2022年6月の施行が迫る改正公益通報者保護法への対応に向けて企業が準備しておくべき点とはPR 内部通報マネジメントシステムによる説明可能性を考える

危機管理・内部統制

目次

  1. 11条指針のポイント
  2. 「悩み相談」と「不正の告発」を切り分けた制度設計を

改正公益通報者保護法は従業員数が300名を超える規模の組織に対して内部公益通報対応体制の整備を義務化した。また、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下「11条指針」)1」に定められた体制整備が未了の組織に対しては、企業名公表等のペナルティが科される可能性がある。
そのため、内部通報制度の担当部署は、自組織の内部通報マネジメントシステムが11条指針に準拠したものであることを、組織の内外に対していつでも説明できるように準備しておかなくてはならない。

目前に迫った改正法の施行に向けて企業がとるべき対応方法などを、デロイト トーマツ リスクサービス株式会社のシニアマネジャー 亀井 将博氏と、同マネジャー 和田 皇輝氏に聞いた。

デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 マネジャー 和田 皇輝氏、デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 シニアマネジャー、経済産業省 ISO/TC309 国内委員会委員(ISO 37002:2021 Whistleblowing Management Systems Guidelines担当)、元内閣府 消費者委員会 公益通報者保護専門調査会委員 亀井 将博氏

デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 マネジャー 和田 皇輝氏、デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 シニアマネジャー、
経済産業省 ISO/TC309 国内委員会委員(ISO 37002:2021 Whistleblowing Management Systems Guidelines担当)、
元内閣府 消費者委員会 公益通報者保護専門調査会委員 亀井 将博氏

11条指針のポイント

11条指針の成り立ちをお聞かせください。

亀井氏:
2020年6月に成立した改正公益通報者保護法の11条でその制定が予告され、2020年10月から「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会」においてその内容の審議が開始されました。その後、2021年4月に「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会 報告書 2」が公表されています。同時にその報告書に対するパブリックコメントが募集され、それらのコメントのうちのいくつかを取り込み、かつ従来民間企業が内部通報制度の体制整備のよりどころとしていた「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン 3」の内容を盛り込む形で、2021年8月に11条指針が公表されました。

11条指針では主にどのような対応が求められていますか。

亀井氏:
11条指針では、以下のような対応を求めています。

  • 通報対応を行う従事者を明示的に定めること
  • 通報対応を行う担当部署と責任者を明確に定めること
  • 通報対応は組織の幹部から独立性が確保された体制で行うこと
  • 不利益な取扱いを防ぎ、把握し回復する措置をとること
  • 不利益な取扱いをした者に懲戒処分を科すこと
  • 通報情報の範囲外共有の予防、回復措置をとること
  • 範囲外共有や通報者探索に懲戒処分を科すこと
  • 法および内部通報制度に関する教育、周知を行うこと
  • 通報者からの相談を受けたり、対応経過を通報者に通知する体制や仕組みを整えること
  • 記録を作成し適切な期間保存すること
  • 記録に基づく通報対応の運用実績を役職員に開示すること
  • 内部通報制度の評価および点検に基づく見直しを実施すること
  • 内部通報制度の規程を定めること

従業員数が300名を超える組織はそもそも数が多く、それぞれに多様な背景をもっているでしょうから、なかなか大変な作業になるのではないでしょうか。

11条指針の中で企業が注意しておくべきポイントについて教えてください。

亀井氏:
前述のパブリックコメントの結果、42の意見提出者があり、回答 4 が196件に分類され紹介されていました。パブリックコメントを分析してみたところ、刑事罰が科される可能性がある「従事者(公益通報対応業務従事者)として定めなければならない者の範囲」に関する関心が最も高く29件でした。そして従事者に対する刑事罰適用の対象となる守秘義務違反、すなわち「範囲外共有の具体化」に関するコメントが22件でした。

企業の担当者(従事者)は「誰が従事者になるのか(自分も従事者なのか)」、「もし従事者になったら、どんな行為が範囲外共有と認定され刑事罰の対象となり得るのか」といった不安を抱えているのではないかと推察します。私が考える11条指針遵守における最も注意すべきポイントもまさにその点です。

内部通報制度の運営に守秘義務が課されるのは自然であるように思えます。

亀井氏:
通報者保護の観点で、通報者が特定されるような情報の管理には最大限の注意が払われるべきであり、その重要性が明確になったという点は歓迎します。
しかし、日本企業の内部通報制度の多くは、いわゆる“公益に資する通報”ではなく、通報者の不満や悩みを受け付けてしまっています。この不満や悩みは、自組織が社会に対して害をもたらしているために発生しているものではなく、ほとんどが通報者自身の処遇に関するものです。

また通報者自身が被害者である場合、企業の担当者が通常の注意義務を払って対応したとしても、通報された人(被通報者)が通報者を類推することができるケースがほとんどです。しかも通報者が匿名を希望している場合は、企業の担当者が知らないところで被通報者が通報者を特定する可能性が高まります。通報者自身が被害者である案件については、通報者の匿名堅持の期待と情報の守秘性にギャップが生じやすいのです。

こうした従来からの課題があるなかで、通報の受け付けや内部調査等に従事する者(組織ではなく個人)に対し、通報者を特定させる情報の守秘を義務付け、同義務違反に対する刑事罰を導入(改正法12条、21条)する法改正によって、実務上の問題が生じるのではないかと考えています。
内部通報制度の担当者は別の業務との兼務者が多く、特別な手当などを支給されていないケースがほとんどです。また、通報の多くはハラスメントや人権侵害の解消といった通報者被害の軽減を訴求する通報であり、その対応過程において通報者の匿名堅持が難しい案件です。対処が難しい案件に兼務で対応しているにもかかわらず、自分自身が刑事告発や民事訴訟の対象にもなりえる、となれば、内部通報制度の担当者はリスクがあってメリットの乏しい職務ということになってしまいます。

「悩み相談」と「不正の告発」を切り分けた制度設計を

企業としては、担当者を保護するために具体的にどのような対策をしておけばよいのでしょうか。

亀井氏:
通報者自身の被害軽減を訴求するタイプの通報、たとえばハラスメント被害の軽減を求める通報や人権侵害に対する苦情申し立てといった通報については、前述のとおり匿名堅持が難しいことからも、企業が匿名の定義を見直すという方法が考えられます。元々匿名通報ができないルールにしておけば、従事者個人が守秘義務違反を問われる可能性も低減できるのではないでしょうか。

これが正解と断言はできませんが、具体的な方法として、匿名の定義の変更だけではなく、そもそも内部通報制度と個人の不満や悩みを受け付ける制度とを明確に分離するということも考えられます。

私たちが提供している内部通報の中継サービスにおいて、通報者自身の個人被害の軽減を主張するタイプの通報の多くは、結果的に公益通報ではないものがほとんどです。しかし、現在日本企業が運営している内部通報制度は、従業員が抱える多くの不満や悩みのなかに不正の予兆があるだろうという発想で、不満や悩みまでを含めた報告をすべて受けることが主流になっています。その場合、通報件数はなるべく多いほうがよいという考え方になります。ですが、当社が通報中継サービスの提供で得た統計値は、通報受信数と不正告発の件数に高い相関がないことを示しています。不正の告発は本来少なくて当然であり、0件を理想とすべきです。

出典:デロイトトーマツリスクサービス株式会社(DTRS)のグローバルホットラインサービスの受信通報を集計

出典:デロイトトーマツリスクサービス株式会社(DTRS)のグローバルホットラインサービスの受信通報を集計

内部通報制度と不満や悩みを受け付ける制度を並立させるために鍵となるのは具体的にどんな点ですか。

亀井氏:
公益通報が発生した場合は、握りつぶしを防ぐために監査役や社外取締役など会社からある程度客観的な立場の人に全件共有すべきですが、不正と不満を分けていない状態で全件共有しようとすると、件数が大量になり生産的ではありませんし、職責とはあまり関係のない人間関係のもつれなどを共有してしまうことになります。

不正の告発の対応プロセスと、不満や悩みをくみ取る仕組みを明確に分離し、「不正の告発については匿名通報が可能だが、不満や悩みをくみ取る仕組みは、原則として匿名通報はできず、当事者同士の話し合いによる解決を仲立ちする」「解決が困難な場合は当事者のいずれかの者が異動となることもあり得る」という制度に設計変更し、その点を納得が得られるまで従業員に説明することが大切になると思います。

当然ですが、どちらの制度も通報者に対する不利益な取扱いは厳禁です。ルールの制定だけでなく全従業員の意識に対しても、絶対に不利益な取扱いをしてはならない、という点を徹底していく必要があります。

不満や悩み相談と不正の告発とを完全に切り分けて取り扱えるような制度設計にすべきということですね。

和田氏:
はい。そうすることで、通報者の過大な期待も減少し、未解決のままで積み残されることが多いタイプの通報案件を減らすこともできるのではないかと思います。また、当社が提供する「内部通報マネジメントシステム構築助言サービス」も使いやすくなります。このサービスは、不満や悩み相談と不正の告発を切り分ける前提で作成した当社の規程や手順書などの雛形資料とともに、11条指針だけでなく、内部通報マネジメントシステムに関する国際規格であるISO 37002:2021 5 や内部通報制度の認証制度であるWCMS(Whistleblowing Compliance Management System)の審査基準とも合わせて対比可能な内部通報マネジメントシステムアセスメントシート(以下「アセスメントシート」)6 の記入例を提供します。そして企業の内部通報制度とアセスメントシートを比較検証する作業に私たちがアドバイスします。

悩み相談と不正告発に対応する体制を完全に分けていただければ、短時間で、改正公益通報者保護法対応のみならず、自組織の内部通報制度の妥当性を国際的にかつ根拠をもって説明できるような体制整備をしていただくことができるのではないかと考えています。

WCMSは見直されると聞いています。

和田氏:
はい。2022年2月に消費者庁から休止のアナウンス 7 がありました。グローバル展開を進める上場企業を中心として徐々に登録企業が増えてきていましたし、私たちの顧客の中にも登録を検討していた企業が複数ありましたので、認証制度の休止は残念でなりません。しかし、当社が内部通報マネジメントシステム構築助言サービスで提供するアセスメントシートの記入例には、WCMS登録事業者向けに、WCMSの申請書に記載した情報をコピーペースト等の簡単な作業でそのまま活かすことができる機能も用意されています。
WCMSが休止された今だからこそ、当社の内部通報マネジメントシステム構築助言サービスを利用して、上手に自組織の内部通報マネジメントシステムの妥当性を検証してもらいたいです。

貴社のサービスを導入して運用する際に、効果を発揮させるためのポイントはありますか。

和田氏:
前述のように、不満や悩みを受け付ける制度と内部通報制度を明確に切り分け、従業員に周知する内容が非常に重要となります。被害者は自分自身や自組織なのか、あるいは自組織外のステークホルダーなのかを明確にすべきであること。そして自分が被害者となる場合には、匿名の通報はできないということ、自分が受けた被害を匿名で解決できる魔法のような解決策はないということを、はっきりと従業員の方に伝えていただきたいです。

内部通報の窓口と不満や悩みに対応する窓口を区別する運用例

内部通報の窓口と不満や悩みに対応する窓口を区別する運用例

そのような運用とするのであれば、11条指針に準拠した体制整備も行いやすくなりますね。

和田氏:
そうですね。不満や悩みの相談窓口は人事・労務部門、内部通報は法務・コンプライアンス部門で受け付けるなど、まずは窓口を分けていただきたいです。仮に、結局どちらの対応部門も総務部になるという場合であったとしても、少なくとも入り口である窓口は分け、対応ルールも別々に制定するという方法をおすすめしています。

特に不満を受け付ける窓口の場合は、自分の思いを聞いてもらいたいだけというケースが少なからずあります。この場合、受付チャネルとしては電話もあったほうがよいでしょう。一方で、不正の告発は、通報者への質問経路と記録が確実に確保できるEメールのほうが圧倒的に対応しやすくなります。また不満を受け付ける窓口には多様な言語対応が必要になりますが、不正の告発を受け付ける窓口は英語のみで開始してもよいかもしれません。

内部通報マネジメントシステム構築助言サービスはデロイト トーマツが第三者として内部通報制度を検証するサービスなのでしょうか。

和田氏:
違います。私たちは企業の内部通報マネジメントの検証をお手伝いします。その結果を、たとえばESG統合報告書などでどのように報告するか、といった開示施策については企業にご判断いただくことになります。

この開示施策についても制度を分けたほうが良いという話につながってきます。不満や苦情は件数も多くなり対応経緯も多様です。たとえば11条指針で求められている“対応の記録に基づいた運用実績の開示”に対応することを考えた場合、地理的、言語的および分野的な観点で多様なフォーマットになりえる不満や苦情対応を一元的に管理し、その統計値を簡単な操作で導き出すことが可能な大掛かりな装置が必要になってしまいそうです。公益通報である可能性が低い不満や苦情に対応する制度は、いったん明確に分離しておいた方が11条指針の様々な要求にも対応しやすくなるでしょう。

改正法が施行されると、会社名公表に至るリスクもあるかと思います。そうした事態を防ぐために気をつけるべき点をお聞かせください。

亀井氏:
通報者に不利益な取り扱いをしたことが明らかになって行政処分されたとなれば、企業としては大きなダメージを負います。通報者に不利益な取扱いをしないようにするために、内部通報制度を運営する側と通報者の双方に対して、公益通報とは何か、何が不利益な取扱いにあたるのか、不満を解消するための人事異動とは何が違うのか、という定義を明確にし、教育の機会を設けることが重要になりそうです。

和田氏:
不利益な取扱いを受けた、あるいは、通報情報を漏らされた、と通報者に主張された場合、通報者あるいは行政等のステークホルダーに対してそれが誤解であることを説明するためには、内部通報の対応経緯を詳細に記録しておく必要があります。しかし、内部通報対応の情報および通報者の人事考課をタイムリーに結び付け、かつ記録を残していくことは大変です。そういった観点からも本当に公益通報である可能性の高いものに的を絞り、不満や相談については、内部通報制度とは異なるプロセスで対応すべきでしょう。

不正に関する情報を的確に受け付けて、対応できる制度設計を考え、それをいつでも説明できるようにしておくことは、11条指針に対応するという会社のリスクマネジメントだけでなく、通報者をきちんと保護するという、社会的な意義を考えるうえでも非常に大切なことだと思っています。

【お問い合わせ先】
デロイト トーマツ リスクサービス株式会社
〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-2-3 丸の内二重橋ビルディング

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