領収書をスマホで撮影すれば経費申請が可能に! 改正が進む「電子帳簿保存法」の最新動向
税務
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2015年12月24日に、「平成28年度税制改正大綱」が閣議決定され、電子帳簿保存法におけるスキャナ保存の要件が大幅に緩和されることになりました。電子帳簿保存法の改正は2年連続となり、加速度的に規制緩和が進んでいる状況です。今回の法改正では、これまで領収書をのり付けして提出しなければいけなかったような経費精算業務を変えることができるものとして、大きな注目を集めています。
11月18日、「電子帳簿保存法改正 実務セミナー」が弁護士ドットコムで開催されました。同セミナーでは、「Dr.経費精算」など企業向けの経費管理サービスを提供するBearTail代表取締役の黒崎賢一氏が登壇し、同法の改正における最新動向やスキャナ保存制度をふまえた業務フロー例などについて解説しました。今回は黒崎氏の講演内容をもとに、電子帳簿保存法についてご紹介したいと思います。
「電子帳簿保存法」の歴史
企業は、帳簿(総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳など)や書類(棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書など)を一定期間、原則紙で保存することが義務付けられてきました。しかし、時代の変化に伴い、1998年7月に、国税関係帳簿書類を電子データで保存することを可能とする「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法)」が施行されました。この法律は当時拡大していたコンピュータによる会計処理に対応して、コンピュータの中で作成されたデータをそのまま帳簿として利用可能とすることを目的とした法律でした。
その後、2001年には「電子署名法」や「IT書面一括法」が施行されるなど、徐々に法整備が進められ、2005年には「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(e-文書法)」が施行されました。これにより、企業などで保存が義務付けられている文書について、原則すべての文書の電子保存が認められるようになりました。
このような文書の電子化の拡大に呼応して、企業から国税関連書類においても、電子化の要望が多くあり、その結果、受領した書類について、スキャンして保存するスキャナ保存が、2005年に電子帳票保存法の改正で認められるようになりました。しかしながら、要件が厳しく、また書類も限定的だったため、「実務で使っている企業は200件もなかったようです」と黒崎氏は言います。
e-文書法が施行されたものの、電子帳簿保存法によって、国税関連書類の電磁的記録による保存は下記のように定められていました。
(国税関係帳簿書類の電磁的記録による保存等)
第四条
3 ……保存義務者は、国税関係書類(財務省令で定めるものを除く。)の全部又は一部について、当該国税関係書類に記載されている事項を財務省令で定める装置により電磁的記録に記録する場合であって、所轄税務署長等の承認を受けたときは、財務省令で定めるところにより、当該承認を受けた国税関係書類に係る電磁的記録の保存をもって当該承認を受けた国税関係書類の保存に代えることができる。
ここでいう、国税関係書類のうち財務省令で定めるものには、決算関係書類や契約書、領収書(3万円未満の契約書、領収書は可)が挙げられます。また、財務省令で定める装置とは、原稿台と一体となっているスキャナなどに限られ、デジタルカメラやハンドスキャナは対象外となっていました。さらに、可視性を確保するためにスキャンはフルカラーで、真実性を確保するために電子署名も必須とされていました。
このような課題を抱えたスキャナ保存対応から10年、2015年についに電子帳簿保存法の施行細則が改訂されました。
いよいよ企業への浸透が期待される「改正電子帳簿保存法」
2015年度の改正でスキャナ保存制度について次の点が変更されました。
- 契約書等に係る金額基準(3万円未満)を廃止し、適正な事務処理を担保する規程の整備等が要件とされたこと。
- 契約書等について、業務サイクル後速やかに入力を行っている場合の関連する国税関係帳簿の電子保存の承認要件を廃止したこと。
- 入力者等の電子署名を不要とし、タイムスタンプを付すとともに、入力者等情報の確認を要件としたこと。
- いわゆる一般書類(規則第3条第6項に規定する国税庁長官が定める書類)については、その書類の大きさに関する情報の保存を不要とし、カラーではなくグレースケールでの保存でも要件を満たすこと。
この時点では、まだ原稿台と一体となっているスキャナの使用が義務付けられていたため、例えばタクシーの領収書をスマートフォンで撮影して申請するといったことはできませんでした。この点が改正されたのが、2016年度の税制改正です。
2016年度の改正では、大きく以下の2点が定められました。
- スキャナ装置について、原稿台と一体となったものに限定する要件が廃止
- 受領者本人が入力する場合は、国税関係書類の受領後、受領者が当該書類に署名を行った上で、3日以内にタイムスタンプを付与
領収書等の国税関係書類をスマートフォンやデジタルカメラで電子化できるようになった点が大きなポイントです。これにより、経費精算事務が大幅に効率化するとことが見込まれています。
黒崎氏によると、「新しい要件のもとで、すでに300件以上の申請があったと聞いています」とのことです。
「スキャナ保存制度」をふまえた業務フロー
スキャナ保存の対象となる国税書類は、以下の通りです。
スキャナ保存の対象となる国税書類
取引関係書類 | |
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自己が発行した書類の写し | 相手方から受領した書類 |
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また、スキャナ保存制度には、現段階で下記の要件が求められています。
スキャナ保存制度の主な要件
真実性の確保 |
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可視性の確保 |
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関係書類の設置 事務処理規程制定 |
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帳簿・書類間の関連性確保 |
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検索機能の確保 |
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税務署長の承認 |
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この「真実性を確保」するために、国税関係の重要書類の受領者もしくは作成者本人がスキャナで読み取る場合には、受領者(作成者)が書類原本に署名して、受領翌日から3日以内に入力する必要があります。
しかしながら、3日以内にスキャンできなかった場合はどうすればよいのか、黒崎氏は次のように解説しました。
「領収書を経理担当者など第三者に渡して、スキャン以降の処理をしてもらう方法があります。第三者がスキャンする場合は、受領者(作成者)本人の署名は不要で、業務サイクルに従い、最長で37日以内にタイムスタンプを付与すれば問題ありません」(黒崎氏)
スキャナ保存制度の適用後も、監査完了までは原本破棄は不可
スキャナ保存制度の適用には、法令に基づいて定められた社内規程と、その規程が正しく運用されているかを司る内部統制が遵守されているかどうかも重要なポイントとなります。また、入力された領収書などの保存データについても、最低年に1回の定期検査が求められ、定期検査が完了して初めて原本破棄ができるようになります。
国税関連書類の受領等から入力までの各事務について、次に掲げる事項に関する規程を定めるとともに、これに基づき当該各事務を処理すること
- 相互に関連する各事務について、それぞれ別の物が行う体制<相互けんせい>
- 当該各事務に係る処理の内容を確保するための定期的な検査を行う体制及び手続<定期的な検査>
- 当該各事務に係る処理に不備があると認められた場合において、その報告、原因究明及び改善のための方策の検討を行う体制<再発防止>
「原本の扱いには注意が必要です。スキャンできたからといって、すぐに破棄しないようにご注意ください」(黒崎氏)
スキャナ保存制度、適用までの流れ
スキャナ保存制度を適用するには、所轄の税務署長への申請が必要となります。この際、申請書と添付書類をあわせて提出する必要があります。添付書類としては、下記のものが必要となります。
- 承認を受けようとする国税関係書類の保存を行う電子計算機処理システムの概要を記載した書類(1部)
- 承認を受けようとする国税関係書類の保存を行う電子計算機処理に関する事務手続の概要を明らかにした書類(当該電子計算機処理を他の者に委託している場合には、その委託に係る契約書の写し)(1部)
- 申請書の記載事項を補完するために必要となる書類その他参考となるべき書類(1部)
申請書のフォーマットは国税庁のサイトで用意されています。くわしくは下記のリンク先をご確認ください。
申請は、適用開始の3か月前の前日となっています。「自分で調べて書類を用意して申請すると、不備があって突き返されてしまうケースがあります。事前に一度、国税庁の担当と打ち合わせをして、すり合わせることをお勧めします」と黒崎氏はアドバイスしました。
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今後もさらに、「企業が導入しやすいように、改正が進められるのではないか」と黒崎氏は予測しています。
「例えば、タイムスタンプを3日以内に押さなければいけないといった点や、原本破棄のタイミングなどについて、見直しされることに期待しています」(黒崎氏)
電子帳簿保存法が施行されてから20年弱、これまでは「使われない法律」となってしまっていた同法なわけですが、ついに普及の兆しが見えてきました。これにより、企業の業務効率化やコスト削減につながり、経済成長へとつながる大きな一歩とも捉えることもできるでしょう。今後の動きにも注目したいところです。
(取材、構成:BUSINESS LAWYERS編集部)