の方法等の具体的な内容を明らかにすることが必要とされています(改正指針第3・7(1)イ(イ)、施行通達第3・1)。また、労働者が同意を撤回した場合の撤回後の配置および処遇またはその決定方法について、あらかじめ決議で定めておくことが望ましいとされています。さらに、使用者は、労働者が同意を撤回した場合の配置・処遇について、撤回を理由とした不利益取扱いをしてはならないものとされています(改正指針第3・7(1)イ(ロ)、施行通達第3・1)。 - 同意の取得
また、改正指針では、同意取得時の説明について、事業場における企画型の概要等について、使用者が労働者に対して、「明示した上で説明」することが明確化されました(その方法については、2-2(1)参照)8。さらに、改正指針では、十分な説明がなされなかったなどの事情により、同意が労働者の自由な意思に基づいてなされたものとは認められない場合には、労働時間のみなしの効果は生じないことが明示されました(以上につき、改正指針第3・6(2)イ)。
このように、企画型も専門型と同様に、同意につき、インフォームド・コンセントの観点が重視されているものと考えられます。
(2)労使委員会に対する賃金・評価制度の説明(⑨)
本改正により、企画型の適用対象となる労働者(以下「企画型対象労働者」といいます)に対し、適用される賃金・評価制度が変更される場合には労使委員会に変更内容の説明を行うことが決議事項に追加されました(改正労基則24条の2の3第3項2号)。
この説明は、事前説明が適当とされていますが、事前説明が困難である場合は、変更後遅滞なく説明することでも足りるものと考えられます(改正指針第3・7(2)ロ、施行通達第3・1参照)。
(3)記録の作成・保存義務(⑪)
本改正により、同意の撤回に関する記録も決議対象事項として追加されました(改正労基則24条の2の3第3項4号ハ)。これに関連して⑪の決議事項につき、労働者ごとの記録を作成し、決議の有効期間中およびその満了後5年間(当面の間は3年間)保存しなければならないものとされました(改正労基則24条の2の3の2、附則71条)。
なお、記録の保存義務は、本改正の施行日である2024年4月1日以降に作成された記録について適用されます(改正省令附則2条)。
労使委員会の運営規程の記録事項の追加
本改正により、労使委員会の運営規程の記載事項として以下の項目が追加されました。
- 企画型対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容についての使用者から労使委員会に対する説明に関する事項(改正労基則24条の2の4第4項ロ)
- 制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項(改正労基則24条の2の4第4項ハ)
- 開催頻度を6か月以内ごとに1回とすること(改正労基則24条の2の4第4項ニ)
上記②について、具体的には、使用者および委員は、労使委員会が企画型の実施状況を把握し、企画型対象労働者の働き方や処遇が制度の趣旨に沿ったものとなっているかを調査審議し、運用の改善を図ることや決議の内容について必要な見直しを行うこと、決議や制度の運用状況について調査審議することが求められます(改正指針第4・1、施行通達第3・3(2))。
定期報告の頻度の改正
企画型を実施する使用者は、定期的に労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況を、所轄の労働基準監督署に報告することが求められています(労基法38条の4第4項)。従前、定期報告の頻度は、労使委員会の「決議が行われた日」から6か月以内ごとに1回とされていました。しかし、当該決議日と当該制度の適用開始日が必ずしも同日であるとは限らないことから、本改正では、報告期間の起算日は「決議の有効期間の始期」(つまり制度の適用開始日)と修正されました(改正労基則24条の2の5第1項)9。
また、6か月以内ごとに1回とされていた報告の頻度についても、本改正により、6か月以内に1回およびその後1年以内ごとに1回とされました(同条同項)10。
専門型と企画型に共通する変更点
裁量労働制を実施するためには、労働者に対し健康・福祉確保措置を講じることが求められているところ(労基法38条の4第1項4号)、専門型と企画型に共通する変更点として、改正指針では、健康・福祉確保措置として定めることが適切な内容として、下表の①〜③、⑤の措置が追加されました(改正指針第3・4(1)ロ(イ)(ロ)(ハ)(ホ))。
さらに、改正指針では、健康・福祉確保措置を、A事業場の裁量労働制の適用対象労働者(以下「対象労働者」といいます)全員を対象とする措置、およびB個々の対象労働者の状況に応じて講ずる措置の2つのカテゴリーに区分し、それぞれ1つずつ以上実施することが望ましいとされています(改正指針第3・4(2)ハ)。
- 勤務間インターバルの確保
- 深夜労働の回数制限
- 労働時間の上限の設定(一定の労働時間を超えた場合の制度の適用解除)
- 年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めたその取得促進
- 一定の労働時間を超える対象労働者への医師の面接指導
- 代償休日または特別な休暇の付与
- 健康診断の実施
- 心とからだの健康問題についての相談窓口の設置
- 適切な部署への配置転換
- 産業医等による助言・指導または対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること
B 個々の対象労働者の状況に応じて講ずる措置
-
本稿は、11月24日に公開されたアンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業のニュースレターをもとにした記事です。 ↩︎
-
Q&A 4-3。 ↩︎
-
同意書面・同意の撤回書面のサンプルは、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「専門業務型裁量労働制の解説」21頁をご参照ください。 ↩︎
-
企画型の場合も同様です。 ↩︎
-
同意を得るにあたって労働者に明示する書面のサンプルは、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「専門業務型裁量労働制の解説」20頁をご参照ください。 ↩︎
-
企画型の場合も同様です。 ↩︎
-
同意書面・同意の撤回書面のサンプルは、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「企画業務型裁量労働制の解説」24頁をご参照ください。 ↩︎
-
同意を得るにあたって労働者に明示する書面のサンプルは、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「企画業務型裁量労働制の解説」23頁をご参照ください。 ↩︎
-
報告書の様式は、厚生労働省ホームページをご参照ください。 ↩︎
-
本改正により、改正労基則から附則66条の2が削除されています。 ↩︎

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