倒産手続中の企業をスポンサー企業が買収する際の留意点

事業再生・倒産
大島 義孝弁護士 東京ベイ法律事務所

 当社の一事業部門の競合他社であるA社が民事再生手続に至ったとのニュースに接しました。当社としては、シェア拡大の観点から同社のスポンサーとして同社を買収したいと考えていますが、留意するべきポイントはどこにあるでしょうか。

 倒産手続中の企業の買収は、当該企業につき財務面において過剰債務が解消されている点、偶発債務が遮断されている点や買収ストラクチャーによっては税務上期限切れ欠損金を損金算入でき、将来の課税を圧縮できるといった利点があり、また従業員の意識改革が進み抜本的な改革が可能となる点において買収の対象として妙味があります。反面、買収手続に参加する際には、買収ストラクチャーの検討や倒産手続に伴う特殊性に留意する必要があります。

解説

目次

  1. 倒産手続とM&A
  2. 倒産手続中の企業を買収するメリット
    1. 過剰債務の解消
    2. 失権効による偶発債務の遮断
    3. 組織法上の手続の簡素化
    4. 期限切れ欠損金の活用
    5. 抜本的な改革が可能
  3. 倒産手続中の企業を買収する際の留意点
    1. ステークホルダーは債権者であること
    2. 事業価値の毀損
    3. 競争による入札の可能性
    4. 買収スケジュール
    5. 債務免除益課税
    6. 表明保証や損失補償の実効性が乏しい場合がある
  4. 私的整理手続中の企業の買収

倒産手続とM&A

 窮境に陥り、ついには倒産手続に至った企業であっても、事業内容には見るべきものがあって窮境原因を除去し、事業の立て直しを図れば再建可能な場合が多くあります。
 一般に、倒産手続に至った企業がそのまま自主再建を目指す場合には、倒産手続によって毀損された会社の信用を回復するまでに相当の期間を要し、その間外部からの資金調達等が困難な状況の中で事業の立て直しと債務の弁済を進めなければならない点において難易度の高い再建手法となります。
 これに対し、倒産手続に至った企業をスポンサー企業が支援して買収する場合には、スポンサー企業によって当該企業ないし事業に対する信用を補完しつつ、スポンサー企業の資金力や営業力により事業の立て直しがなされるので、事業の再建可能性は高まり、また再建手続が迅速に進み早期の再生が可能となります。

 買収を行う側にとっても、倒産手続に至った企業をスポンサーとして支援して買収することにより、一から事業を立ち上げるよりも短期間のうちに事業範囲や事業規模を拡大して企業の成長につなげるチャンスを得られることができます。

倒産手続とM&A

 実際、わが国のこれまでの歴史の中でも、金融業、流通業、製造業、電気通信事業、航空運輸業、ゴルフ場運営企業など、倒産手続に至ったもののスポンサーによる支援、買収がなされ、倒産企業が見事に再建を果たし、またスポンサー企業が事業範囲や事業規模を拡大して成長した例は枚挙にいとまがありません(参照:「ゴルフ場が民事再生手続を申し立てた場合の留意点」)

倒産手続中の企業を買収するメリット

 通常のM&Aと比較して、倒産手続中の企業を支援し買収するメリットとして下記に示すようないくつかの点があげられます。

過剰債務の解消

 倒産手続に至らない企業のM&Aにおいては、買収側は原則として対象会社の債務をそのまま承継ないし負担する必要がありますが、倒産手続に至った企業をスポンサーとして支援して子会社化する場合、倒産手続において過剰な債務を縮減することになるので、買収側が買収する際には当該倒産企業の負債額が保有資産や事業の価値に見合った適正な金額にまで縮減されることになります。

失権効による偶発債務の遮断

 通常のM&Aにおいては、対象企業の偶発債務が買収後に表面化した場合、原則として買収側がそのリスクを負うこととなります。これに対し、法的倒産手続においては、対象企業の債務は債権者による債権届出とこれに対する認否・調査がなされ、かかる手続で顕在化しなかった債務については原則として失権する(民事再生法178条)こととされているので、偶発債務のリスクは通常のM&Aに比べてかなり小さいといえます。

組織法上の手続の簡素化

 通常のM&Aにおいては、売主から買主への株式移転に伴う諸手続、事業譲渡や会社分割を行う際には対象会社において会社法上必要とされる株主総会や取締役会の決議を経ることが必要となり、特に上場企業など多数の株主が存在する場合には非常に煩雑となり時間やコストを要します。
 一方、倒産手続においては、100%減増資や事業譲渡・会社分割といった組織再編行為が盛り込まれた再生計画案が債権者の法定多数によって可決認可されることにより、また再生計画外の事業譲渡については裁判所の許可と債権者の意見聴取手続があれば足り、組織再編手続が簡素かつ迅速になされます(民事再生法183条、183条の2、42条、43条)

期限切れ欠損金の活用

 倒産手続に至った企業においては、企業の再建を促進するため、繰越欠損金に加えて期限切れとなった欠損金について一定の要件の下に損金算入ができることとされています(法人税法59条、法人税法施行令116条の3、117条の2、法人税法基本通達12-3-2)。買収ストラクチャーにもよりますが、これにより、買収側は将来において一定の税務メリットを享受することができます。

抜本的な改革が可能

 通常のM&A、特に対等合併などのケースにおいては、企業文化や諸制度の統合や調整に時間を要するケースが見られますが、倒産企業においては、一度倒産しているということから、聖域のない抜本的な改革を行うことが可能となります。これによりスポンサーによる買収後に業績のV字回復を果たした例は数多くあります。

倒産手続中の企業を買収する際の留意点

 2であげたように倒産手続中の企業を支援し、買収することにはメリットも多くある一方、留意すべき点もあげられます。

ステークホルダーは債権者であること

 通常のM&Aでは、株式譲渡による場合であっても、会社分割や事業譲渡による場合であっても、株式会社の実質的所有者である株主の意向に沿う必要があり、最終的な決定権は株主にあります。
 これに対し、債務超過に陥っている倒産手続中の企業においては、株主は株主有限責任の帰結として決定権限を失う一方で、債権の減免を強いられる債権者が倒産手続に発言権を有することとなります。具体的には、再生型の法的倒産手続においては、届出債権者の法定多数により再生計画案等が可決されることとなり(民事再生法172条の3第1項)、私的整理手続においては金融支援を行う金融債権者の全員同意をもって再建計画が成立することとなります。そのため、再生計画の枢要であるM&A手続の成否自体も債権者の意向に左右されることになります。

事業価値の毀損

 倒産手続に至った企業においては、倒産手続が公になることにより信用が毀損して取引先や顧客が離反し、またキーパーソンとなる役員や従業員が退職すること等により事業価値の毀損が生じます。事業価値の毀損をできるだけ防ぐためには、迅速にスポンサー選定手続を進め、信用力のあるスポンサー企業による支援を可能な限り早期に内外にアナウンスすることが必要です。
 また、こうした観点からスポンサー企業の選定を先行させたうえで倒産手続を申し立てる「プレパッケージ型」の再生手続が事業価値の毀損を防ぎ早期の事業再生を図るうえで有用といえます。

競争による入札の可能性

 前記3-1のとおり、倒産企業のM&Aにおいては債権者の意向が重要であり、複数の企業がスポンサー企業として立候補した場合、債権者の理解を得るうえでスポンサーの選定プロセスには公平性および透明性が求められ、競争入札等の透明性ある方法によってなされるのが原則です。買収側から見ると競争原理が働くことによって支援金額や買収金額が想定よりも高額となる可能性がありますが、倒産企業の債権者にとっては支援金額や買収金額の増加は弁済額の増加につながり望ましいこととなります。

買収スケジュール

 特に法的倒産手続においては、法律の定める所定の手続に沿って倒産手続が進行するため、支援や買収に向けたスケジュールにおいて時間的制約が課される可能性があります。そのため、スポンサー企業として買収手続に参加する際には、買収に向けた迅速な対応を可能にするための社内チームの編成や、倒産手続およびM&A手続の双方に通じた専門家の起用が必要となります。
 裁判所が示している標準的なスケジュールや実際のケースによれば、民事再生手続の申立てから再生計画認可までの期間はおおむね6か月以内とされています(参照:「民事再生手続の流れ」)。

債務免除益課税

 対象企業が倒産手続において債務免除を受ける場合、債務免除益課税が発生する可能性があり(法人税法59条)、それにより買収ストラクチャーが限定される場合があります。買収側にとっても投資の際に税効果や移転コストの検証が必要になってくるため、事業再生税制に知見を有する専門家の助力が必要といえます。

表明保証や損失補償の実効性が乏しい場合がある

 通常のM&Aにおいては、買収対象のリスクを売主に転嫁する目的で、買収契約に表明保証条項や損失補償条項を盛り込むことになりますが、倒産手続におけるM&Aの場合、売主となる株主や事業譲渡人に対するリスク転嫁や責任追及が事実上困難となることが多いため、表明保証条項や損失補償条項の実効性が乏しい場合があります。このため、かかるリスクはスポンサー企業側において支援金額や買収金額に盛り込む必要があるといえます。

私的整理手続中の企業の買収

 私的整理手続は、窮境にある企業の主として金融債務を取り出して金融機関から債務の減免といった金融支援を受ける手続ですが、金融債務以外の取引債務については債務の減免はなされず従前どおり支払われることになります。そのため、法的倒産手続のような債権届出、債権の調査・確定といった手続はなく、債権の失権効といった概念もありません。そのため、一般のM&A手続と同様、私的整理手続中の企業の買収の際には、買収側にとって偶発債務のリスクを考慮する必要があります
 また、私的整理手続であっても、法的倒産手続の場合と同様にM&Aの成否に関し債権者の意向が強く働き、とりわけ金融支援を行う金融債権者の全員同意が求められるため、M&Aのプロセス全般を通じて金融債権者に対する適切かつ十分な情報提供が必要となります。

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