破産会社に支払う代金がある場合の支払い方法
事業再生・倒産当社(A社)の仕入先であるX社が破産手続開始決定を受けました。当社は、継続的にX社から仕入商品の供給を受けており、未払いの代金があるのですが、今後どのように代金を支払えばよいのでしょうか。
A社は、破産会社の破産管財人に対して代金を支払う必要があり、破産会社の代表者や従業員に支払ったとしても、弁済の効力を破産管財人に主張できないのが原則です。
もっとも、A社がX社の破産手続開始の事実について知らなかった(善意)場合には、例外的に破産管財人に対して弁済の効力を主張することができ、また、A社が知っていた(悪意)場合でも、破産財団が利益を受けた限度においては、破産管財人に対して弁済の効力を主張することができます。
解説
目次
破産手続開始後の破産会社に対する弁済
概要
破産会社の破産財団に属する財産の管理処分権は、破産手続開始決定によって破産管財人に専属し(破産法78条1項)、破産管財人が破産会社の財産を換価、回収等することになります。その反面、破産会社は、破産財団に属する財産の管理処分権を喪失するため、破産会社が破産手続開始後に破産財団に属する財産に関して行った法律行為は、破産手続の関係においては、その効力を主張することができません(破産法47条1項)。
破産法47条1項の定める破産会社の「法律行為」には、破産会社の弁済の受領など、破産財団に含まれる財産を変動させる行為を広く含むと解されています。そのため、弁済受領権は破産管財人のみが有することとなる結果、破産会社が債務者から代金等の弁済を受けたとしても、債務者がその効力を破産管財人に主張することはできないのが原則です。
破産会社の債務者は、破産法47条1項の適用の結果、二重弁済を強いられることになりますが、これを避けるために、常に相手方の破産手続開始決定の有無について注意を払わなければならないとすれば、債務者にとって不当な負担を課すこととなります(債務者にとっては通常、債権者の財産状態は債務を履行するのに関係がなく、注意していないのが一般的でしょう)。そこで、破産手続開始の事実について知らなかった(善意)場合と、破産手続開始の事実について知っていた(悪意)場合とで、主張の仕方が変わってきます。
破産手続開始の事実について知らなかった(善意)場合
破産法50条1項は、47条1項の例外として、破産手続開始の事実を知らない(善意)債務者が破産会社に対して行った弁済は、破産管財人に対抗することができると定めています。その結果、債務者が破産会社に対して行った弁済が有効となり、破産管財人に対して二重弁済をする必要はなくなります。
破産手続開始の事実について知っていた(悪意)場合
債務者が破産手続開始の事実について知っている(悪意)場合には、47条1項の原則に戻って弁済は、破産手続との関係においては無効(相対的無効)とされ、破産管財人に弁済の効力を主張することができなくなります。しかし、弁済の目的物が破産財団に帰属するに至っていれば(たとえば、破産会社の代表者が代金を受領したが、それを破産管財人に任意で引き渡した場合など)、破産財団に不利益は生じないため、その限りで弁済を破産管財人に弁済の有効性を主張することができます(破産法50条2項)。
善意と悪意の判断基準
破産手続開始決定の公告前においては「善意」が推定され、公告後においては「悪意」が推定されます(破産法51条。事案によるものの、破産手続開始決定日から官報への公告掲載日までの期間は1週間から2週間程度の場合が多いようです)。したがって、弁済を行った債務者は、官報掲載日の翌日0時(公告の効力発生日)より前の弁済であれば、善意であることに代えて、弁済が公告の効力発生日より前であることを主張して弁済の効力を主張することができます。しかし、同0時以降の弁済の場合は、破産管財人が公告の効力発生日以後の弁済であることを主張した場合、債務者において、自らが善意であったことを証明しなければならなくなります。
破産会社に対する弁済の効力を主張することができない場合は、破産会社に対し、不当利得返還請求を行うことになるでしょう。
債務者の主観 | 弁済の効果 | 条文 |
---|---|---|
善 意 | 有効と主張可 | 破産法50条1項 |
悪 意 (弁済により破産財団が利益を受けた場合) |
破産財団が利益を受けた限度でのみ 有効と主張可 |
破産法50条2項 |
悪 意 (上記以外の場合) |
相対的無効 | 破産法47条1項 |
破産会社に対して反対債権を有している場合の相殺の可否
破産会社の債務者が破産会社に対して反対債権を有している場合、当該債権は、破産手続によらなければ行使することができないのが原則です(破産法100条1項)。仮に破産債権者に対する配当原資がなければ、当該債権を全く回収することができない結果に終わります。
そこで、破産会社に対する債務と反対債権を相殺することにより、債務を消滅させるとともに、反対債権の回収を実現することが考えられます(破産法67条1項)。もっとも、破産会社に対する相殺の意思表示も、破産法47条1項の「法律行為」、すなわち破産財団に含まれる財産を変動させる行為に該当すると解されていますので、相殺の意思表示は、破産会社ではなく破産管財人に対して行わなければ、破産手続との関係では有効と主張することができなくなります。
ただし、破産法上、一定の場合には相殺権の行使がそもそも禁止されており、相殺の効力を破産管財人に主張することができないため、その点は留意が必要です。
双方未履行双務契約の場合
売買契約などの双務契約において、代金債務も目的物引渡債務も履行されていない場合は、双方未履行の双務契約として、破産管財人は当該契約を解除するか、履行を請求するかを選択することができます(破産法53条1項)。履行の請求がなされた場合、相手方が破産管財人に対して有する反対債務の履行請求権は財団債権となりますので(破産法148条1項7号)、相手方はみずからの債務を履行する一方、破産管財人から履行を受けることができることとなります。
破産会社の債務者は、破産管財人に対し、相当の期間を定め、その期間内に契約の解除をするか、履行を請求するかを確答すべき旨を催告することができ、破産管財人が期間内に確答をしないときは、契約の解除をしたものとみなされます(破産法53条2項)。
これらの手続を経ずに、先行して弁済を行ってしまった場合、破産管財人に対する履行請求権は破産債権のままとなってしまいますので、双方未履行双務契約の場合には、先行して弁済をせずに、まずは破産管財人に対し、上記選択を求めるのが賢明です。
代金債権に集合債権譲渡担保が付されている場合
破産会社が売掛債権等(担保目的物)を担保の目的で債権者(担保権者)に譲渡していた場合(このような担保の形態は「集合譲渡担保」と呼ばれ、破産手続上は別除権(破産法65条1項)として処遇されます)、破産手続開始前に動産債権譲渡特例法(以下「特例法」という)4条1項に基づく債権譲渡登記を経た譲渡担保権者は、期限の利益の喪失等の事由が発生したときは、破産手続開始の前後を問わず、特例法4条2項に基づく債務者対抗要件を具備して譲渡担保権を実行し、担保目的物である債権を取り立てて回収金を被担保債権に充当することができます。
たとえば、X社がY社への担保に供する目的で、将来発生するX社のA社に対する売掛債権を譲渡した場合、X社が正常に事業を継続している間はX社が当該売掛債権の取立権限を有しますが、X社について期限の利益の喪失があり、Y社が債務者対抗要件を具備したときは、Y社がA社に対する当該売掛債権の取立権限を有することになります。
第三債務者であるA社は、譲渡担保権者であるY社から実行通知を受けるまでは、破産管財人に弁済すれば免責されますが(特例法4条3項)、実行通知を受けた後は、破産管財人ではなく、Y社に弁済する義務があります(特例法4条2項)。
したがって、破産会社の破産手続開始後であっても、破産会社に対する代金債務に集合債権譲渡担保が付されており、譲渡担保権者から実行通知を受けた場合は、破産管財人ではなく譲渡担保権者に弁済する義務があることに留意する必要があります。
設例について
A社としては、X社の破産手続開始を知った以上、破産管財人に対して代金を支払う必要があります。この場合、代金の支払方法としては、破産会社に対して反対債権を有している場合には、当該反対債権の回収を図るために、相殺を行う方がよいでしょう。ただし、相殺権の行使が禁止されている場合に該当する場合は、相殺が認められませんので、破産管財人からそのような主張があった場合は、専門家に相談するなどして慎重に対応すべきでしょう。
また、A社の代金債務の発生原因が双方未履行の双務契約である場合は、破産管財人が契約の解除または履行の請求のいずれかを選択するまで待つべきである場合が多いと考えられ、選択権がなかなか行使されない場合は、破産管財人に対してその選択を催告することも考えられます。
さらに、もしA社の代金債務に係るX社のA社に対する債権に集合債権譲渡担保が付されており、譲渡担保権者から実行通知があった場合には、当該譲渡担保権者に対して代金を支払う必要があるため留意が必要です。

弁護士法人大江橋法律事務所
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