『企業法務におけるナレッジ・マネジメント』著者に聞く、「今日から」始められるナレッジ・マネジメント実践のコツ

法務部

目次

  1. 法律事務所内におけるナレッジ・マネジメントの取組み
  2. 出向経験で感じたクライアントニーズをもとにナレッジ・マネジメントに注力
  3. 「今日から」始められるナレッジ・マネジメントの実務書
  4. 地道なナレッジ・マネジメント、効果が出れば実践者も増える好循環に
  5. ナレッジ・マネジメントの実践に向けて

ビジネスの複雑化が進むとともに、人材の流動性や多様性が高まるなか、法務の現場において、各個人が持つ知識や経験を組織内で共有し、企業が直面する多様な問題に対して限られた時間で適切に対処するための「ナレッジ・マネジメント」への取組みの重要性は、ますます高まってきています。2020年10月に発刊された『企業法務におけるナレッジ・マネジメント』(商事法務)では、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業が実践するナレッジ・マネジメントの手法をベースに、ナレッジ・マネジメントの仕組みづくりやその実践方法が指南されています。

同書の著者である森下国彦弁護士、村山由香里弁護士、門永真紀弁護士の3人に、発刊の経緯や狙い、ナレッジ・マネジメントに取り組むうえでの心構えなどを伺いました。

※編注:インタビューは、森下弁護士、門永弁護士は対面にて、村山弁護士はオンラインにて実施しました。

法律事務所内におけるナレッジ・マネジメントの取組み

『企業法務におけるナレッジ・マネジメント』の執筆に先立って取り組まれていた、貴所でのナレッジ・マネジメントの状況について伺えますか。

森下弁護士:
当事務所では、10年以上前からナレッジ・マネジメントの必要性を感じており、さまざまな取組みを継続してきました。現在では、弁護士、パラリーガル、秘書を含め10名程度のナレッジ・マネジメントのチームをつくり、所内の多くの弁護士やスタッフの協力を得ながら取組みを進めています。5年ほど前には、門永弁護士がナレッジ・マネジメントを専業とする弁護士として、より集中的に事務所全体の仕組みを構築していく体制をスタートしました。

門永弁護士:
当事務所のナレッジ・マネジメントには、コア領域と周辺領域があります。コア領域としては、大きく分けて、先例の蓄積、雛形の整備といった「形式知の整備」、所内勉強会の企画やTips集作成等の「暗黙知を共有するための仕組みづくり」を行っています。さらに、法律情報の共有に限らず、クライアントとの関係維持・構築に必要な情報収集を効率的に行えるよう、事務所内のポータルサイトの整備にも取り組んでいます。
周辺領域での取組みとしては、蓄積されたナレッジの対外発信(広報・マーケティング)やライブラリ業務との連携、AIやRPAなどのリーガルテック活用に向けた検討も行っております。

ナレッジ・マネジメントのコア領域と周辺領域

ナレッジ・マネジメントのコア領域と周辺領域

村山弁護士:
私は、事務所のライブラリの整備も担当しています。書籍、法律雑誌や判例データベース、各種法律情報に関するリサーチツール等の充実についても、ナレッジ・マネジメントやリーガルテックなど関連するチームと連携しながら進めています。

出向経験で感じたクライアントニーズをもとにナレッジ・マネジメントに注力

門永先生が5年前に専業でナレッジ・マネジメントに取り組もうと思われたきっかけはどういったものでしたか。

門永弁護士:
メーカーおよび総合商社へ出向していた際、クライアントの立場からさまざまな法律事務所と付き合うなかで、クライアントが要求するスピードやクオリティが急速に高まっていることを実感しました。法律事務所がクライアントのニーズに応えていくためには、個々の弁護士の力だけではなく、組織として、より質の高いサービスを提供できる仕組みを作っていかなければならない。そのためには、弁護士の「財産」である各種のナレッジを事務所全体で最大限に活用していく必要がある。そうした強い思いから、出向から事務所へ復帰するタイミングで、事務所のナレッジ・マネジメントに注力することを決心しました。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 門永真紀弁護士

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 門永真紀弁護士

「今日から」始められるナレッジ・マネジメントの実務書

本書のご執筆にあたってはどのような課題意識をお持ちでしたか。

門永弁護士:
法務業務は、高度かつ専門的な法律知識が求められるため、ナレッジを組織内で共有するニーズは確実に存在すると考えています。他方で、多くの法務部門では、案件を通じて得られた各法務担当者の貴重なナレッジがその人の経験値として蓄積されるだけで、横展開される機会が非常に少ないという現状であることを課題に感じていました。 そこで、本書を通じて、法務部門におけるナレッジ共有の重要性やそのためのアプローチを1人でも多くの方に理解していただけたらと考えました。

森下弁護士:
法律の世界は、世の中が進歩するにつれ複雑化し、各分野において専門性が高まっていきます。私が弁護士を始めた頃に比べると、勉強しなければならないことのボリュームは格段に増えています。弁護士が一から苦労して調べたり考えたりすることは、経験としてもちろん重要ですが、1人の人間が自分の力だけで経験できることは、広い海のような法律の世界の中では限定されてしまいます。たどり着くべきところに素早く的確にたどり着けるような仕組みを構築し、本来の自分の考える力を最大限に発揮する。そうした流れをアシストするのも、ナレッジ・マネジメントの重要な役割だと考えています。

門永弁護士:
ナレッジ・マネジメントの取組みは、リーガルテックを活用するうえでの前提としての側面もあります。業務効率化のためにリーガルテックを導入したのに、実際には活用しきれていないといった企業の声をよく聞きます。リーガルテックツールの選定にあたっては、まず自社の業務フローを整理して、そこにどのようなナレッジが存在し、それらをどう活用したいのかといったニーズを洗い出しておかなければ、適切なツールの導入は難しいでしょう。

どのような読者を念頭に執筆されましたか。

門永弁護士:
「ナレッジ・マネジメントとは何か」を知りたいという方から、すでにナレッジ・マネジメントの取組みを行っている方まで、組織規模の大小を問わず、企業の法務部門の皆さまに広くお読みいただければと思っています。誰もが「今日から」取り組むことができるような実務的な内容を多く盛り込んでいます。

本書はまさに、ナレッジ・マネジメントへの取組み・改善を考える方にとって、「今日から」実践できることが理解しやすい印象です。執筆にあたって、特に工夫された点や意識された点はありますか。

門永弁護士:
第一に、シンプルさとわかりやすさを重視しました。他の法律書に比べると、図表が多く、平易なことばで書かれていると思います。第二に、ナレッジ・マネジメントの分野は、目新しい知識を得るというよりは、日々の取組みの積み重ねであり、個々の取組みは、「聞いてみると当たり前」の内容が大半です。そのため、読者の皆様の頭の整理をサポートできる内容となるように心がけました。第三に、具体例を豊富に盛り込むことで、何をすべきかイメージしやすいような実践的な内容とすることも意識しました。また、ナレッジ・マネジメントに本気で取り組みたいという方に対して、組織論的な内容にも触れています。

本書で「今日から」実践できる取組みの1つとして紹介されているパイロットプログラム。部門内の1つの部署、チームといった小さな単位でのナレッジ共有の取組みから始めてみることが提案されている。ここでは「すぐに成果を実感できるもの」を対象としてパイロットプログラムを行うことが望ましいとされており、短期間で目に見える成果を実感することで、地道な取組みを進める第一歩が踏み出せると示唆されている。

村山弁護士:
どれも重要な内容ですので1つに絞りきれないというのが正直なところですが、特にナレッジの洗い出しやニーズの把握に関する部分は、時間をかけて丁寧にまとめました。組織にどんなニーズがあるかを的確に把握しなければ、具体的なナレッジの共有の仕組みを構築していくことは難しいと考えています。構成の面では、忙しい方にもポイントを掴んでいただけるよう、各章のエッセンスを章末に「Point」として記載しました。

森下弁護士:
ナレッジ・マネジメントに取り組もうとして、システム導入や担当者のアサインから検討を始めてしまう企業もありますが、ビジネス領域や組織のあり方によってニーズは異なります。ナレッジ・マネジメント制度の導入ありきで考えるのではなく、まずは組織のニーズや課題、目的を明らかにしておく必要があります。そのうえで、限られたリソース・時間のなかでプライオリティをつけながら進めていかなければなりません。そうした考え方の重要性については、書籍の随所で触れています。

本書の内容に関するリアクションなどはありましたか。

門永弁護士:
書籍の発刊後、本書のテーマについて、講師としてセミナーへ呼んでいただく機会が増えたのですが、その際「この本を読んで、ナレッジ・マネジメントに近道や裏技があるわけでないということがよくわかりました」と言われることがしばしばあります。そういう意味では、本書は、ナレッジ・マネジメントについてこれまで踏み出せなかった一歩を踏み出す、あるいは現状のナレッジ・マネジメントへの取組みを見直すきっかけになっているのではないかと感じています。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 森下国彦弁護士

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 森下国彦弁護士

地道なナレッジ・マネジメント、効果が出れば実践者も増える好循環に

今後、貴所においてナレッジ・マネジメントへの取組みとして見据えられていることはありますか。

森下弁護士:
所属弁護士やスタッフに、ナレッジ・マネジメントが進むことによるベネフィットをいっそう感じてもらうことで、自発的に動いてもらえる体制を構築していきたいと考えています。我々のチームは、ナレッジ・マネジメントを推進することで、より迅速かつ深いアドバイスを適切にクライアントに届けていくことをビジョンとしています。クライアントにそのメリットを認識していただけるようになれば、事務所としてより難易度の高い最先端の案件を担当できるようにもなるでしょう。そしてそのことが、所属弁護士やスタッフの満足感を高め、リクルーティングにも良い影響を与え、事務所のさらなるパワーアップにつながる。そうした好循環をつくっていければ良いですね。

村山弁護士:
ナレッジ・マネジメントの重要な目的の1つに、効率的な時間の使い方を実現する点があると思っています。アソシエイトの働き方という観点では、必要なナレッジに素早く的確に到達できる環境を整えることにより、業務全体の効率化とともに自己研鑽やプライベート充実のための時間の創出につなげ、組織全体としての充実感や満足度の向上も図っていきたいと考えています。

門永弁護士:
ナレッジ・マネジメントの周辺業務として、対外発信の活動も重要です。ニュースレター等を通じた法律情報の発信やセミナーの開催、各種メディアでの執筆などはこれまでも力を入れてきたところですが、今後、より一層、事務所で蓄積されたナレッジを「必要とする方のところに適時に」お届けできる取組みにも重点を置いていきたいと考えています。

書籍『企業法務におけるナレッジ・マネジメント』

書籍『企業法務におけるナレッジ・マネジメント』

ナレッジ・マネジメントの実践に向けて

最後に、ナレッジ・マネジメントへの取組みに関心を抱く企業法務の担当者へメッセージをお願いします。

門永弁護士:
ナレッジ・マネジメントには、唯一の正解も近道もありません。また、ナレッジ・マネジメントは、1つのナレッジを幾重にも重ねて共有していくことにより、網の目のように人と人、人とナレッジを結び付け、どこかで誰かの役に立つといった性質のものです。試行錯誤を繰り返しながらも、様々なアプローチを模索していく中で、必ず自社にあったナレッジの蓄積、活用方法が見いだせることを信じて、積極的に取り組んでいただければと思います。

また、昨年ごろからリーガル・オペレーションの議論が国内でも盛り上がり始めており、CLOC(Corporate Legal Operations Consortium)の日本における組織や、有志による研究会も立ち上がっています。ナレッジ・マネジメントは、リーガル・オペレーションの中核の1つと位置付けられています。今後は、ナレッジ・マネジメントの悩みや課題、取組みについてもこのような場を通じてざっくばらんに議論していくことで、企業の法務部門と法律事務所がともに成長していけたら良いなと思います。

村山弁護士:
ナレッジ・マネジメントは地道な取組みであり、実際に行動して定着させていくためには骨が折れると思います。しかし、効果は確実に出てくるものだと思いますし、効果が出れば、実践者もより増えていくという好循環が生まれていくはずです。ぜひ本書を参考にナレッジ・マネジメントの実践者を増やしていただき、その成果を本書の感想として我々にも届けていただければありがたいです。

森下弁護士:
企業によって状況や規模も異なると思いますので、すべての会社で同じように進めれば良いわけではありませんし、すべて自前で立派なシステムを構築する必要はありません。本書のなかでも、外部の法律事務所やサービスベンダーをうまく活用することを推奨しています。法律事務所としての我々も、企業と協働することで一緒に成長し、共存共栄を目指していきたいですね。

(文:周藤 瞳美、写真:弘田 充、取材・編集:BUSINESS LAWYERS 編集部)

企業法務におけるナレッジ・マネジメント
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