第三者委員会調査に関連する最近の訴訟

危機管理・内部統制
渡辺 樹一 一般社団法人GBL研究所 市川 佐知子 田辺総合法律事務所

目次

  1. 第三者委員会調査結果に対する批判
  2. 裁判で事実関係まで覆されてしまった第三者委員会の調査結果
  3. 執行役員は労働者か
  4. 責任調査委員は中立といえるか

 企業不祥事の発覚後、第三者委員会を設置し、調査したうえで公表するという流れが一般化してきました。しかし、第三者委員会による調査結果に関わる訴訟が発生し、調査結果が覆されるという事態も見られます。

 本稿では、企業統治・内部統制構築・上場支援などのコンサルティングを手がけてきた一般社団法人GBL研究所理事、合同会社御園総合アドバイザリー顧問の渡辺樹一氏と、田辺総合法律事務所の市川佐知子弁護士の対話を通じて、第三者委員会調査に関連する最近の訴訟について考えます。

第三者委員会調査結果に対する批判

市川弁護士:
最近、第三者委員会の調査後の推移について、興味深い裁判がありました。企業不祥事が発覚すると、第三者委員会が設置され、企業からは独立した立場の専門家、多くは弁護士や公認会計士、技術者などが選任され、調査が行われることがよくあります。
ただ、発表された報告書に対する批判の声が上がることもしばしばあり、第三者委員会の選任プロセスや調査方法に疑問の目を向ける向きもあります。弁護士としては耳が痛い、しかし弁解も聞いてほしいという、両義的な気持ちです。どのような点に疑問を感じますか。

渡辺氏:
批判にはいくつかのポイントがあります。まず、経営者への責任追及の姿勢が甘すぎるというものです。経営者の責任はないという結論について、その理由が不十分である、さらには結論を優先するためなのか、事実調査の深掘りも甘くなっている、という批判です。
次に、調査範囲が限定されすぎている、というものです。調査対象とするエビデンスがすべて会社側から提供されたものに限定されているケースさえあります。時間的な制約があるのもわかりますが、肝心な問題が触れられないままになっていたり、国内の調査に留まり、海外子会社が置き去りになっていることもあります。

市川弁護士:
不祥事によっては、事実調査(プラス再発防止策提言)と役員責任調査が分かれることもあります。一般的な傾向として、事実調査の報告書では強い批判的口調が使用されるものの、役員責任調査の段階になると、かなりトーンダウンし、結局のところ責任はないと結論づけられ、しかもその理由付けが薄い、事実調査時の見方と異なる結論に至ったことについても説明がなされない、という事態が見受けられます。

渡辺氏:
そのようなケースもあります。両報告書は別の弁護士が担当し、まったく異なる角度から分析されることも、整合性を取ろうとしないこともあります。また、役員責任調査報告書は「ほとぼりがさめてから」とでもいうべきか、少し時間を置いて発表され、第三者委員会報告書ほどの注目を集めませんし、その頃には社会の関心は別に移っている、この問題には光が当たらないというのが実情です。

裁判で事実関係まで覆されてしまった第三者委員会の調査結果

市川弁護士:
スルガ銀行の不祥事に関連して、最近、判決が出されました。元行員が記者会見を開いたこともあり、一定程度の世間の耳目を集めています。

渡辺氏:
事件を振り返ってみます。スルガ銀行は、シェアハウスローンという融資商品を売り出し、自己資金の足りない個人投資家に、それほど収益性のない投資用不動産シェアハウスを購入する資金を融資し、多額の不良債権を発生させ、自己破産する個人投資家もいて、大きな社会問題となりました。
第三者委員会報告書が2018年9月に、取締役等責任調査報告書と監査役責任調査報告書が同年11月に発表されました。第三者委員会報告書では常勤監査役の法的責任が認められていましたが、監査役責任調査報告書では責任なしに変わりました。他方で、業務執行取締役については、法的責任を認める見方が維持されています。

市川弁護士:
これら報告書を通じて、創業家を背後に強権を持ち、融資審査を蔑ろにし、不正融資を強力に押し進めた中心人物としてA氏の名前があげられています。第三者委員会報告書では、A氏は営業本部長として営業本部を監督する立場にあり、所属従業員を指揮命令し、業務の維持・向上や営業本部における内部統制を構築・運営する義務を負っていたところ、審査弱体化、リスク承知でのローン推進、融資条件厳格化決定に抵触する取扱いの決定など、義務違反行為があるとされました。さらに、営業本部長として収益不動産ローンに関する業務運営全般について監督義務違反もあるとされました。

A氏には「Co-COO」という肩書きがついていますが、専務執行役員レベルですから、会社法上は役員ではありません。銀行との間の契約は雇用形態であったのですが、執行役員規程中に、全社的立場に立ち、株主利益を確保し、社会的責任を負って執行するなどの単語があり、会社に対する善管注意義務を負っていると解されたようです。

渡辺氏:
取締役等責任調査報告書では、審査担当者へ圧力をかけた、審査部人事に介入した、審査書類改ざんの可能性を容易に認識し得たとして、A氏の責任が認定されています。執行役員規程には故意重過失による損害の賠償責任が記載されていたとのことです。
これを受けて、スルガ銀行は、A氏も加えて旧経営陣に損害賠償請求する裁判を起こしました。また、それでは足りないとして株主代表訴訟が起きて、現在も訴訟係属中です。A氏は懲戒解雇されたとの報道でした。

市川弁護士:
ところが、2022年6月、A氏の懲戒解雇は不当解雇であるとする東京地裁判決が下りました 1。A氏は従業員たる地位の確認と未払給与2,400万円の支払いを求めて、スルガ銀行を訴えていたのです。この判決文は公開されていませんので、詳細は不明ですが、報道によれば「絶大な権力を示す客観的証拠はなく、原告が無理に融資を押し通したと評価することはでき」ず、解雇は人事権の乱用にあたるとされたそうです。A氏の代理人弁護士は、第三者委員会ビジネスに対する痛烈な批判を行っています 2

渡辺氏:
第三者委員会調査、取締役等責任調査委員会調査の結果はなぜ覆されてしまったのでしょうか。裁判所の判断が第三者委員会の判断と分かれる事態は、そういうこともあるだろうと頷けます。ただ、裁判所で事実関係まで覆されてしまうのでは、第三者委員会報告書が発表されても、事件の解明も責任論も終結を見ず、会社のその後の損害回復や再発防止策の実行にも支障をきたしそうです。そもそも、第三者委員会調査を行う意味自体も問い直されかねません。

執行役員は労働者か

市川弁護士:
判決文が公表されていないので、詳しい理由はわかりませんが、今回の場合、まず東京地裁における、すなわち労働部による判決であるというのが、大きく影響しているということはできるでしょう。労働部は労働者の権利を守ることを常に意識しており、解雇を無効と判断することもしばしばです。特に、長年勤務した従業員の功労を打ち消し、退職金を没収することになる懲戒解雇を有効とすることには非常に厳しい姿勢をとっており、懲戒解雇無効の判決が人々の驚きを誘うこともいっさいならずありました。

A氏は執行役員であり、執行役員規程では一般の従業員とはまったく違う責任が定められ、第三者委員会や取締役等責任調査委員会からは、取締役と並ぶような善管注意義務を負っていると見えたようです。
しかし、銀行との契約はあくまで雇用契約ですから、労働部から見れば権利を守るべき労働者です。非違行為の存在を認める第三者委員会報告書がすでにあっても、裁判所はそれに拘束される必要はありませんから、懲戒解雇を正当化するほどの非違行為の存在を改めて認定し直し、それを否定するに至ったようです。

渡辺氏:
本人の法的地位が労働者であったというのが大きく影響した可能性があり、取締役や監査役のような会社法上の役員責任を論じるのとは、事情が異なるということはわかりました。

しかし、そうだとすると、コーポレートガバナンスとの関係を考える必要が出てきます。執行役員は取締役人数を絞るためにソニーで始まった制度ですが、コーポレートガバナンスの発展につれ、取締役会議論活性化も叫ばれ、取締役会人数を減少させて執行役員を置くことが、一般的に普及しています。かつてなら取締役になるような職務を行うのが執行役員であり、その責任は上司の指揮命令の下に働く従業員とはまったく異なると思います。

会社法に定めのない執行役員ですが、会社との間の契約は、委任型だったり、雇用型だったり、会社によって違いがあります。従業員としては退職して委任契約を締結することになると、勤続年数が短くなり、退職金の観点からは不利になるという理由で雇用型をとることもあります。このような便法として、たまたま採用したのが雇用型であると、非違行為があっても責任が軽減されてしまうというのは、腑に落ちません。

市川弁護士:
コーポレートガバナンス上も問題ではないかと思います。執行役員のように重要な決定・監督を行う者が、裁判所では労働者となり、責任の程度が軽減されてしまうのでは、職務遂行上の緊張感や責任感が薄れ、株主その他のステークホルダーの利益は損なわれます。それなら取締役にしておいたほうが、むしろコーポレートガバナンス上、良かったともいわれかねません。
執行役員は会社法上の機関ではなく、会社法上で善管注意義務を負わない存在なのですから、少なくとも民法上は委任契約とし、経営の専門家として会社に対する善管注意義務を負わせるのが、筋ではないでしょうか。

渡辺氏:
そのほうが経済的であるというような便法ではなく、筋論を優先するかどうか、会社の考えひとつです。

責任調査委員は中立といえるか

市川弁護士:
筋論で思い出すのは、最近、最高裁判決が出された、興味深い事件があります 3
関西電力の元取締役等が福井県高浜町の元助役から金品を受領していた問題で、2019年10月9日に第三者委員会が設置され、2020年3月14日に第三者委員会報告書が公表されました。その中では、受領した元取締役等の善管注意義務違反が記載されていました。

他方で、関西電力には個人株主から元取締役等への提訴請求がなされ、監査役会が取締役責任調査委員会を設置しました。ここで取締役責任調査委員会の一角を占めたのがA法律事務所です。調査にはO弁護士とK弁護士が加わり、2020年6月8日には監査役会に、取締役責任調査委員会から報告書が提出されました。その後、6月15日、監査役会は関西電力として元取締役等5名に損害賠償請求する旨決定し、A法律事務所と訴訟提起の委任契約を締結したのです。

渡辺氏:
元取締役等5名は慌てたでしょう。中立的な裁判官のような立場にあると思っていた責任調査委員が、自分の責任を追及する側の弁護士として現れたのです。敵方の弁護士だと思えば話さなかったのに、という事項もあったでしょうし、そうでなくても裏切られた感じはしたはずです。

市川弁護士:
まさにその点が問題となり、弁護士法25条4号が、公務員(裁判官)として職務上取り扱った事件を退官後に弁護士として職務遂行できないとすること等を根拠に、その趣旨に照らすと、裁判官的な立場にあったO弁護士、K弁護士の訴訟からの排除を、元取締役等は求めたのです。
大阪高裁は元取締役等の申立てを認めましたが、大阪地裁と最高裁は退けました。最高裁決定の理由付けは次のとおりです。
取締役責任調査委員会の名称、設置目的、事情聴取協力要請文書の(聴取結果は責任追及訴訟で証拠として用いられる可能性があるとの)記載に照らせば、委員会が関西電力のために調査をすること、損害賠償請求訴訟において事情聴取結果が証拠として用いられることを元取締役等は当然認識していたし、職務内容に照らしO弁護士らが裁判官と変わらないとはいえない、としました。
訴訟遂行する当事者の利益や訴訟手続の安定を考慮すると、弁護士法25条をみだりに拡張または類推解釈するべきではない、として類推適用を否定したのです。

渡辺氏:
事情聴取協力要請文書できちんと書いておいたことが功を奏したといえそうです。先にも述べたように、責任調査委員会は第三者委員会ほどには注目されませんが、誰のためにいかなる目的で独立性を保つ必要があって設置されるのか、整理する必要があり、関係者にも告知する必要があるといえそうです。

ただ、いずれにせよ、委員会が独立性を強調するのであれば、訴訟代理人は別の弁護士にしたほうがよかったのではないでしょうか。責任調査委員会のメンバーが責任追及訴訟の代理人をする例もありますが、しないことのほうが多いような記憶です。今回のようなことがあると、今後の不祥事事件では、訴訟代理人になるのかどうかを確かめてから事情聴取に応じる、といったように、調査手順にも影響を与えそうです。

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